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第八十八話 騎士団

「Guooooo!」


 突撃してくる俺に気付いたのか。

 サイクロプスが、威嚇する様に咆哮。


『……九十七……』


 気付かれる前に、最低でも一撃は入れておく予定だったが。

 気付かれたのは仕方無い。

 このまま続行するだけだ。


 サイクロプスが、執拗に攻撃し続けるブレイクナックルを無視して俺に棍棒を振り下ろす。

 轟音と共に迫る金属製の棍棒。

 それを、更に加速することで回避。

 そのまま、サイクロプスの脚の間を(くぐ)る。

 すれ違い様。

 右の大型パイルバンカーをサイクロプスの左足に叩き付け、作動。

 爆音と共に、虹色に輝く杭がサイクロプスの左足を打ち抜く。

 それと同時に、棍棒が地面を打った轟音。

 続けて、激しい震動が伝わってくる。


「Gyaaaaaaaa!?」


 左足を打ち抜かれたサイクロプスが苦悶の悲鳴を上げた。


『……九十四……』


 震動で崩れる体勢を、左の大型パイルバンカーを地面に叩き付けて支える。

 突撃の勢いのまま、大型パイルバンカーを支点に強引に反転。


『……九十三……』


 体勢を崩し、悲鳴を上げながら左に倒れていくサイクロプス。

 その右足の膝の裏に、右の大型パイルバンカーを叩き付ける。

 噴き出す血を右半身に浴びながら、再び虹色に輝く杭を打ち込む。

 爆音と同時にサイクロプスの右膝を貫く、虹色に輝く杭。

 その衝撃は、サイクロプスの右膝から下を引き千切った。


『……九十一……』


 相次ぐ激痛に悲鳴を上げながら、うつ伏せに倒れていくサイクロプス。

 その脚の辺りの地面が、サイクロプスが流す血でみるみる染まっていく。


「殺れる……」


 流れ出す血の量を見て、俺でもサイクロプスを倒せる事を確認。


『……八十八……』


 止めを差す為、棍棒を支えに体を起こそうとしているサイクロプスの背に飛び乗る。

 左の大型パイルバンカーをアンカー代わりに打ち付け、姿勢を安定させた。


「……これで終わりだ」


『……八十五……』


 右の大型パイルバンカーをサイクロプスの首筋に叩き付けると同時に、未だエンチャント・カオスの効果が続いている杭を打ち込んだ。


『……八十三……』


 虹色に輝く杭が、サイクロプスの首筋を轟音と共に打ち抜いた。

 衝撃で、辛うじて繋がっていたサイクロプスの頭部が、体から飛ばされていく。

 首があった場所から噴出する大量の血。

 それは、ダンジョンの壁面を赤く染め上げる。

 直ぐに噴出の勢いは弱まり、血の海を作り上げていった。


『戦闘終了を確認。身体強化を終了します』


 マナを吸い取られなくなると同時に、各所の水晶体の輝きが失われていく。


「終わったか。動きが遅いお蔭で、思っていたより楽だったな」


 血の海になってない場所を探し、頭部を失ったサイクロプスからそこへ飛び降りた。


「ぐっ!?」


 着地した瞬間、焼けつく様な激痛が全身に走る。


「ガアァアァァァァァァ!!」


(マスター)!? どうしたのですか!?』


 痛みに耐えようとするが、身体に力が入らず崩れ落ちる。

 何とか膝を着き倒れ込むのだけは避けられたものの、全く身動き出来ない。


「一体……何が……」


 ――かなり無茶な生体改造を施されておる様だの。今の状態はその反動に因るものじゃ。生体改造をせぬ方が、より強大になるというに


 誰だ!?

 また、新しい奴か。


 ――今のそなたが知る必要は無い。やがて、嫌でも知る事になるであろう


 こいつ……いや、こいつらか?

 一言毎に、声が異なる。

 一体、何者なんだ?


 ――我の事は気にするな。考えるだけ時間の無駄ぞ。取り敢えず……動ける様にはしておこうか


 その言葉と同時に、身体が一瞬虹色に発光。

 全身を襲っていた激痛が、嘘の様に消え去った。


 ――取り敢えず、応急処置を行った。抜本的な処置が必要ですが、暫くは保つでしょう


 助かった。

 一応、礼は言っておく。


 ――礼は不要。ケイオス以来、ようやく現れた器だ。吾としても、そなたに壊れられては困るのでな


 ケイオス以来の器?

 一体、どういう事だ。


 ――先程も言ったが、今の未熟なそなたが知る必要は無い。忘れよ


「ガアァァァ!?」


 不意に襲いかかる頭痛。

 それは、直ぐに治まった。


 ――礼は要らん


 何か重要な事を聞いた気がするが、気のせいだろう。


 ――今の状況を終わらせるのだな(不要な記憶は消せた様ね)


 ああ、さっさと終わらせてゆっくり休ませてもらうさ。

 幻聴が聞こえるほど、疲れが溜まっている様だからな。


 ――最後に、私の事を誰にも話すな。狂ったと思われるぞ


 安心しろ。

 あんたの事を話しても、誰も信じないさ。


 それを最後に、謎の声は途絶えた。


(マスター)! 返事をしてください! (マスター)!』


 五月蝿いな。


『いきなり崩れ落ち、直ぐに体が光り出したのですから。その後、幾ら呼んでも反応しなかったのですから』

 

 この様子だと、あの謎の声には気付いていない様だ。

 それなら、謎の声の事を説明しなくて済むから好都合だな。

 一言毎に声が変わる、訳の分からないものの事を上手く説明する自信が無い。

 そうだな……こう言っておけば誤魔化せるか。

 

 お前らに施された生体改造の影響だろうな。

 そんなもの、俺にはどうにも出来ない。


『……』


 生体改造が原因というのは、余程都合が悪い様だな。

 うんざりするほど五月蝿かったのが一転、沈黙するとは。

 まあいい。

 五月蝿くないだけましか。


 立ち上がり、背後を見る。

 倒したサイクロプスの体は無く、血の海も消え去っていた。

 おそらく、光となって消えたのだろう。

 俺……人では使えそうもない、サイクロプスが使っていた金属製の棍棒。

 そして、直径一m程の大きさの魔晶石が残されていた。


「……大きいな。流石は、地下七十階以降のモンスターか……」


 今まで見た事の無い大きさ。

 売ったらどれ位の値が付くだろう。

 だが、今はそんな事をゆっくり考えている場合では無いか。

 売った時の楽しみにしておこう。


「次に行くか」


 サイクロプスの棍棒と魔晶石、機能を停止しているブレイクナックルを回収した俺は、サイクロプスがやって来た方へ進んで行った。

 


 眼前に伸びる一本道。

 モンスターの陰すら見えない。

 俺の足音以外の音が聞こえない中、通路を進む。


 モンスターの氾濫が嘘の様に、その姿を……影すら見ることが出来ない。


「サイクロプスから十分位か。本当に氾濫しているのか?」


 前のゴブリンの氾濫の時は、大体……三分間隔で遭遇していたな。

 それも、疲労を回復する間すら無い程に。


『しっかり氾濫してるわ!!』


 耳が痛くなるほどの大きさで、管理者の声が響く。


 どういう事だ。

 管理者からの連絡は、腐れ甲冑が受けるのではなかったのか。


(マスター)も会話に参加出来る様に、通信の魔道具の魔法陣を改修しました。管理者の愚痴を一人で聞かされている私の身にもなって下さい。(マスター)も聞いているとなれば、管理者の愚痴もある程度は収まるでしょう』


 つまり……自分の為か。

 管理者の愚痴にうんざりして、俺を使って緩和するつもりらしい。


『貴方にも聞こえる様になっているのは、分かっているのよ!』


「叫ぶな。耳が痛い」


『言うだけ時間の無駄ね。用件を伝えるわ。この先の分岐に何かいるらしいの。確認して、モンスターだったら殲滅して』


「何だ!? その指示は?」


 あまりにいい加減な内容に、呆れながら問い返す。


『地下一階まで上がってきたモンスターが、急激に減少したの。モンスター同士の戦闘の可能性もあるけど、詳細は不明よ。こちらからでは確認出来ないから、見てきて』


「分かった。確認する」


 ここは、大人しく指示に従った方が無難だろう。

 そう判断した俺は、通信を終わらせ先を急いだ。

 


「何故、ダンジョンに騎士団がいる!?」


 通路の分岐点に到着した俺は、目の前の光景に思わず驚愕の声をあげる。

 壁面を背に、お揃いの鎧を纏った者の集団が陣取っていたからだ。

 そんな集団を騎士団と見なしても、間違いはないだろう。

 そいつらは俺を確認するや、一糸乱れぬ動きで陣形を組み始めた。


 俺を敵と認識しているのか?

 そうとしか受け取れない、集団の動き。

 もしそうなら、過大評価もいい所だ。

 相手が何者であれ、一戦交えると言うなら全力で相手してやろう。


 腐れ甲冑に、目の前の奴が何なのか管理者に問合せさせる。

 その間に、何時戦闘になってもいい様に装備を調えておく。


 可変盾、ブレイクナックル……


(マスター)、ブレイクナックルは、回収時に再装備されています。お忘れですか?』


 忘れてない。

 出来るだけ万全の準備をしておきたいから、念入りに確認しているだけだ。

 それより、管理者に確認は取れたのか?


『まだです。何らかの手段で妨害されているらしく、通信出来ません。この様な手を使っている以上、彼等は(マスター)に対して何らかの思惑があると思われます。その場合、戦闘は避けられないでしょう』


 そんなことは、どうでもいい。

 早く管理者と連絡を取れ。

 こいつらへの対応は俺がする。

 腐れ甲冑の推測によれば、こいつらはモンスターでは無さそうだが。


 そうしている間にも、全身を隠せる程の大盾を持った一団が前に移動。

 通路を塞ぐ様に横一列に並び、盾を構えていく。


 その後、目の前の集団に動きは無く、時間だけが過ぎていく。


 何時までこの状態が続くんだ。

 十分以上が経過し、にらみ合いに焦れてくる。

 今だに管理者からの連絡は無く、相手も動かない。

 これ以上、ここにいても仕方無いな。

 ここから離脱するか。


 行動に移そうとした所で、通路を塞ぐ様に盾を構えた一団の真ん中が割れた。


「何だ?」


 そこから、マントを着けた目の前の奴らより豪華な鎧を纏った何者かが歩いて来た。


「貴方がアルテスね?」 


 聞こえてきたのは、女の声。

 何か嫌な予感がする。

 ここは誤魔化して、逃げた方が良さそうだ。


「人違いだ。他をあたれ」


 そう言い放つと、鎧を纏った女に背を向け、この場を立ち去る為に歩き出す。

 管理者の指示通り、一応は確認した。

 正体不明の何かは、モンスターではなかったのだ。

 もう……この場に用は無い。


「待ちなさい! 貴方が、アルテスだというのは分かっているのよ。やはり、ミラ様の言った通りの男ね」


 背後からの声に足が止まる。


 今、何と言った?

 確か……ミラ様と言った。

 俺が知っているミラという名前の奴はただ一人……いや一柱か。

 忌々しい、腐れた駄女邪神だけだ。

 そして、駄女邪神が言った事を思い出す。

 

 この近辺の行き遅れ掛けの女の子に、貴方の事を教えておくわ。

 

 まさか……本当に俺の事を伝えていたのか。

 駄女邪神め……何て事をしてくれたんだ。

 それなら、奴の言葉にも納得がいく。

 そして、こいつが何者か理解した。


 行き遅れ掛けの魔族の女。


 そんなもの、相手出来るか。


 俺は、全力で逃走を開始した。


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