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第四十七話 女魔族との決闘

「……き、貴様! 決闘の作法を知らないのか!!」


 鎧の奴――女、流暢な話振りから魔族らしい――が緑髪を靡かせ、肩を怒らせながら近付いてきた。

 近付くにつれ、その表情が見える。

 出来るならば、見たくないもの。

 その面は、額に青筋を浮かべ、目がつり上がっている。

 まるで鬼女の様だ。

 だが……イリアのあれ程ではない。

 細身の曲剣を構えるあれに比べれば、どうということはないか。

 可愛いものだ。

 決闘云々と喚いているようだが、知った事ではない。

 俺をここに誘い込んだのは、おそらくこいつだろう。

 立ちはだかるものは、全て叩き潰す。


 魔法倉庫から、パイルバンカーと長剣を取り出して装備。

 奴の後ろに転がっている“ブレイクナックル”は、何とか回収しないといけないだろう。


「知った事ではないだと!? き、貴様! 私のしもべを虫けらの様に殺しておきながらよくもぬけぬけと!!」


 そう思ってはいたが、言った記憶は無い。

 無意識に、口にしていたのだろうか。


 奴は、あの変態魔族の仲間なのだろうか。

 まあ、どうでもいい事だ。

 殺る事に変わりはない。

 少しでも殺りやすくする為に、挑発しておく。


「馬鹿か? 襲い掛かってきたのを返り討ちにしただけだ。殺そうとする以上、殺される覚悟はしておけ」


 そう言い放ち、長剣を奴の首に叩きつける。

 金属同士のぶつかる音が響く。

 叩きつけた長剣は、首筋の前に捩じ込まれた奴の長剣に防がれていた。


 その様子を確認しながら、腐れ甲冑に可変盾を出させる。

 それと同時に、右奥で機能を停止している“ブレイクナックル”を回収する為に駆け出す。


「くっ……ひ、卑怯な。不意討ちしておいて逃げるのか!?」


 後ろから喚いているのが聞こえるが、無視する。

 魔族相手に生き延びる為だ。

 手段を選ぶ気は全くない。

 

 取り敢えず、体勢を立て直さなければ。

 魔法倉庫から取り出したマナポーションを飲み、マナを無理矢理回復させる。

 回復具合からみて、九割方位には戻っただろう。

 空になった瓶を魔法倉庫に放り込み、“ブレイクナックル”目指して駆ける。

 奴が追い掛けてくる気配はない。

 時折、背後から衝撃を感じる。

 円形に形を変えた可変盾が、完全に防いでいる様だ。

 直撃は一発も無い。

 だが、熱かったり冷たかったりする余波が、背後から俺を襲う。

 どうやら、奴は魔法騎士らしい。

 厄介だな。

 雷系の魔法が飛んで来ないだけ、まだましか。

 あれを直撃で喰らうと、身体が中から焼かれた様な痛みとともに、麻痺した様に動きが鈍くなる。

 それだけは、何としても避けたい。

 それを考えたら、可変盾は本当に使える。

 手に持たなくてもいい上、勝手に防御してくれるのだから。


 俺は、可変盾の自動防御を頼りに主の間を駆け回り、何とか全ての“ブレイクナックル”を回収した。


「待たせたな。これからが本番だ」


 奴に向き直って言い放ち、長剣を掲げた。

 ゆっくりと歩きながら、鬼女の様な形相で駆けてくる奴を分析する。


 もう、こいつは鬼女でいいだろう。

 “ブレイクナックル”四発の先制攻撃を、難なく凌いだ堅牢な防御。

 最低でも二種類の属性魔法を使う、魔族の魔法騎士。

 長期戦になれば、魔族との戦闘を想定していなかった俺では、勝ち目は全く無い。

 出し惜しみしている場合ではないか。

 なるべくなら使いたくは無かったが、ここで死ぬ訳にはいかない。

 大将により生まれ変わった、愛用のバスタードソードを手にする為に。


 腐れ甲冑に、身体強化の発動を指示する。

 だが、発動する様子が一切無い。

 疑問に思い始めた所で、

『この戦闘での、身体強化の発動は一切認めません。相手は下位魔族の様なので、腕を磨くには丁度いいでょう。自力で何とかして下さい』


 という、ふざけた返事が返ってきた。

 だが、まだ手はある。

 左手の身体強化の指輪が。


 指輪の効果を発動させる為、指輪にマナを注ぎ込む――

 が、指輪の効果が発動しない。


『先程伝えた筈です。身体強化の魔法効果の使用は一切認めないと』


 腐れ甲冑め、やってくれる。

 命懸けで戦って強くなれとは……無茶な事を簡単に言ってくれるものだ。

 普通なら、下手しなくても死ぬ。

 奥の手が使えない以上、出来る事だけで何とかするしかない。

 出来るとは思わないが、やれなければ俺は死ぬ。



 悠長に、相手を分析している場合ではなかった様だ。

 何時の間にか目の前まで接近してきた鬼女が、長剣を叩きつけてくる。

 それを可変盾の自動防御に任せ――丸投げとも言う、長剣で逆襲の一撃を顔面に繰り出す。


 金属同士がぶつかり合う甲高い金属音が二つ、主の間に響く。

 可変盾が鬼女の長剣を防いだもの。

 そして、俺の長剣が鬼女の盾に止められたもの。


 まだだ。

 まだ、俺の攻撃は終わってない。


 左腕を鬼女に叩きつける様に突き出し、狙いを定めずにパイルバンカーを作動。

 打ち出された長槍が、鬼女の右肩目掛けて伸びていく。

 風切り音と共に、何か硬いものを穿った感覚。

 確認すると、俺の長剣を受け止めていた鬼女の盾。

 その先端部が伸び、長槍から鬼女を守っていた。


「チッ……」


 それを見て思わず舌打ちし、仕切り直すために一旦後ろに下がる。

 鬼女の盾も可変盾だったのか。

 だが、俺のものとは異なる部分もある。

 鬼女の可変盾には、水晶が付いていない。


『あれはマスターの物の簡易量産品です。おそらく魔族が造った物でしょう。マスターが持つ、父様のお造りになられた物と比べたらガラクタ同然。その証拠に、傷付いた所が修復されていません』


 俺の疑問に、腐れ甲冑が答える。

 ただ、ガラクタ云々の所で鼻で笑った様な気がしたが、多分、きっと俺の気のせいだろう。

 鬼女の盾を確認する。

 腐れ甲冑の言う通り、パイルバンカーが穿った所はそのままだ。


 さっきの攻防でハッキリしたが、掛け値無しの実力は鬼女の方が上。

 俺の動きを読んでいるのだろう。

 攻撃がことごとく防がれている。

 だが、鬼女の防御の要である可変盾は破壊可能。

 簡単に戦い方を変えられる程、俺は器用ではない。

 なら、防御されようが関係無い。

 防御ごと破壊し尽くすだけだ。

 その為だけに、後先を考えず錬気して気の質と量を限界まで上げていく。


「一つだけ教えてやろう。貴様の戦い方は、全て分析済みだ。つまり、貴様の攻撃は私に掠り傷一つつける事すら出来ない」


 先程の攻防で、俺の実力を把握したのだろう。

 冷静さを取り戻した鬼女が嗜虐的な笑みを浮かべ、ゆっくりと歩いてくる。


「フフ……これで、貴様に殺された僕達の無念が晴らせる」


 鬼女の寝言を聞き流し、心の中で宣言する。


 残念だが、思い通りにはいかせない。


 パイルバンカーに穿たれた痕がある鬼女の可変盾。

 それを見た瞬間から、俺の内に潜む破壊衝動が咆哮し続けている。


 全てを破壊し尽くせと。


 先ずは、邪魔な可変盾から破壊しようか。


「……エンチャント・カオス」


 可変盾、パイルバンカーの長槍、長剣に、俺が使える唯一の強化付与魔法をかける。

 魔法の対象にした三つの武具が、虹色に輝く。

 それを横目で確認し、駆け出す。

 鬼女に向かって。


「無駄な足掻きを……。安心しろ。貴様は、楽には殺さない。苦しみ抜いて死ね」


「無駄? 無駄かどうか……やってみなければ分からんさ!」


 言い放つとと同時に、虹色に輝く長剣を鬼女の可変盾に叩きつけた。

 予想通り、可変盾に防がれる。

 鬼女の攻撃は、可変盾が防ぐ。

 そして、パイルバンカー――虹色に輝く長槍を鬼女の可変盾に打ち込む。

 ここまでは、前と同じ。

 だが、虹色の長槍は穿つでは済まさなかった。

 紙切れ同然に、鬼女の可変盾を貫通。


「何!? 私の盾が……貫かれただと!! それに何だ……その輝きは?」


「パイルバンカーを舐めるな……と言いたい所だが、こいつは合わせ技だ」


 驚愕の表情を浮かべている鬼女の疑問に、少しだけ答えてやる。

 実際、エンチャント・カオスの効果に加え、限界まで錬気して身体から溢れ出た気を纏った長槍の一撃。

 思わぬ副産物だが、それ位の威力は無いと、無茶な錬気をしている意味はない。

 まあ、混沌魔法については一切教えてやる気は無いが。

 動揺している鬼女の隙を突き、畳み掛ける様に虹色に輝く長剣、パイルバンカーを連続でその盾に叩き込み続ける。

 鬼女の可変盾に、虹色に輝く長剣による剣創とパイルバンカーによる穴が次々と刻み込まれていく。

 俺の連続攻撃で攻撃の機会を見出だせない鬼女の散発的な反撃は、可変盾が完全に防御している。

 そして――連続攻撃の結果、鬼女の可変盾に大きな亀裂が刻み込まれた。


 その瞬間、金属が砕ける様な音と共に、虹色に輝く長剣、その剣身が回転しながら宙を舞う。


「チッ……折れたか」


 宙を舞う虹色の剣身を見て、思わず呟く。


『其処らで拾った物を、整備もせず使っていたのです。折れて当然ですね』


 腐れ甲冑の呆れを含んだ口調の解説。


 保険として、売らずに持っていた物だ。

 折れても惜しくない。

 だが、今折れなくてもいいだろう。

 だが、済んだ事を言っても仕方無いか。


 折れた長剣の柄を鬼女に投げつける。

 パイルバンカーを可動盾に叩きつけつつ、左腕以外の四肢に“ブレイクナックル”を装備。

 同時にマナを注ぎ、起動。

 未だエンチャント・カオスの効果が失われていないのか、装備した三つの“ブレイクナックル”は今だ虹色に輝いている。

 そのまま、唸りをあげて回転する右腕の“ブレイクナックル”を鬼女の可変盾に叩き込む。

 身体から溢れ出る気を纏った、“ブレイクナックル”の一撃。

 その威力は、これ迄の攻撃で風穴が空き、数多の亀裂が走る鬼女の可変盾を粉々に打ち砕いた。


『ば、馬鹿な……私の可動盾が破壊されただと!?』


 砕かれた可動盾の残骸を見て、茫然と呟く鬼女。

 可変盾は、ご自慢の物だったらしい。

 茫然とする鬼女との間合いを詰め、隙だらけの鬼女の腹部に左膝を入れる。


「ぐっ……」


 呻く鬼女の腹部に、続けて右脚の蹴り。

 そのままの体勢から、


「ブレイクシュート!!」


 右脚の“ブレイクナックル”を放つ。


 “ブレイクナックル”の発動により、放物線を描く様に飛ばされる鬼女。


「まだだ……ここで決めさせてもらう。ブレイクシュート!!」


 左脚を振り抜き、その無防備な身体に向けて、二発目の“ブレイクナックル”を放つ。


「ブレイクナックル!!」


 更に、右腕の“ブレイクナックル”を放った。

 三発の“ブレイクナックル”を喰らった鬼女は、壁に叩きつけられ、ずり落ちる。

 その様を見ながら、鬼女に止めを刺す為に歩いていく。

 右腕に、四つ目の“ブレイクナックル”を装備しながら。


 鬼女の様子を見る。

 項垂れ、口や鼻、右腕から血を流して身動きしていない。

 鬼女の鎧を見ると、胸部、腹部、右肘が、何かに抉られた様に凹んでいる

 鬼女を壁に叩きつけ、ここまでの威力を見せた三つの“ブレイクナックル”。

 鬼女の側で虹色の輝きを失い、機能を停止していた。

 鬼女の長剣も柄が血に濡れ、近くに転がっている。


 放置したままだと、止めを刺すのに邪魔か。


 そう判断し、鬼女の長剣を手の届かない所に蹴り飛ばす。

 これで反撃は無い筈。


 そうしてから、鬼女の前に立つ。


「……くっ……殺せ……」


 観念したのか。

 血を吐きながら、呟く鬼女。


 パイルバンカーを鬼女の頭に突き付ける。


「お望み通り、殺ってやろう……死ね」


 パイルバンカーの作動ボタンに指を掛ける。

 狙いを定めてから、作動ボタンを押し込む。

 その瞬間、


「待ちなさい!」


 その声が聞こえたと同時に、俺は右に弾き飛ばされた。


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