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無理ゲーブレイバーズ  作者: 駄文職人
【ブレバ】無理ゲーを攻略してみた その1
2/10

初めての戦闘

タグ:ブレバ 実況

 くにひこ ジェイ ハルミ

 盾を装備しろ 突っ込まない衛兵

 知力2の恐怖 伝説の始まり

 なぜか失踪しなかったシリーズ

画面暗転。


 オープニングムービーを飛ばして、ゲームのメニュー画面が表示された。

 風に流され砂の下から現れたアルファベットのロゴが、日の光を受けてきらりと光る。

 すなわち。


「ブレイバァァァァズ・アドベンチュァァァア……オンライン!」

「「いぇぇぇぇぇっ !! 」」


 かけ声に合わせ、三人の声がスピーカーを割らんばかりに響く。

  BGM として壮大なオーケストラが流れ出す。


「はいっ、という訳でブレバの実況を始めていきたいと思いまっす! 初めましての方は初めまして、お馴染みの方はまた来たぜ、みんなに笑顔を届けるラフメイカー・ジェイと!」

「知的系超絶美少女ことハルミと」

「冴え渡る突っ込み、くにひこでお送りしまーす」

「「「よろしくー」」」


 ジェイ青年の軽快なつかみを皮切りに各自が自己紹介を済ませる。

 常に喋りながらゲームを進行する実況プレイだが、その中でもジェイはとにかく喋ると有名だった。とある実況で、「黙ると死ぬ男」というタグが付くほどである。


「って訳ですが、今まで数々の実況プレイが紹介されている、鬼才・夢堂タクミのブレバなんですけども。

 今回の実況の目的は、ただ一つ……

 あの伝説クエストの攻略です! 」

「えぇ。ブレバ初心者の方のために説明すると、このゲーム、実は開設当初から存在しながら五年経った今まで一度もクリアされた事のないクエストが存在するのです」


 間にハルミがすかさず補足を加えた。

 初心者にも分かりやすいように。

 ブレバは長らく愛されてきた PC ゲームだが、実況を見る人々はプレイヤーとは限らないのだ。

 ジェイは心の中でハルミに礼を言いながら苦笑した。


「もはや都市伝説と化してるんだよねー ( 笑 )

 このクエストをクリアすると裏社会の組織に拉致られるとか。

 まだブレバには開放されていないワールドが存在して、このクエスト攻略が鍵になっているだとか」

「実はこのクエストに関わっていた開発者の一人がゲームリリース前に事故死して、誰もクリアできないのは死んだ開発者の怨念がクリア寸前のプレイヤーのパソコンをダウンさせてしまうからですとか」

「クエスト中に設定されていないはずの NPCが出てくるとか」

「おいやめろ、なんで怖い話になってんだよ! 時間もないからとっとと始めるぞ!」


 途中から某ホラー映画の BGM に変わっていたのを、くにひこの一喝がぶった切る。

 実況動画の再生時間は二十分前後がベストだと言われている。

 視聴後の満足感があり、尚且つ動画自体が重くなりすぎないギリギリのバランスである。

 三十分を超えると再生時の読み込みに時間がかかる上、視聴者の鑑賞環境によっては画質が落ちる可能性が高くなる。


「そだね。あ、動画の撮影はぼく、ジェイがやってるので、悪しからずご了承ください~」

「画面分割でそれぞれのプレイ画面を一括で映す案も出たのですが、それだと視聴者の皆様が見づらくなるので、基本的に動画は ジェイの目線 でお送りします」

「俺らは当然自分の画面でプレイしてるけどな」

「あと、ボイスチャットを使用していますので、我々は声と自分のプレイ画面しか分かりません。

 つまり二手に分かれたり、トラップ等でパーティを分断されると声を頼りにチームプレイをしなければならないという事に……」

「なあ。俺の気のせいでなければ、 無理ゲーの気配しかしない んだが」

「いえいえ、気のせいです。きっと」

「……」

「おーい、始めるよー ( 笑 ) 」


 ジェイがカーソルを操作し、「はじめから」を選択する。


「まずは名前の登録だね。当然『ジェイ』、と。あ、アバター設定」


 名前を決定すると、次に操作キャラクターの容姿を決める画面へ移行する。

 ここでは性別や顔、髪型、体格などを組み合わせてオリジナルの PC (プレイヤーキャラクター)を作成できる。


「そこからかよ !?  事前に決めとけ!」

「いや……初心者にも分かるようにって……」

「私なんてチュートリアルクエストクリアしてきました」

「とりあえず決めてこい。後で編集してカットするから」

「ぐは ( 笑 ) じゃあ、ちょっと設定してきます。カーット!」


---------------


「はい、決めてきました! ついでに職業とアバター補正も決めてきたよ!」


 画面に浮かぶのは男型の長身痩躯、短剣を左右の腰に収めたアバターだ。ボサボサの金髪をバンダナでまとめている。


「腕力と敏捷にパラメータ振りました~。

 職業を盗賊にしたら、服装が小汚いならず者みたいになった ( 笑 ) 」

「ま、盗賊だからな」

「初期装備は革ブーツと両手ダガー、あとバンダナに敏捷+1の補正があったので選択しました。以上!」

「待て」

「なに、くにひこ君」

「盾はどうした」

「装備してません」

「なにぃっ !? 」

「いや、武器を両手ダガーにしたせいだと思うんだけど、装備欄に空きがなくなっちゃったんだよね。あっはっは ( 笑 ) 」

「ふざけんな !?  お前は無理ゲーを攻略する気があんのか !? 」

「は、だから敵の攻撃を避けるためにバンダナで敏捷を上げました」

「 盾を装備しろ 」

「いえ、バンダナを外しても盾は装備できないですよ? 両手が塞がってるので」


 ハルミの冷静な指摘に、ぐああぁっ! とくにひこが苦悩の叫びを上げた。


「じゃあ、このままジェイ君はチュートリアルクエストも終わらせてきてください。私は荒ぶるくにひこ君をなだめておきます」

「りょーかーい。いってきまーす!」



【ジェイ 初期パラメータ】

 腕力:7( + 2)→ 9

 敏捷:9( + 4)→ 13

 体力:4

 知力:2

 魔力:3

 魅力:5


 装備:ダガー(腕力 + 1)

 ダガー(腕力 +1)

 革ブーツ(敏捷 + 3)

 バンダナ(敏捷+ 1)


 スキル:盗む



 設定を確定すると、くるくると画面が回るエフェクトと共に場面が切り替わる。

 ジェイのアバターだけが取り残され、やがて現れた草原にふわりと着地した。


「じゃ、チュートリアルクエストの間だけはボイスチャットオフで! ハルミちゃんくにひこ君にはお留守番をしてもらいます。

 って事なんだけど……おー綺麗だねぇ」


 遠くに伸びる地平線の奥には、霞がかった山脈が陽の光に輝く。

 それらすら飲み込まんとする青空が澄み渡り、白い鳥が悠々と飛び去っていった。


「これぞブレバ名物、美しすぎる背景っていうね!

 ほら、あっちなんか湖も見える。魚とか泳いでそう。

 あれ? これ動けないのかな?」

『おい、そこの貴様!』


 突然背後から声を掛けられた。


「お、ぼくですか?」


 ぐるりと視点が後ろを向いた。

 草原の向こうから誰か走ってくるようだ。

 数は三人。全員一様に頭の上に「???」の文字が浮かぶ。

 これは NPC の特徴だ。

 ゲーム側のキャラクター、 NPC も有名声優によるフルボイスなので他のプレイヤーから話しかけられた気分だった。

 今は「???」だが、会話の中で名前が分かればちゃんと置き換わる仕様である。


「なんか、あの人達が走るたび、すっげぇガチャガチャ鳴ってる ( 笑 ) あ、鎧か。兵士っぽいねー」

 先程は思わず返事をしたが、もちろん NPCにはジェイの声は聞こえていない。

 そういうイベントなのだ。

 クエストを進めていくと、こういうイベントシーンに何度も遭遇する事になる。ジェイとしては NPC のセリフを読み上げなくていいのでとても楽だった。

 ガチャガチャと音を鳴らして走ってきたのは、甲冑を着込んだ兵士達だった。


『はあっ……はあっ……、き、貴様、ここで何をしている !? 』

「息切れてるじゃん ( 笑 ) ぼくジェイって言います~。今ゲームの実況プレイというものをやっておりまして」

『いかにも怪しげな出で立ちをしよって。犯罪者ではあるまいな?』

「怪しげだなんて失礼な!  ただの盗賊のような者 です」


 世の中では立派に犯罪者である。


『なに? 冒険の旅をしているだと? その割にはずいぶん装備も貧相だが』

「そうそう! 今から無理ゲークエストを攻略に行こうと思いまして」

『貴様、もしやこの先の町を目指しているのか?』

「あ、町があるんだ? じゃあ、とりあえずそこを目指そうかな」


 兵士達は話し合う素振りを見せると、真ん中のリーダーらしい男が自分たちの来た方向を指さした。


『あそこが交易の町、ティンパニアの関所だ。そこで町の滞在証がもらえるぞ。

 まあ、お前のような不審人物にそうそう許可なんて降りないだろうがな』

「ちょ ( 笑 ) 教えてくれるんだ…っ! なんだ、この人実はいい人だ! ありがとう!」


 踵を返して走り去っていく兵士達の頭上が、「町の衛兵」に変わっていた。


「とりあえず、その関所ってとこに行かなきゃいけないみたいなんで、ちょっと行ってきます。お?」


 ピコーンという間抜けな音と共に、ジェイの頭上にウィンドウが展開された。



〈関所を目指そう! イデアノイドを装着して「前へ!」と念じてみましょう〉



 移動のチュートリアルのようだ。

 ジェイの前方には、白い石を積み上げた城壁が見える。門のように見える所が関所だろう。


「へー! 結構でかい町。あそこに到着すればいいのかな?」


 チュートリアル通りジェイが「前へ」と念じると、ジェイの脳波を読み取りアバターが走り出した。


「考えるだけでアバターを動かせるなんて、時代は進んだよねぇ。

 ブレバは必殺技を使う時も、技名を頭で唱えるだけで使ってくれるのでトラップとか敵の不意打ちとかにも割と素早く対応できます。

 でも今回は実況なんで、技やアイテムを使う時はなるべく申告するようにしていくね!

 うわ、結構距離あるなぁ。もうちょっと近いと思ったんだけど」


 それでも走っている内に城壁がどんどん近付いてくる。

 関所付近に馬車が何台か並んでいるのも見えた。交易の町とあって人の出入りは多そうだ。


「ブレバって割と自由度が高いんで、ちゃんとイデアノイドを使いこなせばいろんな動きができるんだよね。たとえばこういう風に」


 ジェイは一度立ち止まり、続けて「しゃがめ」とイデアノイドに指示する。

 と、アバターも即座に片膝をついてしゃがんだ。


「こうやってしゃがんだり、あとハイハイで歩いたりもできます。

 これ何でもないように見えるんだけど、ダンジョンとかで重宝するんでね。どんどん活用していきたいと思います。

 別のブレバ実況ではアバターにブレイクダンスさせてた人もいたよ ( 笑 ) 」


 ハイハイしていたジェイは、跳ねるようにバク転をしてすたっと大地に立つ。

 そのままコサックダンスをしながら前に進んでみる。


「うわ、コサックダンスめっちゃ早い !?  すごい、緊急回避とかで使えそう! 全力疾走してる時並のスピード出てるよね。

 ちょ、関所行き過ぎちゃったって!」


 関所の門衛がコサックダンスをして進む盗賊に目を留める。


『貴様、止まれ!』

「ありゃ捕まっちゃった」


 ガチャガチャとやはり甲冑を鳴らしながら、門衛が歩いてきた。

 先ほどの兵士といい、町の警備をしているにしては立派すぎる装備だ。

 イベントが始まってもコサックダンスを続ける不審な人物を見下ろし、門衛は威厳のある声で一喝する。


『滞在証を持たない者は列を並べ! 必要書類を書いてもらう!』

「あ、はい」


 この町の住民は意外と大らかな人達らしい。

 ジェイが列に並ぶと、滞在証が無事発行されたのか前を塞いでいた馬車が町の中へと消えていく。

 前に進み出ると、先ほど一喝した門衛が何やら紙を差し出してきた。先ほどの必要書類とやらだろう。

 ペンを走らせるジェイの横から門衛が何やら覗き込んでくる。


『冒険者だそうだな。ライセンスは持っているか?』

「あれ、冒険者にライセンスっているの ( 笑 )持ってないです!」

『何、持っていない !?  では無免許か !?  全く、ずいぶん世間知らずだな。どこかの箱入り息子かなんかか?』


いえ、盗賊です。


『仕方ない。この町にも冒険者ギルドがあるからライセンスは発行してくれるだろう。

 しかし冒険者はそのライセンスがないと町の滞在証は発行できない』

「え、ダメじゃん! 入れないじゃん!」

『ギルドへは私から連絡を入れておこう。三日もすればライセンスが届く。それからの滞在証申請になるがな』


 三日野宿確定である。


「ちょっと、どうにかならないの !?  三日も待ってられないんだけど! くにひこ君辺りにボコられるんだけど!

 視聴者のみんなも待ってるし!」

『申し訳ないが、我々も仕事だ。譲歩はできん』

「そんなぁ~」

『町長から認められた町の功労者なんかなら、すぐに滞在証を発行できるんだがな』

「ん? これフラグ?」


 もう一度門衛に話しかけ、「世間話をする」を選択する。


『近頃、町の周辺で大きな狼が出るようになってな。どうやら山から食料を求めて群れが下りてきたらしい。

 町を出入りする商人達の荷馬車が狙われるようになったので、我々兵士も町の外へ出て見回りをする羽目になったんだ。全くいい迷惑だよ』

「おぉ~、なるほど。つまり狼を倒して町の功労者になれってことだね!

 それにしてもそんな危険な城壁の外で三日野宿しろって、なかなか鬼畜な事言うねこの人 ( 笑 ) 」


 そうと決まればすぐ行動だ。ジェイは城壁の周りを見渡した。


「荷馬車が狙われているって言ってたから、多分この馬車の通り道沿いに歩いていたらなんかイベントがあると思うんだよねぇ」


 馬車の轍が向こうの地平線へ向かって伸びている。

 ジェイはプレイ画面の横の時間を見て、げっと声を上げた。


「やば…っ、もう録画してから三十分ぐらい経ってる! アバター設定でかなり時間くっちゃったからなぁ。

 急ぎ足で行こう、急ぎ足で!」


 よっと背を反らして地面に手をついた。

ブリッジのままジェイはしゃかしゃかと轍に沿って駆け出す。


「ラッキー、アイテムゲット!」


 落ちていた傷薬の回収も怠らない。

 拾ったものは画面下に表示されたアイテムアイコンに格納されるらしい。

 もちろんアイコンを開けば今まで拾ったアイテムが見られるが、思考するだけでアイテムを使用できるイデアノイドにかかれば、使用時にいちいちアイコンを展開する必要はない。

 あくまで現在の所持数を確認するための補助画面である。

 草原を駆けていく内に、道の先に馬車らしきものが立ち往生しているのが見えてきた。


『たっ助けてくれ~』


 商人の情けない声が聞こえてくる。

 馬車の周りには案の定、赤い毛皮の狼が四方を囲んでいる。


「あれか!」


 ジェイが到着すると、先に駆けつけていた衛兵たちが交戦中だった。


「え !?  あれ !?  あれ、さっきの親切な衛兵さん達じゃない !? 」


 なんと、先ほどジェイを犯罪者呼ばわりした最初の衛兵たちだった。いつの間にか先回りしていたらしい。


「衛兵さーん! 助けに来たよ!」

『ぐっ……ここまでか!』

「あれっ !?  なんかいきなり死にそうだっ !?」


 膝をがくり、とついた衛兵リーダーがこちらに気が付く。


『むっ、貴様は !? 』


 衛兵リーダーに食らいつこうとしてた狼も、ジェイの姿を見るやぎょっとして飛び退く。

 ブリッジしながら全力疾走してくる様はさぞかし異様であっただろう。


「よくも衛兵さんを! 許さぁぁんっ!」


 ジェイは勢いのまま狼の群れに突っ込む。

 瞬間。

 また効果音が鳴り、新たにウィンドウが浮かび上がる。



〈戦闘開始だ! 構えた武器を「振り下ろす」で攻撃してみよう!〉



「どりぁぁぁあぁああっ!」


 腕に力を込め、ジェイは地面を蹴った。

 大地を滑った足は横薙ぎに狼を捉える!

 足払いを受けた狼は「キャンッ !? 」と可愛らしい声を上げて転倒した。

 敵を示す赤いゲージが三割も削れた。

 だがそれでは終わらない。

 遠心力を利用して立ち上がったジェイは、装備した両手ダガーを逆手に握り込み、距離を詰めた狼の頭上へ向けて「振り下ろす」。

 狼の断末魔が草原に響き渡った。



〈マーモンウルフが倒れた!〉



「よっしゃ! 見たか!」

 初勝利にジェイはガッツポーズする。

 ブレバはイデアノイドの機能を最大限に引き出したゲームである。

 プレイヤーが指示した動きをそのままアバターが再現し、かつその動作を判定値へとちゃんと反映してくれる。

 ダメージ算出を例にしてみよう。

 これらは各アバターに設定されたパラメータ値に依存する。「振り下ろす」などの打撃攻撃は腕力依存である。

 腕力七のジェイの場合、初期設定の腕力五のアバターに比べて大きくマーモンウルフへダメージを与えられる訳だ。

 しかし、それに加えてジェイの敏捷は13。これはスピードを活かした動作により多くの補正が加えられる事を示す。

 つまり最初に「足払い」の動作を挟む事により「振り下ろす」とのコンボが発生し、本来のダメージ量に更に補正分が加算されたのである。

 これがパラメータ値とは別の、動作による判定値である。

 すなわち、行動パターンが豊富なプレイヤーは判定値の加算が多い為、低レベルであっても高度クエストにおいて十分な活躍が期待できるのである。

 くにひこが「プレイヤースキルでゴリ押しできる」と言った所以がこれだ。

 特に敏捷が高いジェイは、体術とダガーを組み合わせた素早い連撃を活かせる、器用さ重視のキャラクターと言える。


「うまく転倒してくれたから、二撃で倒せたね。あと三頭っ」


 必要なかった。

 仲間倒れたのを見て分が悪いと判断したのか、残りの三頭が逃走を始めたのだ。


「ありゃ、もう終わり?」


 あくまでチュートリアル、戦闘の難易度は低めなのだろう。

 背後で馬車がゆっくり動き出す。敵がいなくなったので、町を目指し始めたのだ。

 衛兵リーダーが足を引きずりながら立ち上がろうとするが、ガシャンっと音を立てて倒れ込んでしまった。


「衛兵さん! あんま無理しちゃ駄目じゃん!」

『貴様……いや、キミは強いな。助けてくれてありがとう。キミが来なければ馬車を守りきる事はできなかった』


 まだ怪我が辛いのか、顔を歪めながら息を長く吐く。


『我々の持っている傷薬は切れてしまってな……情けないがこの体ではここから動けない。

 申し訳ないが関所の門衛に言って薬をもらってきてくれないか』


 ピコーン。


〈回復アイテムをもらってきて、衛兵に使ってあげましょう!

 アイテム名を念じた後、対象「衛兵」を選択しましょう〉


「もらってきてって、さっき回復アイテム拾ったよね。これでいいのかな? 衛兵さんに『傷薬』使用します!」


 ジェイの指示に従い、傷薬がバックパックから出てくる。

 衛兵の体が緑色に瞬いた。どうやら回復できたようだ。


「ど、どっすか?」


 衛兵リーダーは体の調子を確かめている。


『おぉ、力が漲る!』

「良かった! 道端で拾ったヤツだけど!」


 衛生面は問題ないようだ。

 衛兵リーダーはしっかりした足取りで立ち上がった。


『キミには何度も助けられてしまったな。恩に切る。

 我々は報告の為に町へ帰還するが、キミがまだここにいるという事は……町の滞在許可は下りなかったのだろう』

「そうなんだよ~。狼を倒したらいいのかなって思ってたんだけど、なんか逃げられちゃったし」


 思案する素振りを見せた衛兵リーダーが、ややあって頷いた。


『分かった。キミは命の恩人だからな、私から町長へ口利きをしてやろう。今日中に町に入れるよう手配しておく』

「やった! 衛兵さん大好き! 愛してるぜ!」

『普段私は町の詰所にいる。もし困った事があったら、いつでも力になる。ではな』


 衛兵リーダーとその取り巻きは踵を返した。

 まさか、と思うや、ガシャガシャと音を立てて衛兵たちが町に向かって走り出す。


「やっぱ走るんだ ( 笑 ) せめて馬とか用意してあげればいいのに……財政難なのかな? 

 まあいいや。町に入れるらしいので、早く入ってくにひこ君達と合流しなきゃね」


--------------


 町に入る時に再び関所に立ち寄ったので、思いついて近くの門衛さんに声をかけてみた。


『なにっ向こうで狼に襲われた !?  怪我人がいるのか!

 ……分かった、これを持って行きなさい』


 まだ薬調達のフラグが立っていたようで、帰還済みのはずの衛兵のために体力全回復の効力を持つ〈妖精の涙〉をもらえた。


「レアアイテムだった(笑)困った時に使おう」


 ありがたくバックパックへ保管する事にした。

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