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第七十四話 モンスター氾濫再び

 ダンジョンの通路を入口に向かって進んでいる。

 晩飯を食い損なわない為に。

 途中から四人の“無能”の探索者を連れている為、当初の予定より遅れている。

 武神タケミカヅチ様の神命を果たす為に、こいつらを見捨てる訳にはいかない。


 通路を進み、入口への階段がある広間に辿り着いた。

 入口に続く階段の側には、何故か数人の探索者が屯していた。


 何か嫌な予感がする。


「ここまで来たら、もう大丈夫だな。先に上がらせてもらう」


 そう言って、階段に向かった。

 近付くにつれ、階段周辺の様子が分かってくる。

 六人の男の探索者が、階段前に陣取っている。

 俺が近付いているのを見て、下卑た笑みを浮かべた。

 まるで、カモがやってきたとでも言う様に。


 集りだろう。

 早く晩飯を食いたいと言うのに。

 寝言を言ったら、殺ればいいか。


 階段の前まで来た所で、屯していた探索者が前を塞ぐ。


「邪魔だ、退け」


「ここを通りたかったら、通行料を払って貰おうか」


 こいつらの頭らしい男が、嫌らしい笑みを浮かべながらほざいた。


「通行料? そんなの何時、誰が決めたんだ。ギルド長は、そんな事言ってなかったが」


 思い出すふりをしながら、こいつらの紋様の色を確認する。

 全員、紋様の色は青色。

 黄色とか緑の探索者を集団で恐喝している屑の様だ。

 虚仮にしてから殺ってしまおう。

 最後にごみ掃除とは。


「う、うるせぇ! いいから払え!」


 何の捻りも無く、ただ喚くだけか。

 端にいる奴らが、俺を囲む様に動き出そうとしているのが見えた。


 足止めも兼ねて、虚仮にしよう。


 魔法倉庫から一ジーン硬貨を出し、喚く男の足下に放り投げる。


「集りと弱い者いじめしか出来ない、可哀想な雑魚に恵んでやる。這いつくばって感謝しろよ」


 そう言って、嘲笑ってやる。


「て、てめえ! 絶対許さねぇ! このふざけた奴を殺っちまえ!」


 頭の男は、顔を真っ赤にして仲間を煽動する。

 俺の挑発に、ここまで簡単に逆上するとは。

 短絡的な馬鹿だから、ここで恐喝していたのだろう。


「死にたければ、掛かってこい。これでも、臨時で処刑執行者イレイザーをやらされたんだ。お前ら程度に殺られはしない」


 バスタードソードを鞘から抜きながら、言い放つ。

 それを聞いた連中は、凍りついた様に動きを止める。


「そいつの言ってる事は、はったりだ。はったりに決まっている」


 頭の男が俺の言葉を否定するが、奴らの動揺は収まらない。


「ついでに言っておくが、数日前にお飾りの領主を殺ったのは俺だからな。これ以上、お前らの相手をしている暇は無い。死ね」


 先手必勝。

 後ろの奴らをその気にさせる為にも、気闘法だけで片付けるか。


 バスタードソードを右から横薙ぎに振るいつつ、剣身を延長するように気を放出。


 武神流気闘法“気刃”。

 右端の奴から順に、気の刃で斬り払う。

 首や頭を斬られた奴から、切断面から血を吹き出しながら崩れ落ちていく。

 バスタードソードを振り抜いた後には、首や頭の上半分を失い血の海に沈む死体が六つ出来上がる。

 それも、直ぐに光となって消えていった。


「この程度か……的にしかならなかったな」


 集りをしている奴らなど、この程度という事だろう。

 あまりの弱さに溜息を吐く。


 こいつらの装備や持ち物を拾う時間が惜しい。

 今は、多少の金より晩飯が優先だ。

 さっさとダンジョンを出て、晩飯を食おう。



 階段を上がり、ダンジョンを出る。

 入口の左右は、今も人だかりが出来ている。


 何があるのかは気になるが、それよりも晩飯だ。

 暖かい晩飯を食って、明日に備えなければ。


 装備を魔法倉庫に収納し、入口前の広場を出る。


 夕暮れの街。

 ダンジョン帰りの探索者や家路を急ぐ人で、人通りは多い。

 ギルド前に差し掛かった所で、ギルドから完全武装した警備隊がダンジョンに向かって駆けていくのを見掛ける。


 また、ゴブリンが氾濫したのだろうか。

 俺には関係無い。

 ご苦労な事だ。


 しばらく歩き、宿に帰り着く。

 そのまま浴場に向かい、汗と埃を流してから晩飯を摂った。


 部屋に戻り、日課の気の制御の練習を始める。

 今日からは、罠の解除待ちの間にやった気の放出も、練習に加える事にした。


 空を飛ぶ。

 それは、古の達人が成していた奥義の一つ。

 何時か、俺も空を飛んでみたい。

 どれだけ長い間、修行をすればいいか分からないが。

 その鍵は、気の制御だろう。

 滑走や跳躍、その遥か先にある筈。

 その域まで、気を扱える様にならなければ。

 

『“気功・気闘法入門”について』


 新たな目標が出来、やる気になって練習を始めた途端、脳裡に浮かび上がってきた。


『基本的に“気功・気闘法大全完全版”と内容は変わりません。属性魔法が使えない者のみが使える技能書です。因みに、属性魔法が使える者が使うと死ぬ罠でもあります。……今この説明を読んでいる貴方は、人間では無いわ。人間の姿をした化け物よ。そうでなければ、女神を三柱も“くっころさん”に出来ないもの。……因みに、本日“気功・気闘法入門”を手にした“無能”四名は現在、錬気の練習中です』


 続けて、脳裡に浮かび上がった情報。

 あの技能書については、予想通りだったか。

 技能書に関係無い化け物云々は、何かに干渉されたからなのだろう。

 語尾がおかしい。

 既に、それを受け入れた俺には嫌がらせになっていないが。

 あの四人は、もう練習を始めているらしい。

 どうやら、タケミカヅチ様の神命は果たせた様だ。

 俺もあいつらに負けない様、練習を始めようか。



「寝てたのか……」


 気の制御の練習をしていた筈だが、そのまま寝てしまった様だ。

 部屋の明かりは点いたまま。

 窓から外を見ると、夜の帳が降りたままだ。


 さて、どうするか。

 朝飯にはまだ早すぎると言うより、まだ深夜だ。

 だが、寝直す訳にもいかない。

 眠気は無く、身体も軽く疲れが取れている。

 深夜の散歩と洒落こもうか。

 ついでに、ダンジョン前の広場まで行って、人だかりの原因を見ておこう。



 宿を出て、夜の街を散策する。

 馬車が走る道路と歩道の境に、等間隔に街灯が立ち並ぶ。

 魔道具の照明の光が、夜の街を照らしている。

 人一人いない、ひっそりとした街。

 野良犬や野良猫も彷徨いていない。

 その街の中を、ダンジョン前の広場まで歩いていく。

 探索者ギルドの前を通りかかると、窓から光が零れていた。

 職員達は、休み無く働いている様だ。


 ギルド長は、不眠不休で働いて禿げてしまえ。


 そう思いながら、ダンジョン前の広場に入っていく。


 警備隊詰所の明かりは点いている。

 何人かは、待機している様だ。

 入口に近付くにつれ、聞こえてくる何かの声らしき音が大きくなっていく。

 人だかりの原因を見に来たのに五月蝿いな。


 まさか、またゴブリンの氾濫なのか。


 気になるので、様子を見に行く事にした。


 装備無しで様子を見に行く程、俺も馬鹿ではない。

 いつもの装備に加え、防御を重視して可変盾を二基とも装備。

 警戒しながら、入口に近付いていく。

 入口の側まできて、赤い目をしたゴブリンが出て来ようとしているのが見えた。


「不味い!」


 それを見て、慌てて駆け出しながら、右腕と右脚のブレイクナックルにマナを込め起動。


「ブレイクナックル!!」


 ゴブリンを殴りながら、敵を薙ぎ払う様に命じて右腕のブレイクナックルを撃ち放つ。


「ブレイクシュート!」


 非常事態が起こった事を知らせる為、警備隊詰所の窓を壊して戻って来るように命じ、右脚のブレイクナックルを撃ち放った。


 そのまま入口に駆け寄り、中を覗き込む。

 階段上はブレイクナックルがモンスターを薙ぎ払ったらしく、魔晶石や武具が転がっていた。

 階段下の広間はモンスターで溢れかえっている。

 ゴブリン、オーク、コボルド。

 それらより二回り以上大きい、見たこともない人型のモンスターもいる。

 ブレイクナックルがモンスターを倒していっているものの、通路から次々と広間に入ってくる。

 階段から、モンスターが続々と上がってきた。

 火の初級魔法も飛んでくるが、今の所は可変盾が完全に防いでいる。


 これは……焼け石に水だな。


 背後から聞こえた、硝子の割れる音。


「何だ!?」


「何かが飛んできたぞ!」


「入口の方だ!」


 辛うじて聞こえてくる、叫び声。

 少しして聞こえてきた、複数の足音。

 警備隊が来たらしい。

 それと同時に、右脚にブレイクナックルが再装備された。


「おい、貴様! こんな時間に何をしている」


「モンスターが溢れている! それより、早く範囲攻撃魔法が使える奴を何人か呼べ! そんなに長くは持たない!」


 振り返らずに答える。

 いや、振り返る余裕すら無い。

 幾ら殺っても、それを埋めるように通路から入ってくるのだから。

 飛んでくる魔法が増えたのか、連続した振動が可変盾から伝わる。


「何だと!?」


「隊長! そいつの言う通りです。下の広間から通路まで見える範囲がモンスターで溢れかえっています!」


 警備員の一人が、隙間から中を覗き込んだらしい。


「……ギルド長に至急報告しろ! それから、非番の奴を叩き起こしてこい! さっさと行け!」


 自らも確認したのだろう。

 誰が見ても非常識な光景に、部下達に慌てて指示を出した。


「どの位、持ちこたえられる?」


「知るか! やれるだけやるが、“無能”に期待するな」


 そんな事、分かる訳がない。

 モンスターが、ダンジョンから出て来ない様にするのに手一杯だ。


 またモンスターが階段を上がってきて、直ぐ側まで来ているのが見える。


「ブレイクシュート!」


 右脚のブレイクナックルを起動、撃ち放つ。

 撃ち放たれたブレイクナックルは、階段上のモンスターを全て薙ぎ払っていった。

 その後、最初に放ったブレイクナックルと共に広間のモンスターを倒していく。


 使えるブレイクナックルは残り二基。

 キリがない。

 このままだと……そう持たないな。

 数で押し切られ、街に溢れるのも時間の問題だ。


 またモンスターが、階段を上がって来るのが見える。


「援軍はまだか!?」


「こんな時間では、直ぐに集まらん。もう少しだけ頑張ってくれ!」


「無茶言うな! 黒でも何でも叩き起こして、今すぐ連れてこい!」


 そうは言ったが、警備隊長の科白から無理な事は明白。

 まだ朝飯も食ってないのに、こんな所で死にたくはない。


 ――全て殺せ。

 ――全てを破壊しろ。


 突然、破壊衝動が咆哮し始めた。

 思い返してみると、破壊衝動を感じたのは生死の境にいる時だけ。

 そして、何時も生き残った。

 ならば……今回も心を委ねよう。

 後先考えず、出来る事をやればいい。

 全てを破壊し、生き残る為に。


 錬気する気の量を、意識して限界以上に引き上げていく。

 ある意味禁じ手と言える、気の解放。

 まさか、それを自分の意思でやるはめになるとは。

 こんな状況で無ければ、使う気は起こらなかっただろう。


 直ぐに自分の意思とは無関係に、膨大な気が全身を駆け巡る。

 上手く解放――暴走とも言う――し始めた様だ。


「最低でも、広間のモンスターは片付けておく。後はあんたらで何とかしろ」


 振り返る余裕もない俺は、そう言い放ってからダンジョンに突入した。


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