表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世間知らずに異世界暮らし  作者: 緋和皐月
第1章 始まり
3/48

 


「太陽ォ? あれァ、元々3つあるモンだァけど……もォしかして、オニィーサン 向こう(・・・)の人なのォかなァ?」

向こう(・・・)?」


 太陽が3つあるのは変じゃないか、と壱之助が聞くと、疑問形でそれに答える、紅髪美人──……そういえばまだ名前を聞いてなかった。


「僕は東海林壱之助」

「……急に名前を言い出すってのァ、自己紹介ってェことで良いのォかなァ? ──アスネリ・プロクスよォ」

「プロクスって名前なの?」

「んーん、アスネリが名前よォ」


 紅髪美人──アスネリは、ひょいと肩を竦めて、団子を頬張った。

 ……奢るとか言っといて、その相手の団子まで頬張るのはどうなんだろうとか悩みつつ、壱之助は、まいっか、と思考を切り替える。


「で、アスネリ、向こう(・・・)ってなんのこと?」

向こう(・・・)ってェいうのは、境界線を越えたァ真実の世界のこォとよ」


 アスネリが言うには、この世界は、となる世界の複製らしい。

 その世界を、この世界では『真実の世界(ヴェリテ)』、と呼び、その『真実の世界(ヴェリテ)』以外を、『並行世界(リューゲ)』と呼ぶ。


 この世界は『並行世界(リューゲ)』だと、この国の国民は信じ込んでいる。


 この世界は、『真実の世界(ヴェリテ)』の3番目の複製世界(コピー)である、『並行世界(リューゲ)』。

 だから、太陽は3つあるのだ、と。


「つまァり『真実の世界(ヴェリテ)』では、太陽は1つって訳ェよ。つってェも、実証は無ァくて、こォれはラティマ教徒であるこの国の国民しかァ信じてなァいんだけどねェ」

「ラティマ教徒?」


 また聞き慣れない言葉がアスネリの口から出てきて、壱之助は首をかしげる。


五鬼神ラティマ……こォの複数の『並行世界(リューゲ)』を作ったァ、尊ォい創造神サマたちのことを崇める宗教よォ。……アタシはラティマ教徒じゃなァいからよく知らないけェど」

「神?」

「鬼神、とはァ言え、元々ォは、ごくごく普通の子たァちだったらしいねェ。ラティマ教で主に信仰されてるのは、その中の1人の少年で、その昔、このメテレル国の小さな村に堕ちたってェ言われェてるけどねェ」

「……待って、ちょっと待って!」


 壱之助は、話を進めようとするアスネリを手で制した。


「えっと……ここって、メテレル国っていうの? あと……魔法? 魔力? え、それどういう……え……え?」


 壱之助は、金持ちのお坊ちゃんとはいえ、教養はそれなりにある。

 ……いや、金持ちだからこそ、普通なら習わないことも詳しく教えられている。

 地理も、それぞれの正式な国名はもちろん、首都も地形も、火山名も公園の名前ですら、完璧に覚えさせられた壱之助だ。


 そんな壱之助が聞いたこともない(・・・・・・・・)国の名前があるはずがない。


 メテレル国? 英名であってもそんな国名は絶対に無い。

 壱之助は、それだけは断言できた。


 しかし、アスネリは嘘を語っているようには見えない。

 現に、茶屋の娘がこっそり聞き耳を立てているのか、アスネリの話に時折うんうんと頷いている。……本人は無意識でしているのだろうが。


 魔法、というファンタジックな言葉が出てきた時も、大して茶屋の娘は過剰反応を見せなかった。


 となれば、アスネリは嘘をついてない。

 空想童話について語っているわけでもない。


 ただつらつらと、国の宗教について語っているにすぎないのだ。



「……ねぇ、アスネリって魔法使えるの?」


 試しに、聞いてみた。


「ン? まァそうなるかァな」

「……ちなみに、どんな魔法か、聞いても……良い?」


 恐る恐る聞く、壱之助。


「そりゃオニィーサン、個人情報ォだヨ?」

「やっぱダメ?」

「んーん……ここで会ったのもなァんかの縁だァし……ま、損はしなァいかなァ」


 アスネリは少し悩んだようだったが、妖艶なその唇の端を吊り上げて、にやりと笑った。


「アタシは、アスネリ・プロクス。この世で1人の “主人の居ない騎士(マリニェンテ)” サ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ