□◇「オーバーウェルミング2」◇□
ビルダーバーグ会議に乗り込む前、金田はロサンゼルスの美容室にいた。
「GOLD(金ピカ)でお願い。とにかくド派手なやつで」
「え? 金? あったかな……」
ガサゴソと染色液が放り込んである籠を漁るのは、この美容室の店主だ。何故か左側の袖と右側の袖の色が違う服を着た、陽気そうな若者。
予約もせずに飛び込んでも、嫌な顔をされないあたり、日本とはまるで違う文化を感じさせる。
「金田さん、こんなことやっていていいんすか」
そう声をかけた入り口近くの小汚いパイプ椅子に腰かけた青年は、金田のビルダーバーグ会議制圧に同行した木村だ。まだまだ経験不足の若造で、金田は鞄持ちとして連れてきた。
木村は腕をだらんと垂らして、訝しむように金田を見ていた。
「時間はあるさ。というよりむしろ、奴らを少し焦らさなきゃならない。宮本武蔵だってそうしただろ。必勝が求められた時ほど、ペースコントロールが大事なんだ」
カット台から鏡ごしに回答する。
「いや、そういう意味よりも、何で今金髪にしなきゃならないのかなって」
「それはね、プレゼンテーションでペースを掴むためだよ。プレゼンにはね、三つの極意がある。極意の第一、裏切りと同調さ」
やや意地悪げに金田は微笑みを見せた。
「あった!」
店主が満面の笑みで染色液を掲げる。
「裏切りと同調?」
木村は全く腑に落ちていないようだった。
「お客さん見つかりましたよ」
店主がガチャガチャと準備を始めたので、金田は静かに目を閉じた。
「ま、その話はあとでね。とりあえず、どっかでピアッサーとピアス買ってきてくれる?」
金田は普段音楽なんて聴きもしないのに、イヤホンを耳に刺した。日本を出る時に、急ぎで姫島から借りてきた。もちろん音楽が目的ではなく、「僕に話しかけないで」アピールをするために。
ちらっと薄眼を開けて、店主を見やると、染色液の取扱説明書を読んでいる。
(やれやれ。こういう所が、日本とはえらい違いだ)
イヤホンから『四六時中も好きと言って――』と流れ出す。
(あれで意外と姫島もロマンチストだったりするのか)




