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第四十五話 奴隷商

 昨日は散々な目にあった。

 武器の修理と戦利品の処分しに行っただけの筈が、大将の実験に無理矢理付き合わされて、一日が終わってしまう。

 お陰で予定が大幅に狂っている。

 だが、バスタードソードの修理の目処が立ったのが救いだ。

 ただ、五百万ジールという大金は直ぐ用意出来る額ではない。

 今日からダンジョンに潜って、金を稼がないと。

 その前に、使い切ってしまったポーションの補充をしなければ、ダンジョンに潜る事もままならない。


 宿を出た俺は、ダンジョンに向かう探索者の流れに逆らいながら道具屋を目指し進む。



 道具屋の近くまで来た所で、何時もとは異なる光景に出くわす。


「一体、何だ?」


 道具屋の向かいに、道の半分を塞ぐ様に人垣が出来ていた。

 確か……空き家だった筈だが、何か店でも出来たのだろう。

 人垣の隙間から、奥の様子が僅かに見える。

 鎖に繋がれた複数の人影。

 どうやら、奴隷市場の様だ。

 まず、俺がこの店に行くことは無いだろう。

 奴隷を買う金などあるわけない。

 そんな金があったら、バスタードソードを打ち直す為の資金にする。


 奴隷市場の様子を横目で見てから、道具屋に入る。


 開店したばかりか、客は一人もいない。

 さっさと買い物を済まそう。


 カウンターに向かうと、珍しく“魔女”が店番をしていなかった。

 カウンターには、珍しい事に店主が鎮座していたのだ。


「珍しいな……あんたが店番をしているとは」


 店主は、店にいる事が滅多に無い。

 仕入れ等で、あちこち飛び回っているからだ。

 その為か、他の道具屋より商品の質と品揃えが良い。


 何かあったのだろうか。

「いらっしゃいませ。店番をしてくれる者がいなくてね。仕方無くだよ……」


 どことなく疲れた顔で、店主が溜息をつく。

 理由は聞かない方がよさそうだ。

 延々と愚痴を聞かされるだけの、無駄な時間を過ごすはめになるだろう。

 それを回避する為、用件を伝える。


「ヒールポーション十本とマナポーション二十本、携帯食を十食分くれ」


 日帰りの保険なら、これだけあれば十分。

 今は、ダンジョンに何日も籠るつもりは無い。


「はい、少々お待ちください」


 店主が後ろにある棚から、二種類のポーションと携帯食を取り出してカウンターに置いた。


「……合計で九千五百ジールになります」


 早いな。

 俺だと、計算に店主の倍の時間は掛かるのだが。


 受け皿に九千五百ジール分の貨幣を置き支払いを済ませ、購入した物を魔法倉庫に収納する。


「じゃあ、また来る」


 消耗品の補充という目的を果たした俺は、店を出る為、店主に背を向けた。

 扉の取手に手を掛けた瞬間、扉の向こうで異様なまでの喚声があがる。

 驚いてつい取手から手を離し、振り返って後ろのカウンターに鎮座する店主の方を見た。

 俺の視線を受けた店主が、溜息を吐いて肩を竦める。


「五月蝿いんだが、どうにかならないのか?」


「無理だよ。数日前に開店した奴隷商なんだが。一日に数回やる奴隷の競売。その時間だからね。近所迷惑だから路面でやるのを止めてほしいと、近隣の店の店主達と申し入れに行ったが、武器を携帯している奴隷商の従業員に脅されて追い返されたよ」


 両手を挙げ、身振りでお手上げだという店主。


「運が悪かったと諦めて欲しい。そのお陰で娘が店番をしてくれなくなってね。在庫の少なくなった物があるというのに、仕入れにも行けないのだよ」


「それは御愁傷様だ」


 降って湧いた店主の不運に、そう言葉を掛けるしか無かった。


「……そう言えば、君は奴隷を買わないのかい?」


 暗い雰囲気を祓うためだろう。

 店主が俺に軽い口調で質問してきた。

 ただ、その目は真剣――俺を見極めようとしている様――だったが。

 なので、俺も真面目に答える。


「新米探索者の俺にそんな金があると思うのか? そんな金があったら、自分の装備を充実させる為に使うさ」


「そうか。探索者が夜の相手に女の奴隷を買うと聞いてね……買っている所をここ数日見ていたからね」


「さっきも言ったが、新米の俺に奴隷を買う余裕は無い。もっと言えば、それ以前の問題だ。基本的に他人を信用していない俺が、奴隷を信用すると思っているのか? 俺が“無能”だと知ったら、俺を殺して自由になろうとするだろう奴隷を」


 自嘲する様に本心を吐露する。

 店主相手だと、何故か本心を話してしまう。

 俺が単純な事もあるが、話す気の無い事まで話させる店主が上手なのだろう。

 流石は、やり手の商売人ということか。


 このまま話を続けて、これ以上自分の事を話す気は無い。

 既に、此所での用は済んでいる。

 少しでも早くバスタードソードを修復する為にも、ダンジョンで金を稼がなければ。


「また寄らせてもらう」


 そう言って話を無理矢理打ち切り、扉を開けて道具屋を出る。



 道具屋を出た俺の目の前に人垣は無かった。

 人も疎らで、普通に人が行き交っている。

 どうやら、競売は終わった様だ。

 建物の中に引き摺られていく奴隷達の姿が目に入る。

 その中に、人間より耳の長い金髪の華奢な女の姿もあった。

 その奴隷が、話に聞いたことのあるエルフなのだろう。

 初めて見た。

 人間とは異なる、どこか儚さを感じさせる美しさ。

 奴隷を買う気の無い俺が関わりを持つことは無いだろう。

 奴隷のエルフへの興味を無くした俺は、ダンジョンに向かった。


短いので、本日27時までにもう一話投稿します。

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