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第八十七話 巨人族

 管理者の顔に、報復として手加減無しの右拳を叩き込む。


 女とは言え、中位以上の魔族。

 俺の全力では、直撃しても小揺るぎすらしないだろう。

 それでも……一発殴っておかなければ、俺の気が収まらない。


 右拳が管理者の顔に入ったと思った瞬間。

 右手首が、横から伸びてきた白い手に掴まれる。


「なっ!?」


「元気が有り余っている様ね。それにしても、あり得ない治癒……いえ、もう再生力と言った方がいいかも」


 全力の右拳を軽々と止められた事に驚く。

 その様子を、値踏みする様な目で見る管理者。


「まあ、それはいいとして。貴方に渡しておく物があるの」


「それなら、俺を引き摺っている時に渡しておけ。幾ら何でも、あの引き止め方は無いだろうが!」


 俺の抗議を無視する管理者の右手の先に、歪みが生じる。

 その歪みに手を入れた管理者は、長方形の板らしきものを取り出す。


 あの空間の歪みは、魔法倉庫の取り出し口の様だ。

 管理者なら、魔法倉庫ぐらい持っていてもおかしくは無いか。


「それは何だ?」


 多分、俺に渡す物なのだろう。

 だが、変な物を渡されたくはない。

 手にした長方形の板らしき物について尋ねる。


「これは……通信の魔道具よ。私との通信専用に調整したものなの」


 そう言いながら、通信の魔道具を胸の水晶に押し付る。


「何をする気だ? 俺に渡せばいいだろう」


「貴方に渡しても、通信に応答しないでしょ。だから、貴方の知性ある武具インテリジェントアームズに渡しているの」


 通信の魔道具を押し付けられた胸の水晶が発光。

 一瞬で光が収まるが、通信の魔道具は管理者の手から消えていた。

 おそらく、腐れ甲冑が取り込んだのだろう。


「これで、効率良くモンスターを片付けさせられるわ」


 相変わらず、ふざけた事を言ってくれる。

 やはり、一撃を入れておかなければ。


 無言で、左腕のブレイクナックルを起動。

 そのまま、左拳を管理者のに顔面に叩き付ける。


「……行ってらっしゃい」


 不意に感じる浮遊感。

 気付けば、俺の身体は宙を舞っていた。

 どうやら、管理者に投げ飛ばされたらしい。


 視界に映るバリケード。

 その向こうに、背を向け歩いていく管理者が見える。


 不意を突いたつもりだったが、見抜かれていたか。

 もしくは、俺の攻撃に反応したか。

 どちらにしろ、管理者は……悔しいが、今の俺では一撃すら入れられない化け物らしい。

 だが、何時の日か。

 一撃入れた上で、管理者を泣かしてやる。


 宙を舞っていた身体が、落下に転じた。

 投げられた勢いそのままに、地面に近付いていく。


 このままだと、頭から激突するな。

 間に合うか。


 慌てて身体を回転させ、体勢を建て直す。

 だが、地面までは後僅か。

 どう見ても、安全に着地するのは不可能。

 最初から疲れたくはないが、仕方無い。


 先の事を考えず、全力で錬気。

 着地直前で、ありったけの気を地面に放出。

 多少、勢いは弱まったらしい。

 そのまま着地。


「くっ!?」


 両脚に感じる、着地の衝撃。

 膝で衝撃を吸収しようとしたが、吸収し切れなかった。

 投げ飛ばされた勢いと着地の衝撃。

 この二つで体勢を崩し、そのまま地面を転がっていく。


「うわあぁぁぁぁ!?」


 しばらく転がり続けたが、何かに衝突してようやく止まる。


「グッ!?」


 衝突の衝撃で、強制的に肺から空気が吐き出される。

 立ち上がり、乱れた呼吸を整えながら周囲を警戒。

 目の届く範囲に、モンスターらしき影は見当たらない。

 この辺りにモンスターはいない様だ。


 転がっている最中に全身に付いた埃を払う。


「……酷い目に遇った」


 一日に二度も。

 しかも、同じ奴にだ。

 管理者め、俺に恨みでもあるのか?


『……余計な仕事を増やされれば、少なくとも誰だって怒ると思います。それが積み重なれば、恨まれても仕方無いのではないでしょうか』


 腐れ甲冑か。

 どういう事だ?


『これまでマスターは、グランディアいう街とダンジョンで色々やって来ました。それが全て、管理者の仕事を増やす原因になっています』


 色々って言うほどやっていたか?


『自覚が無いのも質が悪いですね……。マスターが何をしてきたか、全て挙げましょうか』


 ゴブリンキングを倒し、ゴブリンの氾濫を引き起こした事。

 “くっころさん”を何人も産み出しながら、その管理を拒否した事。

 三柱の女神に暴言を吐いた事。


 腐れ甲冑の話を纏めると、ダンジョン内ではこの三つ。


 自然の摂理に逆らい、自ら魂の緒を切って冥界に逝こうとした事。

 俺の暴言で怒り狂った三女神が、天界で暴れ回った事。

 ダンジョン外ではこの二つ。

 どうやら、“行き遅れ”が天界で暴れ回ったのは俺が原因らしい。

 だが、俺がやった事ではない。

 それなのに、何故か俺がやった事に数えられている。


マスターが原因で起こった事です。なので、マスターがした事に含められます』


 理不尽だな。


『神々から与えられた罰の一つです。本来であれば、マスターへの罰は魂の消滅でした。ですが……生かしておいた方が役に立つとの判断から、本来の罰に釣り合うだけの複数の罰を与える事になったそうです』


 罰を変えてまで生かしておくとは。

 只の人間でしかない俺が、何の役に立つのか。


『……マスターが只の人間? 冗談は止めて下さい。マスター風に言うなら、“寝言は寝てても言うな”ですね。只の人間が、私の所有者に選ばれる事など有り得ないのですから』


 腐れ甲冑の言い様だと、俺は生体改造される前から只の人間ではない事になる。

 まあ“無能の中の無能”だから、只の人間とは言えないか。


『勘違いしている様ですね。“無能”と“無能の中の無能”は、魔法が使えないだけの只の人間です。もう一度言いますが、只の人間が私の所有者に選ばれる事など有り得ません』


 腐れ甲冑の言いようだと、俺は最初から只の人間ではないらしい。


『以前にも言った事です。(マスター)は、私が造られてから始めて現れた適合者だと』


 確か……こいつは、神話の時代に造られた知性ある武具(インテリジェントアームズ)だったか。

 そんな昔からある物の所有者に、今まで誰もなれなかったのだ。

 適合者とやらの条件は、とてつもなく難しいものなのだろう。

 それに合致した俺は、只の人間では無いのかも知れない。


『……(マスター)のせいで話が脱線してしまいましたね。話を戻します。取り敢えず、(マスター)が管理者の仕事を増やしている事だけは理解してください。管理者の様子だと、近い内に何かしらの報復をされるかも知れませんので……覚悟しておいて下さい』


 報復か……。

 覚悟などする気は無い。

 来るなら来い。

 返り討ちにしてやる。

 

「んっ!? 何か来たらしいな。話は後だ」


 通路の先から感じる気配。

 俺以外の探索者がダンジョンに入っているとは聞いていない。

 モンスターだろう。

 鬱憤晴らしに丁度良い。

 

 腐れ甲冑との話を打ち切り、感じた気配に向き直る。


 どうやら、まだ俺に気付いて無い様だ。

 それなら、先制させて貰おう。


 四肢のブレイクナックルにマナを込め、起動。


「ブレイクナックル!」


 四基全てを打ち放つ。

 倒せなくても、牽制にはなるだろう。

 四基のブレイクナックルが飛んで行くのを確認。


 装備を変えるのは、相手を見てからで良いだろう。


 そう判断し、気配の方へ駆け出した。

 

 

「何だ……アレは……」


 気配の元に着いた俺は、眼前のモンスターに愕然とする。

 通路の天上まで届く巨躯。

 一つ目と一本角の頭部に、青白い肌の巨人。

 その一つ目は、赤く染まっている。

 右手には、金属製の棍棒らしき武器。

 ブレイクナックルを払い除ける為、それを軽々と振り回している。


 あんなのを叩きつけられたら、簡単に肉片にされるだろう。


 ブレイクナックルが攻撃しているが、掠り傷すら付けられていない。

 

 こんなの……どうやって倒せばいい?

 逃げていいなら、さっさと逃げるのだが。


(マスター)、逃げる事は出来ません。管理者から連絡が入りました。「目の前のモンスターを始末して」との事です。どうやら、(マスター)は監視されている様ですね。諦めて戦って下さい』


 管理者も腐れ甲冑も、簡単に言ってくれる。

 監視されているのは、取り敢えず置いておく。

 アレは一体何なんだ?

 取り敢えず、アレの情報を寄越せ。


『管理者から情報が入りました。あれは、サイクロプス。巨人(ティターン)の一種です。地下七十階以降のモンスターで、力は非常に強いが動きは遅いそうです。弱点は頭部の一つ目。一対一なら、今の(マスター)でも何とか倒せるとの事です』


 何とか倒せるって……要するに無茶しろって事か。

 こいつをダンジョンから出す訳にはいかないだろうな。

 問題は、どうやってこいつを倒すかだが。

 ブレイクナックルに気を取られている内に、全力で倒すしかないか。

 


 魔法倉庫から大型パイルバンカーを二基とも出し、両腕に装備。

 少しでも早くサイクロプスを倒すには、手持ちの武器で最大の重量と威力を誇るこいつを使わざるを得ない。

 

(マイロード)! 最大の威力の武器は私です!! 新参者ばかり当てにして!』


 

「腐れ甲冑、何か言ったか?」


『いいえ、何も。気のせいでは?』


 おかしいな。

 何か……怒りの声が聞こえた気がしたが。

 幻聴だろうか?

 短期間に何度も死んだから、心身に異常が現れた様だ。

 取り敢えず、モンスターの氾濫が収まったら、何日か休養しよう。


 可変盾は……装備しなくていいか。

 中途半端に防御を固めても、あの棍棒の前ではあまり意味は無い。

 一発当たっただけで肉片になるだろう。

 まあ、当たらなければ意味は無いが。

 攻撃は全て回避すればいい。


「先は長いんだ。さっさと倒すとするか」


 ゴブリンを倒す位のつもりで、気軽に言い放つ。

 そうでもしなければ、サイクロプス相手に無謀な戦闘をする気になれない。


 ――殺せ

 ――破壊しろ


 俺の内の破壊衝動が咆哮し始めた。

 何時もなら、敵を認識した途端に叫ぶのに。

 生き返ったばかりだから、破壊衝動は寝ていたのだろうか。


 破壊衝動に身を委ね、サイクロプスに向かって歩き出す。


「エンチャント・カオス!」


 両腕の大型パイルバンカー二基を魔法で強化。


「身体強化発動。最大倍率」


 続けて、甲冑の身体強化を発動させる。


(マスター)、身体強化を最大倍率で発動します。発動時間は百秒』


 甲冑の全ての水晶体が蒼く発光。

 溢れ出す蒼い光が、全身を包み込んでいく。

 同時に、吸い取られる様にマナを消費し始めた。


『カウントダウンを開始します。九十九……』


 身体強化を発動した俺の移動速度が急激に上昇。

 そのまま更に加速し、サイクロプスに突撃する。

 俺は、サイクロプスとの無謀な戦闘を開始した。


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