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括線上のアイムナンバーワン  作者: 相葉俊貴
第一章 凶
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☆☆☆「センティリオンウォー」☆☆☆

 今年のビルダーバーグ会議は異例づくしだった。議事だけでなく会期まで完全に隠伏された。また、日本サイドに出席者があることも異例である。

 ビルダーバーグ会議とは、毎年開催される欧米系諸国の要人を集めた非公開会議であり、出席者の偏向さの割に扱われる議題が大きいことから「陰のサミット」と比喩される。「表のサミット」と比較されてのことだが、その閉じた会議性から都市伝説的な噂の対象となりがちである。王配から権威者、政治家、経済的首脳陣など、参加者のバリエーションは豊かであるように見えるが――その実、東アジア圏の参加を徹底的に排する異方性が強い。

 そして欧米という背景色を持つビルダーバーグ会議と北大西洋条約機構(NATO)は当然と言えば当然に、強固に結びついている。NATOの主目的である多国間軍事同盟は、あくまでも欧米間で交わされる内容であるため、ビルダーバーグ会議の所有する軍事力と言い換えることができる。

「ビルダーバーグ会議の威力性を侮ってはならない」、それが前任のNATO事務総長から現NATO事務総長に伝えられた内容である。現NATO事務総長のトマソン・ブラウン・ホイッスラーはその言葉を噛み締めていた。噛み締めていないと、心情的に今回のこの議題にはついていけそうもなかったからだ。

《世界終末回避》

 なぜこのような議題になったのか。二四年前に話を遡る必要がある。

 二四年前の、その当時に開催されたビルダーバーグ会議で、自然エネルギーはもとより、石油エネルギー、果ては核エネルギーをも凌駕し得る新エネルギーの発見・報告と今後の対策に関して会議されたことによる。すぐさまそれ専用の研究機関創設が提案されたが、それには大きな問題があった。

 発見国が日本だったのだ。

 どれだけ欧米側が圧力をかけようとも、日本はそのエネルギー資源に関する詳細な情報を開示しようとはしなかった。日本をはじめとする東アジア諸国をビルダーバーグ会議に参画させてこなかったことが大きく仇となった形だった。G8の議案に切り替える案も出たが、全世界に公開すべき内容ではないと判断された。

 せいぜいの妥協案として情報開示不禁則(チャタムハウスルール)を適用して、有能な研究者を送り込むと言っても、ビルダーバーグ会議はもとより、NATOのような軍事性への提供を日本は拒否した。ある意味では日本がそのエネルギー資源を手にしたからこそ、即時世界大戦の開戦とはならなかった面は確かにある。

 日本も日本で、手にしたエネルギー資源を持て余してもいた。どうやら完全なコントロールに至っていないためであるようだった。ならばますますの情報公知化が必要となる局面ではあったが、何故だか日本の強硬姿勢は変わらなかったとのことだ。

 日本にて秘密裏に決起された学会では、唯一性と無限性を併せ持ったその資源を、《センティリオンストーン》と呼ぶことにしたらしい。センティリオンストーンはやがて《アダムセンティリオン》と《イヴセンティリオン》との二種類ある情報を突き止めたが、肝心の所有国である日本の協力なくして、それ以上を知り得ることはできなかった。

 かくして日本は無限性すらもあり得るエネルギー大国に成長する可能性と、人類社会を殲滅しかねない両極端の可能性を、その小さな体に留めるに至った。最大の謎は、何故日本にだけセンティリオンストーンがもたらされるのかだったが、恐らく日本もその謎を解いてはいないとホイッスラー事務総長は考えている。

 二四年後、事態は一変する。どんな神のいたずらか、それがあってはならない国にイヴセンティリオンがもたらされた。

 もはや世界に猶予などは残されておらず、かくして日本がビルダーバーグ会議に召喚されるに至った。

「世界の終わりをどう議論すればいいんだ」

 ホイッスラー事務総長はぼやく。

「結局は武力介入をどうするかの議論に落ち着くと思いますが」

 クロアチアのフランツ・フォン・ハーデセン元帥が応える。二人の会話はロビー活動性を多分に含む。今回のビルダーバーグ会議は、参加者各々が日本からの情報を待つだけの受け身姿勢であり、会議の体をなしていない。これまでは、日本へビルダーバーグ会議の意向を伝えるのは日米欧の三極委員会を通じてのみのことだった。だからビルダーバーグ会議は情報を、特に日本からの情報を待つという行為に慣れていない。

 そして肝心要の日本の参画者がまだ到着しないことに、次第に場はざわつきを伴いつつあった。

 ビルダーバーグ会議としては最大限の譲歩として、今回の舞台をカリフォルニア州エドワーズに設定した。せめて日本よりにという配慮が、せめてアメリカ西海岸に、という舞台設定になること自体が、現段階の正確なパワーバランスを理解できていない――それもプライドの保持という側面が強い――ということでは……とホイッスラー事務総長は懸念している。

 交戦姿勢の強い幾つかの国では既にこの状況を「戦争」と捉えており、彼らの間では〝尽きない資源戦争(センティリオンウォー)〟と命名されるに至っていた。

「待つことはできない。攻めることもできない。有力な解決方法は見当たらない。そういう事案と私は理解しているが」

 ホイッスラー事務総長はハーデセン元帥を一瞥した。

「しかし、無理に結論を得ようとすれば、結局、武力行使に流れるのはこれまでの会議の歴史から言っても大外しはしていないと思うがね」

 階級など無視するフランクさで、ハーデセン元帥は口をへの字にしてそう言った。あながち否定もできない決定プロセスなだけに、ホイッスラー事務総長は難しい顔となった。

「日本からの参画者はまだなのか」

 結局はそれが更新されぬことには前進はない。

 無為に時間が流れるほど、資源戦争は世界に闇を落としていく。

 人類が愚かであればあるほど、世界の終わりが近づいていくのをホイッスラー事務総長は肌で感じていた――。

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