第7話 楓とお泊り!?
初夏のように暑いと思ったらいきなり肌寒い風が肌を刺した。
先日この時期には珍しい台風が発生したのだ。台風は勢力を上げながら徐々に俺たちの住む街へと近づいてきた。
俺は灰色に染まる空を教室の窓から夏と一緒に眺めていた。
「すごい空模様だな」
「もう休校にしてくれればいいのに」
夏はなんだか少し悔しそうだ。
朝の段階ではまだ警報も出て居なかったのだ。
台風が遅刻せず早朝に出も訪れて居たら休校になり今頃二度寝をしていただろう。
午後になると風が徐々に強まり雨も降り始めてきた。
この日、全ての部活は中止となり全校生徒は一斉に下校を始めた。
親の車で帰る者やレインコートを着て自転車で帰る者、鞄を持参した袋に入れて走って帰る者など様々だ。
俺と楓は昇降口に居た。
こんな日に限って日直とは……
千秋と苺先輩は迎えが来て先に帰って行き、バス通学の夏はまだバスで帰った。
「電車大丈夫かな?」
楓はピンクの可愛い傘を片手に空を見ながら電車の運休状態を心配していた。
俺はスマホでニュースを見た。ニュースサイトのトップ画面には台風の情報が出ていた。
「えーっと……あー、上り線で架線のトラブルあって今運休しているってさ。直っても台風来ているから厳しいかも」
「どうしよう……」
「家の人は?」
「両親は明日まで居ないの……」
これは完全にやばい状態だ。楓は不安で少し涙目になって居た。
このまま待って居ても何も解決しないだろう。
突然台風が消えるなんて漫画みたいな展開があればどれだけの人が助かるのだろうか。
俺はある方法を。もうこの方法しかない。
「あのさ、俺の家に来るか?」
「えっ……?」
「これ以上強くなるとまずいし女子を一人残すのも可哀想だし。電車無理だったら泊まっていけばいいよ」
「ありがとう。それじゃお世話になろうかな」
楓は俺と一緒に家へ向かった。
俺の家は学校から15分も歩けばあるがこの風の中歩いて行くのはなかなか厳しい。
駅周辺の道路は迎えの車などで渋滞していた。
「すごい風だな」
「そうだね……わっ!」
突風が吹くたびに楓はよろけた。
お互いの傘もそのうち壊れそうだ。
「危ないから俺の腕に掴まって」
「うん、ありがとう」
強風の中しばらくして俺の家に着いた。
「ますます強くなってきたね」
「そうだな。タオルこれ使って」
「ありがとう」
その時スマホの着信が鳴った。
「親からメールだ……えっ」
「どうしたの?」
「俺の両親も今日出かけていたんだけど新幹線が動かないから親戚の家に泊まってくるって」
「ってことは……」
「今晩俺と楓だけってことになるな」
静まり返った空間に家の壁を打ち付ける雨音が響き渡った。
明らかに強くなっているのが分かる。
「玄関にいるのもあれだからあがって」
「そっ、そうだね」
俺は部屋着に着替え楓の分のTシャツを用意した。
「風呂湧いたから先いいぞ」
「私はあとでいいよ。泊まらせてもらう身だし」
「気にするな。早く入らないと風邪引くぞ。ほら、着替え」
「ありがとう。それじゃお先に」
「おぅ」
そういうと楓は廊下を出てすぐのところにある風呂に入った。
俺はリビングでソファに座りながらニュース番組を見て待った。
夕方のニュースはどれも似たような台風の情報だ。
適当な番組を見ながら刻々と時間が過ぎていった。
リビングの戸が開き風呂から出てきた楓が入ってきた。
「お風呂出たよ~」
「おぉ」
Tシャツが大きいため裾を捲っていて髪は結んでいなかった。
髪型が違うだけで一瞬誰かと思うくらい変わるものだな。
楓は暑いのか服をパタパタした。
少しは警戒という言葉をだな……って先に入れた俺が言うのもあれだが。
「台風すごいことになっているね」
楓は俺の隣に腰かけた。
鼓動が早くなってきた。
楓とはいつも会っているはずなのになんだろうこの感情は……
「……君、春明君ってば」
「ん? あっ、なんだ?」
「どうしたの? ぼーっとして」
「いや、別に何でもない。俺も風呂入ってくる」
「うん、わかった」
俺は急いで風呂へ向かった。
「(どうしたんだ俺は……)」
時刻はすでに19時を回った頃、俺達の住む地域は暴風域に入った。
雨風もすごいことになって居た。雨戸を閉めて居てもすごい雨音が聞こえる。
この時点で電車は全線運休が決まっていた。
「春明君、晩御飯何食べたい? 何でも作るよ」
「俺は何でもいいけど作ってくれるのか?」
「せっかく泊まらせてもらうんだからこれくらいさせて」
「それじゃお言葉に甘えて。冷蔵庫のものは自由に使っていいから」
「分かった。それじゃちょっと待っててね」
楓は〝パタパタ〟とスリッパの音を立ててキッチンに入った。
「(なんだか落ち着かないな……)」
キッチンを覗くと楓は冷蔵庫の中を見ながら何を作ろうか考えていた。
その後決まったのかいくつかの食材を並べ慣れた手付きで料理を始めた。
俺はリビングに戻って待って居た。
しばらくするとキッチンから良い匂いがしてきた。再び覗いてみてみるとあっという間にスパゲッティが完成していた。
「美味そう」
「あっ、ちょうど出来たところだから食べよう」
俺と楓は席に着いた。
「頂きます」
フォークでパスタを絡め口に入れた。
口の中にバジルの風味が広がった。
「どう?」
「うん、美味い」
「よかったぁ。まだあるからね」
楓とこうして二人きりになることはたまにあったがこんな長い時間一緒に居ることは始めてだ。
食べ終わったあと楓と一緒にリビングで小学生の頃の話で盛り上がっていた。
「修学旅行で東京行ったんだけど最終日に雨だったんだよな」
「私の時はすごいいい天気だったよ。ランドにも行ったし」
「ランド良いな。こっちは国会議事堂とかテレビ局だったぞ」
「テレビ局は行かなかったよ。芸能人とか会えた?」
「それが意外と会えないんだよな」
「一度は会ってみたいよね」
「きっと楽屋とかに居たんだろうな」
その後も中学の話もしたりして気がついたら時刻は22時を過ぎていた。
「もうこんな時間か」
「そろそろ寝る?」
「今日は疲れたからもう寝るかな。楓は俺の部屋のベッド使ってくれ。俺はここで寝るから」
「うん、……ねぇ、春明君。今日は本当にありがとうね。とっても嬉しかったよ」
「なんだよ改まって」
「今日ね正直寂しかったの。両親が居ないし台風も来ていたから。でも春明君が居てくれたお陰で安心したよ」
「別に俺はなにも」
「それでも嬉しかった。いっぱい話せたしそれに私は春明君が―――」
その瞬間すごい雨風が雨戸を叩いた。
「うおっ! 今の風はやばかったな。それで今何か言いかけた?」
「な、何でもないよ。それじゃお休み」
「お休み」
楓はなぜか慌てるかのようにリビングを出て行った。
一日いろいろあったせいか急に眠くなってきた。
俺はそのままソファで眠りに着いた。
翌朝、目が覚めると外は静かだった。台風は深夜のうちに熱帯低気圧に変わったらしい。
キッチンに行くと制服姿の楓が朝食を作っていた。
「春明君、おはよう」
「おはよう。朝食まで作ってもらって悪いな」
「ううん、気にしないで。早く食べて学校行こう」
「だな」
読んでいただきありがとうございます
編集していたら午前2時を回ってましたw
文章書いているとあっという間に時間が過ぎますね
@huzizakura