1話 【作業厨】とはじまり
今日から異世界始めます!
初日は3話連続投稿ですよ?
本宮圭介が作業の楽しさに目覚めたのは中学2年生の頃だった。
「作業はセカイを救う!」
そんなことを言い放った少女、村主ソラに俺は憧れたんだ。
普通に考えれば「何言ってるの?」と思うかもしれない。
だが、ソラはそんなことは感じさせない程の天才級作業厨だったのだ。
ソラは一ヶ月で新作ゲームのユーザーレベルをカンスト、サンドボックスのゲームで全マップを掘り抜き、それもチートなしでやってのけた。
さらにソラは出会った時点で、10ヵ国語以上を話すことができた。
普通の人からしてみればすごいで済むどころの話ではないが、ソラにとってそれは作業のひとつなんだという。まさに天才だ。
当時俺は中二病を患っていた。その影響もあったのだろう。
俺もソラの作業への情熱に魅せられ、作業道へと歩みを進めていった。
「ソラすげぇ!またプレイヤーレベルカンストかよ」
「そんなことないって。作業がなくなっちゃったってことだよ?っと消去!」
「えっ?消すの?……かっ、カッコイイ!」
「圭ちゃん。ワタシ、圭ちゃんと一緒にセカイを巻き込むような…そんな作業がしたい」
「マジ?かっけぇ!絶対だぞ。約束な」
セカイを巻き込む作業……何を馬鹿なことを言っているのかと俺自身も思った。だが、この目の前の少女、ソラと一緒なら不思議と出来る気がするのだ。
しかし、それは何の前触れもなく起こった。
次の日突然ソラは、
死んだ。
死因は不明。発見されたときには息を引き取っていたという。
その日から、俺はソラの意思を引き継いでよりいっそう作業に精を出した。
『作業はセカイを救う』
その言葉を胸に。
俺は高校に上がるときには、50もの国と地域の言葉を話せるようになった。美術では最優秀賞、もちろんゲームでもソラがしていたことは一通りした。
周りからは“天才”などと持て囃された。だが、そんなことはどうでも良かった。
ただ俺は、
「もっと作業をしたい、ソラとの約束を果たしたい」
そう思って仕方なかった。
そんな俺は高校2年生の夏、
ソラと同じ、原因不明の死を遂げた。
〜〜〜〜〜〜
ん……ここはどこなんだ?
見慣れない天井、そして風景。
そして死んだはずの俺が、生きている。
『ルーシー、リックが目を覚ました』
『本当!なんて可愛らしいんでしょう』
聞いたことのない言葉だ。
マジャル語にも似ているような、ラテン語か?イタリア語っぽい感じでもあるな。
というかこいつら誰?
まさかここは死後の世界なのか……?
とりあえず、なにか話さないと。
俺の作業の賜物、言語能力をフル回転させて……
「うぅ……あ〜うぅ〜!ドゥア!」
ドゥア!だって。めっちゃ変な声出たし。
歯がないから発音がまともに出来ないからか。
ん?歯がない……?
もしかして俺、赤ん坊になってる!?
ということは、これはもしかして。いや、もしかしなくても……
異世界転生キタァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
ここなら夢の『セカイを巻き込む作業』ができるかもしれない。
ソラとの約束が、果たせる。
さぁ、まずはこの世界の言語を覚える作業から始めようか。
〜〜〜〜〜〜
「「リック、お誕生日おめでとう!」」
あの日から一年が過ぎた。
この二人は俺の両親、緑の目をした黒髪の男がディーク、金髪美女がルーシーだ。
そしてどうやらこの世界、魔法が使えるらしい。
これは作業効率が上がりそうな予感。いまからとても楽しみだ。
そうそう、もちろんこの世界の言語は覚えた。だが、話すのが早いといおかしな赤ん坊だと思われてしまう。
そこで俺は大体の赤ん坊が言葉を話す、1歳に話せるようになったことにすることにした。
我ながら、名案である。
「私、ケーキを取ってくるわね」
ちなみに手作りケーキである。昨日準備していたのを見た。
「わかった。ほーらリック、誕生日プレゼントだぞ」
よし、このタイミングだ。息を吸って。
「ありがとうございます、父様!」
「……」
なんか変だったかな?そんなことあるわけない。だって『父様』呼びは、異世界ゲームやら小説やらのテンプレだろ?
ましてや俺がこの月日をかけて考えたセリフ、大丈夫だ。
「ル、ルーシー。ちょっと来てくれ!」
「なんですか?まるでなにかあったようでは……」
「母様、今日は僕のために手作りのケーキをありがとうございます!」
またしてもテンプレ。親の前では『僕』呼び。ここまでは完璧だぞ。
だが、どうしてケーキを落として立ち尽くしているんだ?
「リ、リックが喋ったわ!」
「それもこんなに丁寧に話す。この子は天才じゃないか?」
「母様ですって!なんて可愛らしいんでしょう。ぎゅ〜っとしてあげましょう」
ルーシーは語るまでも無く巨乳だ。それが俺の顔面に押し付けられるのだ。
思春期の男なら誰しも興奮してしまうものだが、今は不思議とそんな気は起きない。母親だからだろうか。
「く、苦しいです母様」
「あら、ごめんなさい。でもそんなことが言えるなんて。ぎゅ〜っとしてあげ…」
「だから苦しいです!」
この調子だとどうなっていくのか、先が思いやられる。
〜豆知識〜
じつは、ルーシーっていうのは英語圏の名前なんですよね。この世界の言葉は英語にも近い、という設定です!