仕事2
トイレだった。
「あんたらもうトイレに住めば?」
ジト目で睨まれるエマだが、涼しい顔で答える。
「もう半分住んでる」
「おい、僕は住んでないぞ」
思いっきり睨まれる。
金髪ロングの少女に(しかもトイレの個室で)キツク睨まれるなんてそうそう恵まれる事の無い経験地にテンションが否応無く上がる。
「レベルアップしそう!」
「やめて椿」
外から、ガヤガヤと人の声が聞こえる。
たまに流れる営業放送を聴くに、どうやらショッピングモールのトイレに出てきたようだ。
「そろそろトイレから出てもいいんじゃない?」
うんざりとした声で少女が言う。
「そうだな」
「私はここでいい」
エマが表情を変えずに言うが、
「出なさい」
「はい」
イライラした少女によって路線変更を余儀なくされる。
「ここ例によって女子トイレだろ?」
「実は」
実はというか、エマが転送する先は大抵女子トイレなのである。
「俺が出たらどうなる?」
「このパーティーから離脱者が出る」
「別にいいわよ。居ても居なくてもかわらないし」
仕方ないな。
「エマ、三人を別々の個室に飛ばしてくれ。できれば俺は男子トイレの個室に」
「めんどくさいから両隣の個室に飛ばす」
視界が歪んで。
パンツを下ろして座っている女子高生と目が合った。
あわてて口をふさぐ。
「んーーんんーー!」
「落ち着け、痛くしないから」
「ん!?んんん!!!!」
「そのセリフはこの状況で最悪の効果を発揮すると思う」
隣から声が聞こえる。
「お前わざとだろ」
「いってきまーす」
ガチャ、とドアを開ける音が二つ。
「ちょっとまて!」
「椿はそこ動かないで」
個室の音が漏れないようにフィルターを掛けたエマと、金髪少女の足音はそのまま遠ざかっていく。
「最悪だ」
女子高生の口を離す。
「ぎゃああああああって…… え?終わり」
「静かにしろ。どうせ喚いても外には聞こえない」
制服を見ると、レイビス学園高等科の制服だった。
「平日にショッピングモールなんて、随分と余裕だな」
「私落ちこぼれっすから」
「自分を大事にしろよ」
「あんたが言うか」
確かに。
このシチュエーションでの説得力は皆無だった。
「ここに入る前の、外の様子を教えてほしい」
「別に変わった事は無かったよ。ただ、遠くで爆発音が聞こえて、シェルターへの非難勧告があったくらいかな」
それは変わった事じゃないのか……?
「なんでトイレに?」
「あんたこそなんでトイレに?」
「聞くな……。 避難勧告あったんだろ?シェルターに行くのが優先じゃないのか?」
「シェルター内のトイレ混むじゃん」
「……自分を大事にしろよ」
「あんたもね」
扉に手を掛ける。
が、開かなかった。
エマのやつめ…
「何か武器になりそうなもの持ってないか?鈍器とか銃火器とか」
便座に座っている少女はこちらを見上げる。
「持ってるように見える?」
「見えるから早くパンツを履いてくれ」
「条件があります」
ゆっくりパンツを履きながら少女は答える。
「ちゃんと拭いた?」
「拭きました!」
鞄を開けながら、拳銃を取り出す。
「いいもん持ってるじゃねーか……」
ここらじゃあんまり見ない銘柄の銃だ。
「小国製か」
小国と呼ばれる島国がこの大陸に隣接している。
船で3日も掛からない距離だが、まったく違う文化が根付いている。
「私をシェルターまで運んでくれるならこれを貸してあげます」
「普通に遠くに逃げた方が安全だぞ……」
「じゃあそれで」
拳銃を受け取る。
6発装填の回転銃で、装填数を犠牲にして威力を上げている代物だ。
命中率も、オートマチックの方が高い傾向にある。
エマが外に増やした鍵の性能は分からない。
だから、蝶番目掛けて銃を放った。
パァンという乾いた音が二度。立て続けに響いた後に、扉がゆっくりと倒れた。
銃を少女へ放り投げる。
「熱い!熱いよ!!!」
無視して歩き出す。
「安全圏まで連れて行ってくれるんだよね……?」