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第六十一話 戦闘力ランク

「ギルド長、準備が出来ました」


 魔道具を操作していた男の職員が、器具を片手にギルド長に報告する。


「分かった。始めてくれ」


「分かりました。左手を此方に」


 ギルド長を見ない様にしながら、男の職員が俺に指示する。


 いつまでも襟首を掴まれている気はない。

 さっさと終わらせて、解放されよう。


 言われた通りに、左手を男の職員の方に差し出す。

 男の職員は右手に持っている先端が円形の棒――その円形の部分を左手の甲に翳す。

 直ぐに棒の円形の部分が白く輝きだした。

 そこから、光が左手の甲に向かって伸びていく。


「何だ? 色が変わっていく?」


 光が当たった部分の色が変わり始める。


 黄色から緑。

 緑から青。

 青から紫。

 紫から赤。

 赤から白。

 白から黒。


 最初はゆっくりだった色の変化が、次第に速くなっていく。


「ギ、ギルド長!? これは、一体……」


 円形の棒を左手の甲から外し、何かを確認しようと覗き込んだ男の職員が驚愕の声を上げた。

 その様子から、この色の変化が異常な事が窺える。


「狼狽えるな! 想定内だ」


 男の職員を一喝する、ギルド長。

 言葉通り予想していたのだろう。平然としている。


「むしろ、この程度で済んでいるのは僥倖。最悪、魔道具の破損もあり得たのだから」


 破損……。

 只の探索者に過ぎない俺を化け物とでも思っているのか?


「ですが……これは明らかに異常過ぎます! 彼以外の者は色も変わらず、直ぐに紋様が現れました!!」


 錯乱しかかっている男の職員が、ギルド長に食って掛かる。

 どうやら、あの魔道具は色付きの紋様を刻む魔道具の様だ。

 色付きの紋様を刻む事に、何の意味があるのか。

 だが、未だ説明されてないので全く分からない。

 後で説明してもらえるだろう。


「落ち着きたまえ!」


 ギルド長が錯乱しかかっている男の職員の左肩を掴み、力ずくで落ち着かせていく。


「……」


「これは、ダンジョンの管理者から聞いた事だが……」


 ギルド長は、何時の間に管理者と接触したのか?

 奴隷商を殺って、女エルフを引き渡した後しかないか。

 ギルド長は、疑問を自己解決している俺を横目で一瞥して続ける。


「彼の蒼い甲冑。あれは、神話の時代にある目的の為に創られた知性ある武具インテリジェントアームズらしい。だが、何らかの理由で神々によりダンジョンの最深部に封印されたという。最近になって神々の封印を自力で破り、人型のモンスターや魔族、探索者の体を乗っ取りながら地下一階まで上がって来たそうだ」


 ギルド長の話を聞いた俺は、自分の予想が正しかった事を再認識する。


 やはり……あれは呪いの甲冑だ。


マスター、呪われた物扱いは心外です。抗議し、訂正を要求します。そもそも、神々による封印など最初からされていません。ただ、マスター達がグランディアダンジョンと呼ぶダンジョンの最深部に隠匿されていただけです。永き年月を経て、ようやく現れた適合者――つまりマスターあるじとする為に行動しただけですから。ギルド長が話した内容は、マスターの都合の良い様に管理者が改竄したものでしょう。他者を欺くには、真実と嘘を混ぜるのが一番効果的ですから』


 心外に抗議に訂正を要求……。

 伝説の存在と言われる、知性ある武具インテリジェントアームズ

 だが……腐れ甲冑が知性ある武具インテリジェントアームズなどと信じたくない。

 俺にとっては、只の呪いの甲冑に過ぎないのだから。


『(マスター……後でお仕置きです!)』


「……神々に封印される様な代物だ。その所有者が只の人間のままである筈がない。既に、彼の身体は人間と呼ぶのも烏滸がましい化け物に造り変えられているだろう」


 ギルド長の話はまだ続いている。

 確かに、俺の身体は腐れ甲冑により造り変えられた。

 だが、人を化け物呼ばわりした事については、後で抗議しておかなければ。


「神々より与えられた、戦闘力を測定する魔道具だがね。例外的に異常な反応をする場合もあるらしい。彼はその例外に当たるのだろう」


 あれは、戦闘力を測定するものの様だ。

 どんな基準で結果を出すのかは判らないが。

 ギルド長は、例外と言った所で再び俺を一瞥する。

 完全に俺を人外の化け物と思っているな。

 これでは、抗議するだけ時間の無駄だろう。


 そんな事より、俺は何時までこうしていればいいのか。

 いい加減、うんざりしてきた。

 その原因となった左手の甲に目をやる。

 それまで目まぐるしく変化を続けていた左手の甲の色が、次第に緩やかになっていく。

 そして……黒色に変わり、色の変化が止まる。


「終わったのか?」


 錯乱しかかっていた男の職員は、こう言っていたはずだ。

 紋様が現れると。

 だが、紋様が現れる様子は微塵も無い。


「どうなっている? これで終わりか……」


 どんな紋様が現れるか、楽しみにしていたのに。

 只の黒い丸とは……俺の期待を返せ。


「終わった様だね。君の紋様は……」


 男の職員を落ち着かせたらしいギルド長が、俺の左手の甲を見て口籠った。

 そして、何とも言えない表情で俺を見る。


 ギルド長、言いたい事は分かっているから何も言うな。

 腐れ甲冑により、強制的に人間を辞めさせられた。

 この程度の異常は序の口だろう。


 ギルド長を黙らせる為に口を開こうとした瞬間、


「こ、これは……」


 ギルド長とも魔道具を操作した男の職員とも異なる声。

 声がした方を見ると、宿直のギルド職員達が驚愕の表情を浮かべ此方を見ている。

 大方、暇過ぎて野次馬しに来ていたのだろう。

 その視線は、俺の左手の甲に注がれている。

 黒丸から、何か変化が起こったのだろうか。

 気になるので、左手の甲を確認。

 黒い丸に、虹色の亀裂が幾つも走っている。

 亀裂は見ている間にも数が増え、大きくなっていく。

 亀裂の数が二十を数えた時に、それは起こった。


 硝子が砕けた様な音。

 それと共に、左手の甲の亀裂だらけの黒い丸から虹色の光が柱の様に伸びていく。


「一体……何がどうなっているんだ?」


 そう疑問を口にした瞬間、虹色の光の柱が唐突に消える。

 左手の甲……黒い丸があった場所。

 そこには見覚えのある甲冑と、それに重なる様に交差する剣と普通とは異なる槍の紋様が、虹色に淡く輝いていた。


「これが……俺の紋様か?」


 剣は愛用のバスタードソード。

 槍は……パイルバンカーの長槍だろうな。

 長槍の形状がそのまま紋様になっている。

 だが、何故……腐れ甲冑まで紋様になっているのか?


「それが、君の紋様かね」


 左手の甲に刻まれた紋様について考えている俺に掛けられる声。


 振り返るとギルド長が立っている。

 いつの間にか、襟首から手を放していたらしい。

 俺の左手を取ると、甲の紋様をまじまじと見つめる。


「紋様は、その者の魂を象徴するものが図案として現れるらしい。その為、紋様は千差万別。似ていても、全く同一の紋様は存在しないらしい」


 成る程、紋様については理解した。

 紋様で個人の識別が出来るな。


「君の紋様の場合……剣と槍らしき物が象徴らしいね。甲冑らしいものは、知性ある武具インテリジェントアームズが影響しているのかもしれない。強大な力を秘めた物ほど、所有者の存在そのものに干渉するそうだ。君の身体を造り変えた様に」


 腐れ甲冑め。

 身体改造しただけでなく、魂にまで干渉してやがったのか。

 どうしてくれよう。


マスターにはどうする事も出来ません。いい加減諦めて下さい。所有者の存在そのものに干渉出来る知性ある武具インテリジェントアームズは、私以外に存在しません。それも父様達の目的の為だけに与えられたもの。因みに、身体は父様達の指示通り色々と造り変えていますが、魂については私と接続しただけです。魂に手を加える手段は、父様から与えられていません』


 また一つ……知らない方がいい事を知ってしまった様だ。

 魂の段階で腐れ甲冑と繋げられているとは。

 前に言っていた、永遠に離れる事は無い。

 それは、こういう事だったのか。

 唯一の救いは、魂まで造り変えられてない事だろう。

 ギルド長の話は、まだ続いている。


「色についてだが、これは探索者の戦闘力ランクを表している。詳しい事はあちこちの掲示板に貼り出してあるから、それを見てくれ。まあ、色と探索可能な階の目安だけだがね。もっとも、君の場合は全く当てはまらないだろう」


 最後の一言で、大体理解した。

 要するに、虹色など異常で全く分からないから、ダンジョンに潜って自分で確認してこいと言う事らしい。

 いい加減だな。

 この分だと、掲示板を見る必要は無いだろう。


「まあ、これ位でいいだろう。私も暇ではないからね」


 そう言って去って行くギルド長。

 ようやく、ギルド長から開放されたらしい。

 暇など無い癖に、ご苦労な事だ。

 腹黒いギルド長が何の目的も無く、俺を探し出して戦闘力を測定させるなど有り得ない。

 領主を処刑させても、俺の戦闘力を量り切れなかった様だ。

 更に測定の結果があれでは、時間を無駄にしただけだろう。

 いい気味だ。

 休まずキリキリ働け。

 そして、二度と俺の前に現れるな。


 もう、ここにいる必要は無い。


「宿に帰って、さっさと寝るか」


 そう言えば、ここ数日宿に帰って無い。

 前払いで払っているのに、数日分も損している。

 何て事だ。

 ただでさえ、金銭面で厳しいのに。

 ギルドに請求しても、その分は取り戻せないだろうな。

 臨時処刑執行者イレイザーの報酬に期待するしかないか。

 金について結論が出た途端、それまで感じなかった疲労感が全身に溢れる。

 ギルド長から開放され、張り詰めていた気が弛んだのだろう。

 冗談抜きで早く宿に帰らないと、途中で寝てしまいそうだ。

 疲れきった身体を引き摺る様に無理矢理動かし、ギルドを出た。


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