8 スズメ鳥かご飼い慣らし作戦
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その夜――というのは、二人で電車を降りた帰路で、スズメに考えを改めるよう紘太朗が執拗に説得した結果、しつこいと煩わしがられ、ついにスズメが口をきいてくれなくなった日の夜だった。
押し黙るスズメの足取りは怒りに満ちていた。それ以上スズメの意見に反論すれば、そこの角をちょっと曲がってひょいと消えてしまいそうだった。もはやコンビニ感覚と言えた。
ともあれ現在進行形で家出中のスズメがさらにいなくなったとなれば、もう探す方法がなくなる。それは最悪の結末だ。だから紘太朗はストリップに反対する以外の、何か良い方法を考える必要に迫られた。
――おばの所には帰れない。
――このウチにもいられない。
なぜ、スズメが山科家にいることをああも拒むのかはわからない。
スズメが言うところの「わたしがいると不幸になる」は、紘太朗にとって座敷童逆バージョンじみたオカルトにしか聞こえなかったし、紘太朗は圧倒的に自然科学主義者だった。スズメが幸せになるには、正論である山科紘太朗の意見に導かれるしかないのに、なぜああも頑ななのだろうか。もしかしたら「ひとり立ちする」なんて言ってしまった手前、虚勢を張っているだけではないだろうか。
ともあれ、スズメをこの家にとどめておくにはどうすべきか。
かつ、スズメが納得いくようストリップを諦めさせ、真っ当な道を歩かせるには――。
部屋の明かりを落として、布団に潜る。
暗闇と静寂の下で、紘太朗はふと、スズメが無事に見つかったことを亮さんに電話するの忘れたな、と思った。夜、布団に寝そべって電気を消し、暗闇に抱かれながら安堵のうちに一日を終えようとすると、稲妻が走ったように宿題等のやり残した事案(そしてそれは大抵、当日中に済ますのが好ましいもの)が思い出されるあれだった。
だが、(亮さん?)と考えた紘太朗の頭に閃きが宿った。
その逆説的に打ち出された作戦に、紘太朗は『スズメ鳥かご飼い慣らし作戦』と名付け、翌日実行に移すことにした。