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第8話 夏とサッカー

 風も過ぎたと思ったらあっという間に暑くなってきた。いよいよ夏到来。

 の凪丘高校も今日から夏服に衣替えだ。

 始めて見る夏服! ……と言ってもただブレザーを脱いだだけだ。

 いつものように授業を終え楓と一緒に調理室に向かった。

 中に入るとそこには苺先輩と千秋が先に来て待っていた。

 そこには夏の姿が無かった。


「あれ? 夏さんはまだですの?」


 苺先輩は今まさに俺がしようとした質問と同じ質問をした。


「夏なら先に教室出て行きましたけど?」


 俺が教室を出るときにはすでに居なかったから先に行ったと思って居たが……?


「なっちゃんはしばらく部活休むって言ってたよ」

「そうなのか? でもなんで?」


 夏はこの中の誰より部活を楽しみにしていた。

 と言っても作る側としてでは無くてただ出来たお菓子を食べるのが楽しなのだ。

 夏が来ない理由を考えていると楓が調理室の窓を開けた。


「こっち来て」


 楓は俺を窓際に呼びグランドを指さした。

 グランドの方を見てみるとそこには体育着姿の夏が居た。

 夏はグランドで女子サッカー部に交じって練習をしている。

 動きを見る限り元からサッカー部と言ってもおかしくはないくらい機敏に動いていた。


「あいつなにやってるんだ?」

「今月だけなっちゃんは女子サッカー部に特別入部してるの。大会に出場予定だったレギュラーの子が怪我したとかで」

「代理ってわけか」


 この学校はもちろん途中から部活を変えることは出来ないが何かあった場合特別に部活移動が出来る。 それが特別入部というものだ。特別入部は生徒自身から志望することは出来ず顧問の教職員からの要望で実現する。そのため年に1人いるかいないかと言われるほど珍しいのだ。


「でも夏先輩ってサッカー出来るんですか?」


 千秋はレシピ本を閉じて窓際にやってきて窓から外を見た。


「夏は俺たちの学年では体育の成績上位なんだよ」

「そうなんですか!? 運動上手くて羨ましいです。私なんで全然ダメなので」


 夏は1年生の頃からいろいろな体育系の部活から勧誘をうけていた。でも何で製菓部に入ったのだろう?

 その後夏が居ないまま部活が始まった。

 いつもなら夏が無茶ぶりをするが居ないと何もなく進んだ。

 順調に部活は終わったがやっぱり夏が居ないと何もなさ過ぎて逆に退屈だ。

 放課後昇降口で体操着姿の夏に出会った。


「あっ春明。もう部活終わったの?」

「今日は早めに終わってな。そっちも終わりか?」

「うん。これから着替えて帰るところ」

「それじゃ一緒に帰ろうぜ」

「いいけど他のみんなは?」

「先に帰ったよ。俺はちょっと八里に用事があったから残って居ただけ。まだ八里は部室に居るみたいだから先に帰ろうかと思ってさ」

「すぐに着替えてくるから待ってて」

「分かった」


 夏は小走りで部室棟に向かった。

 待っているとポニーテールの女子生徒がやってきた。


「あれ? 瀬戸君じゃん」


 この女子生徒は隣のクラスの島崎(しまざき)小春(こはる)だ。

 女子サッカー部のレギュラーで1年生の時同じクラスだったためよく話していた。

 夏と同等の身体能力があり1年のなのに準レギュラーになった逸材だ。


「大会の順調じゃん。今度決勝戦だろ?」

「まぁね。夏が入ってくれればもっと良いんだけどね」

「上手いのにどうしてサッカー部に入部しないんだろうな」

「何でだろう?」


 仲のいい島崎も夏が製菓部に入った理由を知らないとは……

 島崎と話していると夏が部室棟から戻ってきた。


「お待たせー。あっ小春、さっき先生呼んでたよ」

「わかった。それじゃまたね」

「おぅ、またな」


 島崎は夏と入れ替わりで部室棟に向かった。


「それじゃ帰るか」

「うんっ」


 夕日を背に歩きながら俺は夏と駅まで歩いて帰った。

 夏は駅からバスに乗って帰るため途中までは同じ道だ。


「あ~、お腹空いた」


 夏はスポーツドリンクを飲み空腹を(しの)いだ。


「そうだ。今日チョコチップクッキー作ったんだ」


 俺はバッグからクッキーの入った袋を取り出し夏に渡した。


「ありがとー!」


 夏は受け取るなりすぐに食べ始めた。

 夏がクッキーを食べている中俺は疑問をぶつけた。


「そういえば何で体育系の部活に入らなかったんだ? 運動神経良いのに」

「スポーツが出来るからって理由で勧誘受けていたんだよ。だからもしサッカー部に入ったとしたらソフトボール部から何か言われるかなって思って」

「つまり周りの目が気になって決められなかったのか」

「それもあるけどやっぱり勧誘ではなくて自分で選んで決めたいって思ったからさ。そんなある日楓に出会ったの」


 夏は楓と出会って製菓部に入った経緯を話し始めた。それは入学式後の入部開始した時の話だ。その頃 夏は色々な部活からほぼ毎日勧誘を受けていた。


「日向さん。ぜひソフトボール部に!」

「いやいや。我が卓球部に!」

「剣道部こと君の進む道だ」


 この時すでに体育系の部活では1年生の日向夏は運動神経抜群という噂が流れていた。


「でも僕は……」


 周りを体育系の部活の人に囲まれた。

 勧誘も暑苦しい人たちだ。


「どの部活にするんだい?」

「それは……今はまだ決められないので失礼します」


 夏は勧誘から逃げ出し部室棟を歩いていた。


「(やっぱり文化系がいいのかな……?)」


 夏は部室の看板を見ながら歩いていると正面から小走りの楓とぶつかりそうになった。


「わぁっ、すみません」

「こっちもって同じクラスの佐藤さん? どうしたのそんなに急いで」

「準備していたら勧誘に出遅れちゃって今から行くところなの」

「そうなんだ。あっ、なにか落としたよ」


 落としたのは小さな袋に入ったクッキーだ。

 夏はそれを拾って楓に渡した。


「ありがとう」

「それってクッキー?」

「うん、私製菓部に入ったから」

「製菓部?」

「お菓子を作って食べる部活だよ。ひとつどうぞ?」


 楓は持っていた別のクッキーの袋を1つ夏に渡した。


「いいの?」

「配布用に作ったから。今回の入部であと1人入部させないと」

「大変だね」

「よかったら是非製菓部に」

「うん、また」


 楓は再び小走りでかけて行った。


「――ってことがあってね」

「それで入ったってわけか……って分からねぇよ!」


 ただ楓からクッキーを貰ったってことしか頭に入ってこなかった。

 一体夏はどこに引かれて入ったのだろう……


「でも本当に製菓部に入ってよかったと思うよ。他の部活は僕を必要としてくれているけど居なくても困るって感じじゃないけど、製菓部は本当に必要としてくれる気がしたし無理やりじゃないって感じだったから。それにお菓子作りって女の子っぽいじゃん? 僕こんなんだし」

「そういうことか。でも自分で選んだならそれで間違いは無いと思うぞ」

「そうかな?」

「誰かが用意した道じゃなくて自分で選んだ道を進めばいいさ」

「そうだよね。なんだかやる気が出てきた。今度の大会絶対応援に来てよ。僕頑張るから」

「もちろん。みんなで応援に行くぞ」


 そしていよいよ県大会決勝が始まった。製菓部も全員応援に来ていた。

 前半戦は2対2の攻防で終了。そのまま後半戦。残り時間はあとわずかだ。

 夏と島崎はペースを落とすことなく相手のゴールを攻めていた。


「なっちゃん行けーー!」

「夏先輩頑張ってください!」


 スポーツとはほぼ無縁の楓と千秋は俺以上に応援をしていた。

 流れはこちらが優勢だ。夏は相手のゴール前まで行きそこで島崎からのボールを受け取った。

 そして夏は少し離れた位置からシュートを決めた。

 ボールは綺麗な線を描きゴールギリギリのところに入った。


「ゴール!! 凪丘高校が1点リードです!」


 その瞬間観客席では声援が飛び交った。


「夏ちゃんナイスシュート!」

「小春が良いパスしてくれたおかげだよ」


 夏と島崎ハイタッチをした。喜んでいるのが観客席からでも分かった。

 その後凪丘高校は1点リードのまま試合は終了した。

 閉会式も終わり俺は1人建物前で夏を待って居た。


「おつかれ、今日は良いゴールだったぞ」

「ありがとう。僕もう疲れたよ~」

「ご苦労さん。なにかお祝いしてやるよ」

「ん~それじゃぁ今度また買い物付き合ってよ」

「そんなのでいいのか?」

「いいよ。楽しみにしてるから」

「約束だ」

「うんっ」

読んでいただきありがとうございます

あっという間に8話でした

次回も是非読んでください


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@huzizakura

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