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第五十八話 領主強襲②護衛殲滅

「何者だ?」


 近付いてくる衛兵が問う。


 ちっ、気付かれたか。

 まあ、あれだけ派手に音をたてて門扉を抉じ開けたら、馬鹿でも様子を見に来るだろうな。


 衛兵の問いを無視して、館の玄関目指して駆け続ける。


 悪いが、お前らと遊んでいる暇はない。


「侵入者か!?」


 衛兵の一人が、笛を取り出して吹き鳴らす。

 甲高い音が辺りに響きわたった。


 不味いな。

 出来るだけ戦闘は避けたかったが、この分だと無理か。

 仕方無い。

 全て倒して、突き進むだけだ。


 玄関の扉が、目の前に映る。


 取り敢えず、館に入り込めば何とかなるだろう。


 右手の長剣を魔法倉庫にしまい、右腕のブレイクナックルを起動。

 気を纏わせておく。


 玄関が目前に迫る。

 その扉を、気を纏い、駆ける勢いを乗せた右腕のブレイクナックルで殴りつけて破壊。

 そのまま転がる様に、館に突入する。


「痛っ……」


 頭を振りながら、起き上がる。

 目に映るのは、奥への扉と上への階段。


「ここは……玄関ロビーか」


 領主がいるとすれば……上か。

 衛兵も追い掛けてきているだろう。

 急がなければ。


 そう判断し、慌てて階段を駆け上がる。


「中に入られたぞ」


「どうする? 中へ入るか?」


「俺達では、許可が無い限り中に入れんぞ」


 そういった声が、聞こえてくる。

 どうやら、衛兵達が玄関に集まってきた様だ。

 だが、直ぐに館へ入って来れないのは有りがたい。

 許可云々言っていたから、多少の時間は稼げた様だ。


 取り敢えず目に付いた扉を開け、奥へ進む。

 見えるのは、一本道の廊下。

 左右の壁には、複数の扉。

 あちこちに、豪華な装飾品が飾られている。


 この辺りに領主はいないだろう。

 派手な騒ぎになっている。

 入口に近いこの辺りには近付かない筈だ。

 それに、人の気配も無い。

 先に進もう。


 領主を探す為、廊下を進む。

 人の気配を探りながら。

 先を見ると、突き当たりになっている。

 廊下は左右に伸びている様だ。

 突き当たりまで行ってから、どちらに進むかは考えよう。


「どっちにするか?」


 ここがダンジョンなら硬貨を投げて決めるが、それは出来ない。

 ここはダンジョン以上の敵地。

 あまり時間は掛けられない。

 依頼を達成する為にも、いい加減な決め方は止めておく。

 気配を探って、人の多い方にするか。

 領主は、多数の護衛を引き連れている筈。

 今の状況なら、身を守る為に必ずそうしているだろう。


 意識を集中して、廊下の左右の人の気配を探る。


 右は四人。

 左は……七人か。


「左だな……」


 廊下を、人の気配が多かった左に進んでいく。

 感知した気配に近付いているのを感じる。

 更に進んで行くと、人の話し声が聞こえてきた。


「一体、何が起こっているのだ?」


「外の様子からして、侵入者の様です」


「窓から見えた外の様子を察するに、侵入者は既に館に侵入している様ですな」


「な、何だと!?」


 人二人が剣を振るえる幅の廊下。

 豪華な服を着た男を中心に、武装した五、六人の男が周りを守る様にしてこちらに近付いて来る。


 豪華な服を着た男が、領主なのだろう。

 周りの奴らが護衛か……。

 まだ。こちらには気付いていない様だ。

 なら、こちらから仕掛けよう。


 右腕のブレイクナックルにマナを込め、起動。

 回転を始めると、直ぐにその速度が上がっていく。

 辺りに響く、甲高い音。


「ブレイクナックル!」


 引き絞られた様に力を貯めたブレイクナックルを解き放った。

 空を裂く様に、高速回転しながら飛んでいくブレイクナックル。

 それが右側の二人を掠める。

 それだけで、右側の二人を纏めて薙ぎ払ったかの様に側面の壁に叩き付ける。

 奥の方から聞こえてくる破壊音。

 どうやら、奥の壁を突き破ったらしい。

 後で回収するのは、かなり面倒そうだ。


「な……何だ、今のは!?」


「二人、やられたぞ」


「狼狽えるな! 侵入者だ。応戦用意!」


 混乱している領主と護衛達。

 だが、先頭の奴だけは、冷静さを失っていなかった。

 おそらく、奴が隊長格だろう。

 奴の言葉で、護衛達が冷静になる。


「さっさと、あやつを始末しろ! 報酬は弾むぞ」


 領主の一言が、隊長格以外の護衛の目の色を変えた。


「たった一人で……舐めやがって!」


「さっさと殺って、特別報酬を頂くか」


 左側にいた護衛の二人がこちらに向かってくる。

 隊長らしき奴ともう一人は、それぞれ領主の右手前と左奥に立ち位置を変えていた。

 二人は何かあれば直ぐ動ける様、周囲に気を配っている。


「たった一人で忍び込んだ奴だ。甘く見るな」


 隊長らしき奴が、近付いてくる二人に忠告する。


 ちっ、余計な事を言う。


 そう思ったが、二人を同時に相手取る余裕は無い。

 取り敢えず、長剣を魔法倉庫から取り出した。

 長剣を構えてから、思い出す。

 腐れ甲冑を使い、何か企んでいる連中が作った仮初めの世界での事を。


 武神流気闘法“気刃”。

 練習用の的に丁度いい。


 錬気する気の量を上げ、長剣に集中させる。


「おい……こいつ、どっかで見たこと無いか?」


「ああ。確か……“無能”とかいいながら、ガベスの野郎を決闘で死体も残らない位に殺ったって奴だ。まあ、本当か嘘かハッキリしない噂だがな」


「眉唾物の噂で、酒のさかなにはなったが。ガベスの間抜けっぷりが特に」


「そうそう。新米に殺られたって、いい笑い話になった」


 二人で下らない事を話しながら笑い、近付いてくる。


「なら、その身で確かめるんだな。お前達も、あのクズ野郎と同じ“無能以下”になるだけだ」


 近付いてくる二人の話に口を挟み、挑発する。


「後、何故俺がここにいるのか、分かって無いだろう。まあ、頭が空っぽの馬鹿に分かる訳無いか」


 二人共、腕っぷしは兎も角、頭が空っぽそうな面をしている。

 思わず、口にしてしまっていた。

 案の定、二人は顔を真っ赤にして激高する。


「ふ、ふざけやがって!」


「ぶっ殺す!!」


 怒り狂って長剣を振り上げ、駆けてくる二人の護衛。


 それを見て、鼻で笑う。

 安い挑発に簡単に乗っている以上、馬鹿なのは確かだ。

 この様子なら、これから放つ不完全な“気刃”は避けられないだろう。

 よく見れば、この二人は防具を身に付けていない。

 何処を狙えば、確実に動きを止められる?

 脚、それとも腹部か……。

 二人の護衛は、長剣の間合いに後五、六歩まで近付いている。

 迷っている暇は、もう無い。


「ハァァァァァァァァ!」


 気を放出しながら、長剣を横薙ぎに振り抜く。

 武神流気闘法“気刃”。

 ピシリ――長剣から聞こえる微かな音。

 俺に向けて降り下ろされる、二振りの長剣。

 その剣身が、根元から折れる。


「な……」


「どういう事だ!?」


 不完全な“気刃”。

 長剣は斬ったものの、二人の護衛は斬れなかった様だ。


「チッ……」


 奴らは無傷か。

 剣身を斬られ、愕然とし隙だらけの二人の護衛。

 舌打ちしながら、止めを刺す為に駆け出す。

 左側の護衛の頭にパイルバンカーの尖端を突き付け、作動ボタンを押す。

 風を切る音と共に打ち出された長槍が、護衛の頭を貫通。

 左側の護衛の体が、力を失い崩れ落ちる。

 残った右側の護衛に向き直りつつ、その勢いを利用してその首筋を長剣で突く。

 長剣が肉を貫く感触。

 それを感じると同時に、長剣が急に軽くなる。


「んっ?」


 長剣に目を遣ると、剣身が根元から折れていた。

 折れた剣身は、護衛の男の首に刺さったまま。


 やはり、不完全な“気刃”を放った時に罅が入っていたか。

 どうやら、安物の剣では気闘法の技に耐えられない様だ。

 だが、生まれ変わる愛用のバスタードソードなら耐えられる筈。

 その為にも、さっさと領主を処刑しなければ。


 奥の方から、壁か何かが破壊される音が聞こえてきた。


「何だ?」


 俺だけでなく、領主や残りの護衛達もまた、破壊音がした奥の方を見る。

 何かが、甲高い音と共に近付いてくるのが分かった。

 その何かは、領主の左後背にいる護衛を直撃。


「ギャアアアアアアァァ!?」


 そのまま、護衛は悲鳴を上げながら壁に張り付ける様に叩き付けられた。

 それまで聞こえていた甲高い音も途絶える。

 壁に叩き付けられた護衛の腹部に突き立つもの。

 それは、見覚えのあるもの――ブレイクナックルの筈だが、何故か色が黒ずんでいる。


 どういう事だ?


『それは……』


 俺の疑問に答えかけた腐れ甲冑が、何故か口ごもる。

 珍しい事だ。

 何時もなら、毒舌混じりで説明する癖に。

 余程、言いにくい事なのだろうか。

 それなら、尚更言わせないとな。

 俺にとって不利益な事だと、今後のダンジョン攻略に支障が出てくる。

 それに、これまで腐れた事をしてくれた分の意趣返しになるだろう。


 早く言え。


 俺は、腐れ甲冑に強く命じる。


『それは……使用したブレイクナックルに怨霊が憑いているからです』


 怨霊だと……。

 何時、そんなものに憑かれた?


マスターの食事に毒を盛った者を捕まえた時です』


 蓑虫にブレイクナックルを打ち込んで、ギルドの部屋の扉と壁を破壊した時か。

 たしか……打ち込んだブレイクナックルが転がっていたのは、何もない殺風景な部屋だったが。

 まさか……怨霊を封じていたのか?


マスターの想像の通りです。あの部屋には、怨霊が封じられていました。マスターには見えなかった様ですが、床の魔法陣と四方の壁に施されていた魔法陣に因って、厳重に封印されていた様です』


 壁を破壊した事で封印が解けたらしい。

 俺が原因か。

 厳重に封印していた、厄介な怨霊を解放したらしい。

 既に、死ぬまで解けない呪いが掛かっている様なものだ。

 今更、怨霊程度で驚かない。


『ですが、既に従えていますので、何も問題はありません』


 怨霊を従えただと。

 そんな事が出来るのか。

 その辺は、気にしたら負けだろう。

 しかし、問題無いのなら、何故口ごもったのか。

 その理由が気になる。

 だが、ブレイクナックルが問題無く使えるなら、気にする必要は無いか。


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