表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/91

第三十九話 地下一階への帰還

「……変態野郎は、完全に消し飛んだみたいだな」

 

 管理者が放った、変態野郎を消滅させた魔法。

 それが命中した跡には、塵一つ残っていない。

 装備していた武具も含めて。

 もし武具が残っていても、使い物にはならないだろう。

 それだけの威力の魔法。

 その直撃にも関わらず、壁は無傷だ。

 一体、どうなっているのか。

 魔法の事をよく分からない俺が考えても、無駄だろう。

 対象となったもの全てを完全に消滅させる、その威力。

 その魔法が、俺に向けて放たれないことを祈るだけだ。

 もしそうなれば、あの変態野郎同様、塵一つ残さず消し飛ばされるだろう。

 流石に、そんな死にかただけはしたくない。

 想像しただけで恐ろしくなる。

 考えるだけで、禿げてしまいそうだ。

 この事は忘れてしまおう。

 最近、忘れた方がいい事が多い気もするが。

 

 突発的に出現した変態の駆除は終わった。

 後は転がっている戦利品を回収して、ダンジョンから出るだけだ。

 変態野郎が完全に滅んだ事を確認した俺は、戦利品を回収する為、その場を後にする。

 

「確認は済んだかしら?」

 

 俺が変態野郎が跡形もなく消え去ったのを確認している間に移動していたのだろう。

 変態抹殺の為、一時的に手を組んだ管理者が声を掛けてきた。

 

「ああ……それにしても、とんでもない威力だな」

 

 変態野郎が消し飛んだ跡を見遣りながら、あの魔法の感想を伝える。

 

「当然ね。魂すら焼き尽くす魔法よ。塵一つ残さないわ」

 

 確かに、塵一つ残っていない。

 彼女を怒らせると、アレが撃ち込まれるのだろうか。

 流石に、それは洒落にならない。

 なるべく……可能な限り怒らせない様にしよう。

 

「本当に、これで終わりなんだろうな?」

 

 冗談抜きで、彼女に確認する。 

 これ以上、ダンジョンに拘束されるのはウンザリだ。

 さっさと出て、身体にまとわりつく汗を流したい。

 そして、旨くない保存食ではない、まともな飯を食いたい。

 これで終わりという言葉を期待して待つ。

 

「ええ、もう終わりよ。最後のは、完全に予定外だったわ」

 

 ゴブリン駆除も、ようやく終わった様だ。

 一体、何日ダンジョンに拘束されたのだろう。

 考えたくはない。

 だが、その管理者の言葉に聞き捨てならないものが含まれている事に気付く。

 

「最後が予定外とは、どういう事だ?」

 

「貴方がここに来た時にいた稀少種で、本当は最後だったの。ただ……」

 

 そこで、言い淀んでいるのか言葉が途切れた。

 目を逸らし、言いにくそうにしている。

 

「早く言ってくれ。時間の無駄だ」

 

 いい加減ダンジョンから出たい俺は、言うべきかで迷っている様子の管理者に、続きを急かす。

 

「さっき変態として始末した部下が勝手に、新しいゴブリンの王の集団をここに誘導してね。これが予定外だったわ。後は、貴方も知っての通りよ。アレは前から色々と問題を起こしたり、頭がおかしかったしたけれど、色々あって処分も出来ず、本当に困ってたの。でも、貴方がアレを変態認定してくれたお陰で、やっと処分出来た。感謝してるわ」

 

 あの趣味の悪い変態野郎が、管理者の部下だったとは。

 よく、あの変態野郎を部下として使っていたと感心する。

 その点は誉めてもいいだろう。

 

「……要するに、色々と問題がある部下が変態だと分かったから、これ幸いに処分したということか」

 

 悪趣味な金ピカの鎧を着ていて何となく気に食わないから、俺の感覚で変態と決め付けただけだ。

 それが、彼女には都合が良かったらしい。

 上手く利用された様で、気に食わないが。

 これを貸しにすることは出来ないだろうな。

 貸しに出来たとしても、返してもらえる宛が全く無い。

 

「その通りよ。本当に丁度良かったわ」

 

 管理者が、清々しい表情で笑みまで浮かべている。

 相当の事があったのだろう。

 知らない方が身の為だと直感する。

 知れば、ロクな事にならない事が目に浮かんだ。

 

「そろそろ、ダンジョンから出してくれないか」

 

 自力で出られるなら、強制されてゴブリンの駆除などやってはいない。

 とっくにダンジョンから出ている。

 ここが何処かすら、全く分からない。

 気に入らないが、彼女に頼るしかない様だ。

 

「……ああ、そうね。忘れていたわ。でも、その前に……」

 

 管理者が右腕を上げ、何かの魔法を詠唱して発動。

 同時に、床に散らばっていた魔晶石や残された武具が浮かび上がる。

 

「収納倉庫の口を開けて」

 

 今は亡き変態野郎のお陰で、戦利品の回収をきれいに忘れていた。

 あの変態野郎め、死んだ後もロクな事をしない。

 

「何を考えていたかは知らないけど……早く開けなさい」

 

 言われた通り、魔法倉庫の口を開ける。

 それを確認した管理者の右手が動く。

 と同時に、浮かんでいた魔晶石や武具等の戦利品が魔法倉庫の口に、流れる様に入っていく。

 何度も見たが、便利な魔法だ。

 この魔法が使えれば、戦利品の回収も楽になるんだが。

 

「全部入れたわ……もしかして、使えれば便利と思ったの?」

 

 俺の様子を見た管理者が声を掛ける。

 

「まあな。だが、俺では使える気がしない」

 

「そうね。貴方では……というより、人では私並みに使える者は居ないでしょうね」

 

 その言葉に興味を覚える。

 

「どういう事だ?」

 

「この魔法自体は、少し位なら人でも使える。と言っても、一つか二つ位を動かすだけだけどね。私みたいに多数を動かすには、人のマナ量では全然足りないの。最低でも、下級魔族位のマナ量と魔法制御が出来ないと無理ね。人が無理して同じ事をやったら、マナの枯渇で死ぬわ」

 

 人では不可能か。

 俺には出来そうにない事は分かっていたが。

 無理して使って、死ぬ気はない。

 

「簡単に言えば、人では出来ないって事だな」

 

「そういうこと。よくわかったわね」

 

 俺を褒めているようだが、そう感じられない。

 逆に馬鹿にされているような気がするが、話が進まなくなるので無視する。

 

「取り敢えず、ダンジョンの外に転移してくれ」

 

「無理よ」

 

「何故だ!?」

 

 返ってきた無理という返事に、反射的に理由を確認する。

 

「私が使っていた転移は、ダンジョン内限定なの。ダンジョン内なら兎も角、外への転移は出来ないわ」

 

 その言葉に落胆し、溜息を吐く。

 ダンジョンをさ迷わずに戻れると思ったのに、ガッカリだ。

 魔族の癖に使えないな。

 ダンジョンの管理者を名乗っているなら、その程度はやってもらいたいものだ。

 その巨乳には、マナが詰まっているのではないのか。

 胸がデカいだけの巨乳女魔族だったとは。

 管理者が聞いて呆れる。

 

「……何か言いたそうね」

 

 胸の谷間を強調している黒いドレスから零れ落ちそうな巨乳を見て溜息を吐く俺を、管理者が睨み付ける。

 

「少なくとも文句の一つは言いたいな。だが、言うのは止めておく。言ったらロクな事にならないからな」

 

「そう……多少の愚痴ぐらいなら聞いてあげてもいいけど。まあいいわ。ダンジョンの地下一階に送るから、後は自力で何とかして」

 

 人を訳の分からん所に飛ばして強制的にゴブリンを駆除させておきながら、無責任な気もするが仕方無い。

 ダンジョンから出られるだけマシだと、妥協しておく。

 地下一階まで戻れるなら、色々厳しいものがあるが何とかなるだろう。

 巨乳管理者の気が変わらない内に、さっさと送らせる。

 

「分かった。何とかするから、さっさと送ってくれ」

 

 俺が促すと、巨乳管理者が魔法の詠唱を始める。

 足元に魔法陣が現れ、光輝く。

 その光は俺を包み込み、輝きを増す。

 そして、一瞬だけ感じる微かな浮遊感。

 光が治まると、先程までとは違う場所に立っていた。

 ここが何処か確認する為、辺りを見回す。

 見覚えのある風景。

 左側は岩壁に大きな穴が空いていて、崩れ落ちた岩壁の欠片が転がっている。

 それを見て思い出し、無意識に呟く。

 

「岩壁をパイルバンカーで破壊した場所か……」

 

 数日間……実際に何日だったかは数えていない。

 ゴブリンの駆除を強制的に押し付けられた切っ掛けになった場所。

 押し付けられた理由も酷いものだったが。

 好奇心に駆られ、崩れた岩壁の向こうにあった部屋に入ったのが失敗だった。

 今更後悔しても、既に手遅れだが。

 

 好奇心は猫を殺す。

 

 その本当の意味を、身を持って知った。

 出来れば、身を持って知りたくはなかったが。

 今後は好奇心に駆られても、未知の場所に何の準備も無く踏み込まない様にしよう。

 反省は、ここまでだ。

 取り敢えずは、入口まで戻ろう。

 記憶を頼りに、ダンジョンの入口を目指して通路を進んでいく。

 十字路に差し掛かった所で、左右の隅に影を複数見付ける。

 モンスターがいるようだ。

 ゴブリン程度が数匹なら、魔法を使わなくても何とかなる。

 オークだったら、全力で戦って倒さなければならないが。

 逃げ回っても、ダンジョンから出ることは出来ないだろう。

 そう判断し、戦う事を決める。

 盾を構え、警戒しながらゆっくりと十字路の中心に進んでいく。

 隠れている事を気付かれたと悟ったのだろう。

 左右の隅に隠れていた影が、十字路の中心に飛び出してきた。

 影が飛び出してきたのを見た瞬間、反射的に後ろに下がる。

 

「チッ……やっぱりいたか」

 

 予想通りか。

 十字路の隅から飛び出してきた影は四つ。

 犬の頭を持つ、人型のモンスター、コボルド。

 コボルドなら、何とかなる。

 魔法倉庫から、ゴブリンから手に入れた長剣を取り出す。

 コボルドどもとの距離は、十五歩程。

 二、三秒で辿り着く距離。

 奴等が持っている武器は、錆び付いた短剣のみ。

 魔法を使うやつはいない様だ。

 これなら、直ぐに片が付けられるだろう。

 長剣を構え、コボルドどもに駆け出す。

 

『――告。身体強化を最大倍率で発動します。効果持続時間は、二十秒です』

 

 俺の意思を無視して、甲冑が自身の身体強化を勝手に発動。

 俺の体内のマナが、急速に失われていく。

 同時に甲冑各所の水晶が発光。

 全身が蒼い光に包まれていく。

 

 身体強化を今すぐ解除しろ。

 

 甲冑にそう命令する。

 

『――否。解除する必要を認めません』

 

 ――が、拒否された。

 やはり、俺の意思を無視するのか。

 だが、今はコボルド四匹と戦闘中。

 甲冑こいつの事は後回しにする。

 一瞬で、一匹のコボルドの眼前に移動。

 その勢いを乗せた、長剣の突きを左胸に叩き込む。

 

『――告。身体強化解除まで、残り十八秒』

 

 長剣をコボルドに突き刺したまま手放し、左側のコボルドの顔面にパイルバンカーを押し付ける。

 作動ボタンを押し、長槍をその顔面に打ち込む。

 

「「GYAAAAAAAA!?」」

 

 正面と右、二方から同時に聞こえる悲鳴。

 

『――告。身体強化解除まで、残り十六秒』

 

 倒した事を確認する暇は無い。

 身体強化が解除出来ない以上、一刻も早くコボルドを倒さなければ。

 残り二匹の方に移動する。

 途中で盾のホルダーからダガーを引き抜き、遠い方にいるコボルドに投擲。

 牽制にはなるだろう。

 そのまま、近い方のコボルドに接近。

 その胸にパイルバンカーを叩き付け、長槍を打ち込む。

 コボルドが短剣で俺を突くが、蒼い光に阻まれ届かない。

 長槍がコボルドの胸を貫き、その体を光に変える。

 

『――告。身体強化解除まで、残り十四秒』

 

 長槍を打ち込んだコボルドを倒した事を確認し、ダガーで牽制しておいたコボルドの方を見る。

 そこには、眉間にダガーが刺さり、動きを止めたコボルドが立っていた。

 短剣を取り落とした瞬間、コボルドは光となって消えていく。

 

『――告。戦闘終了を確認。身体強化を解除します』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ