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プロローグ
燃えていた。
町が、家が、人が。
レンガ造りの歴史ある町並みは跡形も無く、鼻を刺す臭いと眩む炎にそれらを直視する事すら適わない。
けれど、きっと目を背けてはいけない。
最後の別れなのだから。
涙は熱で乾き、酸素を求めた喉からは干からびた音しか出ない。
どうしてこうなってしまったのだろう。
何を間違ってしまったのだろうか。
バタン、と倒れた柱の裏には、妹が大好きだった歌の詩が彫ってあった。
ああ、あそこが僕たちの部屋だったのだ、と遅れて気づく。
もう、間に合わない。
この炎の中、生きてはいないだろう。
掠れた声で、歌う。
妹が好きだったこの歌を鎮魂歌に。
そして、僕は死ぬのだ。
気付いたら、周りはもう火の海で。
幾重にも倒れた家屋に塞がれ、退路は無い。
しばらく経って、掠れた歌は聞こえなくなった。
少年の頬に、涙は無かった。