第9話 苺と生徒会
サッカーの試合が終わり今週から夏がサッカー部から製菓部に戻ってきた。久しぶりに5人で部活が出来る。
今日は暑いから何を作るのだろう? 楓は先に何か大きなバッグを持って調理室に向かっていた。調理器具だろうか? 俺は提出物を出すため一度職員室によってから調理室へ向かった。
行くまで結構苦労するな。この調理室は部室棟3階の突き当たりにある。俺達の教室からだと遠い。暑くなってくるとこの距離も面倒だ。
ようやく調理室に着いた。ドアを開けると中からは涼しい風が吹き込んできた。
「涼しい~」
「あ、春明君、お帰り~」
調理室を見ると楓が何かを準備していた。他のみんなはまだ来て居ないようだ。
「今日は何を作るんだ? なんか持って来ていたみたいだが」
「実はね~」
楓は持ってきていたバッグから何かを取り出した。
「じゃーん。これです」
バッグから出したのはペンギンの形をしたかき氷機だ。
「かき氷機か。懐かしいな」
「最近暑いからかき氷でも作ろうかと思って。シロップもいくつか用意してみた」
「でも氷はあるのか?」
「実は冷蔵庫を新しくしてもらったの」
俺はいつもと調理室が少し違うことに気がついた。隅にあった小さい冷蔵庫から大きい冷蔵庫になっていることに。
「これどうしたんだ? 部費で買えるわけでもないが…」
「実は苺ちゃんが用意してくれたの。前の冷蔵庫は製氷機能もとい冷凍庫がなかったからね」
楓は嬉しそうに製氷のところを開けて氷が出来ているのを確認していた。
「なるほどー……ってそんな簡単に用意できるのかよ!?」
「もちろん態々買ったわけじゃないよ。部屋で使わなくなったからって」
「使わなくなる物なのか? 普通下取りしたりすると思うが……」
この時俺はあることに気が付いた。冷蔵庫を使って居た場所が〝家〟ではなく〝部屋〟だということに。
「みんなはまだ見たいだから先に準備して待っていよう」
「だな」
調理室にあるスプーンとガラスの器を人数分並べていると廊下から話し声が聞こえてきた。
そしてドアが開いた。
「おっまたせー!」
「遅れました」
夏と千秋が入ってきた。
しかしそこには苺先輩の姿がなかった。
「あれ? 苺ちゃんは?」
「苺先輩なら生徒会室に入って行くのを見ました」
「生徒会室に?」
「そう言えばもしかしたら生徒会に入るかもしれないって言ってた」
楓は思いだしたかのように答えた。
確かに苺は学年トップでクラス委員長もやってから生徒会に誘われてもおかしくないだろう。
「これってかき氷機じゃん。今日かき氷作るの?」
夏がさっそく調理台にあるかき氷機に気がついた。
「最近暑いから早めのかき氷を食べようかなって」
「シロップはどんなのがあるの?」
「えーっとね」
楓は冷蔵庫からイチゴ、ブルーハワイ、抹茶、パイナップル、メロンを出してきた。
「結構種類あるな」
「それじゃ氷削るね」
楓は冷凍庫から氷を取り出しかき氷機の中に入れて削り始めた。
しかし器の半分ほどで動きが止まった。
「結構力いるね……」
「俺がやるよ」
「ありがとう」
俺は楓の代わりに5人分の氷を削った。
丁度削り終わったあと調理室のドアが開いた。
「遅れてすみません。少し生徒会室に行っていたので」
急いで来たのか若干疲れているように見えた。
「さて5人揃ったことだし食べよう」
「僕はブルーハワイがいい」
「私はイチゴにしようかな」
「苺ちゃんはどれにします?」
「私は抹茶にしますわ」
「それじゃ私はパイナップルで」
「俺はメロンにするかな」
選んだしろっぷは丁度みんなバラバラだった。各自選び削った氷にかけた。この光景を見るのは何年ぶりなのだろう? 昔はよくかき氷を食べていたがここ最近はコンビニやスーパーで売っているアイスを買うからな。
『いただきまーす!』
みんな一斉に口にした。
「頭がキーンってするよ~」
「キンキンです」
楓と千秋は頭を押さえていた。
「僕は結構平気なんだよね」
そう言って夏は一気に食べ終わり2杯目の氷を削り始めた。
「それで苺ちゃんは生徒会どうするの?」
「どうしようか迷っているんですが先生方が期待するなら入ろうかと思いまして」
苺は考えた結果後日生徒会に入ることになった。現在の生徒会長も苺を推薦しているという噂だ。もしかしたら来年2年生で生徒会長になるのかもしれない。
製菓部のみんなも最初は喜んでいたが本当のことに気がついて居なかった。
苺は生徒会に入ってからなかなか部活に来なくなった。
「今日も苺ちゃん来ないね」
「生徒会が忙しいんですよ」
楓と千秋はいつも楽しそうに見ているレシピ本を閉じていた。
部長の苺が居ないと部活もなかなかまとまらない。
夏は部室来て早々椅子を並べてその上で寝ていた。
「やることないな。どうするんだ?」
話を切り出した俺も特に案は無いがやっぱりみんな苺先輩が来なくなったということが大きいみたいだ。
すると椅子の上で寝て居た夏が口を開いた。
「やっぱり生徒会入らない方がいいんじゃないかな……?」
もちろん俺もそう思うが生徒会を続け生徒会長になれば大学などでも有利になるはずだ。
苺先輩が選んだ道とは言え他のみんなは納得いっていないようだ。
今相談されたら俺は迷わず生徒会に入ることを止めるだろう。
今回の部活動は何もせず終わってしまった。
このままじゃやっぱりダメだ。
俺は放課後残り苺先輩を待った。
昇降口で待って居ると苺先輩がやってきた。
「久しぶりです」
「あ……春明さん。お久しぶりですね」
「生徒会どうですか?」
「忙しいけど今は何とか。製菓部の方はどうですか?」
「ま、まぁ何とかやって居ますよ」
「それは良かったですわ」
俺は嘘をついた。心配させたくないのだ。
……あれ? 俺は苺先輩に戻ってきてほしいのか? それとも生徒会に居て欲しいのだろうか……?
ふと苺先輩を見ると笑顔の中に少し悲しみが見えた。その笑顔もなにか作り笑顔のようだ。
「あの!」
「はい?」
「やっぱり生徒会辞めて製菓部に戻ってきませんか?」
「え……?」
「やっぱり5人で揃ってじゃないと製菓部じゃないと俺は思うんです。だから……」
「……やっぱりそうですよね。そう言ってくれると思ってましたわ」
「どういうことですか?」
「つまりこういうことですわ」
そう言うと苺先輩は鞄から生徒会長候補の紙を取り出しそれを破った。
「ということは……」
「また明日からよろしくお願いしますわ」
苺先輩の顔から曇りが消えいつものような明るい笑顔が見えた。
前回から少し時間が空いてしまいました……
次回もよろしくお願いします
@huzizakura