目印。
アイスコーヒーを注文して、受け取る。
苦味と、舌に残る香ばしい香り、
アイスコーヒーを飲むと、いっつも思い出す。
僕だけのちっちゃな秘密。
初めて彼女とカフェに入ったとき、僕は初めにアイスコーヒーを頼んだ。
ガムシロップをカウンターから一つ取って、席に座る。
話に耳を傾けながら、少しずつ飲んでいったんだ
アイスコーヒーが残り僅かになる頃に、彼女はやっと感情を見せて話をする。
氷が溶けて、コーヒーの味がしなくなった頃、彼女は本心を見せるんだ。
僕だけのちっちゃな目印。
それまでは、ゆっくり話を聞いていく、
辛かったこと
怖かったこと
苦しかったこと
痛かったこと
悲しいこと
虚しいこと
アイスコーヒーの苦味と一緒に少しずつ飲み込んで聞いていくその言葉の数々は、僕の心の中の深くに留まり続ける。
アイスコーヒーを飲み切って、ガラス製のコップを机に置く頃、彼女はきまって申し訳なさそうに少しだけ笑う
僕だけのちっちゃな目印
迷惑かけちゃったね、とか
時間とっちゃってごめん、とか
巻き込んじゃってごめんね、とか
決まってそのタイミングで言われるから、少し面白くなる。
申し訳なく思うのは当然で、大切なことだと思うけど、先にお礼を言って欲しいなって思ったり思わなかったり、
彼女からのお礼が、その時の僕にとって、一番で、何にも変えられないご褒美だったから
僕がコップの中にある氷をガリガリと嚙み砕く頃、彼女は気が抜けたような雰囲気になる。
僕だけのちっちゃな目印、
辛かったら辛そうに目を細めて、
苦しかったら苦しそうに胸に手を当てて、
痛かったらその痛みに涙して、
でも、
嬉しかったら嬉しそうに頬を緩ませて、
幸せだったら幸せそうに目を気持ちよさそうに細めて、
楽しかったらおかしそうに笑って、
この時間が、楽しみで、僕も幸せになれるんだ。
僕は、これからも彼女の話を聞くときは、アイスコーヒーを頼む、
彼女は、どんな話をしてくれて、
ーーー最後には、どんな笑顔を見せてくれるんだろう?
その楽しみを胸に抱いて、ガムシロップをカウンターから一つ取って、
席に着いた僕は、どうした? って君に聞くんだ。
氷をガリガリと嚙み砕く頃に、君が笑ってくれるように話しながら
僕は、アイスコーヒーを一口、飲んだ。
僕だけのちっちゃな秘密。