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第八十一話 拘束

『……零。身体強化発動限界です。身体強化を停止します』


 魔法陣から溢れる光の中、身体強化の限界がきた事を知る。


「くそっ! 止めを刺せなかったか……」


 出せるものを出し尽くした俺に、鬼女に止めを刺す手段は無い。

 無念さが、心を覆い尽くす。


『残念でしたぁ♪ 無駄な努力ご苦労様♪ 取り敢えず、女の子を死ぬ寸前まで痛め付けてくれたお仕置きよ!』


 聞き覚えがある声……いや、絶対忘れてはならない、滅ぼすべき駄女邪神の声。


「なっ、何!?」


 そのお仕置きの言葉と共に、身体が凄まじい勢いで吹き飛ばされる。

 あっと言う間に、光の中心から遠ざかっていく。


「総員、バリケードから退避しろ!」


 背後から微かに聞こえた避難指示。


 このままだと、バリケードに叩き付けられるのだろう。


「ガァッ!?」


 十字路を見た途端、背後から激突音と共に何かが砕ける音。

 バリケードに激突したのだろう。

 そして、身体がバラバラに砕け散ったと感じる程の衝撃を受ける。

 口から、肺の空気と共に血を吐き出す。


「グフッ!?」


 それでも、勢いは止まらない。

 一部が破壊されたバリケードを見た瞬間、再び背後から激突音が聞こえ、激しい衝撃を受けた。

 どうやら壁に激突したらしく、遂に勢いが無くなる。

 壁に背を預けたまま、崩れ落ちた。


「あれ……生きてるのか?」


「流石に死んでるだろ……」


 周りから聞こえてくる声。


 勝手に人を死んだ事にするな。

 俺は……まだ戦える。

 あの駄女邪神を殺さなければならないのだから。

 ここで死んでいる場合では無い。


 ――殺せ。

 ――破壊しろ。


 全身に走る激痛に耐えながら、破壊衝動の赴くまま動き始めた。

 大型パイルバンカーを支えに、寄り掛かる様にしてゆっくりと立ち上がる。


「マジか……まだ動けるのか!?」


「……あいつ、“無能”だったよな?」


「バリケードと壁に叩き付けられて、まだ生きてるだと……」


 立ち上がる俺を見て、言っているのだろう。

 声に怯えがある。


「敵は……殺す……」


 口から血を滴らせながら呟く。

 そして、大型パイルバンカーを支えに、ゆっくりと前に進む。


「何処……に……いる……」


 一歩進む事に、全身に走る激痛。

 この状態では、もう鬼女に追い付く事は出来ないだろう。

 それに耐えながら、近くにいるだろう敵――駄女邪神ミラを探す。


「ヒッ!?」


 動く度に、押し殺した悲鳴が聞こえる。

 辺りにいるのは、俺を見て怯えて動けない警備隊員と探索者のみ。


「殺して……やる……から……降臨……して……こい……駄女邪神……」


 血を吐き、幽鬼の様な足取りで進みながら、とぎれとぎれに呟く。


『それは無理ぃ♪ 長達に、しばらく降臨するのを禁止されたから。少なくとも、貴方が人としての生を終える迄はね』


 人の神経を逆撫でする物言い。

 俺を煽っている様だ。


『それに、そのざまで、どうやって神である私を殺すのかしら? 貴方のお陰で、貴方用の多重複合型積層防御結界のテストが出来たわ。今回の“くっころさん”を殺そうとした罰は無しにしてあげる。もう貴方は、永遠に“くっころさん”を殺す事は出来ないのよ。いい気味だわ』


 多重複合型積層防御結界?

 さっきのあの魔法陣の事か。

 今の――万全な状態でも、俺にあれを突破する手段は無い。

 

『諦めて、私の望み通り“くっころさん”ハーレムをつくるのよ』


 それを最後に、駄女邪神の言葉が途絶えた。


「ふざ……け……る……な……に……」


 静まりかえっている、階段前の広間。

 この場から去った駄女邪神を追い掛けようと動き出す。


「ぐっ!?」


 だが、一歩踏み出しただけで激痛が走り、身体が動かなくなった。


「う……ご……け……」


マスターは現在、辛うじて生きている状態です。バリケードと壁に叩き付けられた事により、全身の骨格に良くて罅、単純骨折、粉砕骨折までと無傷の部分がありません。更に脊髄が損傷、並びに各部の神経もずたずたで動く事も不可能です。回復には最低でも二日は必要でしょう』


 取り敢えず、しばらく動けないという事か。


 そう認識した途端、身体から力が抜け、目の前が暗くなっていく。


「誰か! あいつに、至急回復魔法を掛けろ!」


「その必要は無いわ」


 前から聞こえた、聞き覚えのある女の声。


「知性あるインテリジェントアーマーよ。治療するから、彼の武装を解除して」


 その言葉を受け、俺の意思とは無関係に装備が収納されていく。

 同時に、何かが身体に巻き付いていき、体勢を安定させる。

 その後、何かの液体を数滴たらされた事で、失いかけていた意識を取り戻す。


「一体、何が……」


 目を開くと、最初に映ったのは漆黒と白い肌。

 辺りは多くの警備隊員や探索者がいるはずだが、何故か静まりかえっている。


「気が付いたかしら」


 凍てついた、聞き覚えのある女の声。

 顔を上げると、そこには管理者の顔があった。

 笑顔だが、目だけは全く笑っていない。


「何故、ここにいる?」


「……暇ではない私がここにいる理由なんて、そう無いの知ってるわよね。ただでさえ忙しいのに……貴方が“くっころさん”を増やした上に、殺そうとしたからに決まっているでしょう!」


 管理者がいきなり叫び、表情が一変。

 どう見ても、怒り狂ってますというものだ。


「敵は殺す。“くっころさん”になろうが関係無い!」


 管理者を睨みながら、言い放つ。


「……随分勇ましい事言っているけど、その状態では説得力無いわよ」


 俺の言葉を聞いた管理者は、呆れて何も言えないとばかりに溜息を吐く。


「どういう事だ?」


「自分がどんな状態か、分かって無いのね。貴方は今、拘束された上で吊り下げられているのよ」


 管理者に指摘されて、自分の状況を確認する。


 視界は、微妙に左右に揺れているな。

 可変盾が……いや、可変盾だけでなく、腐れ甲冑や大型パイルバンカーも装備していない。

 これは、管理者が腐れ甲冑にやらせていたか。

 そして、何か鈍色の物が全身に巻き付き、身体を拘束している。

 足が地に着いてないのは、こいつで吊り下げられているからか。


「首から下が全く動かない上、身体の感覚も無いんだ。分かるわけ無いだろ。これだから、胸にばかり栄養がいって頭に回ってない女は……」


 苛立ち紛れに、管理者を揶揄やゆする。


「……栄養が何ですって!」


「グッ!?」


 左脇腹に管理者の右拳が突き刺さり、肉を打つ音が辺りに響く。

 その衝撃なのだろう。

 肺から強制的に空気が吐き出される。

 その勢いのまま、吊り下げられている身体が振り子の様に左右に激しく振られ続けた。


「グフッ!?」


 振り子の様に振られていた身体が、唐突に止まった。

 急に安定する視界。

 力ずくで止められたらしい。

 その反動で、再び肺から強制的に空気が吐き出される。


 誰が止めた?

 管理者ではないのは確かだ。

 俺が振られているのを、全ての栄養がいっているだろうその巨乳を支える様に腕組みして見ている。

 後ろに誰かいるのか?


「お館様……大丈夫ですか?」


 背後からかかる、俺を心配する声。

 両脇から黒い袖に包まれた腕が伸び、俺を抱き締める。


「誰だ? それに何をしている? 取り敢えず、離れろ」


「嫌です!」


 その返事と同時に、巻き付く腕の力が強くなる。


「私は……お館様に一撃で倒されて“くっころさん”になった、“くっころさん”二号です。お館様と顔を会わせるのが恥ずかしいので、後ろから抱き着いています」


 二号だと!?

 確か……俺が止めを刺せずに産まれた“くっころさん”は四人いたか。

 だが、何故野放しにしている?

 考えても仕方無いか。

 取り敢えず、自称二号を振り払わねば。

 だが、拘束されている俺は、自力で振り払えない。

 助けを求めようと見回すが、俯いて誰も目を合わせようとしない。

 心なしか、体が震えている様に見える。

 管理者に怯えているのだろうか。


「おい、管理者。後ろの自称二号を何とかしろ」


「嫌よ。それも、貴方へのお仕置きの一環だから。因みに、今貴方に抱き着いているのは二号さんではなくて、二号′(ダッシュ)の影華エイカだから」


 間髪入れずに返ってきた、拒否の返答。

 それに、二号′(ダッシュ)とは一体?


「彼女は二重人格なの。今は、もう一つの人格の方が表に出ているから二号′(ダッシュ)よ。二号さんの名前は、本人から聞いてね。自分で名乗りたがっていたから」


 そんなどうでもいい事より、二号′(ダッシュ)を何とかしろ。


 そう言い掛けた所で、二号′(ダッシュ)の締め付けがより強くなったのか、身体から軋む様な音が聞こえ出した。

 今は、身体の感覚が無くて良かった。

 そうでなかったら、今頃、激痛のあまり絶叫していただろう。


「冗談抜きで、何とかしてくれ。このままだと絞め殺されそうだ」


 何だ?

 急に目が霞みだした。

 それに眠くなってきたな。


「……そろそろ効いてきた様ね。取り敢えず……眠りなさい」


 その言葉と共に、俺は眠りに落ちた。


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