21 不安
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「……ねえこーちゃん。子どもがストリップ劇場にいても、働いてなければ問題ないよね」
机に向かう紘太朗の背に、質問が飛んでくる。
見ると、質問の主はテーブルで英語の教科書を開いている。
英語の勉強をしていたはずのスズメが、なぜ突然それを聞いたのかはわからない。だが、ストリップにつきまとう法的な危険性を説くにはいい機会だと紘太郎は思った。
「いや、駄目だ。一八歳未満は出入り自体が駄目。一八歳未満の客は劇場に入っちゃ駄目だろ? それと一緒だ」
「営業時間外でも?」
「駄目。一八歳未満が立ち入ること自体禁止」
「じゃあ、午前中わたしがやってるお稽古も本当は駄目なの?」
「本当は駄目。まあその程度のことで捕まったりはしないだろうけど。……って劇場でなんかあったのか?」
ううん、と首を振るスズメはいかにも何かをごまかして見える。
「あ。あとコーワイってどんな犯罪?」
「コーワイ?」
「ストリップと関係がありそうな犯罪」
「……ああ。公然わいせつ罪くらいスズメも聞いたことあるだろ」
紘太朗は机の棚から判例六法を抜き出して、刑法の一七四条を開く。
「『ストリップガールが、多数の前で陰部を露出する等の行為は、公然わいせつ行為にあたる』昭和三〇年の最高裁判例だ」
スズメが静かになった。なんだか妙にしゅんとしている。ストリップが罪だという意識をすり込ませる良い機会かもしれない。紘太朗は続けた。
「公然わいせつ罪は露出行為を取り締まるための法律と言っていいくらいだ。ストリップの裁判の判例もたくさんある」
「劇場に来たお客さんに見せてるだけなのに駄目なの?」
「駄目だ。裁判でも『公然性』――つまり『不特定または多人数の認識しうる状態』だったかどうかが焦点になるけど、ストリップ劇場で客相手にアレを露出して無罪で済んだ例はない」
「じゃあ、お客さんが被害者ってこと?」
「違う。被害者の有無は関係ないんだ。だから『被害者なき犯罪』なんて言い方もされる。『被害なければ罰則なし』で良いんじゃないかって見解もあるにはあるけど採用はされてない」
「変なの……」
スズメは呟いて、ひとり何かを考えていた。
考えさせようと紘太朗は思った。
沈黙の間、二つのペンがノートを叩く音だけが、こつこつと響く。
「……もうストリップなんかやる必要ないんじゃないか?」
紘太朗が沈黙を破る。
「また、それだ」とスズメ。
家裁のホームページでプリントした養子縁組に関する書類は、すでに父に渡してある。父は一目して「問題ないな」と言った。近々、父からスズメに養子縁組の話があるだろう。だからもう――ストリップなんかやる必要はない。
質問の鬼もさすがに今日は静かだった。
沈黙の部屋にペンの音だけが響いて、刻むリズムは深夜零時の眠気を誘った。
だが今日は眠るわけにはいかない。
週明けの月曜日には、受験補習の実力テストがある。
――一瞬目を閉じるだけだから。
朦朧とする意識の中で、紘太朗は静かにまぶたを閉じた。




