みんなまとめて神様転生! ――俺だけ一味違う世界へ――
ジャンル詐欺では、無いんだ。
深夜テンションなのは分かってる、でも後悔はしてない。
バスに乗っていたはずが、いつの間にか白い空間に居た。
焦って周囲を見渡すが、呆然としたクラスメイト以外は誰も、何も見当たらない。
とにかくだだっ広い場所で、空と地平線の境界すらわからなかった。
いったい、何が起きたのか。
何かとてつもなく恐ろしいものの片鱗を見てしまった気がする!
階段を上ろうとしたら、いつの間にか一番下に戻されていたような気分だッ!!
「そのネタ、ちと古くないか?」
「何奴ッ!?」
慌てて振り向くと、何か偉そうな爺が居た。
「年商○億円の社長です!」とか、そんな感じに紹介されそうな雰囲気だ。
どことなく意地の悪そうな成金っぽいオーラが出ている。
こいつ、ヤバくね?
俺たちはとっさに距離を取る。
明らかに、絡んじゃいけないタイプの人だ。
「おい、距離を取るんじゃない! わしは神じゃぞ!」
あり得ない宣言に、固まる一同。
一部の男子たちが、すぐさまざわめきだす。
「やべえ、今……神とか言わなかったか?」
「髪の間違いだろ? 剥げてるけど」
「聞こえておるぞ! おぬしら、問答無用で地獄送りじゃッ!!」
「のひゃァッ!!」
変な断末魔と共に、男子が消失した。
は、ハンドパワー!?
何かトリックはないかと疑うが、それらしいものは全くない。
目の前でいきなり、人間が消える。
非常識な出来事を前に、俺たちはそろって爺さんの方を見る。
「うむ、注目してくれて何よりじゃ。改めて名乗るが、わしは神だ」
「ホントに神様なんですか?」
「疑うのか?」
神様()の目が細まる。
ヤバそうな気配を察したクラスメイトは、とっさに頭を下げた。
ヒラリーマンも真っ青のナイス謝罪。
えっと、あいつの名前は――平田紗院だったか。
名は体を表すんだな。
あんなわけのわからない爺さんに、あそこまで素早く適応するとは。
「まだ、わしの凄さを理解できておらんものが居るようじゃが……。時間もないし説明するぞい。実はのう、最近わしは風邪気味でな。不意にくしゃみをしてもうて、お前たちの乗っておったバスをブッ飛ばしてしまったんじゃ。予定外にたくさん殺してしまったから、こうして呼んだというわけじゃよ」
「それって、神様転生って奴ですか!?」
それまで黙っていた御宅仁人が、声を張り上げた。
授業参観で張り切る小学生も真っ青の、驚異の食いつきっぷりだ。
普段、何があってもめんどくさいですましているあいつとは思えない。
「ああ、うむ。おぬし、理解が早いの。近ごろ流行っているあれじゃ」
「あの、それってつまり……私たちって死んだってことですか?」
「まあの。でも、別の世界に生き返ることができるからオールオッケーじゃろ」
「え、それはさすがに――」
「神がいいと言えばいいのじゃ。文句あるのかの?」
再び凄みを効かせる神様()に、質問を切り出した委員長はあっさりと引き下がってしまった。
俺たちに、異世界転生以外の選択肢はないらしい。
「とりあえず、謝罪の意味も込めてお前たちには凄い能力をやろう。ついでに、行く世界も自由に決めさせてやるぞ。どんなところがいい?」
「ファンタジー! ファンタジー一択だァッ!!」
絶叫する御宅。
一生分の声を使い果たしそうな勢いだ。
奴隷とかハーレムとか、欲望丸出しなワードもついでに漏れ聞こえてくる。
やれやれ、いくらなんでも必死すぎだろ。
まあ、俺も分からないではないけどさ。
「お、調べてみたらちょうど勇者召喚をしようとしている国があるぞい! ちょっぴり定員オーバーじゃが、ねじ込めば全員いけそうじゃ」
「ヤッターーーーーッ!! 人生確変来たーーーーッ!! ごほッ! ごはッ!?」
「御宅ッ!?」
叫びながら喜びの舞を踊っていた御宅が、突然倒れた。
駆け寄る俺たちに、神様()は無慈悲な宣言をする。
「……興奮しすぎて、心臓発作を起こしたようじゃの。死亡じゃ。おぬしたちも気を付けるが良いぞ、この空間で死ぬと、魂が完全な無に帰ってしまうからの」
「……割と重要なことですね」
「ま、どうせ事故死した時点で処理が面倒なんだし、それ以上ややこしくなっても大して変わらんからの。ぶっちゃけどうでもいいわい」
「言われちゃいけないことを言われている……!」
「そんなことより、おぬしらまとめてファンタジー世界へ行くのかの? 今なら軽く俺TUEEE出来るぐらいのチートは付けてやるが。団体割引もつくぞ」
神様()の提案に、「まあそれで……」と妥協するクラスメイト達。
これ以上、面倒な事態に巻き込まれたくないというのがありありと顔に現れている。
「特に反論する者はおらんようじゃの。では、みんなまとめて!」
「おい、ちょっと待てよ!」
「何じゃ、そのキ○タク風の言い方は。おぬしのようなフツメンが言っても、ダサいだけじゃぞ? せいぜいコ○ッケになりそこなうだけじゃ」
「……そんなことはいいんだ。それより、俺はファンタジー世界にはいかねえ!」
堂々とした俺の宣言。
決まった、生涯最高の出来だ。
やっぱり、ノーと言える男ってかっこいい!
そう思っていると、すぐさまクラスメイト達から同様の声が上がる。
「おいおい、いいのか!?」
「そうだよ、ファンタジー世界だよ! みんなまとめて行こうよ! 異世界を救ってあげようよ!」
「そうだ、一人だけ別の場所へ行くなんてめんどくさいことをこの神様が……」
「面白いの。それで、どこへ行きたいんじゃ?」
「「「あっさり受け入れられたッ!?」」」
「神の御心は広いのじゃ、瀬戸内海位にの」
「広いんだか広くないんだか、分からない!」
ツッコミの嵐にも構わず、マイペースにこちらを覗き込んでくる神様()。
俺は息を吸い込むと、長年の夢を叫ぶ。
「俺は、俺は……スーパーロボットのある世界に行きてえ!! できることなら、主役級の扱いで!」
「おう、それはいいの。最近はファンタジーばっかりで、硬派なロボオタが少なくてのう。よかろう。で、どんなのがいい? スペックは?」
「そうだな……とにかく早い機体がいい。火力も、もちろんあった方がいいな。ビームライフルとかぶっぱなしたい」
「ほうほう。合体は?」
「もちろんアリで!」
「あいわかった。では早速、転生させてやるとしよう!」
神様が指をパッチンとした瞬間、俺の意識は闇に呑まれた――。
時は流れ、宇宙暦2015年!
銀河の端のとある惑星で、のちに伝説となるロボット・チートカイザーが完成したッ!
「よし、だせッ!」
総重量二万トンッ!
全身を覆う装甲の枚数、驚異の一万枚ッ!!
その巨体を動かすは、無限の力を生み出す太陽炉!!
全長八十メートルの巨人が、カタパルトより一気にパイロットの前へとせり出すッ!!
「外部に異常なしッ!!」
「パイロット、調子はどうだッ!?」
『問題あり――うわッ! なんじゃこりゃあッ!! 俺、ロボットじゃねーかッ!!』
「だ、大丈夫かッ!?」
『妙なノイズが混じっているが、行けますッ! よし、次は合体のテストだ!!』
「了解ッ!!」
地上へと送り出される巨人。
その前方に現れたのは、さらに一回り大きな黒鉄の巨体ッ!!
その姿、まさに兄貴!
鋼鉄の兄貴が、無駄にデカく見える太陽をバックに颯爽と現れたのだッ!!
『合体、行くぞッ!!』
『オーケー、カモーンッ!!』
『やめろ! それだけは……アッーーーー!!!!』
この日、新たなる伝説が始まった!!
いけ、僕らのチートカイザーッ!!
俺たちの戦いはこれからだ!!
kimimaro先生の次回作に、こうご期待!
リアルに新作の『シャルロッテ・ホームズは星占いを信じない』も、ぜひよろしくね!