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ヒトデナシ  作者: 影絵師
18/27

プロローグ(リメイク)

 プロローグであるカマキリ娘のリメイク……というよりなる前のを書き出しただけです(最後らへんは使いまわしです)。


ざっくり内容

・女性(悪役)→蟲姫(様々な虫の化け物)

・主人公→カマキリ娘



「マティス? どこにいるの、マティス?」


 自分の名を呼ぶ伯母の声に、三角巾を被った金髪の少女――マティスが目を開いた。顔の前にある自身の組んでいる手を解き、跪いていた足を立たせる。

 自分がいる教会の奥で祈っていたマティスはカラフルなステンドグラスを一瞥したあと、教会の扉口へ向かう。外に出ると自分を呼んでいた伯母が扉の近くに立っており、マティスに話しかけた。


「やっぱりここでお祈りしてたのね。今回は神様にどんな願いをしたの?」

「ええっと……いつものお願いだよ。『これから凄い変化を起こしてほしいです』って、最近暇で……」

「おやおや、近頃の若い娘は刺激をお求めのようで。馬鹿な祈りをする前に畑で作物を刈って来なさい」

「はーい……」


 不満そうに返しながらも作物を刈るための鎌を取りに自宅の倉庫に向かった。倉庫の扉を開けようとマティスがドアノブに手をかけた時だった。


「すみません、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」


 丁寧な敬語にマティスは振り返ると、一瞬驚いた。

 美しいドレスを着ている糸目の女性が立っていた。その姿は誰もか綺麗だと思うだろうが、場所が貴族同士のパーティーや宮殿ならともかく、林の中にある小さく素朴な村だと場違いとしか思えない。

 自分に話しかける見知らぬ女性の美しさと、この場に似合わない雰囲気にマティスは呆然としたが、尋ねられたことに気づき、慌てて返事をした。


「は、はい! 何でしょうか?」

「この村の村長にお会いしたいのですが、その方はどこに居られますか?」

「あっ、村長さんはあの屋敷にいます」


 先程祈っていた教会と同じくらいの大きさの屋敷をマティスは指差した。女性は閉じたように見える目で屋敷を見つめたあと、マティスに感謝した。


「本当にありがとうございます。親切なあなたに、後でお礼をしましょう」

「い、いえ、私は当たり前のことをやっただけなので……」

「そう仰らずに。そうだわ、あなたの格好を素晴らしくしましょうか。それではまた」


 女性はそう言ってマティスに教えられた村長の屋敷に向かう。その後ろ姿を眺めていたマティスは自分の目的を思い出し、倉庫の中へ入っていく。

 刈るための手鎌を探している間、先程の女性を考えるマティス。


 貴族みたいな人がこの村の村長にどんな用があるのかな? 村を援助してくれるんだったら嬉しいけど、そんなことをしてあの人にどんなメリットがあるわけ? ……あの人が「格好を素晴らしくする」って言ってたけど、私なんかに綺麗なドレスを送ってくれるの?


 女性の目的を疑問に思いながらも、お礼のことを期待しているマティス。彼女はようやくお目当ての手鎌を見つけ、手に取った瞬間だった。

 悲鳴が聞こえた。

 突然のそれに体が硬直した。空耳かと思ったが、次々と悲鳴が聞こえてくる。どれもか聞き覚えのある村人の声だ。

 恐怖心が込み上げてくる中、倉庫の外を確認しようと扉の隙間から恐る恐る覗いてみた。


 村の中心に、先程のドレスの女性が立っており、手には血がついた剣を持っている。その足元には血まみれの村人達が転がっており、マティスの伯母も血溜まりに倒れていた。


 あの女が殺したんだ。自分に低い物腰で接していた女性が村人を殺した光景に、驚愕と恐怖、そして怒りを感じた。こちらに背中を向けている女性と、今自分が握っている手鎌を交互に見たあと、決心する。

 ゆっくりと扉を開けて、足音を立てないように倉庫を出た。女性はマティスに振り向く様子がない。力強く手鎌を握りしめ、気づかれないように接近する。

 そして、自分の腕が届く距離まで近づいたマティスは手鎌を振り上げ、女性に振り下ろした。


 女性は剣を持っていたのではない、手から刃を生やしていたのだ。そして、その刃は手鎌を持っていたマティスの腕を斬り離した。


 一瞬、手鎌が女性に当たらなかったことに疑問を思ったが、宙を舞って地面に落ちた手鎌と片腕を見て、自分の腕が斬り飛ばされたことを理解した。

 その光景と激痛に思わず悲鳴を上げながら切断された腕を片手で握りしめるが、断面から血が流れ出ていく。無意識に止血しようと腕を握り締めながら、マティスは得体の知れない女性から後ずさる。

 手の平から生々しい刃を生やしている女性はマティスを見下しながらゆっくりと近寄る。


「あらあら……あなただったんですか」


 落ち着いた様子でマティスにそう言いながら、閉じていた目、その上に隠されていた目を開く女性。その4つの目は虫の複眼のように黒一色だった。


 人とは思えない顔にマティスがなんとか立ち上がって逃げようとする。女性の変化はまだ終わらない。

 

 口の両端が無機質に裂けていき、牙を見せる。

 二対の髪飾り、いや、複眼が存在する髪に混じって生えてくる一対の触角。

 血に濡れた鎌が飛び出している腕が、球体関節人形のように変化していく。

 身体も紫色の外骨格に覆われていき、関節部分が白い毛に覆われた、胸元が盛り上がった鎧の体と化する。

 背中から二対の鋭い脚、腰からは外骨格に覆われた先端が尖った尾が生えていく。


 人の形をした虫に変化した女性を、怯えた様子で見ていたマティスは切断された腕を握りながら逃げ出した。彼女の頭の中は恐怖と混乱でいっぱいだ。


 人に化ける虫? そんなのがこの世にいるの? 殺される、早く逃げないと……


 突然、背中を強く押された感覚を感じ、直後に何かが流れ込んでくる不快感と激痛を感じた。意識が遠のく中、虫の女の声が聞こえた。


「目覚めた時の自分の姿を見て、どう思うんでしょうね?」





 あれから何時間経ったんだろう……

 目が覚めてから最初に思ったのがこれだ。完全に意識が戻っていない頭を押さえようと左手を当てた。

 切断されたはずの手が元通りになっていた。それだけでなく体全体から痛みが消えたことに驚く私だが、それよりさらに驚くことがあった。


「なに……これ……」


 それは私の手であることはわかる。先程自分で動かしていた感覚がまだ残っているのが証拠だ。それでも自分の手とは信じられなかった。張りのある人間の肌ではなく、滑らかな光沢を放つ殻。それらを繋げる関節にあたる部分は、子供の頃に遊んだ人形と同じ球体の関節だ。

 形は人間と変わらない。だが昆虫か、人形か、そのどちらを掛け合わせたとしか言えない無機質な手が、驚愕する私に合わせるかのように震えている。

 手だけじゃない。腕、肘、肩も同じだ。反対側の腕もだ。

 自分の一部でありながら異形の両手を見つめるしかできない私。その時、“奴”が言っていた言葉を思い出す。



――


「目覚めた時の自分の姿を見て、どう思うんでしょうね?」


――



 私を瀕死に追いやり、体に何かを流し込んでいた“奴”は口の端を上げながら倒れ伏せていた私の近くに鏡を置いたことも思い出した。

 その鏡をすぐに見ることは出来なかった。奴が言ったことの意味……私のこの手……予想ができていた。だから見たくない。予想が合ってほしくない。だから鏡を見ないようにした。

 それでも……予想が外れること、鏡が壊れていた、そう期待して鏡の方を向いた。

 そして後悔した。

 鏡の中には人の形をした何かが映っている。

 黒目と白目の境目がなく、ただ全体が薄緑色に染まった目。額に逆三角形の配置で出来ている痣……いや、単眼。私と同じ金色の前髪に混ざって生えている二本の長い触覚。頬を無機質に裂けて変化した、驚愕で塞がらない口。それらで構成されている仮面のような顔をこちらに向けている。

 その顔から下も昆虫と人形を掛け合わせた――別の言い方をするなら薄く細い鎧――のような異形の身体をしている。細かく説明すれば腰回りはスカートのように殻と薄い羽に覆われている。

 鏡の中にいる虫じみた人外をただただ見つめる私。人外も私を見つめている。

 首を横に振る。人外も首を横に振った。今度は激しく振る。人外も激しく振った、同じタイミング、同じ向きで。

 あの人外と私の関係はわかっていた。でも受け入れられない。あんな怪物が私だなんて……

 

「違う……あの化物は……私じゃない……」


 私の口から漏れる言葉に合わせて口を動かす人外。それを見た瞬間、抑えきれない怒りが込み上がった。


「私の真似をするなぁッ!!」


 気付けば駆け出し、人外がいる鏡に向かっていく。一色の目の端を上げ、裂けた口から食いしばる牙を見せる人外の顔を見て、頭に血が上っていく。腕が届く範囲まで狭まった地点で私は片腕を上げ、鏡にいる目の前の人外を殴りつけた。

 鏡が砕かれていく音が耳に入っていくまま、深呼吸する。地面を見つめていた私は顔を上げる。そして、その時の光景に何も感じられなかった。

 殴るための手のひらから、いつの間にかノコギリ状の刃が伸びていて、鏡を貫いていた。刃を中心に広がるヒビで見えづらかったが、人外も全く同じことをしていた。

 ……そこでやっと認めることになった、人外と私が同じであることを。

 私の一部である刃を鏡から引き抜かず、そのまま割れた鏡に寄りかかった。しばらくの間、私の頭に「動く」という発想は浮かばなかった。

 受け入れてもまだ、時間が必要だ。羽化する虫のように。



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