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第3話 みんなでお菓子作り/いっしょにお出かけ

 4月だというのにまだ肌寒い日が続いている。

 この日も気温は低く昼休みの教室は大人気だ。園庭や屋外テラスには人がいなくほとんどの生徒は学食や教室など屋内で昼飯を食べていた。

 温かくて最高な教室だが人が多すぎて賑やかというかうるさい……。

 八里も同じ理由&練習で部室に行ったらしい。俺も静かに弁当を食べたいから人があまりいない部室棟へ向かった。まぁ持ってきた材料を置きに行くためでもあるが。

 部室棟にある調理室も冷暖房が完備されている。そこで食べるとしよう。

 職員室に行き調理室の鍵を取ろうとしたらそこにはあるはずの鍵がない


「(誰かが持っていったのか?)」


 俺は購買でパンを買い調理室へ向かった。

 思った通り部室棟は静かで八里達だろう軽音部のギターやドラムがBGM代わりになる音楽を奏でていてちょうどよかった。

 調理室を見ると夏が居た。調理台の上の電気ケトルとカップ麺が置いてある。

 俺が調理室のドアを開けると夏は一瞬びっくりした。


「っ!?……なーんだ春明か。何しに来たの?」

「教室が混んでいるからこっちで昼飯食べようかと。あと今日使う食材もついでに持ってきた」


 俺は冷蔵庫に食材を入れ、常温でも大丈夫な物は適当に調理台の上に置いた。


「僕もお昼食べようとしてるところ。売店の電気ポット混んでるし、お湯入れてから移動するのは過酷だからね」

「というかその電気ケトルはどうしたんだ? まさか持ってきたわけじゃぁ……」

「さすがにそれは無いよ。隣の準備室にあったのをこの前整理した時に見つけただけ」

「結構新しいものもあるんだな。さて、俺も昼飯食うかな」


 俺は購買で買ってきたパンを机の上に置いた。


「結構買ってきたね」

「寒いせいかパンが残っていてさ。人気のカップ麺はほとんどなかったけどな」

「僕が行った時には争奪戦すごかったけどね」

「俺が行ったときはもうほとんど無かったな。さて食うかな」


 俺は椅子に座りカツサンドを食べた。購買で入手困難ベスト3に入るパンだ。今日はカップ麺系が売れているためいつもすぐ買われてしまう人気パンも買うことが出来たのだ。

 パンを食べていると夏のスマホが鳴った。


「やっと出来た~。こういう時の3分って長いんだよね。それじゃ早速いただきます~」


 お互い無言のまま食事を再開した。こういう時って何喋ればいいのだろう?

 いつもなら


「ぷはぁ~。美味しかった」


 夏はあっという間にカップ麺と食べ終わっていた。

 その後すぐに俺も食べ終わった


「……まだ時間あるな」

「そうだね。飴でも食べる?」


 夏はスカートのポケットから飴玉を取りだし渡してきた。


「おぉ、サンキュー」


 俺は飴を食べた。これと言って特に何もやることなかった。静かな部室。気が付けば軽音学部の奏でる音楽も消え廊下の奥からは話し声が聞こえるくらいだ。


「なんか久しぶりだね」


 静寂を裂くかのように夏が話を振ってきた。


「なにが?」

「ほら、最近はみんな一緒だからこうして2人になるの」

「確かにな。いつもはみんなが居るけど2人だけだとなんか広く感じるな」

「いつもはみんな居るからね」

「だな」

「春明は明日もここでお昼食べる?」

「ん~、しばらくそうするかな」

「それじゃ明日のお昼もここにね」

「わかった。じゃぁ明日はみんなも呼ぶか」

「あ、うん。そうだね」


 夏はちょっと無理に微笑んだ。その時の俺は夏の気持ちを考えていなかった。

 それから昼休みが終わり教室に戻った。睡魔がやってくる午後の授業も乗り越えいよいよ部活。

 俺は職員室に提出物を出し調理室へ向かった。調理室では先に楓と苺先輩がパウンドケーキを作る準備をしていた。


「すまん、遅れた」

「大丈夫だよ」

「あれ? 夏と千秋は?」


 調理室を見渡すが居なかった。机の上には夏の鞄が置いてあった。


「ちーちゃんはさっき先生に頼まれ事をされたみたいで手伝いに、なっちゃんはそこに」


 楓が指を指した方を見ると椅子と椅子を繋げてその上で寝ている夏が居た。


「何してるんだ?」

「お腹空いた……」

「昼あれだけ食っただろ」

「だって~」

「さてそろそろ作りましょう。夏さんも手伝ってもらいますわ」


 苺先輩は薄力粉と砂糖、溶かしたバター、卵を混ぜる。俺もそれを見ながら作ってみた。

 隣の台では夏がバナナをフォークの背で潰していた。


「ねぇ楓、バナナはこれくらいでいい?」

「うん、それを春明君が混ぜている生地に入れて」


 結構細かく潰したバナナを生地に入れた。苺先輩の方は生地の中にブルーベリージャムを、楓はイチゴジャムを入れた。いい感じの3色の生地が完成。


「それじゃ焼くよ」


 3台ある予熱済みのオーブンに入れた。


「これであとは焼きあがるの待つだけ」


 待つ時間は各自だらだらしていた。


「そういえば千秋さん戻ってきませんね」


 あれから何分経ったのだろう。オーブンの焼きあがりの音が静かな調理室に響いた。


「これであとは串を刺してっと」


 楓がパウンドケーキに串を刺した。中まで焼けているようだ。

 熱々のパウンドケーキを切ろうとトレイから出した時、調理室のドアが開いた。


「すみません。先生にいろいろ頼まれまして」


 千秋が戻ってきた。

 そして後ろにはもう一人誰かが居る。


「ちーっす」


 千秋に続いて入ってきたのは八里だ。


「お前何しに来たんだ?」

「さっきプリントを運ぶのを手伝って貰っていたんです。春明先輩の友達と聞いたので」

「この1年生が製菓部って言ってたからお前がここに居ると思ってさ」

「そういうことか。そうだ、八里もパウンドケーキ食っていくか? ちょうど今さっき焼きあがったところだ」

「今切るね」


 楓はパウンドケーキを切り分け皿に乗せた。


「黄色のがバナナで赤いのがイチゴ、紫のがブルーベリージャム」

「美味そうだな」

「そのブルーベリーのは私が作りましたわ」

「豊之香先輩が!? いただきます!」


 八里はパウンドケーキを食べた。


「めっちゃ美味いっす」

「良かったですわ」

「むー……」


 夏は何か不満ありそうな顔をしていた。


「どうした?」

「なんか少なくない?」

「まぁ八里とバンド部の分もあるからな」

「でもー……」

「ったく、これでいいだろ」


 それでも不満な夏に俺が自分の分を少し分けてやった。


「いいの?」

「しっかり手伝ったからご褒美ってことで」

「ありがとう。はむ。ん~、美味しい~」


 夏は嬉しそうにパウンドケーキを食べた。


「稲城君これバンド部の人に」


 そう言って楓は小さい袋に入ったパウンドケーキを八里に渡した。


「おぉ、あんがと。そんじゃそろそろ戻るわ。じゃーな」


 八里は調理室を出て行った。

 来た理由ってお菓子目当てだったか。


「それじゃ私は今日の活動記録まとめるね」


 楓はカバンの中から1冊のノートを取りだした。


「それじゃ俺たちで片づけてるわ」

「うん、お願い」


 片付けは4人でやった為あっという間に終わった。部室の窓から外を見ると日が沈みかかっていた。


 部活終了のチャイムが鳴り俺と夏、苺先輩、千秋は各自椅子に座り楓がまとめた。


「次回月曜日は作るお菓子を考えるので1人1つ以上の作りたいお菓子考えて来てください。それでは部活を終わります。お疲れ様でした」

「お疲れさん」

「お疲れー!」

「お疲れ様です」

「お疲れ様でした」


 部活も終わり俺たちはみんなで駅に向かって歩いた。そういえばみんなで下校するのは始めてだ。


「あの、みなさん明日用事ありますか? 明日駅前のショッピングセンター内に服屋が出来るんです」


 そう言いながら千秋はリュックの中から一枚のチラシを取り出した。


「私は明日ちょっと用事が」

「僕も別の部活の助っ人頼まれてるから」

「すみません。私も明日は習い事が」


 3人とも何やら用事があるらしく断った。その言葉を聞いた千秋は少し寂しそうだ。


「それじゃ春明が行ってあげればいいんじゃないの?」


 夏がとっさに俺を指名した。

 場の空気を読んだつもりなのだろうか。


「えっ?」


 千秋は予想外だったのだろう反応をした。誰だってそうなるだろう。


「男と行ってもつまらないだろ?」

「そっそんなことないです。ぜひ一緒に」


 1人で行くよりは良いってことか。まぁ俺も土曜日は特に予定がないから良いが。


「それじゃ待ち合わせ時刻決まったら連絡して」

「はいっ」


 その後俺たちは駅で別れそれぞれの帰路についた。

 土曜日。俺は駅前にある石のベンチに座って待っていた。


「(休日になると人多いな~)」


 少し暖かい日差しの下で待っていると千秋がやってきた。


「こ、こんにちは。すみません誘った私が遅れて」

「俺が早めに来ただけだから。それじゃ行くか」

「はいっ」


 駅前にあるショッピングセンターに向かった。

 ショッピングセンターの中に入ると大勢の人が居る。


「結構広いな~。地元なのにまったく来たことなかった」

「出来てからまだ新しいですからね。上の階には図書館やシアターもあるですよ」

「まじか! 一日居られるじゃん」

「飲食店もあるから充分ですね」

「まずは服屋だな。えっと……どこだ?」


 辺りを見渡したが一階には飲食店やスーパーなど飲食系のお店しかないようだ。


「服屋は2階ですよ」

「おう」


 入り口正面にあるエスカレーターに乗った。

 2階に到着して降りてみるとそこにはいくつもの服屋がある。

 千秋が向かったのはやっぱり可愛い系服屋だ。俺も一緒に入った。

 店内には休日だけあって女子中高生であろうグループが居る。


「これとかかわいい~」


 千秋はフリルの付いたスカートを手に取っていた。


「やっぱり千秋はそういう系好きなんだな」


 予想通りだけあってついつい微笑んでしまった。


「やっぱり子供っぽいですか?」

「子供っぽくても自信持てばいいじゃん。無理して合わないの着るよりはいいと思うけどな」

「そうですよね。それじゃこれ買おうかな。……あっ」


 千秋は近くにあるマネキンに向かった。


「どうした?」

「このペアルック可愛い~」


 マネキンには最近ブームのペアルック服が展示されている。


「やっぱり女の子はこういうの憧れるのか?」

「もちろんです。可愛いですよね」

「イケメンの相手が見つかるといいな」

「……鈍いです……」

「ん? どうした?」

「あっ、いえ、お腹空いちゃったのでお昼にしましょう」

「おぉ」


 千秋は先ほどのスカートを購入し、俺たちは1階のハンバーガーショップに入った。

 やっぱりここも混んでいるな……

 注文を終えようやくテーブル席に座りハンバーガーを食べた。


「この新作のハンバーガー美味いな」

「そうですね」

「ところで次どこ行く?」

「次はあのお店行こうと思ってます」


 指した方を見ると和菓子屋があった。ここはもともと別の場所にあったらしいがこのショッピングセンターが出来た時に移転してきたらしい。

 俺と千秋は食べ終わり和菓子屋に入った。

 それほど広くない店内には店員が一人だけレジにいた。他には客が居ないようだ。

 奥にいた女性店員さんがこっちにやってきた。


「いらっしゃーい!!」

「テンション高っ!」


 俺はついツッコんでしまった。


「こんにちわ~」

「おっ千秋ちゃん。いつものまだあるよ」

「ありがとうございます。ちょっと買ってきますね」


 千秋は和菓子を買いに行った。

 やけに親しいが千秋はここのお店の常連客って言ったところだろうか。

 この前のケーキ屋といい甘いもの好きなんだな。

 

「ところで君」

「はい?」

「千秋ちゃんとはどういった知り合いで?」

「えーっと同じ学校の同じ部活で―――」

「もしかして付き合ってるの?」

「ぶはっ! な、なに言ってるんですか!?」

「まだ時間あるって~。がんばりなよ」

「いや、だからーー」


 俺は弁解しようとしたが会計を終えた千秋が戻ってきた。


「おまたせしました。なに話していたんですか?」

「べ、別に何でもない。ちょっと行きたいお店あるから行こうぜ」

「う、うん。また来ますね」

「はいよ~。そんじゃぁお幸せに~」

「お幸せに?」


 店員さんは俺たちが店を出るまでにニヤニヤしていた。

 そのあとショッピングセンターを出て近くの店を回った。気が付けば空はオレンジ色に染まっていた。

 俺たちは近くの公園で休憩をすることにした。


「いっぱい歩いたな~」

「今日は買い物付き合ってくれてありがとうございます」

「結構楽しめたしいい休日だったよ」

「あっこれ、どら焼きどうぞ」


 千秋は和菓子屋の紙袋の中かあら1個のどら焼きを出した。


「さっき買ったやつか」

「はい、クリームどら焼きって言って餡子とクリームが入っているんです」

「それじゃさっそく……」


 袋を開けてどら焼きを食べた。

 中は餡子とクリーム以外の何かが入っている。


「これは……リンゴ?」

「正解です」

「最近の和菓子も変わっているな」


 ある意味店員さんも変わっていたが。まさかあんなこと聞かれるなんてな……


「ところでさっき和菓子屋の店員さんと何話していたんですか?」


 そこを掘り返すか……


「た、ただの世間話だ」

「そうですか? なんだか盛り上がってるみたいだったので」


 よし、話題を替えよう。


「ところで千秋って何でお菓子作り好きだよな」

「始めたのは高校に入ってからですよ」

「つい最近だったのか。でもなんで急に始めたんだ。」

「えっと、それは……好きな人に作ってあげたくて」


 千秋はちょっぴり恥ずかしそうに呟いた。


「確かにお菓子渡されると嬉しいよな」

「春明先輩もそう思いますか?」

「もちろん。その人にお菓子渡せると良いな。俺は応援するぜ」

「ありがとうございます。私、頑張ります」

前回に続いて今回も千秋の話でした。

2話連続になるとは……

それではまた次回もよろしくお願いします


Twitter @huzizakura

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