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第七話 技能書

 宿に帰って来た俺は夕食を終え、自分が借りている部屋で荷物の整理をしていた。

 もっとも、収納の指輪に全て放り込んだだけだったが。

 それもすぐに済み、結構痛んでいるがシーツは清潔に保たれているベッドに腰を掛けている。

 

「疲れた……今日は酷い目に遭った」

 

 このまま体を倒し、寝てしまおうか?

 そう思ったが、自分の言葉でまだやっておく事があるのを思い出す。

 そう、古代文字で書かれている技能書を読むことだ。

 収納の指輪から二冊の技能書を取り出し、テーブルに並べる。

 二冊とも表紙に古代文字で題名らしきものが書かれているだけのため、内容を伺い知ることは出来ない。

 悩んでいても仕方ないので、左側の技能書を手に取り表紙を開く。

 開いた瞬間、技能書の頁から眩い光が溢れ出し、辺りを包み込んだ。

 

「ま、眩しい。また……このパターンか!?」

 

 武具屋に続き、光を直視してしまう。

 慌てて瞼を閉じるが、既に手遅れ。瞼を手で押さえ、光の眩さと目の痛みに耐える。

 まさか、技能書でもこうなるとは思わなかった。

 イリアは、こうなることを知っていたのだろうか。

 知っていたら、教えてくれただろう。

 古代文字の技能書のこと自体、よく知らない様だった。

 そこまで思考したところで、頭に何かが刻み込まれる様な痛みを覚え、頭を抱える。

 暫く続いた頭痛だったが、不意に治まる。

 思わず瞼を開いたが、光は収まっていた。

 目に写る光景は、技能書を開く前とほぼ変わっていない。

 テーブルに置かれている技能書は頁を開いていない一冊だけ。

 読んでいた技能書は、開かれた状態で床に落ちている。

 床に落ちた技能書を拾い上げ、付着した埃を手で払い落とす。

 技能書を閉じた途端、脳裡に文字が浮かび上がる。

 

『気功・気闘法大全 完全版 武神建御雷神著』

 

 大全!? 完全版!? 武神タケミカヅチ著!?

 何なんだ、これ?

 武神の著作だと!?

 

 余りの事に取り乱すが、そんなことはお構いなしに、脳裡に続きが浮かび上がる。

 

『今、この書を読んでいるそなたは取り乱しているだろう。我はタケミカヅチ。武神と呼ばれる存在である。この書には我が編み出した、気功・気闘法の全てを記している。全てを修めし暁には、人としては最高峰の使い手となるだろう。されど、驕ることなかれ。これは、終わり無き究極への道の始まりなり』

 

 あり得ない。冗談だと思いたい。

 だが、脳裡に続きが浮かび上がる。

 

『追伸 この追伸を見る頃には、我が編み出した気を扱う為の呼吸法がそなたの身体に刻み込まれているだろう。その為、この書に呼吸法の頁は無い。また、我が気功・気闘法の全てをそなたの頭に刻み込んだ。そなたの技量に応じて、出来ることが頭に浮かんでくる様になっている。まさか、冗談で著作したこの書を発見し、読む者が現れるとは思わなかった。これを読んでいるそなたには、我の弟子と名乗る事を許そう。弟子として、我が名を汚す事が無い様、日々励むが良い』

 

 神は神聖で厳かな存在だと思っていたが、違っていた様だ。

 他人の身体を勝手に弄るような、理不尽かつ身勝手な存在だったとは。

 あらゆる命あるものが持つ“気”の力が使える様になっただけよしとしよう。

 神の実態を知ってしまった事で沈む気持ちを切り換え、自分に使える気の技を思い浮かべる。

 だが、何も思い浮かばない。

 どういう事なのか考えていると、

 

『呼吸により、気を下腹部の丹田に集める。集めた気を背中・頭頂部・喉・胸部の順に通して丹田に戻し、気の密度を高める。これを“練気”という。これが出来る事が、気功・気闘法を使う上での前提条件である。無意識に練気が出来る様になれば、次の段階に進めるだろう』

 

 と、脳裡に浮かび上がる。

 今の俺では、気を使えないという事らしい。

 無意識に練気が出来る様になるまで、地道に修行するしかない様だ。

 

 下腹部の丹田に意識を集中して、気の流れを感じてみる。

 だが、何も感じられない。

 まあ、当然だろう。

 気について、何も知らないに等しいのだから。

 取り敢えず、気を感じられる様になるまで、身体に刻み込まれた呼吸法を続けていくしかない。

 気功・気闘法については、現時点で他に出来ることは無いだろう。

 

 用済みとなった『気功・気闘法大全完全版』をテーブルに置き、もう一冊の技能書を手に取る。

 一冊目の時と同じ事を繰り返す積もりはない。

 眩い光で目が眩むのと激しい頭痛を覚悟して、技能書を開く。

 再び辺りが眩い光で覆い尽くされた。

 今度は瞼を閉じ、頭を抱え、歯を食いしばり、光と頭痛に耐える。

 暫く続いた続いた頭痛が治まり、瞼を開く。

 部屋を見渡し、技能書がまた床に落ちているのを確認する。

 再び技能書を拾い上げ、埃を払う。

 開いたままの技能書を閉じた瞬間、『気功・気闘法大全完全版』の時同様、脳裡に何かが浮かび上がる。

 

『混沌魔法大全 完全版』

 

 これが、この技能書のタイトルらしい。

 多分、この技能書も著者は神様だろう。

 神様ってのは、暇をもて余しているのかもしれない。

 大全とか完全版とか、タイトルにつけるのが流行っているのだろうか。

 その辺りの事情は、気にしてはいけないのかもしれない。

 それよりも、自分としては気になる問題がある。

 

 “混沌”

 

 聞いた事の無い属性。

 風、火、地、水、雷、氷、光、闇。

 魔法には、この八つの属性とその何れにも属さない物を無属性とした計九種類の属性がある。

 魔法を全く使えない俺でも知っている事だ。

 だが、この混沌は九つの属性の何れにも当てはまらない。

 混沌について考えていると、脳裡に続きらしき何かが浮かび上がる。

 

『我は混沌神ケイオス。この書の著者だ。この書は、混沌属性の魔法について記されている。混沌属性とは何か? 無以外の八属性が混ざりあった世界創造以前に存在した、原初の属性である』

 

 混沌神ケイオス。

 あまり良いイメージがない神だ。

 この神の信者は、昔……神話の時代から今日に至るまで、常に混乱をもたらしてきた。

 その為、邪神として扱われることもある。

 

 そんな神の著した技能書を使ってしまった。

 俺は邪悪な存在として、神の信者に命を付け狙われ兼ねない。

 何とかなるだろう。

 いや、何とかするしかない。

 死にたくなければ。

 生命の危機に悩み、葛藤していると、脳裡に続きらしきものが浮かんできた。

 

『そなたの頭に混沌魔法の全てを刻み込んだ。実力に応じて使える魔法が増えていく。返品は受け付けていないので、御了承下さい。何と、直ぐに三つも魔法が使える様になってる親切設計。暇潰しに著した書だが、使う者が現れて何よりだ。因みに、この書はそなたが使ったこの一冊のみ。つまり、混沌属性を使えるのは、我を除けばそなたのみとなる。そなたには、我が弟子を名乗る事を許す。というか、名乗れ。原初にして最強の属性の力を存分に振るい、世界に覇を唱えよ』

 

 やはり、神の暇潰しの産物だったか。

 混沌属性が、原初はともかくとして最強の属性とは初耳だ。

 最強の属性は無い。

 それは、昔から言われてきたことである。

 属性には相性の良し悪しは有れど、一方的な優劣は無いからだ。

 俺一人しか使えないというのもおかしい。

 過去に混沌属性の魔法を使えた者もいたはずだ。

 訳が分からない。

 それよりも世界に覇を唱えろとは。

 ただの探索者に何いっているんだろう。

 そんな面倒なこと、する訳がない。

 忘れてしまうに限る。

 尤も、使えるものは使わせてもらうが。

 

 気を取り直し、使える様になったはずの魔法を思い浮かべる。

 

 カオス・ボルト

 カオス・シールド

 エンチャント・カオス

 

 本当に三つある。

 それぞれが、どんな効果を持つ魔法か確認する。

 

 

 カオス・ボルト

 対象に向かって、混沌属性の黒い矢が高速で飛んでいく攻撃魔法。

 その威力は、実際に使って確認するがよい。

 

 カオス・シールド

 一定時間、敵の攻撃を自動防御する混沌属性の盾を生み出す。

 詳細は、実際に使って確認するがよい。

 

 エンチャント・カオス

 一定時間、武具に混沌属性を付与する。

 詳細は、実際に使って確認するがよい。

 

 

 本当に確認出来るとは思わなかった。

 確認出来たのはいいが、説明が大雑把過ぎる。

 しかも、実際に使って確認しろとは、かなりの手抜きだ。

 まあ、混沌神の暇潰しの産物。

 途中で飽きたのだろう。文章自体が、司るものの通り混沌としている。

 過剰な期待はしない方がいい。

 全く魔法を使えない俺が、使える様になっただけ良しとしよう。

 魔法が使えないという理由で、今までパーティーに入れなかったのだ。

 属性が属性なだけに、魔法が使える様になっても、安易にパーティーに入ることが出来ないのは笑えない。

 ソロでの探索に慣れてしまったし、新しく得たものを使いこなせる様にならなければならない。

 暫くは、ソロでダンジョンに入って修行することになるだろう。

 

 そういえば、自分のマナ容量はどうやって増やすのだろうか。

 増やせないと、魔法武具と魔法の併用が出来ない。

 ただでさえ、マナ消費の激しい身体強化が付与された装備が二つもあるというのに。

 仮にも魔法大全完全版と銘打っているのだから、それぐらい載っていてもおかしくないだろう。

 そう考え始めた瞬間、脳裡に何かが浮かび上がる。

 

『マナ容量を増やす方法

 

 毎日、自らの内包するマナを、マナ切れを起こすまで消費する。

 

 死にかける。

 

 この二つがあるが、死にかけるのはお薦めしない。

 死にかければ、マナ容量は爆発的に増えるがそのまま死ぬことが多い。

 命が惜しければ、やめておけ。

 確実にマナ容量を増やしたければ、毎日地道にコツコツやっていくことだ。

 マナ容量を増やす時間は掛かるが、命の危険は無い』

 

 死にかけるのは勘弁してほしい。

 命をチップに、ギャンブルをする気は無い。

 コツコツ、地道に行こう。

 二日後には、武具が仕上がる。

 それまで、どう過ごすか。

 答は決まっている。

 運良くかは分からないが、手に入れた新しい力を上手く使える様に練習する事だ。

 明日から探索者ギルドの訓練所で訓練をして、魔法と気を少しでも使える様にしておこう。

 

 明日、明後日の予定を決めた俺は、疲労からくる眠気に身を任せて眠りについた。


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