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世間知らずに異世界暮らし  作者: 緋和皐月
第1章 始まり
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 3つの月が、世界を淡く照らし始めた、薄暮れの空下で、壱之助は丘に大の字で転がっていた。


「はぁぁ……疲れたぁぁ〜」

「まァ、最初はこんなもんだァねェ。お疲れェ様ァ」

「ありがとう……でもアスネリは厳し過ぎだよ〜……」

「ふふン。最初はこんな感じが良いのヨ」

「別に厳しくなくても、良いと思うよ〜?」


 壱之助の言葉に、アスネリは、ふと何かを考え込んだ。


「……ラ……」

「ん? なにか言った?」

「……なァんでも無いサ。それェより、お前サン、今日ォどこに泊まァるんだィ?」

「……へ?」


 壱之助は首をかしげて、ぽん、と手を叩く。


「そっか、僕、今日寝るところ無いんだ」

「……だァろうなァ、とはァ思ってェたけども、お前サン、どうするつもォりだィ?」

「ん〜……」


 壱之助は考える。

 日本だったら、カード1つで最高級ホテルに泊まることが出来たが、この世界でそれが通用するとは思えない。

 それに、宿に泊まるには金が必要だろう。

 だが、今の壱之助は、一文無しである。宿に泊まれるどころか、飯にありつけることさえ出来ない。


 今背負っているリュックの中に入っているものを思い出す。

 教科書代わりの、バッテリー100%の最新型スマホとパソコン。

 高性能な薄いカメラに、筆箱、数冊のノート。

 寒い時に使う薄いカーディガンと、茶道部で活動する為の着物である、色紋付と羽織。


 ……そういえば、食べるのを忘れた昼飯が残っている。



 となると今夜は、


「……野宿?」


 情けない顔で、そう呟いた壱之助を見兼ねて、アスネリが口を開く。


「だったァら、アタシが泊まァってる宿に来るかィ? 金ェ無いんだァろ」


 その言葉に、壱之助は、パッと一瞬だけその顔を輝かしかけた。が、すぐに曇った。


「凄く嬉しいけど……迷惑でしょ? 今日初対面なのに色々付き合ってもらったし、さすがにそれは悪いよ……」


 アスネリは、今日、知り合ったばかりだ。

 まるで古い友人のような親しみやすさがあるが、まだ知り合ったばかりなのだ。

 それなのに、団子を奢ってくれて(大半はアスネリが食べていたが)、鑑定屋(アビデクスピィア)を教えてくれて、その上、魔法の練習まで付き合ってくれた。


 それなのに、宿にまで泊めてもらう、なんて、厚かましいにも程がある。


「じゃァ、如何するつもォりなァの? 言ってェおくけどォ、こォこらは獣ォがよく通るかァらネ。壁のある宿ォに泊まァらないと、喰われェるよォ」


 その紅い目を妖しげに光らせ、アスネリは言葉を紡ぐ。


「それからねェ、朝その後始末(・・・)をするのォは、アタシなァんだヨ」


 要するに、色々面倒だから、野宿せずに宿に泊まれや、ということであった。


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