第六話 オンナのなかにもオトコあり(逆も然り)
ちょっと趣向を変えて。
男と女では、脳のメカニズムが違う。ーー これは、よく言われることだ。
確かに、男性的な思考、女性的な思考というのはあるだろう。男性は理屈で考えるから、適応力がどうこう、女性は感情的だからどうこう、といった具合だ。
大まかに見ればそうなのだろうが、私は、男のなかにも女性的なところはあり、女のなかにも男性的な部分があると思っている。
科学的なことに疎いため、無責任な言い方になるかもしれないが、それでもいい。
たとえ間違った仮説だったとしても、大昔に唱えられた天動説が人類の歴史において無意味なものであったとは思えない。それと同じだ。
男と女は、共に暮らしている。少しばかり反対の性質を持っていたって、不思議はないはずだ。
ーー みたいに言うと、なんだかあの文化人気取りの青二才の書いたボールペンのバカ踊りって感じで嫌だけど、書いてしまったものは仕方ないわね。
ちなみに、こういう考え方に関して、感想欄でちょっとしたことを教えてくださった方がいらっしゃるけれど、その受け売りをここでするのもなんだから……、
それはともかく、今回はあの碌でなし小僧のお喋りなんかじゃなくて、第五話であいつが勝手に端折った、話の大切な部分を聴いてもらおうじゃないの。
「あんた、男心がわからないのね」
「え?」
「その、スミレさんの男心」
「女心じゃなくて?」
「女のなかの男心、ってやつ」
「そんなものがーー」
「あるのよ」
「男性ホルモン的な話?」
「わかりやすいなら、それでもいいわ」
「確かに彼女、ムダ毛を気にしてたなあ」
「……」
「本人にも言ったけど、俺は彼女の産毛が好きだ」
「あんた、デリカシーないわね」
「詩人にデリカシーなんて」
「本気で思ってるのなら……、詩人なんて、澌尽灰滅してしまえ」
もぐもぐ。
「今、辞書で調べたけどさ……」
「消えちまえ、ってことよ」
「うん……、ひどくない?」
「彼女には彼女のロジックっていうものがあるの。女はみんな柔軟で、理屈なんかないっていうのは間違い。堅物な女だっているのよ。あんたみたいにショッキングピンクのママチャリに乗ってたり、いつまでもウジウジしてるような男がいるようにね」
「……それって、俺をバカにしてるようも聴こえるけど、遠回しに女らしさっていうのを蔑んでいることにならないか」
「わざとよ」
「は?」
「そうやって論理的思考で人の揚げ足を取ろうとする男らしさっていうのを蔑むための囮よ」
「やっぱり女は柔軟だ」
小雨の面紗の内なる静寂。
「でも……」
私はなんでもお見通し。
「でも」の後に続く言葉、あいつが心で喋った言葉。
ーー 彼女は全然、柔軟じゃなかったな。……今更気づいたけど……。
ほらまた、ジャケットを見てる。
「想い出」に浸ろうとしてる。
そして、いよいよ口に出す。一瞬言葉を迷ってから。
「つけていい? ……レコード」
って。