表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーブレイバーズ  作者: 駄文職人
【ブレバ】無理ゲーを実況してみた その3
9/10

スキルの習得条件

 あるプレイヤーのお話。


 彼はその時、ステータス上げに精を出してダンジョンにこもっていた。

 ダンジョン自身は中級向けのモンスターが出現する場所で、そこそこの装備を揃えていた彼にとっては、死ぬ事無くある程度安全に戦える狩場であった。


 が、こういうダンジョンによくある仕様だが、時々強敵と呼ばれる上位モンスターがフロア内に出現することがある。

 彼がこもっていたダンジョンも例外ではなく、せっせと経験値集めをしていた彼は不意に背後に立つフレアドラゴンと遭遇することとなる。

 ドラゴン系は数あるモンスターの属性の中では最強ランク。中級ダンジョンで渡り合える程度のプレイヤーの手に負えるはずもない。


 彼は死にもの狂いになって逃亡した。


 ここでゲームオーバーになれば、ここまで集めた数時間分の経験値が水の泡になる。

 フレアドラゴンの腹をむちゃくちゃに叩き、鋭い爪の攻撃をかすりながら、彼はなんとか逃げおおせた。


 這う這うの体でダンジョンから抜け出した彼は、メニュー画面を開いた時に気が付く。

 フレアドラゴンに大幅に削られたHPと、いつの間にか覚えたスキルの数々に。

 ステータス上げをしている間に覚えたスキルではない。上昇具合を見る為に、彼は頻繁にメニュー画面を開いて確認をしていたからだ。

 では、あのフレアドラゴンから逃げる時か。

 そういえばあの時は必死だったが、フレアドラゴンのどてっぱらを叩いている時に妙に間の抜けた電子音が聞こえた……。


 そこで彼は気が付く。


 ステータス上昇とスキル取得は、独立して判定されているのではないかと。


 まだブレバが配信されてから一ヶ月ほどの出来事である。


「ブレバにレベルという概念は有りません」

 ハルミは説明した。

「あるのはステータスの各項目の上昇、それからスキルの取得です。ステータスは戦闘勝利時に得た経験値を、戦闘中に使用した技能やスキルの依存ステータスへ振り分けます。しかしスキル取得は経験値によらずに行われます。スキルは敵ごとに設定された閃き値とスキル自身の閃き難度、そして関連ステータスの値に依存しているのです。


 先日の大マーモンウルフ戦を思い出していただければ分かりやすいでしょう。


 マーモンウルフはチュートリアルクエストでお馴染みの超初級モンスターです。その為倒しても経験値としては低く、しかも三人で倒してしまった為に経験値が各自に分散してしまい戦闘後にはステータスが一つも上がりませんでした」

「その後装備でがんがん上げたけどな」

「それは違う話になります。戦闘後のステータス上昇はベースとなるステータス値が上がるのに対し、武器補正とはベースステータスに上乗せする形でステータス値が上昇します。ベースステータスは通称ベーステと呼ばれますね。ベーステと武器補正を足した数値がいわゆる我々プレイヤーの技能値となる訳です。


 プレイヤーの技能値=ベーステ値+武器補正値


 さて、大マーモンウルフ戦ではベーステは上がりませんでしたが、全く成長しなかったわけではありません。当然成果がありました」

「くにひこくんの〈刹那の一歩》だね」

「その前にもハルミが《慈愛のしずく》をゲットしてるな」

「そうです。ベーステは上がりませんでしたが、スキルを取得することができました。もう少し詳しく言いますと、ブレバで取得可能なスキルにはそれぞれ閃きに必要な特定行動があります。《慈愛のしずく》ですと「防御」という行動がそれにあたります。私が敵の攻撃に対し「防御」という特定行動をする度に、スキルの閃き判定が行われるのです。

 実際にスキルをひらめくかどうかはそのプレイヤーの知力値、特定行動に関連する武器補正を含めたステータス値、スキルそのものの閃き難度、そして敵に設定されている閃き指数に依存します」

「小難しい話になってきた(笑)」

「ええ。スキルの取得判定の計算式はネットでも公開されているのでぜひググってください。


とりあえずここでは、

・知力が高ければスキルをひらめきやすい

・ スキルの中にも閃きやすいものと閃きにくいものがある

・ 敵によって閃きやすさが変わる

・ もってる武器や職業によって閃くスキルが変わる

 これくらい分かればOKです」

「知力2のぼくが全然スキルをひらめかなかったのはこれのせいだね(笑)」

「ここで重要なのはもう一つ。スキルは敵を倒さなくても取得できる、という点です」




 ジェイは深く息を吐く。

 もう何度攻撃を凌いだか分からない。


 その目はダークガーゴイルの挙動をしっかりと捉えている。


 胴体を引きずり、地面を鋭い爪で引っ掻き威嚇している。

 元々中ボスキャラだけあり、その威厳は森の中にあってなお健在だ。腕力は50を誇り、今のジェイなら一撃で消し飛んでしまうだろう。


 だからこそ、挑む価値がある。


 ダークガーゴイルの動きが変わった。

 わずかに背を逸らしたのだ。

 体のバネを、引く。

 ほんの一瞬の予備動作を、ジェイは見逃さなかった。


 ギィィィィィッ!!


 巨体が突進してくる。

 石材の重量を乗せて猛スピードで突っ込んでくるそれは、もはや凶器だ。若き冒険者をすり潰そうとダークガーゴイルが迫る。


「うぉ……!」


 声無く、裂帛。

 ジェイは《ぶちかまし》を間一髪で躱し、振り向きざまに左手を振るう。

 ぴこっ、と気の抜けた音に、電子音が重なる。


〈ジェイがスキル《カウンター》を覚えました〉


「い………やったぁぁぁぁ!」


 感無量でジェイが歓喜する。

 その横面をくにひこが蹴り飛ばした。


「痛いっ!?」

「よそ見をするな馬鹿やろう!?」


 尻餅をついたジェイの頭上を《かぎ爪》が通過する。

 体重を落としたくにひこは、ガーゴイルの振り切った腕の死角へ飛び込みマサカリを振り上げた。


 ピコーン。

〈くにひこがスキル《岩石割り》を覚えました〉


「……っ。ずいぶん幸先がいいじゃねーかゲームの女神様クソビッチよぉ!」


 振り下ろされた《かぎ爪》をバックステップで避け、くにひこは獰猛に笑った。


 そして、告げる。


「《岩石割り》」


 横滑りの斬撃に、青い燐光が宿る。

 再び打ち据えたマサカリはダークガーゴイルの左腕を抉る。


 ギィィッ!?


 初めてダークガーゴイルの巨体が仰け反った。

 落とす事は叶わなかったが、腕には確かにマサカリが削り取った跡が残っていた。



《岩石割り》

 種族:ゴーレム(石)に対し5倍のダメージを与える。両手持ちの鈍器及び刀剣を所持している時にのみ閃き・使用可能。



 ギ、ィィィィィッ


 ダークガーゴイルの声が変わった。

 ずっと畳まれていた翼を広げる。

 ばさりとひとたび羽ばたけば、その巨体はふわりと地面から離れる。

 第二形態、飛行モードだ。

 今までの地を這っていた状態からは嘘のように移動速度が格段に上がる。


「ジェイ、走れるな!?」

「どんとこい!」

「ハルミ!」

「合点です!《恵みの風》!」

「「撤収っ!!」」


 ハルミの風魔法で足止めをしている内に、三人は一目散に逃走を開始した。


 彼らは何をしているのか。

 やっている事は実に単純だ。ただダークガーゴイルを引っ叩いてから逃げるだけのヒットアンドアウェイである。


 では何のためか。


「《カウンター》来ましたね」

「32回目にしてようやくね!」


 32回の《回避》+《反撃》の特定行動を繰り返す作業。

 実際には反撃未遂や事故ったりもしたため、50に近い試行回数があったことを付け加えておく。


 特定行動をする度に閃き判定が行われる、という事は必ずしも戦闘に勝利する必要がないということ。


 つまり、特定行動だけして逃亡しても、スキルの閃きに一切支障をきたさない。

 むしろそちらの方が効率良くスキルをゲットできる。


 そしてダークガーゴイルの閃き指数は、中ボスと同じスペックとだけあり62もある。


 大マーモンウルフが9であることと比べると段違いにスキルを閃きやすいことが分かる。


 走りながら、ハルミはメニュー画面を確認する。


「私のHPはあと半分残っています」

「おれも」

「ごめん、もう三割切ってる!」


 すれ違いざまに衝撃波を食らうジェイはガリガリ体力を削られるのだ。


「ちなみに周回中に調べたところ、このHPが謎に減っていく現象はこの森の地形ダメージで間違いないみたいです。瘴気があふれているという設定だそうで」

「そういやハゲが言ってたな、そんなこと」


 地形ダメージであるために、状態異常の類ではない。

 その為、回避のすべはない。


「1分に3ポイントの確定減少ですね」

「高レベルなら大したことないんだろうけど、ぼくらには死活問題だ(笑)」

「ハルミの回復魔法を使いつつ、一気にダンジョンまで抜けるってのが一番だろうな」

「その前にガーゴイルが行く道を塞いでくるんだよなぁ。もうついてきてない?」


 三人は後ろを窺う。


 姿は木陰に紛れて見えない。

 が、バキバキと木々をなぎ倒す音がひっきりなしに聞こえてくる。


「ひぃぃぃ、まだいるー!!」

「飛行状態になってしまいましたからね」


 今までは飛行状態に移行するまでに離脱していたのだ。


「後悔はしてない」


 戦犯・くにひこはそうのたまった。

 あまりに攻撃が通らなかったのでストレスが溜まっていたらしい。


「と、とりあえずハルミちゃん!回復!」

「えぇ……いえ」


 一度は杖を構えたハルミは、少し思案した。


「このままで頑張りましょう」

「ハルミちゃんっ!?」

「くにひこくん。MPはどれほど残っていますか?」

「《岩石割り》あと2回分かね」

「了解です。くにひこくんは下がって、攻撃の機会に備えてください。迎え撃ちましょう」

「マジですかっ!?ちょ、ちょっと待って!!ぼく死にそうなんだって!?」

「はっはっは。やだなぁ、あと三割もあるんでしょう?」

「鬼畜ーっ!?」


 その時、黒々とした影が落ちる。


 イィィィィィッ!!


 黒板を爪で引っ掻いたような、耳に軋む音。

 翼を広げたダークガーゴイルが、三人を睥睨していた。


 一歩、ハルミが踏み出す。


「逃げ切れないならば仕方がありません。知力8の実力を見せて差し上げましょう」

なお、スキル閃きのシステムはサガシリーズを大いに参考にしています。


【追記】次回投稿は12月7日23時です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ