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世間知らずに異世界暮らし  作者: 緋和皐月
第1章 始まり
9/48

 風呂に入ろうと思ったものの、風呂場がまだ空いていなかったので、2人は暫く、宿周りをぶらぶらと散歩することになった。

 壱之助とアスネリは空を見上げて、揃って感嘆の溜息をついた。


「星、綺麗だね〜……」

「そうだァねェ。3つの満月が浮かァぶ星夜空なんて、風流だねェ」


 太陽も月も3つ、というのには、何時間経っても慣れない壱之助だが、まぁ気にすることでは無いだろう。


 月が3つ並んで、星々は煌々と輝いているのに、昼間のように明るいことも無い。

 目を凝らせば、足元が見える程度の夜の暗さである。


 静かだなぁ……と感慨に耽っていた壱之助の耳に、突き刺さるような女性の悲鳴が、夜の闇を切り裂いた。

 ハッと顔を見合わせた壱之助とアスネリは、急いで声の主の元へと駆けた。


「大丈夫ですか?!」


 そこに居たのは……犬耳少女だった。

 ふわふわな、垂れ気味の犬耳と、三つ編みの銀髪、メガネの向こうの緑瞳が特徴的で、その華奢な身体には不釣り合いな程。これでもかと強調する豊満な胸。

 ぷるぷると尻尾を震わせて、顔が真っ青になっているこの少女の視線の先には──


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 全身から水を滴らせた、髪の長い男が地べたに這いつくばって居た。

 これを夜中に見ると、ぞわりと来るものがある。

 少女が悲鳴をあげたのにも、充分納得できた。


「……犬耳三つ編みメガネっ娘、なんて、白飯3杯以上はいける……」


 男は、そうポツリと呟いて、ぱたり、と力尽きた。





 取り敢えず、壱之助は犬耳少女と、アスネリは全身びしょ濡れな男を縄で締めて引っ張りながら、宿に帰ることにした。

 薄暗いこの夜道、女性が1人で歩くには危険だし、この変態男を放っておけば、新たな被害者が出るやもしれない、と考慮してのことであった。


 たまたまその辺に転がっていた縄で男を縛るアスネリに、一応壱之助は止めたのだが、


「服を濡らしてェまで帰りたかァないヨ」


 と、ばっさり言われたのであった。

 そして、普通の男より少し背の高い男を、片手でヒョイ、と持ち上げたところを見ると、どうやらアスネリは力持ちらしかった。


 ずるずるずる……という音と共に、3人は歩き、1人は引き摺られていく。


「大丈夫、ですか?」

「……だ、大丈夫、ぇすよ?」


 青い顔してふわふわの尻尾を震わせたまま、犬耳少女は、壱之助の質問に律儀に答えた。


「取り敢えず、僕たちは宿に向かうんだけど、えと……どこか、目的地はありますか? 送っていきますよ」

「ぁ……ぇと、わたしも宿に……泊まるんぇす。ヤカフク宿って、いうんぇすけれど……」

「あァ、偶然だァねェ。アタシたァちも、ヤカフク宿ォにお世話になってェるのヨ」


 アスネリのセリフを聞いて、初めて宿の名前を知った壱之助は、ふ、と思った。

 こうして会えたのは何かの縁。

 それならば、自己紹介すべきなのではないかと。


「僕は東海林壱之助」

「……お前サン、急に名ァ乗るのはァやめェないかィ?」


 急に口を開いた壱之助に向かって、アスネリは呆れたように言ったのだった。


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