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括線上のアイムナンバーワン  作者: 相葉俊貴
プロローグ
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プロローグ

「はあ……、はあ……」

 息を切らせながら走る男。

 とっくに限界は超えていた。

 生い茂る木々は、闇夜の中で鋭い(やいば)となり、容赦なく男を切りつける。

 それでも、男は止まるわけにはいかなかった。

 止まれば、死ぬ。

 奴らに慈悲はない。

 殺すとなれば、殺す。

 苦しむだけ苦しませながら、殺される。

 仕事人としての矜持すらも奪われるだろう。

 だから、男は、肺が破けようとも、止まるわけにはいかなった。

 あと4kmも走り抜けることができれば、研究所の人間に落ち合うことができるだろう。

 数字になった、生命線の垣根(デッドライン)

 背後から迫りくる奴らの気配に、必死にこらえる。

 気を許せば、足は止まる。

 男の前に、大きく張り出した木の根が現れた。

 男は、決死の思いでそれを飛び越える。

 ふわりと飛び越えるその様は、明らかに訓練された者のそれである。

 しかし、その訓練された男ですら、着地の予想外は回避できなかった。

 男は、着地と共に、謎の縦穴に落ちたのである。

 それは、深い森が作り出した天然の落とし穴。

 深さはゆうに身の丈の二倍以上あった。

 予想外だった落下は、男を行動不能にした。

 あばら骨が、いくつも折れていることを男は経験則で知った。

 ゆっくりと呼吸し、あばらが肺を破っていないことを確認し、ひとまず安堵する。

 ここで、助けを期待するしかなかった。

 男は、これまでのことを思い出していた。

 第五次接触は、激戦になった。

 奴らの中に潜行していた男は、激戦のさなかに正体がばれ、今に至る。

〈時の大河川理論〉に選ばれていなかったとしたら――、そういう恐怖が男を支配する。いや、この場ならそれもありかもしれないとも。

 男は、自分が落ちた穴の入り口を見つめていた。

 丸い大きな月が、男をじっと見つめていた。

 風がどこまでも不気味で、ぬめぬめとした空気。

 その時、すっ、と月が何かに陰った。

 穴の入り口で、誰かが覗いていた。

先導者(ナビゲーター)――、見つけました」

 その言葉を聞いて、男は自分の死期を悟った。



 時を同じくして、ここに一人の男がいた。

 ここ、というのは病室である。

 男は、子供の頃、英雄(ヒーロー)を目指していた。

 しかし、男は、サラリーマンになった。

 しかも、その男は、世界一ついていないサラリーマンである。

 そして、サラリーマンのその男は、今、人生最大の窮地にいる。

 失業の危機。

 その不幸の原因は、隕石。



 これは、世界一ついていないサラリーマンの、世界一長い夜の物語。

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