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第六十五話 新機能

「お釣は片付けたな。剣とパイルバンカーの長槍を片付けたら、着いてこい。大型パイルバンカーを引き渡してから、楽しい楽しい剣の使い方の練習だ」


 カウンター上の袋を片付けた俺に、店の奥に入りながら、楽しそうにする大将。


 脱線ばかりで、中々終わらないだろう。


「パイルバンカーの長槍は、早めに今渡した物と交換しておけ。どうせ、直ぐ使う事になるだろうからな」

 剣とパイルバンカーの長槍を魔法倉庫に収納。

 大将の後を着いていく。


 「ちょっと待ってろ」


 そう言って、扉を開け、部屋の中に入っていく。


 部屋の中は、武器や防具らしき物が部屋中に置かれていた。

 剣や楯、長い棒に垂直に持ち手が付いたものなど。

 これらは、全て大将が造った物なのだろう。

 大将は、部屋の奥に立て掛けてある長い柱らしき物に四角い箱が付いている武器だろう物二つを手に取ると戻ってきた。


「待たせたな。大型パイルバンカーだ。受け取れ」


 押し付ける様に大型パイルバンカーを二つとも渡される。


「何だ、この重さは……」


 ブレイクナックルを初めて持った時とは比べ物にならない重量。

 そのまま押し倒されそうになるが、気で身体を強化して何とか持ちこたえる。


「いきなり何しやがる!? 押し潰される所だったぞ! 渡すなら、一つづつ渡せ」


 俺の様子を見てにやけている大将に抗議する。


「鍛え方が足りん。もっと鍛えろ。そいつもさっさとしまえ。そいつは、あのゴーレムの残骸を使って造っている。重いが頑丈だ。余程の事が無い限り、ぶっ壊れん。腕用の物とは違い、文字通り太い杭を打ち出す。もちろん破壊力・貫通力共に腕用の物とは比べ物にならん。地下五十階位までの主なら、一発当てれば殺れる筈だ。その分大喰らいだから、使い時は誤るなよ。因みに魔晶石は入って無いから、自分で用意しろ」


 これは、何を言っても無駄だ。

 言いたい事を言った大将は、先に進んでいく。

 無言で、渡された大型パイルバンカーを魔法倉庫に収納し、大将の後に続いた。



 裏庭に出ると、中心辺りに金属製らしき柱が四本並んで立っている。

 数日前は無かった筈だが、あれから打ち立てたのか。

 あれが的なのだろう。


「遅い! それでは、今の俺の最高傑作を使う練習を始めるぞ。さっさと出せ!」


「大将……あんたの最高傑作って一体何だ?」


 そんなものを渡された覚えは無い。

 大型パイルバンカーは違うだろう。

 ただ、大型化しただけの代物に過ぎない。


「さっき渡した、お前の剣だ!!」


 考え込む俺は、理不尽に怒鳴られた。


「そんなの初耳だ!」


 負けじと怒鳴り返す。


「やはり……変な物を拾い食いしているか、どっかに頭をぶつけたらしいな」


 来た時から何時もと何処か異なる様子に、つい口走った予想が当たっているのを直感した。


「馬鹿野郎! そんな訳あるか!! ただ、三日三晩鎚を振るい続けただけだ!!」


 俺の直感は、今回当てにならなかったらしい。

 徹夜続きで、気分が高揚しているだけか。

 出直すから、取り敢えず寝ろ。


 そう言ってしまいたいが、帰らせてはくれないだろう。


 魔法倉庫から、修理……いや新生して返って来たバスタードソードを取り出す。

 外見は、以前とあまり変わらない。

 ただ、少し重くなっただけ。

 これだけの変化で、最高傑作と呼べるのかは疑問だ。

 詳しい事は、大将が自慢たっぷりに説明するだろう。


「取り敢えず、振って見ろ」


 バスタードソードを構えたのを確認した大将が、指示を出す。


「分かった」


 ゆっくり……以前との違いを確認しながら、バスタードソードを振る。


 上から下。

 下から上。

 右上から左下。

 左下から右上。

 左上から右下。

 右下から左上。

 左から右。

 右から左。

 そして、突き。


 軽く振るって見たが、少し重くなった位では問題無さそうだ。

 相手がいるのを想像し、実戦的に動きながらバスタードソードを振るい続ける。


「まだひよっこだと思っていたが、様になってるな」


 伊達に、何度も死線を潜り抜けた訳ではない。


「もういいぞ」


 終了の声に、動きを止めて大将を見る。


「これから、そいつの新しい機能を説明するが……お前の場合、実際に体験した方が分かりやすいか。取り敢えず、左端の柱を斬って見ろ。因みに、柱はあのゴーレムの素材で造ってある」


 相変わらず、ふざけた事を言ってくれる。

 俺の腕では、あの柱を斬れ無いだろう。

 それぐらい、言わなくても分かっている筈だ。


 あの状態では言うだけ無駄なので、指示通りやるしかない。


 溜息をつきつつ、左端の柱の前に立つ。

 意識を集中しながら、バスタードソードに気を込めていく。


「……」


 左から叩き付ける様に、バスタードソードを振るう。


 ぶつかりあう事で生じた金属音が、辺りに響き渡る。

 結果は……柱の半ばにまで剣身が食い込んでいた。


「ふう……」


 傷を付けられれば上出来だと思っていたが、予想以上の結果だ。

 取り敢えず、バスタードソードを引き抜こうとするが、抜ける気配が全く無い。


「剣身が、がっちり柱に食い込んでいるな」


 背後から聞こえる声。

 いつの間にか大将が側に来て、柱を覗き込んでいる。


 何時の間に来たんだ!?


「どうした? 何を驚いている」


「いない筈の奴に、真後ろから声を掛けられたら普通は驚くだろう」


 バスタードソードを引き抜こうとしていた時に来たのだろうが、気配を一切感じなかった。

 

「気配を消して来たのに、新米のお前がそれに気付いたら異常だぞ」


 言われてみれば……大将の言う通りか。


「傷を付けられれば上出来だと思っていたんだがな。こりゃあ、簡単に抜けそうも無いな」


 言われなくても、見れば分かる。


「……で、これどうするんだ?」


 折角修理が終わって、返って来たというに。


「そうだな……柱を斬り飛ばすしかないか。剣にマナを込め続けながら、そのまま振り抜け」


 剣にマナを込めろだと?

 何を仕込んだ?


「いいからやれ。やらんと剣はそのままだぞ。気を込めるのと同じ要領でやればいい」


 そう言って大将が後ろに下がって行った。


 他人事だと思って……。

 やるしかないか。

 要領は、ブレイクナックルと変わらない筈だ。


 柱に食い込んだままのバスタードソードを持ち、マナを込めていく。

 大将の指示通り、マナを込めながら振り抜いた。


 澄んだ金属音と重い物が落ちた音。


 柱を見てみれば、上部を完全に切り落としていた。

 すぐ側の地面には、斬り落とされた柱の上部が転がっている。


「これは一体……」


「これが、そいつの新しい機能だ。渡り人の世界で理論だけは完成している高速振動剣バイブレーションソードの、剣身を高速で微少振動させて切断力を上げる機能を魔法で再現して組み込んだ。文献に記されている簡単な説明だけで再現したから、完成までに金は掛かるわ、動かすのにマナは食いまくるわでな。調整に苦労した」


「ご苦労様と言いたい所だが、やりたいからやっただけだろう。自業自得だ」


 何時もの事ながら、苦労話を自慢気に語り始めた大将を切って捨てた。

 そうしないと、また延々と自慢話を聞かされる事になる。


「いいから話を聞け」


 大将の声を無視して、新機能の確認が済んだバスタードソードを魔法倉庫にしまう。


『(これからも、貴方のお役に立ちます……我が主様マイロード)』


 バスタードソードをしまう時に、何か聞こえた気がする。

 多分、大将相手の疲れによる幻聴だろう。


 続けてパイルバンカーを左腕に装備。

 装着されている長槍を抜き、大将に渡された新しい長槍を装着する。

 異常が無い事を確認してから、パイルバンカーを魔法倉庫にしまう。


「……で、お前が持って帰ったゴーレムの残骸を調べたら凄い物だった。はっきり言って、お宝の山だ。稀少かつ高価な金属を大量に使った合金で、これ程の物は俺もお目にかかった事が無い。俺が知る限り、武具に使うには最高の物だ。それを使い、俺の全てを注いで造り直したお前の剣は、今の俺の最高傑作と言っていい」


 まだ、話は続いていたのか。

 真っ赤な顔をした大将が息切れしている。

 話すのに夢中で、息継ぎを忘れていたらしい。

 いい加減寝ろ。


「大体分かった。後は、ダンジョンに潜って慣らす」


「折角立てたんだ。最後までやっていけ」


 遂にふらつき出した大将が、柱を指す。


「無理だ。俺の内包マナ量では、マナが枯渇する。それより……店を閉めて、さっさと寝ろ! 大将に倒れられると、俺を含めてみんな困る。奥さんも心配してる筈だ」


 力付くで眠らせたいが、俺では不可能。

 逆に、返り討ちにあう。

 大将に背を向け、裏庭を後にした。


 裏口を抜け、店内へ。

 相変わらず、店内に客はいない。

 店内を抜け、入口へ。

 扉に手を掛けた所で、前に進めなくなる。

 背中に感じる違和感。

 振り返ると……奴がいた。

 裏庭でふらふらになっている筈の大将が、いい笑顔で俺の襟首を掴んでいる。


「……何処に行くんだ? まだ終わってねえぞ」


 そう言って、俺を引き摺りだす。


「俺から……逃げられると思っているのか? 終わるまでは逃がさん」


 全力で抵抗したが、無駄に終わった。

 奴(大将)は……化け物か。

 そのまま、裏庭の柱の前まで引き摺られていく。


「しっかり練習しろ」


 俺は大将が満足する――日が落ちるまでともいう――まで、バスタードソードの新機能を使う練習を強制された。

 手持ちのマナポーションを全て消費して。

 その間、俺の胃からは水音が聞こえ続けた。


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