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第八話 魔法訓練場

 全身に走る、このまま死んでしまえると思える程の激痛で目が覚めた。

 歯を食い縛って声を上げるのを抑え、激痛に耐える。

 だが、激痛に耐え切れずベッドの上でのたうち回っているうちに、昨日のガントの大将の言葉を思い出す。

 

『明日起きたら、激痛で苦しむだろう』

 

 冗談だと思い軽く聞き流したが、本当だったとは。

 こうなる事が最初から分かっていた様だ。

 とりあえず、全身に走るこの激痛を何とかしたい。

 昨日帰りに大将に言われた通り、道具屋でヒールポーションを買っておいて正解だったようだ。

 激痛で動きが鈍っている体を無理矢理動かし、収納の指輪からヒールポーションを一本取り出す。

 震える手でヒールポーションの瓶の栓を抜き、中身を一気に飲み干す。

 ヒールポーションの効果で全身の激痛が少しづつ和らいでいく。

 

「し、死ぬかと思った……」

 

 全身の激痛が少しづつ和らぐ事で落ち着き、まともに考える事が出来る様になった。

 この激痛の理由は明白だ。

 昨日、手に入れた指輪に付与されている強化の魔法を使ったからだろう。

 短時間の使用で、ここまで身体に負担がかかるとは思わなかった。

 使った翌日にこれでは、おいそれと使えない。

 本当にどうしようも無い時の切り札。

 現状では、そんな使い方しか出来ない。

 身体を鍛えれば、多少はましになるだろうが。

 今後の事も考えると、やるべき事は多くある。

 痛みが治まった所で起き上がる。

 ダンジョンの奥に進む力を手に入れる為に。

 

 

 雲一つ無い青空。

 見上げると、眩しい太陽。

 今日もいい天気だ。

 魔法と気の訓練をするため、探索者ギルドに向かっている。

 ガントの大将に裏庭を借りても良かったが、魔法の練習もするので止めておく。

 色々と派手にぶっ壊して説教されたくなかったし、パイルバンカーやその他の装備の調整を急がせているみたいで嫌だったからだ。

 大将が、明後日には完璧に仕上がっていると言うのを信用して、店に近付かない様にする。

 

 大通りに出て暫く歩いているうちに、城並みに大きい探索者ギルドの建物が見えてきた。

 

 ダンジョンに向かう探索者達の流れに逆らい、探索者ギルドの門をくぐり建物の中へ入る。

 待合室に入ると、待ち合わせをしているらしい数名の探索者が装備の点検をしていた。

 探索者達を横目に見ながら、訓練場の利用許可をもらうため総合案内所に向かう。

 カウンターに着くが、見渡しても受付の人がいない。

 仕方無く、ギルド職員を呼ぼうとした所で、後ろから声を掛けられる。

 

「アルテスさん、おはようございます。今日はどうしました?」

 

 振り返ると、イリアが書類を抱えて立っていた。

 

「おはよう、イリアさん。防具の仕上がり待ちでダンジョンに潜れないから、訓練しに来た」

 

 用事の最中なのだろう。話を長引かせて、彼女の仕事の邪魔をする訳にはいかない。なるべく丁寧かつ穏やかに答えた。

 昨日は“擦り付け”された怒りで、ぶっきらぼうになっていたので口調に気を付けている。

 

「そうですか。熱心ですね」

 

「命かかってますから。それに魔法を覚えたので、試し打ちも兼ねて。それより、訓練場使うのに許可取らないといけないですか?」

 

「いえ、特に必要ないですよ。自由に使ってください」

 

「ありがとう。それでは」

 イリアに軽く頭を下げてお礼を言ってから、薄暗い通路を歩いて訓練場に向かう。

 何から訓練するか。

 武器は素振りしか出来ない。

 気の訓練は、現時点では特に出来る事がない。朝起きてからずっと呼吸法を続けているが、未だに気を感じられない。

 なら、色々試す事がある魔法を先にしておこう。

 本音は、早く魔法を使ってみたいだけなのだが。

 そう決めると、天井に吊るされている案内板に従って魔法訓練場に歩みを進める。

 通路は照明により照らされているが薄暗く、初めて行く為か多少迷ったものの、入口まで辿り着く。

 入口の扉は、古ぼけていて薄汚れている。

 通る者も少ないのか、通路もうっすらと埃が積もっている。

 ドアノブを引いて扉を開け、魔法訓練場に入る。

 

 通路と同様に薄暗い魔法訓練場。その広い訓練場の床面中央は大きな魔法陣が描かれているだけで、攻撃魔法の的になる物どころか何も無い。

 訓練場を良く見てみると、魔法陣は床だけでなく天井や壁面にも描かれている。

 何の為かは、魔法に詳しくないので分からない。

 魔法の練習さえ出来ればいい俺にとっては、気にする必要はない事だ。

 だが、此所で効果を確認出来る魔法が無いことに気付く。

 何もせずに此所から出るのも虚しいので、魔法を使えるかを試す。

 攻撃魔法のカオス・ボルトは的が無い為に論外だろう。

 そうなると、試せるのはエンチャント・カオスとカオス・シールドの二つ。

 エンチャント・カオスは武具に混沌属性を付与する魔法。

 これは武具の無い今、試してもマナの無駄遣いだろう。

 そうなると、試すのはカオス・シールドか。

 試しに使う魔法をカオス・シールドに決めると、訓練場の中央に歩いて行く。 

「この辺でいいか……あれ?」

 

 訓練場の中央に着いた所で、魔法の使い方が分からない事に気付く。

 魔法が使える様になった事で浮かれていた様だ。

 肝心な魔法の使い方を確認していなかったのは、情けない。

 とりあえず、頭に刻み込まれている筈の魔法の使い方を脳裡に思い浮かべる。

 

 

 魔法の使い方

 

 効果を及ぼす対象を思い浮かべた上で、使う魔法の名を唱える。

 以上。

 

 

 

 

 これだけだと手抜きと思うだろうから、説明しておく。

 八属性と無属性の魔法は、呪文を詠唱する必要がある。

 だが、原初にして最強たる混沌属性には呪文の詠唱など必要無い。

 もっと言えば、魔法名を唱える必要すら無い。

 使う意思を持って、使いたい魔法を念じるだけでその魔法が発動する。

 これだけ書いておけば、手抜きとは言われないはず。

 我が弟子よ、励むがよい。

 

 

 

 脳裡に浮かんできた魔法の使い方。

 補足らしき説明も簡潔過ぎて、手抜きにも程がある。

 それに、俺は弟子ではない。

 まあ、前書きの時点で既に書くのに飽きていたみたいだったから、こんなものだろう。

 一冊しか無いという一文も、今なら納得出来る。

 混沌神ケイオス。

 神話の伝承とは異なり、実際はただの横着な駄目神の様だ。

 駄目神の著した“混沌魔法大全完全版”。

 何も知らなかったとはいえ、使ったのは大失敗だったかも知れない。今更後悔しても遅すぎるが。

 効果を確認したら、混沌魔法は永久に封印するか。

 元手は掛かっていないから、最初から存在しないものと思う事にする。

 技能書を買って、使えそうな魔法を覚えばいい。

 そう結論付けると、自分を対象にしてカオス・シールドの魔法を使ってみる。

 

「カオス・シールド!」

 

 魔法名を唱えたのは、初めて魔法を使う為であり、また魔法を使う上での基本と頭に刻み込まれているからだ。

 そうで無ければ、魔法名を唱えていない。

 マナが十分の一位喪失していくのを感じ、魔法が発動したことが分かる。

 だが、目の前にそれらしきものは現れていない。

 どこかに在るだろうと、辺りを見渡す。

 先ず右側を見るが、何も無い。次いで左側を見る。

 浮遊しているラージシールドとほぼ同じ大きさの黒い板の様なものが、視界に入ってくる。

 これが、カオス・シールドか。

 触れてみようと手をのばすが、触れるかどうかという所で手を避ける様に動くため、触れることが出来ない。

 意地になって何度か試してみたが、一度も触れることが出来なかった。

 無駄な時間を過ごしたと後悔するが、ある疑問が出てくる。

 移動した場合、自分に追随するのか。それとも、その場に留まるのか。

 永久に封印する予定だが、疑問点は無くしておいた方がいいだろう。

 後で気になって、封印を解いて確認してしまうかもしれない。

 効果が持続する時間も分からないので、確認の為に移動してみる。

 カオス・シールドの魔法で生成された混沌属性の黒い楯を見ながら十歩程歩く。

 黒い楯は一定の距離を保ったまま、俺に追随していた。

 ダッシュもしてみるが、歩いた時と同様に追随している。

 駄目神の手抜き説明とこの結果から分かったことは、カオス・シールドは対象に追随し攻撃を自動で防御する黒い楯を生成する魔法という事だ。

 ソロでダンジョンを探索する俺にとっては、防御面で十二分に役に立つ。

 他の魔法の効果を確認するまで、永久封印するのは止めた方がいいのかもしれない。

 だが、“混沌魔法大全完全版”の著者は駄目神と認識している混沌神ケイオス。

 俺としては、いい加減過ぎる駄目神を信用する事が出来ない。

 暫く混沌魔法を使ってみてから、永久封印するか決めた方がいいだろう。

 

 混沌魔法を永久封印するかどうかで悩んでいるうちにカオス・シールドの効果持続時間は終わった様だ。 何時の間にか、黒い楯が消えてしまっている。

 カオス・シールドの魔法を使う事で消費したマナも、ある程度回復した。

 

「一応、魔法は使える様になったみたいだな」

 

 カオス・シールドの魔法が発動したことで、今更ながらその事を実感する。

 混沌魔法を永久封印しても、技能書を手に入れれば魔法は増やせる。

 魔法を全く使えない者でも、技能書を使えばその魔法を使える様になる事が分かった。

 魔法が使える様になった事を、駄目神に形だけでも感謝しておく。

 

 魔法訓練場で確認する事はもう無いだろう。

 此所でする事は終わったので魔法訓練場を後にした。


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