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無理ゲーブレイバーズ  作者: 駄文職人
【ブレバ】無理ゲーを攻略してみた その1
4/10

ボス戦 大マーモンウルフ

「ここで残念なお知らせです」


 両手ダガーを構えたジェイが不意に真剣なトーンでボソリと呟く。

 隣でくにひこが戸惑い気味に彼を見た。


「どうしたジェイ」

「実況なのにこのクエスト中、ぼくらゲームに夢中になりすぎて視聴者にコメントしてない! 」

「お前、久々に喋ったと思ったらそれか !? 」


 目の前にはマーモンウルフの親玉が立ち塞がる。

 その周囲を逃さじとばかりにマーモンウルフの群れが取り囲んでいる。

 街道のど真ん中、左右を森で覆われたそこは人気もなく、助けを期待できる様子はない。

 馬車は三人の後方に距離をとって停車していた。道が狭い為、到底引き返すことも出来ない。

 進路も退路も失った。


 そんな窮地にあって、ジェイの必死の言い訳は空々しくさえ聞こえた。


「いや、だって! 割と死にそうだったし、ぼく! 必死だったし!」


 最初はギャーギャー騒いでいたジェイは、言われてみれば確かに時間が経つにつれて口数が減っていた。

 真剣になると無口になるタイプだったらしい。

「黙ると死ぬ男」にとっては由々しき問題である。


「もう、お前黙れ」

「ひどいっ !? 」

「俺だって焦ってんだよ。どこかの誰かが無駄口ばかり叩くせいで、 クエストのフラグすら立てられずに第一回目が終わろうとしている からな」

「あ、いや、それはマズイ! ( 笑 ) 」


 編集があるとはいえ、そろそろキリをつけないと視聴時間が大変な事になる。


「なるほど、つまり我々三人の冒険が始まるかどうかは あのワンコをいかに瞬殺できるかにかかっている という事ですね」


 三人はぐりんっと大マーモンウルフを睨みつけた。

 彼らの殺気に、なんとなく狼たちが尻込みしたように見えた。


 初めて遭遇する、窮地。


 しかしながら、実況者としては歴戦の猛者である彼らにとって、こんな状況はまだヌルい。


「……こういう時は、親玉さえ倒せば雑魚は散るってのがセオリーだよな」


 くにひこがぽつり、呟いた言葉に他の二人が頷く。


 こんな程度の危機なら、ゲームこそ違えど自分達は数え切れないほど乗り越えてきた。


 それぞれが自分の得物を構える。

 その時、ピコーンともはや聴き慣れた音が鳴る。



〈待ち伏せしている敵を倒そう!〉



 それがゴングだった。

 くにひことジェイが同時に前へ飛び出す。


「とにかくモブを蹴散らす! 《斬り払い》!」


 ここでくにひこが温存していたスキルを使用、ブロードソードの刀身が青く仄光る。

 上体を捻り、体重を乗せて真横に一閃。八方より襲い来る狼の群れごとぶった切った。更に剣圧が斬撃の後に衝撃波を生み大気を走る。

 頭を抱えて伏せていたジェイが、弧を描いて吹っ飛ぶ狼を見て口笛を吹いた。


「なんか、初期ステータスの威力じゃなくない?」

「補正有りで腕力12だからな」


 マーモンウルフ(モブ)なら瞬殺ものである。


「おぉ、おっかねぇ ( 笑 ) 」


 肩をすくめたジェイは涼しい顔と裏腹に、持ち前の機動力で地を蹴った。隙ができた群れの中へ容赦なく切り込む。

 横からの取り巻きの爪をダガーで弾く。ステップを踏んで、大マーモンウルフの懐へ飛び込んだ。

 手の中でダガーが踊る。


「失礼っ!」


 切っ先は巨狼の喉笛を捉える。

 しかし寸前で身を引かれ、毛皮を浅く切り裂くに留まった。


「げ」


 咄嗟にジェイは左足を跳ね上げた。

 伸びきった腕を食いちぎらんと迫る顎を、今度は下から蹴り上げる。

 勢いを殺さず一転。

 怯んだ大マーモンウルフに肉迫し、追撃の刺突を繰り出す。

 ピコーン、間の悪い音が鳴った。


〈くにひこ がスキル《刹那の一歩》を覚えました〉


「はれ !?  ぼくじゃないんだ !? 」

「お、こりゃ使えるぞ」


 ジェイの後ろでモブを切り伏せていたくにひこが、ぐっと身を沈めた。


「《刹那の一歩》」


 唱えた瞬間、くにひこは残像となった。


 いや、加速したのだ。

 目に見えぬ速度となった斬撃は、死角からマーモンウルフの首を切り飛ばす。

 素早さだけではない。剣戟の鋭さも増している。

 地を滑ったくにひこは手をついてUターンし、そのまま二匹の狼を巻き込んで胴を薙いだ。


「一瞬だけ加速できるスキルか。全速力で走った後で斬り払い使ったからか?」

「感心してないでヘルプミぃぃぃっ !? 」


 ジェイが背後に飛び退くと、その後を巨大な爪が抉る。

 まだ直撃はしていないが、きっと当たればダメージは大きいだろう。

 下手するとジェイなどは即死である。

 大マーモンウルフのHPゲージはあと三割。仕留めきれなかったのだ。


「《恵みの風》!」


 ハルミが杖を掲げ、風が大マーモンウルフの行く手を阻む。

 だが。


「あ、魔力切れました」

「ハルミちゃあぁああんっ !? 」

「すいません、馬車まで退避しています。後はお二人よろしく」


 すちゃっと手を挙げ、さっさと後退していく。

 確かに画面を見ると、ハルミのMPマジックポイントが底をついている。


 始まりの町ではMP回復アイテムが売っていなかったので、事実上戦力外通告であった。

 腕力2で太刀打ちできる相手ではないと彼女は理解している。

 しかしながら、あそこまで潔いとちょっぴり裏切られた気分になるジェイだった。


「ええい、ままよ!」


 半ばやけくそになってジェイはダガーを突き出す。

 右前足を負傷した巨狼は怒りの咆哮を上げ、頭を上空へ反らす。

 ぐっと喉が動くのが、ジェイには見えた。


「やばっ」


 次の瞬間、巨狼の口から出たのは遠吠えではなく紫の吐息。

 大マーモンウルフのブレスを受けた前方一帯の草が黒くただれ枯れ落ちる。



「毒……っ !? 」



 横っ飛びに逃れたジェイだが、範囲攻撃をさすがに避けきれず直撃をもらう。

 幸いゲージが少し削られただけだったものの、ジェイのパラメータ欄に「状態異常:毒」の文字が追加される。

 時間と共にじりじりとHPを奪われていく。


「ったく、これくらいで手間取ってんじゃねぇよ! 『毒消し』使用! 対象をジェイへ!」


 その時、くにひこが追いついた。

 すれ違いざまに毒消しを投げて寄越す。

 横殴りに振り切られた大マーモンウルフの爪に対し、《刹那の一歩》で跳躍し避けた。間合いを一気に詰める。


「畳み掛けるぞ!」

「りょーかいっ」


 頭上からブロードソードが斬り下ろされると共に、二本のダガーの連撃が走る。

 敵の攻撃モーションの暇も与えない。


「これで……終わりだ!」


 くにひこの体重を乗せた斬撃が、振り切られた瞬間。


 時が、止まったようだった。


 凄まじい絶叫と共に、大マーモンウルフがついに地に伏した。



 クエスト完了の軽快なファンファーレが耳元で聞こえてきた。



----------------



「という訳で、だ。今回はここまでなんだが」

「とうとう 本命クエストのフラグを回収できずに終わりました ね」

「どっかの誰かがチュートリアルクエストで手間取ってるから」

「ご、ごめんちゃい」


 町の門の前。

 仁王立ちするくにひことハルミの前で、ジェイが正座をしている。


「……まあ、本番に臨む前にいくつか必要なスキルを取得できただけ良しとしよう。

 隣町にも着いたからな。

 次回からは本格的にクエストを始めるのでよろしく」

「次は是非ともMP回復アイテムを充実させたいです。私の見せ場がなくてとても悲しいです」


 ハルミは嘆く。

 初のボス戦で活躍できなかったのがかなり悔しいらしい。


「ってゆーか、二人共ずるい! ぼく一つもスキル閃かないんだけど!」


 しかし彼女以上に悔しがっているのはジェイだ。

 二人とも新技をゲットしたのに、自分には何もないとオフシーンでもぶちぶち言っていた程である。


「お前、自分の知力見てみろよ。 たったの2しかねぇんだぞ」

「あ」

「確か序盤はともかく、大技を取得するには知力50でようやく確率1%に到達するかというレベルだったかと」

「詰んだーっ !? 」


「これ……本当にクリアできんのか?」


 不安に満ちたくにひこの一言に、答える者はいなかった。



【今回の成果】

 くにひこ スキル《刹那の一歩》

 ハルミ スキル《慈愛のしずく》


 達成:隣町まで到着。

動画一つ目、チュートリアル編が終了しました。

そろそろちゃんと無理ゲーっぷりを出したい。


まずクエスト…いつになったら受注できるんだ…?

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