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舞姫、ストリップティーズ!  作者: 寒野 拾
20/42

20 暗雲

     ♀ 


 基本経営難っぽいカフェバーモダンジャズだって土曜のランチタイムはそれなりに忙しい。

 その賑わいもひと段落する午後の二時。そろそろお昼のまかないに行けるかな、とスズメが安堵のため息をつきながら腹を鳴らしたとき、入口のベルがからんころん鳴った。

「いらっしゃいませ、こんにちはー。お二人さまで――」

「支配人、どこ」

 中年男性と若い男性、くたびれたスーツ姿の二人組。中年の方がスズメの接客を遮って言った。

「下にいるって聞いたんだけど?」

 男の口調は不機嫌だった。劇場の出入り業者かなとスズメは思う。以前、亮がここで広告業者と打ち合わせするのを見たことがあったからだ。だとしたらなんだか感じの悪い業者だ。

「しょーしょーお待ちくださいー」

 二人を待たせて、スズメは計算機を叩く亮のテーブルに駆ける。

「亮さんお客さんが来て――」

「あなたが支配人さん?」

 振り返ると、勝手に後をついて来た二人がいた。

「誰だい、あんたら」

 亮は眉をしかめる。二人を見定めるようにした後、説明を求める目でスズメを見た。

 ――馴染みの業者さんじゃなかったのかしらん。

 おろおろと言葉に詰まるスズメをよそに、二人組は勝手に亮の対面に腰を下ろした。

「ダンナら、コーヒーくらいは頼んでくれるんでしょう?」

 亮が何かを察したようだった。

 中年の男性が頷いて、わざとらしくスズメを気にして見せる。

「あ、スズメちゃんコーヒー二つ作ってくれる? ……冷たいのでいいや」

亮に促されて、男が人払いを要求したのだとスズメは気付いた。


 ――業者にしてはふてぶてしい態度だ。

 その胡乱な様子を気にせずにはいられなくて、スズメはグラスに氷を落としながら、横目で席の様子を窺う。予感が的中する。もちろん良い予感じゃない。二人組の胸元から人目を忍ぶように出てきたのは、警察手帳だった。

「アイスコーヒー、お待たせしましたー」

 スズメがコーヒーを並べる間、中年の――刑事だろうか――はわざとらしく会話を止めた。

 平静を装い下がるスズメの背中に冷たいものが走る。思考にまとわりつく不安。五感のすべてがぼんやりして、なんだか仕事が手につかなくなる。

 ――ここで働いている家出少女を捕まえにきた、とかだったらどうしよう。

 わたしが山科家にいることは義母やあの男にはばれている。あの人なら、警察を利用してでもわたしを強引に連れ戻そうとする可能性はあるかもしれない――。


 ふと見ると、件のテーブルの真後ろの席に、まだ片付けられていない食器があった。

 スズメはそのテーブルを拭き上げる振りをしながら、聞き耳を立てる。ボックス席の背もたれがうまく死角になってくれた。

「――という通報がありましてね」

 亮と話しているのは中年刑事の方だった。若い刑事はひたすらメモを取っていた。

「いないですよ。ウチは品行方正なストリップ劇場ですから」

「ストリップ劇場に品行とは」二人組は嘲笑して「どうせ『オープン』やってるんでしょう」

「わかってるなら取締アゲればいい」

「被害届もないヤマをつつくほどこっちも余裕がなくてね。だいたい取締られて困るのはそちらさんでしょうが」

「大した桜田門だね」

「ご希望なら体勢整えて一斉検挙でもしましょうか。渋谷のNシアターの検挙かじ、同業ならご存知でしょう」

「入場用のプリカを値上げしたら客に逆恨みされたんだってな。オーナーが愚痴ってたよ」

「逆恨みで通報タレコミされる警察の身にもなってほしいもんだ」

「風俗屋の手入れなんてそんなもんでしょ。みんな客の恨みを買うから通報される。客は自分がぼったくられたと思うもんだから、『あそこはおかしなことをやってるから逮捕してくれ』って具合になる。まったくもってお客様は神様だよ」

「ご愁傷様なことで」

「……ともあれ、ウチの劇場は一八歳未満ミテコは使わねえですよ。大方、ここのメイドがうろちょろしてたのを勘違いしたんでしょ。こっちのバイトには一六歳もいる」

「まあそんなところでいいでしょうな。『ストリップ劇場に子どもが出入りしている』なんてつまらん通報ですよ。槍が降ろうが土日だろうが『警察はすぐに調べろ!』とくる」

「なんなら従業員名簿見ていくかい。身分証のコピーもとってある。一一〇番経由で通報があった以上、手ぶらで帰るわけにもいかんのでしょ」

「話が早くて助かります」

「まあ持ちつ持たれつですわ」

「じゃ、二階を一通り見せていただきましょうか」

「ああ、でもちょっと待ってくれ。脚広げないようダンサーに言っておかないと。これ以上旦那の仕事を増やすのは心苦しいってもんで」

「はは、これはご丁寧に」

「まったく……手帳出されたときは、コーワイで挙げられるのかとビビりましたよ」

「コーワイでわざわざ支配人を呼び出したりしないのは、おたくさんもご存知でしょう」

 と、三人が同時に立ち上がり、盗み聞きに集中していたスズメは逃げ遅れる。

 席の椅子の隅っこをわざとらしく拭き上げるスズメを、亮だけがちらりと見ていった。


 ――家出少女を連れ戻しに来たわけじゃなかった。

 スズメは安堵の息をつく一方、手放しでは喜べない。

『劇場に出入りする子どもがいる』

 それはきっとわたしのことだ。

 わたしが出入りすると、劇場に迷惑をかけることもあるんだろうか――。

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