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世間知らずに異世界暮らし  作者: 緋和皐月
第1章 始まり
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「アタシは、アスネリ・プロクス。この世で1人の “主人の居ない騎士(マリニェンテ)” サ」


 口許に悪戯めいた笑みを浮かべて、きっぱりと言い切ったアスネリ。

 それを見て、壱之助は、首をかしげた。


「マリニェンテって何?」

「ありゃマ。オニィーサン、知らァないかィ? 結構ォ有名な話のはァずなんだけどねェ」


 肩をすくめてアスネリは困ったように苦笑する。


「要するに、アタシは騎士なのサ」

「騎士?」

「そォ。ただ、普通の騎士みィたいに、お国にも仕えてなァいし、お貴族様にも仕えてェない。騎士という称号はァあるけど、守るべェきの主人あるじ様がいない。だァから、“ 主人のいない騎士(マリニェンテ)” ってェ呼ばれてるのヨ」


 騎士というものは、言い換えれば、何かに仕え、馬に騎乗して戦う武人である。

 壱之助の知っている騎士は、イギリスやらフランスやら、ヨーロッパの騎士たちだろう。

 かの銀の騎士長だと呼ばれた人物などの名前が、真っ先に思い浮かぶ。

 だが、そんな者たち全員が、国や身分の高い者に仕えていた、と言っても過言ではない。


 アスネリの言いたいのはつまり、こういうことだ。

 騎士というものは仕え守るべき主人がいる者たちのことであるが、自分は、主人のいない騎士だという、矛盾した存在だと。


「それで?」

「はァ?」

「それで、アスネリは、何の魔法が使えるの?」

「……まさかお前サン、本当ォに知らァないのかィ?」


 くるん、と目を回してみせるが、やはり美人なアスネリ。

 ……どうやら、この世界ではアスネリは有名な人物らしい。

 が、そんなこと、他所から来た壱之助にとっちゃ、知ったこっちゃないのである。


「アタシの得意魔法ォは、火属性ェだァよ」

「火属性?」

「例えばァ……そォだねェ、これェとかァかな?」


 ぱちんっ、とアスネリが、軽く指を鳴らす。

 すると、小さな炎が、アスネリの人差し指の上に、ふわふわ浮かびながら燃えていた。


「……これ、どうやって燃えてるの?」

「うン? そりゃァ、ミクトを凝縮して、自然発火さァせてるのヨ」

「みくと?」


 なんだそれは、という顔をする壱之助に気づいて、アスネリが口を開いた。


「ミクトってェいうのォは、いわゆる魔力でェあり、生命力さ」

「魔力であり、生命力?」


 そォ、とアスネリが頷く。


「生きていく力のことだァよ。元々、生き物には皆ミクトがあるのサ」


 ミクトは、分かりやすく言えば生き物の生命力のことだ。

 食べ物を食べて、その栄養を血に溶かす。

 怪我をしたら、その傷を塞ごうとする。

 生きるために生きようとする、その力が、生命力。

 そんな生命力は、目には見えないが、生き物の体で日々作られているという。

 魔力は生命力の塊であり、生命力を使った力であるから、生命力のあるものは全て、魔法が使えるのだ。

 ただし、意思のないもの……火や、水、空気に植物、土、空……そんなものには、必ず聖霊がいて、それらは宿り物の生命力(ミクト)を使って魔法を使うのだという。


「まァ、アタシの火はァ普通の火じゃなァいけェどネ」

「え? なんで?」

「アタシの火は “星の炎” 。つまァり、治療系魔法ォ、なァのサ」

「治療系魔法?」

「ありゃま。治療系魔法ォも知らァないのかィ」


 とォんだ世間知らずだァねェ、とアスネリは目を丸くする。


「その名ァの通ォり、治療する魔法ォさ」

「治療?」


 アスネリは、そォだねェ、と小首をかしげた。

 そして、人差し指を立てる。


「オニィーサン。ここに、アタシの人差し指がァあるよォねェ?」

「え? うん」


 急にそんなことを聞かれて不思議に思い、首をかしげた壱之助の前で、アスネリは右手の白手袋を取り、その右手の人差し指の先を、ガリッ、と噛み砕いた。

 当然、人差し指からは、紅い血が流れ出す。


「アスネリ?!」

「いィ? 見てなァよ、オニィーサン? ……【星が降る黄昏の加護(ラピルスビリズ)】」


 アスネリがその言葉を唱えた途端、人差し指の先に赤い炎が灯り、みるみるうちにその傷が塞がっていった。

 パッと炎が消えた時、痕1つ残らず綺麗に治った、アスネリの、細く白い人差し指。


「アタシの魔法ォはこういうモンなのさ」

「……」

「驚いたかィ。まァそォだろォさ、これ程まで綺麗ィに治す、治療系の火属性魔法ォだしねェ」


 なにやら、うんうん、と勝手に頷いているアスネリ。

 この世界では、そういう理由で驚き黙ることもあるかもしれない。

 しかし、壱之助は違う。

 そもそも、実はそこまで驚いてはいなかった。


「……もうっ!」

「ハ?」

「駄目でしょ! 自分の指を傷つけたら! 自傷行為って、すればするほど自傷行為せずには、いられなくなるらしいよ!?」


 ぽかん、としていたアスネリは、突然吹き出して、笑い出した。


「あはァは、お前サン、ほんとォに面白ォい奴だァねェ! そォだねェ、いけなァいよねェ! はァははは!」

「何がおかしいの?! ダメなんだよ?!」

「ハイハイ、ありがとォねェ」


 けらけら笑いながら、アスネリは手袋をつけ直した。


「こォの “星の炎” は、火属性魔法ォとはァいえ治療系。病気も怪我も治療できちゃうけェど、ぜェんぜん戦闘向けェじゃなァいじゃなァーい? だァから、戦闘系騎士って思われなくってねェ……苦労したわァ」


 はァ、と、溜息つくアスネリ。


「ところでアスネリ……その、僕にも、なんか使える魔法とか、あるかな……?」

「あるんじゃァないかィ? なんだィ、魔法使ったこと無いのかィ、お前サン」

「うん、無い! そうか……僕にも魔法使えるんだ……!」


 魔法が使える、だなんて、まるで漫画や小説や、アニメの世界だ。

 異世界に来たら、もしかしたら使えるかもしれない。

 それなら、ぜひ使ってみたいと、壱之助は頬を紅潮させた。


「ねぇねぇ、僕、どんな魔法使えるのかな?」

「鑑定してもらやァいいじゃァないか」

「鑑定?」


 きょとん、と壱之助は首をかしげた。


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