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第四十六話 実戦テスト

 ダンジョン地下一階。

 俺は、魔物を探して通路を進んでいる。

 昨日、大将に押し付けられた“ブレイクナックル”の実戦テストの為だ。

 脚に着けた“ブレイクナックル”の作動実験中、腐れ甲冑が俺の意思を無視して勝手に俺に装着。

 “ブレイクナックル”を前の可変盾の時同様に、自らの装備として取り込んだのだ。

 その際に、稼動の為の魔法陣を俺に合わせて最適化。

 本体の色も甲冑と同じ蒼を基調に、手首と足首側の端が黒で縁どったものに変化。

 ただし、その重量に変化は無かった。


 腐れ甲冑曰く、


 新しい武具が欲しかった。

 俺をマスターとして相応しくなるように鍛えるのに丁度いい。


 そんなふざけた理由で、大将の物を勝手に取り込んだのだ。


 その後、変化した“ブレイクナックル”を点検していた大将が、小躍りして喜んでいたのには若干引いたが。

 小躍りした理由を聞いた俺が、大将に殴りかかっても仕方無いだろう。


 未完成以前の欠陥品を、俺に実験させていたのだから。


 俺を身動き出来なくなるまで痛めつけた後、必要な魔法陣を記録した大将が、

「創れなかった空間湾曲の魔法陣が手に入ったし、“ブレイクナックル”も完成した。本当に今日はいい日だ」


と笑っているのを見て、文句を言う気力も失せた。


 腐れ甲冑が少しでも手を貸してくれていれば、そこまでやられずに済んだのに。


 今はまだ無理だが、いつの日か……必ず腐れ甲冑を従えてやる。



 ダンジョンを進む俺の前に、四つの人型の影が現れる。

 遠目からだが、どう見ても探索者には見えない。

 魔物だろう。

 実戦テストの相手としては手頃な数。

 さっさと終わらせよう。

 右腕の“ブレイクナックル”にマナを込めようとして、まだ脚部のものを使っていないことに気付く。


「そろそろ、脚の方も使ってみるか」


 右脚の“ブレイクナックル”にマナを注ぎ込む。

 思っていたよりは、スムーズにマナを扱えている。

 昨日一日がかりの実験という名の特訓のお陰だろう。


 起動させるためのマナを注がれた“ブレイクナックル”はゆっくりと回転を始め、その速度を次第に上げていく。

 回転速度が上がらなくなった頃合いで、“ブレイクナックル”を放つ。


「ブレイクシュート!」


 解き放つ為の鍵となる言葉を右脚を振り抜きつつ、色々ある理不尽への怒りを込めて叫ぶ。

 放たれた“ブレイクナックル”は、矢を超える速度で右端の影に向けて飛んでいく。

 回避は不可能。

 目標に命中するまで追尾する。

 これは、今日何度かの戦闘で分かったこと。

 威力も通常種のゴブリン、コボルド、オークを一撃で粉砕している事で十分にある事が証明されている。

 どのくらいの魔物にまで通用するのかは、使ってみないと分からないが。


 “ブレイクナックル”が右端の影に激突。

 影を粉砕してから軌道を変え、その隣の影に向かっていく。

 それが繰り返され、影は全滅した。


 おかしい。

 俺は、右端の一体しか目標にしていない。

 それなのに、何故全滅したんだ?


 目の前で起こった現象に疑問を抱いた所で、放った“ブレイクナックル”が俺目掛けて戻ってきた。

 放った時の勢いのままの“ブレイクナックル”を、その進路上に慌てて開けた魔法倉庫で回収。

 右脚に装備する。

 装備しなくても、腐れ甲冑によって強制的に装備されるだろう。

 俺を鍛える為とほざいて。

 それよりも、“ブレイクナックル”の動作についてだ。

 おそらく腐れ甲冑の仕業だろうが、一応本人? に確認する。


『結論から言います。マスターの目標設定後、介入しました』


 やはり、予想通りやっていたか。


『あの程度の雑魚相手に、時間の無駄です。基本的に腕に装備している物と同じなのですから。違いは、腕に装備した時と脚に装備した時とで、放つ際の鍵となる言葉が異なるだけです』


 簡単に……ふざけた事を言いやがって。

 腕と脚――それだけでも使い方を筆頭に色々違いが出てくる。

 器用な方ではない俺は、それを一つ一つ確認し、慣れなければ使いこなせる様にならない。

 これまでの事を理解していないのだろうか。


 愚痴ってもどうにもならないだろう。

 腐れ甲冑が、考えを変えない限りは時間の無駄か。

 戦利品を回収するために歩き出す。



「魔晶石以外は駄目か……」


 “ブレイクナックル”は確かに威力はある。

 だが、地下一階の魔物には過剰な様だ。

 使っていただろう武具は、全て砕かれている。

 これでは、売ることができない。

 回収するのも、時間と労力の無駄だ。

 仕方無く、魔晶石のみを回収する。



「そろそろ昼時か……」


 ダンジョンに潜ってから二時間程か。

 俺の腹時計も昼食の時間を示している。

 休憩を兼ねて、昼食を摂ってもいいか。


 周囲を見渡すが、魔物の気配は無い。

 この分なら、落ち着いて休憩出来るだろう。

 通路の端に移動し、壁にもたれる。

 四肢の“ブレイクナックル”を魔法倉庫に収納し、錬気と気の循環を止める。

 その瞬間、疲労が全身を襲う。


「くっ……まだ、無理があるか」


 膝から力が抜け、崩れ落ちるように座り込む。


 二時間程度の気の連続行使でこの様とは。

 腐れ甲冑に改造強化された身体でも、俺の拙い気の制御では負担が大きい様だ。

 まだまだ、訓練が足りないらしい。


 反省はここまでだ。

 昼飯にするか。


 魔法倉庫から昼飯の包みと水筒を取り出す。

 包みを開き、具材を挟んだパンにかぶり付く。

 咀嚼し、水筒の水で流し込む。

 ゆっくり味わって食いたい所だが、いつ魔物が現れるか分からない以上仕方無い。


 パンを食い終わり、空の包みと水筒を魔法倉庫に放り込む。

 腹が満たされたのを感じながら、ゆっくり身体を休める。

 疲労を感じなくなった所で、錬気と気の循環を始める。

 循環させた気が、全身に隈無く行き渡ったのを確認して立ち上がる。

 立ち上がると同時に、魔法倉庫に収納していた“ブレイクナックル”が、俺の意思とは無関係に四肢に装備された。


 やはり、予想通りか。

 ダンジョンに入る際に、腐れ甲冑を装備したら、腐れ甲冑により“ブレイクナックル”を四肢に強制的に装備させられている。

 気で身体を強化していなかった為、“ブレイクナックル”四つの重量を支え切れずに倒れ、石畳に口付けする事となった。

 俺は、何度も同じ失敗を繰り返す気はない。

 一応、学習能力はある。

 身体を軽く動かして、異常が無い事を確認。

 “ブレイクナックル”の実戦テストの的を探すため、歩き始める。



「……“ブレイクナックル”の実戦テストが出来ないな」


 魔物を探し始めて、一時間。

 魔物と一度も戦闘をしていない。

 時折、遠目に影を確認して追いかけてみるものの、“ブレイクナックル”の有効射程外であることと俺から逃げる様に動く為、戦闘にならない。

 何となく誘導されている気がするが、俺の考えすぎだろうか。


 ゴブリンやコボルド、オークが罠を仕掛けているなら何とかなる。

 今の俺なら、力ずくでその罠を食い破るだけの力はあるはずだ。



 また前方に、複数の人型の影を確認する。

 さて、どうするか。


 追いかけるか?

 無視するか?


 俺を誘っているのなら、乗ってやる。


 立ちはだかるもの。

 その全てを凪ぎ払うだけだ。


 錬気する気の量を上げる。

 増大した気を全て全身に循環させ、さらに身体を強化。

 影の追跡を開始する。



「チッ……魔法を使った方が早いか」


 一向に戦闘にならない状態に苛ついてくる。

 “ブレイクナックル”の実戦テストの為、魔法の使用は控えていた。

 だが、この苛つく現状が続けば、魔法を使わざるを得ないか。

 そう考えながら、影の追跡を続けた。



「こっちに来ている筈だが……」


 影を見失い、周囲を警戒しながら一本道を進む。

 モンスターらしき影は、全く見当たらない。

 そうしているうちに、行き止まりに辿り着く。



「やはり、誘い込まれていた様だな……」


 目の前にある、大きな扉。

 確か……ここは、一階の主の間だった筈。

 一階の主を倒さなくても、二階へは進める。

 その為、普通は無理して戦おうとはしない。

 かなり強いらしく、戦えば全滅すると言われている。

 噂話なので、誇張されている可能性はあるが。

 力試しと言って、主に挑む酔狂な連中もいるが、生きて帰った者はいないらしい。

 その為、ソロの俺は一度も近づかなかったのだが。

 安い挑発に冷静さを失い、突き進んできた結果か。

 馬鹿もいいところだ。


『確かに馬鹿ですね、マスター


 黙ってろ、腐れ甲冑。

 言われなくても、分かっている。

 今後、気を付ければいいだけだ。

 ……どこか、腐れ甲冑の言動に違和感を感じる。

 言動……。

 そうか、腐れ甲冑の話し方が前と微妙に違うのか。

 そういえば、昨日あたりから変わっていたような気がする。

 腐れ甲冑も成長しているのだろうか。

 だが今は、そんなことを気にしている場合ではない。

 取り敢えず、扉の先に進むか。


 扉を開け、主の間に入る。

 中はだだっ広く、薄暗い。

 壁は飾りっ気は無い様に見える。

 出入口も、俺が入ってきた扉しかない様だ。

 ただ、幾度もの戦いの跡だろう。

 床や壁に、切り裂かれた跡や焼け焦げた跡が無数にある。

 激しい戦闘があった事が窺えた。

 これから殺り合う事になるだろう、この階の主。

 生きて帰ってきた者がいない以上、逃げる事は不可能だろう。

 なら、主を倒して帰ればいい。


 中央に向けて、警戒しながら進んでいく。

 何が出てきても、直ぐ対応出来るように。


 中央に来たところで、薄暗かった主の間が急に明るくなった。


「くっ」


 まばゆい光に一瞬目がくらむ。

 ……が、直ぐに回復。

 正面を見ると、その壁際に鎧を纏った緑髪の人らしきものが立っていた。


 何時の間に現れた?


 俺が目を離したのはほんの数秒。

 一体、どうやって現れたのか。

 そいつが纏っている鋼の鎧。

 何処かで見た記憶があるが思い出せない。

 まあいいか。

 思い出せないなら、大した事ではないだろう。

 俺の前に立ちはだかるなら、何者であれ全力で叩き潰すだけだ。

 先手必勝。

 その決定を実行に移す。

 四肢の“ブレイクナックル”にマナを注ぎ込み起動する。

 同時にエンチャント・カオスの魔法を無詠唱で掛け、威力を強化。


 その瞬間、身体からごっそりとマナが消費される。


「くっ……流石にきついか」


 感覚的に四割程。

 奴がどれくらい強いか、全く見当がつかない。

 取り敢えず、現在の装備で最大の攻撃を叩き込んで様子を見よう。


「ブレイク……ナックル!」


 右腕の物、続けて左腕の物の順に“ブレイクナックル”を放つ。


「ブレイク……シュート!」


 右脚の物を脚を振り抜いて、続けて左脚の物を右脚の物を放った勢いを利用して、回し蹴りの要領で放った。


 四つの虹色に輝く“ブレイクナックル”が、鎧を纏った奴に向かっていく。


 だが、鎧の奴は動く様子がない。


 終わりか……主も噂ほどではなかったな。


 そう思ったが、闘争本能と破壊衝動が俺に訴える。


 終わっていない。

 これからが本番だと。


 それは、直ぐに証明された。


 “ブレイクナックル”命中の瞬間、金属同士の激突音が響く。


 鎧の奴が、左手の盾で一旦受け止めた一つ目の“ブレイクナックル”を受け流した。

 続く三つの“ブレイクナックル”を、何時の間にか抜いた長剣と盾を使い、弾いたり逸らしたりして全ての攻撃を凌ぐ。

 弾かれたり逸らされた“ブレイクナックル”は、壁に衝突して動きを止めた。

 その結果を唖然として見ていた俺に、鎧の奴が肩を怒らせながら近付いてきて、


「……き、貴様! 決闘の作法を知らないのか!!」


 俺を怒鳴りつけた。


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