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舞姫、ストリップティーズ!  作者: 寒野 拾
19/42

(第3章)19

(3)

     ♂


「あの対応はないよね」

「まあ、警察もいたずら電話を一件一件調べてたらキリがないんだろう」

 土曜日の午前十時。警察署を出た紘太郎は、父が運転する車の助手席で憤然としていた。

 父の言葉は大人の対応であるけれど、スズメのことを思えば腑にも落ちない。

「どうして犯人に心当たりがあること、話さなかったのさ」

「あれ以上話しても無駄だろう」


 昨晩深夜にかかってきた電話は無言電話だった。非通知のそれが二〇分おきに続き、三時ごろまでそんな状況だったので、最終的に電話線を抜いた。朝に一度繋いでみたものの、再びかかってきたものだから、結局線を抜いたまま警察に相談することで山科家の意見は一致した。

 だが結局、対応してくれた若い巡査がアドバイスしてくれたのは、電話会社には「いたずら電話撃退サービス」なるものがある、ということだけだった。

『相手を調べてもらったりはできないんですか?』

『電話会社にも個人情報の保護義務がありますし、今は警察だからってなんでもかんでも教えてもらえるわけではないのでね――』

 現行法において「一般家庭への無言電話を警察で取り締まることはできない」という巡査の説明は、法を囓る紘太朗も理解するところではあるが――。


「スズメの話、やっぱり複雑になってるの?」

 父は眉をしかめて押し黙った。子どもに聞かせるべき話か、逡巡しているのかもしれない。いつか母が『大人の話に口を出すもんじゃないわ』と言ったように。

「――スズメちゃんに勉強教えてやってるんだってな」

 車内ラジオの音量を下げながら、父は「話がこじれてるんだ」と続けた。

「ひとり立ちしろって言ったのは自分だからって、梨花さんも最初はなげやりだったんだがな。ここにきて急に態度を変えた」

「なんでまた……」

「おかしな男がいるんだ。あっちの家には」

 おかしな男――と言われて紘太郎が思い出したのは、スズメを保護した翌朝、母がおばの家に連絡を入れた際に吐き捨てた言葉だった。


『なにあの感じ悪い男。スズメを電話に出せって繰り返すだけで、ぜんぜんっ、話にならない』


 馬鹿妹が新しい男見つけたに違いないわ、とも母は言っていた。スズメちゃんはきっとあっちで肩身の狭い思いをしてたのよ――。


「その男が絡んできてから話がややこしくなった。梨花さんが急にスズメを返せとごねはじめた。もしかしたらなにか知恵をつけられたのかもしれない」

「知恵?」

「いくらか金がとれるとでも考えたんだろう」

 そんなのは当然に違法だ。金で人を売り渡す行為は、刑法二二六条の二で禁じられている。『人身売買罪』。だけど世の中、違法だ違法だと騒ぐより、金で事態を丸く収めるべきケースがあることも紘太郎は知っている。

 けれど。

「もう強引にでもスズメを養子にした方がいいんじゃないかな」

 紘太朗はいつか練った作戦第二を父に語る。

 作戦第二とは、スズメを山科家で法的に保護することだ。

 養子に迎えるのが一六歳以上なら、今の親権者――おばの許可は必要ない。家庭裁判所の許可さえあればいい。今のスズメの状況を客観的に判断すれば、家裁だって許可するはずだ。

 養子になれば親権が移る。

 そうすれば、おばはスズメのことに口出しができなくなる。

 紘太郎にとって、事態を解決する手段はあくまで法であるべきだった。

 家の前に車が到着する。結局父の答えを聞けないまま。

「さっきの話、スズメちゃんには言うなよ」

 車から降りようとする紘太郎に、父が釘を刺した。

「わかってるよ」

 朝にいたずら電話がかかってきたことも、家族で口裏を合わせてスズメには隠している。犯人についてスズメが何かを察しないように。

 ――いたずら電話をかけてくる理由が脅迫なのだとしたら。

 あまりにも子供じみていると紘太朗は思う。

 だが同時に、あのおばならやりかねないとも思う。

 まだ間に合うからと、そのまま車を走らせた父を見送って、紘太郎は玄関を開ける。警察をこんなに早く帰されたのは父の想定外だったらしい。急遽休みを入れた部活動顧問の責任を果たしに学校へ行ってしまった。

 部屋に戻った紘太郎はパソコンを開くと、検索サイトの小窓に文字を叩き入れる。


「家庭裁判所」


 土日は休みの家庭裁判所だが、ここなら養子縁組に必要な手続きや書類を調べることができる。

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