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括線上のアイムナンバーワン  作者: 相葉俊貴
第一章 凶
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☆☆☆「オーバーウェルミング1」☆☆☆

「日本からの参画者が到着致しました」

 急激だった。待ちに待ちわびて、そして待つことに飽きてしまっていたビルダーバーグ会議の面々は、一様にどよめいた。

 このエドワーズ空軍基地には、秘密裏に建設された地下会議所がある。ケネディ宇宙センターまで到達できないスペースシャトルの緊急着陸先としても知られる、砂漠の空軍基地。

 肩を怒らせて飛び込んできた黒人の軍人、ホイッスラーの見立てによると少将あたり。

(ここはその程度の身分の者が闖入していい領域ではない……が、この際、四の五の言ってはいられないか。何しろようやく閉塞しているこの状況を打破し得るのかもしれないのだからな)

 続いて会議室に入ってきた人物に誰もが目を見張った。

 ネクタイまで黒で設えたダークスーツの上に、金髪とピアスの頭が乗っかっている。

(日本は狂ったのか。それとも日本人はいつの間にか黒髪の種族ではなくなったのか。しかも、若者ではないか)

 ホイッスラー事務総長は、最早日本が何の頼りにもならない存在だと断じた。いたずらに情報を隠匿し、世界を終わりに導いた戦犯。我々が愚かだった……さらなる武力介入となろうとも、日本がかけた鎖を引き千切らねばならなかったのだ……ホイッスラーが暗澹たる後悔に顔を伏せようとした時に、金髪ピアスの日本人はスクリーンの前に立った。

「こんにちは。お待たせして申し訳ございません。やはりアメリカは随分と遠いですね。飛行機の長旅に草臥(くたび)れてしまいました」

 ビルダーバーグ会議の面々は、金髪ピアスから放たれた流暢な英語に面食らった。

「貴様ぁ! この場をなんだと思っているんだ! 貴様のような学生風情が日本の代表だと言うのか」

 そう怒声をあげた気の短い男は、フランスのジャン=アラン・ヴァン国防大臣である。ホイッスラーが少々不得手とする人物だ。

「学生ですか。若く見ていただき、光栄です。これでも三二歳ですが。

 他の国はどうか分かりませんが、日本では防衛大臣なぞはただのお飾りですからね。肩書き好きな政治家のための言葉です。実務にはとんと疎い現役の防衛大臣から勅命を受けて、私はここに馳せ参じました。私が直接ここに来ることで、能率は格段に上がりますよ。つまり……

 ……俺が人類防衛の最前線なんだ。死にたくなければ黙って俺の話をきけ。第一てめぇらの頭の方がよっぽど派手じゃねぇか。茶だの金だのとよ」

 ニコニコと優男然とした金髪ピアス男の眼が、喋るうちに次第に燃えるような瞳に変化した。

 対してビルダーバーグ会議側は、金髪ピアスの放つ正体不明な圧力に引く者、なお一層の憤怒を浴びせかける者とに大別され、一気に会は大混乱に陥った。ホイッスラーはその光景を見て、金髪ピアスの若造に、ビルダーバーグ会議が弄ばれている感覚に陥った。

 混乱の中心にいる金髪ピアスが、すぅっと大きく息を吸い込んだ。

「死にたくないやつだけニィー! センティリオンストーンをォー! 教えてやラァ――!」

 七〇人を超えるビルダーバーグ会議のメンバー全員が、金髪ピアスの驚くべき声量で圧殺された。まるで巨象の咆哮。

 本日初めての静寂が訪れる。

 この金髪ピアス、想像以上のやり手かもしれない。

 一転して金髪ピアスは和かな表情を浮かべる。

「……皆さんお聞きになっていただけるのですね。では改めまして。私、日本エネルギー経済開発研究所(IEEL)の金田と申します。

 先に結論から申し上げますね。センティリオンストーンは生きています」

 その言葉が驚きと共に場に浸透していくのが、沈黙の広がりでありありと分かる。カネダと名乗ったこの男に、ビルダーバーグ会議が呑まれていく予感がした。やはり情報量のパワーバランスは決定的だ。

 今この場で、いや、この世界の状況で捕食者は誰か。その位置付けに対して、静かに、ホイッスラーは内心を軌道修正した。

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