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第九十話

 身体強化を発動し、紫の光を纏う“行き遅れかけ”に突撃。


 ――殺せ

 ――破壊しろ


 破壊衝動が咆哮する。

 身体強化の性能は、腐れ甲冑曰くこちらが遥かに上。

 だが、扱いは“行き遅れかけ”の方が上の様だ。

 総合的に見れば、互角。

 扱い慣れていない分、こちらが若干不利だろう。

 多少の差なら、自力で何とかする。

 駄目なら、その時に考えればいい。


『……二十四……』


 “行き遅れかけ”が間近に迫る。

 互いの身体強化の影響か。

 剣の間合いに入るのが、予想より遥かに早い。


『……二十二……』


 慌てて、すれ違い様に切りつける。

 だが、間に合わなかったらしく、その切っ先は僅かに届かない。


「チッ!?」


 “行き遅れかけ”がそのまま離れていくのを、横目で確認。


『……二十……』


 外した!?

 仕切り直しか……。

 こちらの身体強化の発動時間は、元から短い。

 本当なら、さっきで決めなければならなかった。

 だが、次で必ずケリを着ける。


『……十八……』


 眼前に迫る岩肌の壁。

 今の速度では、向きを変えても壁に激突するだろう。

 やるしかないか。


 迫っている壁に向けて跳ぶ。

 壁の中程に着地。

 通路を見るが、“行き遅れかけ”がいない。


 何処に行った?


『……十六……。敵は現在、通路中央天井付近。高速でこちらに接近中』


 腐れ甲冑が示す方を確認。

 その言葉通りに、黒い蝙蝠の様な翼を生やした“行き遅れかけ”がこちらに向かってくるのが見えた。


 飛べない俺に、空中戦は出来ない。

 跳躍しか出来ないのでは、奴のいい的にしかならないだろう。

 何でもいいから、“行き遅れかけ”に届く攻撃をするしかない。


『……十五……』


「エンチャント・カオス!!」


 残り少ないマナで、パイルバンカーとバスタードソードを強化。


『マナの減少を確認。六……』


 虹色に輝くバスタードソードを“行き遅れかけ”に向けて振るいながら、ありったけの気を爆発的に放出。

 “爆波”を叩き込む。


 だが、これだけでは駄女邪神の結界を突破して“行き遅れかけ”を殺るのは不可能。

 何か手は無いか?


「キャアァアァァァ!?」


 “爆波”が当たったのだろう。

 悲鳴を上げた“行き遅れかけ”が天井に叩きつけられた後、力無く落下していくのが見える。


『……五……』


 時間が無い。

 あれを使うか。


 左手の強化の指輪に、残り僅かなマナを込める。

 同時に、マナがこれまでに無い勢いで吸われていく。

 指輪の身体強化の発動を感じつつ、“行き遅れかけ”目掛けて跳躍。

 隙だらけになった“行き遅れかけ”に追撃をかける。


『マナの急激な減少を確認。身体強化、停止します』


 腐れ甲冑の言葉と共に、纏っていた蒼い光が消え失せた。


 限界か……。

 だが、まだ指輪の身体強化は発動している。

 それなら……まだやれる。


 そう判断した瞬間、意識が薄れていく。


 マナが尽きるのか。

 後少し……。

 “行き遅れかけ”に止めを差すまで保ってくれ。


 パイルバンカーを“行き遅れかけ”に向ける。


 後は、間合いに入ったら直ぐにパイルバンカーを叩き込むだけだ。


 間近に迫る“行き遅れかけ”。

 このままの軌道なら、確実に衝突する。

 パイルバンカーを叩き込みやすくなっただけだ。

 何の問題も無い。


 確実に叩き込む為、胴体に狙いを合わせる。

 間合いに入る直前、目の前が真っ暗になった。


 ここまできて、マナ枯渇か。

 パイルバンカーを叩き込むだけだというのに。


 ――殺せ

 ――破壊しろ


 唐突に響く、破壊衝動の咆哮。

 まるで、パイルバンカーを作動しろと訴えている様だ。


 それに応える様に薄れゆく意識の中、パイルバンカーの作動(ボタン)を押し込む。

 左腕に感じる微かな振動。

 それに安堵した俺は、意識を手放し……


 ――こんな所で、力尽きられては困るのだがな


 ――このまま放置したら、器が失われてしまうか


 ――仕方無いですね


 ――少しだけ……手を貸そうかの


 ――甘やかしたくないが、やむを得んな


 ――最も理想的な器を失う訳にはいかぬ


 再び聞こえてくる、一言ごとに音色が変わる謎の声。


 人の頭の中で、勝手な事をほざくな。

 手を貸すと言うなら、さっさと貸せ。

 “行き遅れかけ”に止めを刺す。


 ――今のそなたでは、手を貸したとしても恋愛神の多重複合型積層防御結界を突破して止めを刺す事は不可能


 なら、一撃で“行き遅れかけ”を殺れるだけの力を寄越せ。


 ――それが出来るだけの力を渡しても、今の貴方では受け取った瞬間に消滅する


 ――止めを刺す事も出来ずに消滅する事になるが、それでも良いのか?


 それでは……力を得る意味が無い。


 ――止めを刺せぬ以上、殺すのは諦めよ


 ――この者を“くっころさん”にするがよい


 ふざけるな。

 俺は……これ以上、“くっころさん”を増やす気は無い!


 ――止めを刺せない以上、この者を攻撃しても“くっころさん”になるだけだ


 ――そろそろ手を貸さねば不味いな


 ――ならば、始めよう


 俺の訴えを無視して、謎の声が何かを始めた。

 その直後。

 身体……いや、魂から何かが無理矢理引き摺り出される。


 これは……前にも感じた、混沌の力。

 それも、今までに無く強大。


 ――一時的だが、本来以上の力を出せる様にした


 ――最も、その大半は(われ)がそなたの存在維持の為に使う事になるがな


 ――行け。運命を自らの手で切り開くがよい


 全身を循環する混沌の力の奔流と正面からの衝撃により、失いかけた意識を取り戻す。


 目の前に見えるのは、虹色に輝くパイルバンカーの長槍に左胸――多分、心臓だろう――を貫かれた“行き遅れかけ”。


 ――殺せ

 ――破壊しろ


「止めだ!」


 破壊衝動の咆哮に応える様に、バスタードソードを“行き遅れかけ”の首に叩き込む。


 混沌の力で変化したのだろう。

 形を変えた虹色に輝く刃が、“行き遅れかけ”の首を撥ね飛ばした。

 

 落下していく“行き遅れかけ”の首。

 それを確認した所で再び正面からの衝撃。


「グッ!?」


 鼻の先に見える岩肌。


 “行き遅れかけ”とともに壁に衝突したらしい。


 その反動で、俺の身体が通路側に向かって落下していく。

 落下していく中、“行き遅れかけ”の身体も壁から滑り落ちていくのが見える。


 首を撥ね飛ばし、心臓を破壊した。

 これだけやれば、上位魔族と言えども確実に死んだ筈。

 死んでなければ、化け物だろう。


 その様子を確認してから、着地。

 直ぐに、周囲を確認する。


 通路の両端は、未だ大型の盾を構えた奴等に塞がれている。

 飛んでいた奴等の姿が無い。

 そういえば、“行き遅れかけ”に止めを刺す際に邪魔に入らなかったな。

 おそらく、牽制で放った二基のブレイクナックルが倒したのだろう。

 その二基のブレイクナックルは、敵を求めて宙を(かけ)ている。


「ッツ!?」


 左腕に走る激痛。


 おそらく、壁に衝突した時に骨が折れたのだろう。

 だが、今は治療している暇はない。

 先ずは、“行き遅れかけ”の生死を確認しなければ。

 治療はそれからでいい。


 死んでいるのを確認する為、“行き遅れかけ”の元に向かう。


 “行き遅れかけ”の身体を確認。

 頭を失い、鎧の左胸に穴が空いている。


 おかしい。

 首を斬った筈なのに、切り口からの出血した跡が無い。

 左胸も心臓を貫いた筈だが、同様に血の跡が無い。

 その上……光に変わり、消える様子も無い。

 前に殺った魔族は、首を撥ね飛ばした事で死に、魔晶石を残して消えた。

 まさか……。

 まだ、“行き遅れかけ”は生きているのか!?

 もしそうなら、完全に破壊し尽くすまでだ。


 今のこいつ(バスタードソード)なら、行き遅れ駄女神の結界を突破出来る筈。

 突破出来なければ……いや、絶対に突破して、ここで息の根を止める。


「しぶとい。……いい加減、死ね」


 混沌の力で変化しているバスタードソードを、未だ消滅していない“行き遅れかけ”に必殺の意思を込めて振り降ろす。


 虹色の刃が“行き遅れかけ”に届く寸前。

 見覚えのある魔法陣が出現。

 だが、込められた力と輝きがこれまでと比べ物にならない位強よく感じる。


「何っ!?」


 必殺の意思を込めた刃を、あっさり受け止めた。


『無駄な事は止めなさい。貴方ではこの結界を突破するのは不可能よ』


 俺の精神に直接届いた、聞き覚えのある……いや、忘れられない行き遅れた駄女神ミラの声。


「黙れ! “行き遅れ”!!」


我が主様(マイロード)、この結界は……』


 咆哮し、聞こえてきた声を無視して力任せに刃を押し込む。


『その者は“くっころさん”になったわ。それに……今回から、私だけではなくアテナやアルテミス。それに、各神族の長達や貴方が原因で被害を被った数多の神々の協同作業なの。貴方がどの様な力をどれだけ振るっても、破壊する事は不可能よ』


 数多の神々が手を貸しているだと!?

 結界が小揺るぎすらしないのは、そのせいか。

 これまでで最大の威力の筈なのに、一層も破壊出来ないとは。


「まだだ!」


 左肩に大型パイルバンカーを装備。

 気と混沌の力を込めた上で、目の前の結界に叩きつける。

 辺りに響く、大型パイルバンカー作動の爆音。

 虹色の杭が結界を貫く。

 だが、それだけ。

 結界を破壊する事は出来なかった。


 ――器よ。応急措置は終わったぞ


 ――今のそなたでは、これ以上の戦闘継続は無理だ


 ――目の前の()を殺すのを諦めるのだな


 その言葉の直後。

 全身に満ちていた混沌の力が消失。

 同時に、武具から虹色の輝きが失われていく。


 まだだ……まだやれる。


『無駄な努力は止めなさい。時間と力の無駄よ。さっきの……混沌の力を使い切った貴方に、“くっころさん”を護る多重複合型積層防御結界を突破する事は未来永劫不可能なのだから』


「無駄? 無駄かどうか……やってみなければ分からんさ」


 そう言い放ち、虹色の輝きを失い元の形に戻ったバスタードソードを再び結界に叩き込む。

 だが甲高い金属音を響かせるだけで、かすり傷すらつけられない。


『無駄な努力だという事が分かったかしら?』


「黙れ“行き遅れ”!」


 殺せなかった苛立ちを込めて、叫ぶ。


『前にも言ったと思うけど……私はもう“行き遅れ”ではないわ。今のわ・た・しは……』


 そこで、勿体ぶる様に一呼吸おいて続けた。


『貴方のこ・ん・や・く・しゃなの♪ ちなみに、アテナとアルテミスもよ。早く神になって、私達を迎えにきてね。あ・な・た♪ 貴方が満足するまでいい声で鳴いてあげるから♪』


 俺にとって、認めたくない最悪の事実。

 それを、本人から直接伝えられたのだった。


 “行き遅れ”女神を俺に押し付けるという、ふざけた事を決めた連中。

 何者だろうが、俺の知った事では無い。

 そいつらを何時の日か……最低一発は殴ってやる事を決意した。


予約投稿忘れてたorz

しかもストックが尽きました。

なるべく早く再開しますので、暫くお待ちくださいm(__)m

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