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第三十一話 鉄の人形

 ダンジョンと同じ、岩肌が剥き出しの壁面が続く一本道の通路。

 これまで探索者が通った事の無い、ダンジョンかも分からない前人未踏の領域を十分程歩き続けている。

 

「一体、何処まで続いているんだ?」

 

 進んでも進んでも先の見えない通路に、流石にうんざりしてきた。

 それでも、進むしかない。

 代わり映えしない岩肌の壁が続く通路を更に五分程歩いた所で、ようやく行き止まりに辿り着く。

 

「行き止まりか……」

 

 目の前には、岩肌の壁。

 これ以上は進めそうにない。

 だが、ここまで来て引き返すのも癪に触る。

 もしかしたら、何か仕掛けが隠されているかもしれない。

 

「少し、調べて見るか……」

 

 部屋らしき場所から続いている一本道。

 その行き止まりに何も無いことに違和感を覚える。

 なので、行き止まりの壁とその周辺を調べる事にした。

 

「先ずは、壁からだな」

 

 目視だけでなく、軽く叩いたりしておかしい場所がないか調べる。

 だが、違和感があったり、音が違ったりする所はない。

 続いて、石畳の床を壁と同様に調べるが、何も無い様だ。

 

「無駄な時間を過ごしたか……」

 

 何も無い、ただの行き止まりだったことにがっかりする。

 仕方無い。

 引き返すか。

 

 行き止まりの壁に背を向け、来た道を引き返す。

 一歩進む度、石畳の床から虚しさを感じさせる足音が通路に響く。

 暫く進んでいると、一〇m先の天井が轟音と共に落下してきた。

 慌てて、後ろに下がる。

 一体、何なんだ。

 

 突然の異変に驚き、目の前を確認する。

 通路とほぼ同じ幅と高さの岩が通路を完全に塞いでいた。

 まるで、俺を戻らせまいとしているかの様に。

 

「……戻れるのか?」

 

 壊す事も含め、何とかする事が出来るか、目の前の岩を調べる。

 目視と叩いてみた感じでは、ダンジョンの岩壁と同じ様だ。

 しかも、落下してくる時に一瞬だけ見れたが、奥行きも通路の幅と同じ位あった様な気がする。

 

 目の前の岩をどうにかして戻るのは、まず無理だろう。

 エンチャント・カオスを目一杯重ね掛けしたパイルバンカーの一撃でも、目の前の岩を破壊出来そうな気がしない。

 完全に行く手を塞がれた様だ。

 さて、どうするか。

 足掻いて、無駄に消耗するのは馬鹿馬鹿しい。

 取り敢えず、軽く何か食っておくか。

 魔法倉庫をあさり、食い物を探す。

 昼食の弁当、保存食、干し肉……。

 駄目だ、軽く食える物が無い。

 仕方無い。

 水でも飲んでおくか。

 水筒を取り出し、水を一口飲む。

 生温い水がのどを通る。

 

「さて……どうするかな」

 

 ここから先には進めない。

 正確には、戻れないといった方が正しいか。

 行き止まりまで戻る。

 

 行き止まりに向け、歩き続ける。

 後五〇m程歩くと行き止まりという所で、背後から少し前に聞いたのと同じ何かが落下してきた様な轟音が響く。

 振り返ると、俺の直ぐ目の前に岩肌が映る。

 どうやら、引き返すのを邪魔した時と同様、天井から岩が落下してきたらしい。

 俺の真上に落ちなかっただけ、運が良かったといえる。

 あんな大岩が頭上から降ってこられたら、今頃押し潰されて薄っぺらくなっていただろう。

 幸運に感謝しつつ、岩壁にもたれて現状を確認する。

 

 通路を完全に塞ぐ岩壁により、来た道を戻れない。

 四方が二〇m位の空間に閉じ込められている。

 人が来る事の無い場所に一人きり。

 食料は……保存食を含めて二、三日分。

 水は、水筒二本。

 一日しか持たない量だ。

 出来れば、飢えと渇きで苦しむ前にダンジョンから出たい。

 

 武器は、パイルバンカーの長槍が一本、使い物にならなくなっている。

 予備の長槍は残り一本か。

 先の事を考えると、無茶な使い方は出来ない。

 元々、撃ち出すのはおまけで、本来の使い方では無いので仕方無い。

 後の武具については、特に気になる事は無い。

 取り敢えず、ダンジョンから出る事を優先した方がいいだろう。

 今日ダンジョンに潜った目的は、放っておいても果たせる。

 パイルバンカーを使う為の魔晶石の回収は、立ちはだかるモンスターを倒していけばいいだけだ。

 現状の確認を終え、行き止まりをもう一度調べる事にする。

 最初調べた時に、見落としがあったかもしれないからだ。

 行き止まりに向け歩き出した途端、行き止まりの手前の床に、魔法陣が光を放ちながら現れた。

 その中央から天井に光が伸びる。

 光の柱が消えると、魔法陣があった場所に人ぐらいの身長と形をした鈍色の何かが姿を現した。

 

「何だ、こいつは?」

 

 一見、人の形をした鉄の塊にしか見えない。

 だが、今いる場所は、壁をぶち破って現れた隠し部屋から進んできた、何の情報もない前人未到の場所だ。

 これまで倒してきたゴブリン等と同様に考えない方がいいだろう。

 バスタードソードを抜き、身構える。

 

『――告。目の前の物は、鉄を材料に創られたアイアンゴーレムです。打撃攻撃が有効』

 

 甲冑の意思が、目の前の物の情報を伝えてきた。

 有効な攻撃方法まで伝えてくるということは、あのアイアンゴーレムは敵なのだろう。

 ……所で、ゴーレムとは何なのだろうか。

 

『――告。魔法により仮初めの命を与えられた人形。与えられた命令を忠実に遂行します。与えられている命令は、この場にいる者の排除と推測されます』

 

 それならば、アイアンゴーレムを倒すしかない。


 アイアンゴーレムの様子を観察し、つけ入る隙を窺う。

 頭部の目らしきものが赤く輝き、こちらに向かって近付いてきた。

 その動きは鉄製で重いためか、威圧感はあるが遅い。

 一歩進む度に、震動が伝わってくる。

 あの速さなら、攻撃を受ける事は無いはず。

 アイアンゴーレムには、剣の腕を上げるための練習台になってもらおう。

 

 左手でシールドの巻物を取り出し、封を切る。

 半透明の盾が一瞬宙に現れ、直ぐに見えなくなった。

 防御はこれで十分だろう。

 バスタードソードを構え、アイアンゴーレムに向かっていく。

 俺の剣の間合いまで後二歩の所で、アイアンゴーレムの右腕が上がり、拳を構える。

 そして、当たったもの全てを叩き潰し得る拳を振り下ろす。

 俺に向け、空気を切り裂く様に振り下ろされる鉄の拳。

 それを左ステップで避け、バスタードソードをアイアンゴーレムの右肩に叩きつける。

 金属同士がぶつかり合う、甲高い音が響く。

 

「……硬い」

 

 バスタードソードを振るった右腕が痺れる。

 右手から力が抜け、バスタードソードを落としそうになるが、何とか堪えた。

 与えた傷を確認するが、アイアンゴーレムの右肩には掠り傷すらついていない。

 逆に、叩きつけたバスタードソードの方が刃こぼれしている。

 やはり、鉄の塊であるアイアンゴーレムには、俺の力では通用しない様だ。

 使いたくなかったが、パイルバンカーを使うしかない。

 一瞬でそう判断し、パイルバンカーをアイアンゴーレムの右肩に叩きつける。

 作動ボタンを押し、長槍を打ち出す。

 風切り音と共に打ち出された長槍が、右肩部を穿った。

 だが、尖端だけだ。

 それでも、鉄の塊を穿っている。

 ダンジョンの壁面ほど、硬くないらしい。

 傷付けられるなら、倒せないことはない。

 それを確認した俺は、再びパイルバンカーを作動。

 長槍をアイアンゴーレムに打ち込む。

 アイアンゴーレムの右腕が、右下から薙ぐように振るわれるのを視界の端に見つけるが無視する。

 その防御は、シールドの巻物の効果に任せておく。

 ゴブリン稀少種の連撃で砕けたから、二、三撃防げば上等。

 

 最悪、パイルバンカーを叩き込むまでもてばいい。

 再び響く、パイルバンカーの長槍とアイアンゴーレムが激突して発生する金属音。

 それに重なる様に、硬質な音が響く。

 パイルバンカーが二つ目の穴を穿ち、巻物の効果によるシールドがアイアンゴーレムの右腕を受け止めたのだ。

 

「ちっ、外したか……」

 

 最初に穿った穴に長槍を打ち込んだはずだったが、アイアンゴーレムの反撃で狙いが逸れた様だ。

 神経をすり減らしていく、一撃喰らえば終わってしまうギリギリの戦闘。

 一旦距離をとり、疲弊した精神を回復させる。

 剣の練習台にするつもりだったが、考えが甘かった様だ。

 感情も無く、ただ与えられた命令を遂行するだけのゴーレムは、多少傷付けただけでは止まらない。

 攻撃手段を奪わない限り、その猛威は収まらないだろう。

 たった二十秒ほどの接近戦闘で、息も荒くなっている。

 俺はまだ、アイアンゴーレム相手に真っ向から戦えるほど強くはない様だ。

 自分では直せないほどに刃こぼれしたバスタードソードを鞘に納める。

 折れなかっただけマシだろう。

 手入れされて一週間足らずのバスタードソードを、大将にまた預けなければならない。

 既に長槍を一本、使い物にならなくして説教されそうだというのに、バスタードソードまで折ってしまったら大将に殺されてしまう可能性がある。

 その事を考えると、頭痛が痛い。

 いや、頭が痛い。

 使いたくなかったが、仕方無い。

 魔法を使う決意をした。

 これ以上、武器を壊さない為に。

 

 パイルバンカーの長槍にエンチャント・カオスの魔法を付与する。

 虹色の輝きが、パイルバンカーの長槍を包む。

 近付いてくるアイアンゴーレムを見て、パイルバンカーを右肩に叩き込む為、動き出す。

 既に長槍で穿った所に再び長槍を打ち込めば、アイアンゴーレムの右肩を貫けるはず。

 そう信じて、パイルバンカーを確実に叩き込める背後を取れる様、アイアンゴーレムの動きを見ながら移動する。

 力は兎も角、速さはない。

 簡単に背後を取ることが出来た。

 パイルバンカーの尖端を既に二度穿った右肩に叩きつける。

 作動ボタンを押し、三度長槍を叩き込む。

 虹色に輝く長槍は、既に穿たれている穴を穿ち、アイアンゴーレムの右肩を貫通した。

 穿たれた穴から、その周囲に罅が入っていく。

 攻撃の成果を確認した俺の視界に、アイアンゴーレムの右肘が迫ってくるのが映る。

 咄嗟に左に跳び、アイアンゴーレムの背後に移動。

 パイルバンカーをアイアンゴーレムの左大腿に叩きつけ、長槍を打ち込む。

 長槍は左大腿を貫通し、穿った穴の周囲に罅を入れた。

 それを見て、後ろに下がり間合いを取る。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 格上の敵と戦っている以上、疲労が激しいのは仕方無い。

 動きの鈍いアイアンゴーレムが相手だから、まだ何とか戦えている。

 パイルバンカーの長槍から虹色の輝きが弱まり、失われた。

 エンチャント・カオスの効果が切れたらしい。

 これは、もう一度掛ければ済む。

 アイアンゴーレムの様子を窺いつつ、その攻撃範囲外維持する様に動く。

 

 心身共に限界が近い。

 次で終わらせる。

 

 パイルバンカーにエンチャント・カオスの魔法を重ね掛けする。

 長槍が、力強く虹色に輝く。

 それを確認し、パイルバンカーを構えて駆け出す。

 狙いは手足の破壊。

 幾らゴーレムといえど、手足を失ったら何も出来ないだろう。

 接近した所で、アイアンゴーレムが俺目掛けて右腕を振り下ろしてきた。

 左に跳び、アイアンゴーレムの右腕を避ける。

 アイアンゴーレムの右腕が床を叩く。

 何かが割れた様な音と共に、アイアンゴーレムの右腕が胴体から落ちる。

 右肩を狙っていたパイルバンカーを右大腿に叩きつけて作動。

 虹色に輝く長槍が、右大腿を穿つ。

 そのまま、背後を取る様に移動。

 左腕にパイルバンカーを向け、長槍を打ち込む。

 長槍が、左上腕を貫通。

 穿たれた穴から拡がった罅が亀裂になり、左腕が音を立てて落ちる。


 それを横目に見ながら、パイルバンカーを首に叩きつけ、虹色に輝く長槍を打ち込んだ。

 左腕同様、首に亀裂が入り、頭が音を立てて落下。

 それと共に、アイアンゴーレムの動きが止まった。

 

「倒したのか?」

 

 本当に停止したかを確認するため、パイルバンカーの尖端でつついてみる。

 何度かつつくが、全く動く様子は見受けられない。

 何とかアイアンゴーレムを倒せた様だ。

 だが、アイアンゴーレムは消滅してない。

 一応はダンジョン内なので、消滅して魔晶石を残すはすだが、その現象が起こらない。

 俺の頭では、幾ら考えても無駄だろう。

 時間の無駄でもあるので、考えることを止める。

 目の前に転がっている、アイアンゴーレムの残骸を魔法倉庫に収納。

 刃こぼれしたバスタードソードと砕けたパイルバンカーの長槍のお詫びとして、大将に献上することにする。

 攻撃力をパイルバンカーに頼りきっている以上、大将の機嫌を損ねる訳にはいかない。

 質の良さそうな鉄塊なので、大将も喜ぶだろう。

 喜んでくれないと困るが。

 

 アイアンゴーレムを倒したが、通路を塞ぐ岩壁に変化はない。

 何とか倒せたが、流石に疲れた。

 脚から力が抜け、その場に座り込む。

 全身を疲労が覆い尽くし、睡魔に襲われる。

 何か起こっても、甲冑が護ってくれるだろう。

 俺は睡魔に身を委ね、意識が闇に落ちた。


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