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第五十九話 領主強襲③処刑執行

 護衛の腹部に突き立っていたブレイクナックルが、甲高い音を上げて再び回転を始める。


「な、何じゃ、あれは!?」


「分かりません。ただ……以前見た事がある魔法武具の一種ではないかと……」


 何故、再起動した?


 俺と同様に、ブレイクナックルに倒された護衛を見ていた領主と護衛の隊長らしき男も驚いている。


『怨霊が憑いているあのブレイクナックルは、放たれた後、自らの意思でマスターの元に戻ってきます。戻る途中で護衛の男と衝突したから、停止したのでしょう。周囲からマナを集めて再起動して戻ってきますので、回収に行く必要はありません』


 怨霊が憑いているのは、改修と言っていいのだろうか。 機能が追加されているので、改修と呼べるのだろうな。

 改修した奴にとってはだが。


 ブレイクナックルが、護衛を再び壁に叩き付ける。


「ぐえっ……」


 護衛は呻くと共に、口から血を吐き出す。

 どうやら、内臓をやられた様だ。


 ブレイクナックルは尚も前進を続けようと、苦しむ護衛の腹部を圧迫し続けている。

 そして、護衛の腹部から血が流れ出す。


「ギャァァァ!」


 護衛の男の悲鳴と破壊音が響く。

 ブレイクナックルが、護衛の腹部ごとその背後の壁を貫いたのだ。

 そのまま、ブレイクナックルはこの場にいる者の前から姿を消す。


「……」


 余りにも非常識な出来事に、誰も口を開かず身動きすらしない。

 時折聞こえてくる破壊音。

 それは、次第に近付いていた。

 どうやら、ブレイクナックルが壁を破壊しながら戻ってきているらしい。

 そして、俺の左側の壁が砕け散る。

 破壊音と共に、ブレイクナックルが廊下に飛び込んできたのだ。

 蒼黒いブレイクナックルは、俺目掛けて尚も飛翔。


 回避は間に合わない。

 ブレイクナックルの早さを見て、そう判断。


 どうする?


マスター、大丈夫です。あれは、マスターに害を為すことは絶対にありません』


 腐れ甲冑が、思考に割り込む。

 それに合わせるかの様に、右腕の水晶が光り輝く。

 その瞬間、俺目掛けて飛んできていた蒼黒いブレイクナックルが姿を消した。


「どうなっている?」


 目の前から突然姿を消したブレイクナックル。

 それを目の当たりににして、思わず呟く。


『ブレイクナックルを回収、再装備完了しました』


 腐れ甲冑の報告に、右腕を横目で見る。

 右腕に、手甲の状態の蒼黒いブレイクナックルが装備されていた。


『因みに、現在のマスターのマナ量では、ブレイクナックルの使用は不可能です』


 まあ、仕方無いか。

 護衛は粗方片付いた。

 後は、気闘法で何とかするしかない。


 折れた長剣の柄を、隊長格の男に投げ付けて処分する。

 そして、放心している領主に向かって駆け出しながら、魔法倉庫から新たに長剣を取り出す。

 隊長格の護衛の男は、投げ付けた剣の柄を長剣で弾く。

 その後、領主から離れる様に移動した。


 何故、護衛対象から離れていく?


 その行動に疑問を覚える。


 誰にも邪魔される事無く、領主の前に立つ。


「死ね……」


 放心していた領主が、俺の宣告に我を取り戻す。


「な、何をしとる。さっさとわしを守らんか!?」


 領主が、隊長格の護衛の男に喚く。

 だか、隊長格の男は領主がそこにいないかの様に振る舞っている。

 その様子を見て、隊長格の護衛に縋るのを諦めたのだろう。

 領主が、怯えた顔で俺に問い掛ける。


「な、何故、わしを殺そうとする?」


 殺される理由が知りたいのだろう。

 だが、俺はその問いに答える気はない。


「その男は、ギルドの処刑執行者イレイザーです。その証拠に、マントに赤色のギルドの紋章が記されてます。おそらく、貴方が探索者ギルドやこの街に害をもたらす事をしたからでしょうな」


 それまで領主を無視していた隊長格の護衛が、俺の代わりに答えた。


 こいつは、色々知っている様だ。

 先に殺っておいた方がいいか。


 隊長格の護衛を見やる。


「待ってくれ。俺は、“イレイザー”相手に殺り合う気はない。妻と子供残して死にたくは無いからな。しかし、それにしても若い……」


 感嘆とも、呆れとも取れる言葉。

 俺の邪魔をする気は無いらしい。

 こいつをどうするかは、後でいいだろう。

 領主の処刑が先だ。


「俺については、いいだろう。死ね」


 そう呟き、長剣を領主の首筋に叩き付ける。

 気を纏った白刃が、領主の首を切断。

 頭が転がり落ち、首から血を噴き出す。

 飛んでくる血を後ろに下がって避ける。


 流石に、何度も返り血を浴びたくはない。

 それに、血塗れのマントをそのままイリアに渡すのは問題があるだろう。

 だが、あのギルド長の娘だ。

 平然と受け取るかも知れないが。


 領主だった首なしの死体から、血が噴き出さなくなるまでその光景を眺める。


「終わったか……」


 取り敢えず、領主の処刑は終わった。

 依頼は達成したが、無事に帰れるか分からない。

 館の外は衛兵に包囲されている。

 そして、目の前には手練れらしい隊長格の護衛の男。

 戦う気は無いと言っていたが、当てにはならない。

 その様子を窺いながら、魔法倉庫からマナポーションを取り出して飲み干す。

 隊長格の男に動きは無い。

 興味深そうに、こちらを見ている。


「何だ? 殺り合う気になったのか?」


「さっきも言ったが、殺り合う気はない。ただ、昔を思い出してな」


 昔……ね。

 そういえば、こいつは色々知っている様だった。

 無事に帰る方法を思い付くまで、知っている事を聞き出してもいいだろう。


「何故、俺が処刑執行者イレイザーということを知っていた?」


 先ずは、これからだ。

 処刑執行者など、早々、表に出るものではないだろう。

 どうして、それを知っているのか。


「理由は簡単だ。俺は処刑執行者だったからだ。だが、ここまで派手にやった事は無いが……」


 元処刑執行者だったとは。

 道理で、知っている筈だ。

 もし殺り合っていたら、俺の方が殺られていたかもしれない。


「派手になったのは仕方無い。俺は、ギルド長の半強制的な依頼でやらされただけだ。探索者になって一月足らずの新米にやらせている時点で、間違っていると思わないか?」


 何故か、目の前の男に愚痴を言っている。


「それは……酷い。確かに、新米にやらせる事ではないな。だが、ギルド長があの男なら納得もする。使えるものは、何でも使う奴だから……」


 処刑執行者だった隊長格の男が、同情するといった感じで溜息を吐く。

 どうやらギルド長の事をよく知っている様だ。

 もしかしたら、目の前の男もギルド長に利用された事があるのだろう。


「処刑執行者ではなく、探索者の先輩として一つ忠告しておこうか。出来るだけ、今のギルド長には関わるな。まあ、手遅れかも知れないが」


 既に手遅れだ。

 遅すぎる忠告。


「無理だな。ギルド長の娘が俺の管理官だ」


「そうか……。強く生きろよ」


 そう言って、俺の肩を叩く。

 励ましているつもりなのだろうか。

 それなら、その後で手を合わせなくてもいいだろう。


「話は変わるが、どうやってここから出るつもりだ?」


 俺の状況にいたたまれなくなって、本当に話を変えた。

 言われるまでも無く考えているが、いい方法が思い付かない。


「最悪、正面から強硬突破するしか無いだろうな」


 全く思い付かないと言うのは癪にさわるので、最後の手段を答えておく。


「……無茶苦茶だな。よくそれで処刑執行者になれたものだ」


「なった訳ではない。さっきも言ったが、ギルド長の依頼での臨時だ。こんな事、何度もやる気はない」


「それもそうだ。俺も結婚を期に処刑執行者を辞めた。その上、直ぐに子供が出来たから、探索者を引退して宮仕えしているからな」


 流石は経験者か。

 よく分かっているな。


「まあ、稼ぎは良かった。だが、命には代えられない」


 稼ぎに未練はあるのか。

 それでも、家族の方が大事とは。

 探索者をやっていたにしては珍しい。

 まあ、人それぞれか。


「話が逸れたな。対象を処刑しても、無事に戻れなければ意味がないだろう。ギルド長に利用された不幸な後輩を助けてやろうか」


 どうやら、脱出の手助けをしてくれるらしい。

 最後の手段を採らなくて済みそうだ。


「ついてこい」


 隊長格の男が、俺に背を向け進んでいく。

 俺は領主の首を回収すると、隊長格の男についていった。



「ここは……」


 地下の一室。


「ここには、探索者ギルドまで続く非常用の脱出路の入口が隠されている。これを使って脱出しろ」


 隊長格の男はそう言うと、本棚を横から押して入口を露にする。


「何故、そこまでしてくれる?」


 普通は、襲撃者の脱出を手助けする護衛などいない。

 何らかの思惑があるのだろう。

 それを問い質す。


「さっきも言った筈だが。ギルド長に利用された不幸な後輩を助けてやろうと思っただけだ。最後の手段を使われたら、俺を含めて困る者が多数いる。そうなると後が面倒だからな」


 要するに、最後の手段を採らせない為か。

 あの数の衛兵を相手するのは、全力でも無理だ。

 おそらく、生きて帰れないだろう。

 それでも、ある程度は道連れにしている筈だ。


「そうか……感謝する」


 そう礼を言ってから、脱出路を進んでいく。


「無理かも知れないが、ギルド長に利用されない様に気をつけろ。命が惜しかったらな」


 背後から掛けられる声。

 俺への忠告だろう。

 出来るだけ気をつけるが、上手くいくか分からない。


 後ろからの光が弱くなっていく。

 おそらく、隊長格の男が脱出路の入口を閉ざしたらしい。

 通路は明かりがなく、暗闇に覆われている。

 だが、直ぐに目が慣れ、明かりがあるのと同様に見える様になった。

 通路は一本道。

 進み続ければ、出口に着くだろう。

 ダンジョンとは異なり、モンスターも出ない。

 散歩気分で脱出出来るな。


 通路をひたすら進んでいく。

 時折、ネズミが走っているのを見かける。

 餌はどうしているのか。

 疑問が浮かぶが、壁面を見て理解した。

 石や岩を積み重ねて作られたもので、かなり古い。

 所々に欠けがあり、そこからネズミが出入りしている。

 おそらく、外に繋がっているのだろう。

 ネズミが大規模な群れを作っていたら、駆除は大変そうだが。

 ネズミを暇潰しに見ながら歩く内に、石造りの階段に着く。

 石造りの階段を上がると、物置らしき場所に出た。


「ようやく外か……」


 目の前の引き戸を開け、外に出る。

 外は真っ暗で、星が瞬いていた。

 辺りを見ると、遠目に訓練用の的が並んでいるのが見える。

 どうやら、ここは訓練場の様だ。

 あの男の言った通り、脱出路は探索者ギルドまで続いていたらしい。

 無事に戻れた事を、あの男に感謝する。

 そして、ギルド本部に向かって歩き出す。

 依頼遂行をギルド長に報告する為に。


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