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第七十話 駄女邪神

 光の方に振り向きながらバスタードソードを抜き、横目で見る。


「済まないな。直ったばかりなのに無茶をさせる」


 謝罪の言葉が口を吐く。


『(心のままに、我が主様(マイロード))』


 また、何か聞こえた気がするが、気のせいだろう。


『我が身は、我が主様(マイロード)と共に』


 はっきり聞こえる、女らしき声。

 同時にバスタードソードが虹色に輝き、その光が辺りを埋め尽くす。


我が主様(マイロード)の敵を……凪ぎ払わん!!』


 その声と共に、虹色の光が収まる。

 バスタードソードが、虹色の剣身を持つ見たことない姿に変わっていた。


「変化しただと……」


 変貌に驚くが、今はそれ所ではない。

 今まさに、駄女神アテナが降臨しようとしているのだから。


「早く来い。殺してやるから」



 離れた場所から、何かが擦る音が聞こえてくる。

 それは、直ぐに風切り音に変わり、こちらに近付いてきた。

 目の前の光はゆっくりと人の形に変わってゆく。

 どうやら、駄女神アテナがもうすぐ降臨するらしい。

 聞こえ続ける風切り音は、次第に大きくなっていく。


 音の方を見れば、虹色に変わったブレイクナックル四基全てが、人の形をした光に向かっている。


 再起動したのは分かるが、何故、虹色に変わっているのか。


 ――気にしたら負けだ。禿げるぞ。


 脳裡に直接聞こえてくる男の声。


 誰かは知らんが、まだ禿げる歳ではない。


 ――まあ、それは置いておくとして……


 置くな。髪は、長い友だろうが。


 ――今のお前では、戦女神アテナは殺しきれない。後一歩の所で、邪魔が入って逃げられるだろう。


 無視か? 髪は、長い友だ!


 ――戦女神アテナを“くっころさん”にしたいのなら構わんが。男日照りの行き遅れ女神を“くっころさん”にしても、碌な事にはならん。永遠に搾り取られるだけの生活を送りたいなら止めんぞ。


 未知の力が全身にみなぎっている今の俺でも、駄女神を殺しきれないだと。

 “くっころさん”に変えるだけとは。

 駄女神とは言え、神という事か。

 そんな男日照りの行き遅れ駄女神を“くっころさん”にする気は無い。


 ――お前の武器に、戦女神アテナの降臨を阻止する方法を授けた。まあ、お前が今の状態で、この場だから使える手だ。もっとも、一度限りの手だがな。


 ブレイクナックルに?

 手回しがいいな。


 ――お前に、ここで終わってもらっては困る連中が多いからな。例えば……お前の鎧を造った奴らとか。


 礼は言わんぞ。


 ――必要ない。ただのお節介だ。じゃあな。


 それを最後に、声は途絶えた。

 何処かで聞いた覚えがある男の声だったが、全く思い出せない。

 それより、駄女神の降臨が阻止される所を見物するか。


 四基のブレイクナックルは、人の形の光に激突するが弾かれ、その四方を囲む様に落下して床に突き立つ。

 その後、四本の虹色の光が柱の様に天井へ伸びていく。

 さらに、その柱の間を繋いで塞ぐ様に、虹色の光が伸びていった。

 虹色の光の柱……筒と言った方がいいのだろうか。

 それは、打ち上げる様に、人の形をした光――降臨直前の駄女神アテナ――をこの場から排除した。


 この手で始末したかったが、これで良かったのだろう。

 あの声の言う通り、行き遅れの駄女神を“くっころさん”にしてしまっていたら碌な事になっていない筈だ。


 駄女神が去った以上、邪魔をする者はもういない。

 今の内――未知の力が漲っている間――にあの三人に止めを刺そう。

 今なら、邪魔な魔法陣ごとあの三人を殺れる筈だ。

 振り返ると、意識を失い倒れている筈の三人の姿が無い。

 影も形も無くなっている。


「何処に消えた!?」


『彼女らは、ダンジョンの管理者に託した』


 聞き覚えの無い女の声。


「誰だ?」


『我はアルテミス。狩猟の女神』


 狩猟の女神アルテミス。

 西方神族の女神で、駄女神アテナ同様、独身の女神だったか。

 もしかしたら、“男日照りの行き遅れ”かもしれない。

 どっちにしろ、俺の邪魔をした敵であることに変わりはない。


「“男日照りの行き遅れ”が、何の用だ? 俺の邪魔をするな!」


『何ですって!? 神に対して何て無礼な!』


 駄女神アテナ同様、“男日照りの行き遅れ”と言っただけで、口調と感じられる雰囲気が変わった。

 だが、一切恐怖を感じない。

 慣れたのだろうか。

 どうやら、狩猟の女神も駄女神アテナ同様の“男日照りの行き遅れ”の様だ。


「神だろうが何だろうが、敵に礼儀など必要無い。特に……“行き遅れ”の駄女神にはな」


 当然だが、情けも無用だ。


『一度ならず二度までも……絶対許さない!』


 完全に怒り狂っている。

 もう少し挑発すれば、降臨するだろう。

 その時が好機だ。

 駄女神アテナは殺れなかったが、ありったけの準備をすれば、こっちは殺れる筈。


「“行き遅れ”の駄女神様。俺も暇ではないので、用が無いならさっさとお帰りください」


 止めにに言ってやる。

 実際、これ以上“行き遅れ”の駄女神の相手をするのは時間の無駄だ。

 降臨したら、俺のありったけを込めた攻撃で始末して見せる。



 目の前に、突然光球が現れた。

 ようやく、駄女神アルテミスが降臨するらしい。

 光は大きくなっていき、人の形に変わっていく。

 それに合わせ、バスタードソードとパイルバンカーにありったけの気を込めつつ、エンチャント・カオスの魔法を掛け続けた。

 しかも、未知の力は今尚増大し続けている。

 さあ、降臨して来い。

 降臨したその時が、お前の最後だ。


『アルテミス駄目! 戻って来なさい!! 降りた瞬間に、貴女が死ぬわ!』


 駄女神アテナでも、降臨中のアルテミスでもない女の声。

 また、別の女神の介入か?


『ミラ。止めないで! この手で殺さないと気が済まない!』


『彼は、貴女が降臨するのをてぐすねひいて待ち構えているわ。もう一度言うけど、降りたら死ぬわよ』


 チッ……余計な真似を。


『アルテミス、私にいい考えがあるわ。戻ってきて、聞いて欲しいの』


 私にいい考えがあるだと。

 そう言う奴のいい考えが、いい考えだった事は無い。

 確実に、碌でもない考えだ。


『ミラ……分かった』


 その言葉と共に、目の前の光が消えた。


『……取り敢えず、その状態を解いて貰えるかしら』


 二柱の駄女神よりは、まだ話が出来そうだ。


「無理だ。意思とは無関係にこうなっている」


 未だに、未知の力――もう謎の力と呼んだ方がいいだろう――は全身に漲っている。

 冗談ではなく、止めようが無い。


『……何らかの力が働いてそうね。彼らが混乱している様が目に浮かぶわ』


 俺の状態を把握したのだろう。

 それきり、無理に力を止めろとは言わなくなった。


「それより、ミラだったか。一体何者だ?」


 この女神らしき声は、自らの正体を明かしていない。

 正体が分かれば、敵かどうか判断出来る。


『私はミラ。恋愛を司る女神』


 恋愛神ミラ。

 聞いた事の無い神だな。


「その恋愛神様が、何故介入する?」


『介入しに来た訳では無いわ。アテナが泣いているのだけど、私では慰めきれなくて。それで、アルテミスに慰めさせる為に呼びに来たのだけど……』


 “男日照りの行き遅れ”が、かなり効いたらしいな。


『……アルテミスどうしたの? えっ……“男日照りの行き遅れ”……』


 どうやら……“男日照りの行き遅れ”は、二柱の駄女神の心に深い傷を与えた様だ。


『貴方ねぇ……女の子に何て事言うのよ』


 呆れ果てた声で、責められる。


「敵に、男も女もない。敵は全て殺す。それを邪魔する者も敵だ。敵に情けは必要無い」


 敵を殺り損なった上、邪魔までされたんだ。

 ただで済ます気は無い。


『女の子は、泣かすのではなく鳴かせるものよ』


 あれ……何か字が違ってないか?


『やはり、貴方は女の子の扱い方がなっていないわ。貴方にはアルテミスの分と合わせて、女の子の扱い方を身に付けられる罰を与えないといけないわね』


 何か……おかしな事になっていないか。


『貴方に罰を与えるわ。先ずは、アルテミスの分ね。……女だったら実体が無かろうとヤれる上、孕ませられる様にしてあげる。私の分は……そうね、どれだけ女とヤっても全然萎えない絶倫にしてあげるわ。そこら辺に転がっている男なら垂涎の力だけど、貴方にとってはそうではないでしょう。貴方に、丁度いい罰になるわね』


 やはり、恋愛神ミラも駄女神だったか。

 そう思った俺の身体が、一瞬だけ淡い桃色に輝く。


『うん……いい感じ。これで準備万端ね』


「ふざけるな! 何が準備万端だ!」


『何って? 貴方に“くっころさん”ハーレムを作らせる為の準備だけど』


 “くっころさん”ハーレムだと……。

 この駄女神は、何を考えている。


「何故、俺が“くっころさん”ハーレムを作らねばならない?」


 たった一人でも手に余るだろう俺に、ハーレムなど必要無い。


『私が見たいからにきまっているでしょう。血みどろの修羅場の無い、女の子達が愛しい人と幸せになれるハーレムをね。そんな事も分からないなんて。貴方、頭は大丈夫? 病院に行って、診察してきたら』


 勝手な事を……。


 ――殺せ。

 ――腐れた駄女神を破壊しろ。


 破壊衝動が、腐れた駄女神を殺せと叫ぶ。

 沸き上がる怒りとそれを、必死で抑える。

 冷静にならなければ。

 この場にいない駄女神を殺す手段は無いのだから。


「人の頭より、自分の頭の心配をしろ。この駄女神が! そんなもの、ハーレムを作りたい他の奴にやらせればいいだろう」


 口にしたから気付けた。

 駄女神ミラは、アテナやアルテミスとは比較にならない位の駄女神だと。

 いや、生かして置いてはならない狂える邪神だ。


『だって……それが出来るのって、世界中探しても貴方しかいないもの。鎧に因る生体改造と“くっころさん製造者”の称号の効果。それに、さっき与えた罰の効果を合わせれば、“くっころさん”を幾らでも量産出来るわ』


 ふざけた事ばかり言いやがって。


「寝言は寝て言え。いや、寝てでも言うな。この邪神が」


『何とでも呼べばいいわ。“行き遅れ”でも邪神でも。私は、全ての女の子が素敵な恋愛をして、幸せになる為なら手段を選ばない! 貴方を犠牲にする位、大した事ではないわ。だから、私と幸せになりたい女の子達の為に、ハーレム構築頑張りなさい。目指せ、千人ハーレム!!』


 千人も相手出来るか。

 体は何とか耐えても、精神が耐えられない。

 完全に狂っている。

 殺れるなら、今すぐ殺りたい所だ。

 こんな邪神……のさばらせておく訳にはいかない。


『後……私の事を邪神呼ばわりしてくれたお礼も必要よね。……この近辺の行き遅れ掛けの女の子に、貴方の事を教えておくわ。女の悦びを与えてくれる男だって』


「要らん事するな! この駄女邪神!」


『女の子の扱い方を覚えて、千人ハーレム構築頑張るのよ。じゃあねー♪』


 それっきり、駄女邪神ミラの声は途絶えた。


 どうやら、相次ぐ駄女神二柱と駄女邪神の介入がようやく終わった様だ。

 敵三人に止めを刺せなかった上、駄女神どものお陰で精神的に疲れた。

 あの駄女邪神ミラは、何時の日か必ず滅ぼさなければ。

 この世界の平穏の為に。

 復讐とか報復の為以外に、強くなる理由が出来るとは思わなかったな。


「取り敢えず……戦利品の回収でもするか」


 溜息を吐いてから、二人の魔族が残した武具を回収する為に歩き出した。


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