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第五話 魔法武具屋タイラント

 探索者ギルドを出てから、着ている服がボロボロだという事を思い出した俺は、慌てて古着屋に直行。

 予備を含めて複数着買い、着替えて小綺麗になった俺は、失った防具を買い換える為に武具屋に向かった。

 

 

 魔法武具工房タイラント。

 

 イリアの紹介で様子見に行ったが、品質は良く価額も良心的な為、世話になっている。

 俺のバスタードソードもここの製品で、一目惚れしてしまい後の事を考えず勢いに任せて買ったのはいい思い出だ。

 

 魔法武具工房の名が示す通り、他の武具屋が基本的に取り扱っていない魔法がかかっている武具も取り扱っている。

 通常、魔法がかかっている武具を手に入れるには、ダンジョンに入ってモンスターを倒すしかない。

 効果の弱い物なら、ダンジョンの浅い階でも稀に入手出来るが、強い物は深層でしか入手出来ない。

 だが、ここは受注販売ではあるが、魔法がかかっている武具を製造・販売しているのである。

 一度も売れた事はないらしいが。

 もちろん、俺も金がないので買っていない。

 買えるだけの金があったら、とっくに何か買っている。

 扉をくぐり、中に入る。

 

 中は普通の武具が、種類別に整然と陳列されている。だが、お買い得品だけは無造作に樽に放り込まれていたが。

 通路を進み、奥のカウンターに向かう。

 

「大将がいないのは何時もの事だが、店番すらいないとは……」

 

 店内を見渡すが、誰もいない。

 こんな時間に来る客は、まずいないのだろう。

 俺自身、夕方前に来るのは初めてだ。

 諦めて出直そうと考えた所で声がかかる。

 

「よう、アルテス。お前がこんな時間に来るなんて珍しいな」

 

 短く切り揃えた灰色の髪、筋骨隆々のがっちりした体の男が口に笑みを浮かべて立っていた。

 この店の主人で、自称魔法鍛冶職人のガント・タイラントだ。

 俺は大将と呼んでいる。

「大将か。呼ぶ手間が省けて丁度良い。悪いが、買取を頼む」

 

 そう言って戦利品の武具全てを収納の指輪から出し、カウンターに積み上げる。

 

「おいおい。珍しくこんな時間に来たかと思えば、何て量を出しやがる。時間が掛かるから、店の中で待ってろ」

 

 俺を追い払いように左手を動かし、大将が武具の確認を始めた。

 一点一点、じっくり見ている。これは時間が掛かりそうだ。

 暇潰しに店内を見て回る。

 時折、

 

「おおっ!!」

 

 とか

 

「これは!?」

 

 と奇声が聞こえて来るが、いつもの事なので無視。

 使えそうな武器を探すことに没頭する。

 とりあえず、投擲用にダガーを十本手に取る。

 その後、今日の目的である軽量の防具を物色している所で、声がかかった。

 

「アルテス、査定が済んだからこっちに来い」

 

 呼ばれてカウンターに戻ると、大将の後ろに武具類が山積みになっている。

 カウンター上に、オークが使っていた武具が置かれていた。

 

「俺の後ろに積んでいる分で三万ジールだ。大剣と甲冑は、役に立つから使っとけ」

 

「剣は有るし、そんな重い鎧着けて戦えないから要らん。買い取ってくれ」

 

 腰のバスタードソードの柄を叩き、拒否しておく。

 

「訳も無く使えとは言ってない。大剣は予備の武器に持ってろ。予備がダガーだけじゃ心許ないからな。先に進めば、ダガーじゃどうにもならん奴がいくらでもいる。バスタードソードを使っているなら、何とか使えるだろう」

 

「……」

 

 かつては名の知れた探索者だったらしい大将の経験からくる言葉に、まだ新米でしかない俺は全く反論出来ない。

 

「それに甲冑の方だが全く問題無い……所か、使うなら最高級の物だ。簡単に調べてみたが、複数の魔法陣や魔法文字が刻まれている。わかっているのは、着用者に合わせて寸法を調整するもの、重量軽減、身体強化の三つ。幾つかわからんのもあるが、呪いの類ではない様だ。着ればわかるだろうな。これと全く同じ物を買うとしたら、一億ジールは下らん。手放したら、二度と手に入れられん。死にたくなかったら使っとけ」

 

 大将は、本当に俺の事を心配してくれているようだ。

 黙って買い取っていれば、ボロ儲けだったろうに。

 

「わかったよ。使っておく」 

 

「ちょっと待て」

 

 大剣と甲冑を収納の指輪に仕舞おうとした俺を、大将が止める。

 

「何だ、大将?」

 

「甲冑を着けてみろ。いきなり着て、今まで通り動けると思っているのか? 重量軽減と身体強化の魔法もどれぐらいの効果か解ってない。試しておいた方がいい」

 

 確かにその通りだ。

 装備の変更・追加のことも含めて考えると、一度着てみないと判らない。

 

「そうだな。着てみるから手伝ってくれ」

 

 カウンターから回ってきた大将に手伝ってもらい、甲冑を纏う。

 最後に兜を被った瞬間、首筋に微かに痛みを感じた。

 

「んっ!? 気のせいか?」

 

 痛みが一瞬だったので、寸法調整の効果発動の際に金属部分が接触したと思い気にすることを止めた。

 

「どうした? 何か問題でもあるのか?」

 

 大将が不思議そうな顔で聞いてくる。

 

「いや、特にない」

 

「ならいい。腕を上げてみろ」

 

 言われた通り、右腕を水平まで上げる。

 その瞬間、視界が眩い光に包まれた。

 あまりの眩しさに、思わず目を瞑ってしまう。

 暫くして瞼を開くと、鈍色だったはずの甲冑の色が、鮮やかな蒼色に変化していた。

 

「おい、大丈夫か!? 急に光がお前を包み込んで、治まったと思えばいきなり色が変わっちまって」

 

 あまりな出来事に、普段は何事にも動じない大将が慌てている。

 奥さんの前では、いつも借りてきた猫の様に大人しいのだが。

 大将を落ち着かせるために返事をする。

 

「大丈夫だ。ただ……目が少し痛い。それと甲冑の重さを全く感じない」

 

「そ、そうか。それならいい。全く……心配させんじゃねぇ」

 

 そう文句を言いながら、俺の全身を確認している。

 

「寸法調整は……問題無いな。重量軽減は効いている様だな。身体強化は……ここじゃ無理か。色が蒼色に変わっちまって、兜と胸元、両肩に菱形の何かよく解らん水晶が装飾よろしくくっついているな……」

 大将がほぼ聞き取れない声で呟いている。

 端から見ているとなんか不気味だ。

 逃げ出したくなったのは、気のせいではない。

 場の雰囲気を変えるため、大将に声をかける。

 

「身体強化を試したいが、場所はあるのか?」

 

「……っと、そうだった。裏庭でやるか。付いて来い」

 

 何か考え事をしている様な大将の後を追いかけ、カウンター裏の出入口から裏庭に移動。

 見たところ、性能テスト程度には問題ないだろう広さがある。

 宿の裏庭はさほど広くないので、思う存分稽古出来ない。

 ここを稽古場として使わせてもらえたら、きっと満足できるまで稽古が出来る。

 後で大将に頼んでみるか。

 

「大将、どうしたら身体強化は発動するんだ?」

 

 発動の方法がわからないので確認する。

 

「おっと……起動型の魔法武具は初めてか。武具に限らず、魔道具に付与されている魔法の発動型には二種類ある。一つは、周囲に漂うマナを吸収して効果を発揮し続ける“永続発動型”。もう一つが、念じるなりスイッチを押すなりして起動し、マナを消費する事で効果を発動する“起動発動型”だ」

 

 起動発動型の話を聞いて、左手に着けている強化の指輪を思い出す。

 ほんの少しの時間起動しただけだったが、ほとんどのマナを消費してしまった。

 この指輪も後で調べてもらった方がいいだろう。

 

「起動発動型には幾つか種類あるが、取り敢えずお前が使うだろう物だけ教えておく。一つは、一定量のマナを消費して効果を発揮する“定量消費型”。一定時間効果が持続するから使いやすいが、それなりの効果しかない。もう一つが、マナを消費し続ける事によって効果を発揮する“継続消費型”。こいつは扱いが難しいので使う奴はほとんどいないが、強力な効果を秘めている。因みにこの甲冑の身体強化は継続消費型だ。使いこなせないと、あっという間にマナを消費し尽くしてひどい目に遇う。気を付けろよ」

 

 大将め。しかめっ面で説明していながら、最後の一言のところで口元がニヤニヤ笑ってやがる。

 

「使いこなせるか。そんな物」

 

「気合と根性でやれ」

 

「気合と根性が有っても出来るか。それに、もう使ってきた。どこか壊れてもいいなら喜んでやるぞ」

 

 大将の言葉を拒否した上で、わざとどこか壊すと暗に言っておく。

 

「ちっ、なら試さなくてもいい。ん……もう使ってきただぁ!? どういう事だ?」

 

「この甲冑や大剣と一緒に、強化の指輪を手に入れたんだよ。帰りに使ってみたら、マナらしき物を根こそぎ持っていかれた」

 

「そうか、継続消費型の指輪か。災難だったな。まあ頑張って、使いこなせる様になるんだな」

 

 簡単な説明だけで、俺が陥った状況を把握した様だ。

 肩を震わせて笑いながら大将は俺に背を向け、店に戻って行く。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 付いて戻ろうとしたが止められた。

 待っている間は暇なので、軽く体を動かして甲冑の具合を確認しておく。

 そうしている間に、大将は槍が付いた細長い盾の様な物を持って戻って来る。

 

「何だ、それは?」

 

 大将が脇に抱えている物を見ながら聞く。

 

「これか? こいつは“パイルバンカー”。俺が造った魔法武器だ。斥力と引力の魔法の効果を応用して、超高速で槍を打ち出す。扱いは難しいが、理論上ドラゴンの防御すら撃ち抜く」

 

 大将は胸を張り、自慢気に説明を続ける。

 

「こいつは、パイルバンカー本体に細長い盾を取り付けて、本体の保護を兼ねて防御にも使える様にしてある」

 

 説明を聞いているうちに、パイルバンカーから目が離せなくなっている自分に気付く。

 こいつを使ってみたい。

 そう思う自分に驚く。

 こんな事は、今使っているバスタードソードの時以来二度目だ。

 

「まだ試作品だが、稼働テストは済ませている。後は実戦テストだけなんだが、試してくれそうな奴がいなくてな。テストしてくれる奴を探しているところだ」

 俺の心のうちを見透かしたようににやにやして俺を見ながら、大将が暗に『テストしてくれるよな』と圧力を掛けてきた。


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