表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/91

第二十九話 ゴブリンとの連戦

「くっ……何度目だっ」

 

 目の前には、六体のゴブリンの集団が俺の行く手に立ちはだかっている。

 ダンジョンに潜ってまだ一時間。

 五分から十分の間隔でゴブリンの集団と遭遇、幾度となく戦闘していた。

 うんざりしながらもバスタードソードを鞘から抜く。

 更にシールドの巻物を魔法倉庫から取り出し、直ぐに封を切った。

 俺の前に光輝く盾が展開し、直ぐに見えなくなる。

 

「……エンチャント・カオス」

 

 バスタードソードに、混沌属性の強化魔法を掛ける。

 剣身が虹色に輝く。

 ほぼ休憩無しの連戦。

 魔法の出し惜しみで、一回の戦闘時間が長めになっている。

 効率良く戦う為には、出し惜しみは程々にした方が良さそうだ。

 連戦に次ぐ連戦で、疲労を感じてきている。

 通常のゴブリン程度なら、エンチャント・カオスを付与したバスタードソード振るうだけで簡単に倒せるはず。

 さっさとゴブリンを片付けて休憩しよう。

 

 バスタードソードを構え、ゴブリン共に向けて駆け出す。

 集団の中に突っ込み、当たるを幸いにバスタードソードを振り回した。

 虹色の剣閃がゴブリンを防御ごと切り裂き、次々と光に変えていく。

 時折受ける反撃も、シールドの魔法効果と左腕の盾で完全に防ぐ。

 そして、戦闘開始から一分も掛からない内にゴブリンの集団は全滅した。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 連戦の影響か、息が荒くなっている。

 辺りを見回し、モンスターがいないか確認する。

 一分程様子を窺うが、モンスターがやって来る気配はない。

 

「さて、回収するか」

 

 回収出来るのは魔晶石のみか。

 ゴブリン共が持っていた武器は、完全に破壊されていて使い物にならない。

 地面に転がっている魔晶石を拾い集め、腰の小袋に入れる。

 エンチャント・カオスを掛けた武器の威力は高いが、金を稼ぐ為の戦闘には不向きな様だ。

 防御を無視してモンスターを倒せるのは、戦闘が楽になるのでありがたい。

 だが、魔晶石以外の収入源の一つである武具を破壊してしまっている。

 破壊してしまっては、売って金に替える事ができない。

 エンチャント・カオスの魔法は、金目的の時には使わない方がいいだろう。

 一つ教訓を得られた。

 それで納得しておく事にする。

 

 考えている内に呼吸が整う。

 未だエンチャント・カオスの効果で虹色に輝くバスタードソードを鞘に納めるのを諦め、持ったまま先に進む事にする。

 ダンジョンの奥に向け一歩踏み出した所で、前から影が近付いてくるのを見つけた。

 その影は、今日これまで遭遇してきた普通のゴブリンより二回りほど大きい。

 稀少種のゴブリン、若しくはホブゴブリンのどちらかだろう。

 目の前の影が何であれ、倒さなければ奥に進む事は出来ない。

 影が更に近付いてきた事で、正体が判明する。

 二、三日前に遭遇した稀少種のゴブリン同様の体格。

 青黒い肌を持ち、頭部には角が二本。

 おそらく、稀少種のゴブリンだろう。

 右手には、穂先から柄まで金属で出来ている飾り気が全く無い、目の前のゴブリンとほぼ同じ長さのポールウェポン(棹状武器)。

 先端には槍の穂先、そのすぐ下には断ち切る為の斧、その反対側にはピックを持つハルバードだ。

 左肩には、表面に宝玉らしき物がついている鈍色の細長い二等辺三角形の盾らしき物が、何らかの光により繋がっている。

 武器の間合い、威力共にあちらが有利。

 ただ、左肩の物が何なのか全く見当がつかない。

 何らかの魔法が込められた物だろう。

 どの道、逃げられない。

 いや、逃がしてもくれないだろう。

 鼻息も荒く、俺を殺る気に満ち溢れている。

 生き残る為には、戦うしかない。

 間合いに入る前に、少しでも有利に戦える様準備させてもらおう。

 後ろにゆっくり下がりつつ、魔法倉庫からシールドの巻物を取り出し封を切る。

 俺の前に光輝く盾が現れ、一瞬後には見えなくなる。

 左手に持っていたシールドの巻物が光と共に消滅。

 空いた左手で、魔法倉庫から残り少ないエナジーボルトの巻物を取り出し、牽制のつもりで封を切る。

 封を切った巻物が光り輝き、光の矢がゴブリンに向かっていく。

 光の矢がゴブリンに命中する直前、左肩の盾らしき物が左腕とは関係無く、光の矢を防御する為に動いた。

 盾らしき物は光の矢を受け止め、表面に焦げたような跡がつく。

 ゴブリンは何事も無かったかの様に足を止める事無く、こちらに真っ直ぐ向かってくる。

 

「チッ……何だ、あれは?」 

 

 エナジーボルトの光の矢を受け止めた盾らしき物。

 ゴブリンを守るように動いていた様に見える。

 あれが、攻撃を自動防御する効果を持っている魔法の防具なら厄介だ。

 俺の使える、魔法を含む遠距離攻撃は一切役に立たない。

 接近して戦うしかないが、簡単には近付けないだろう。

 先ずはあのハルバードの間合いを越え、俺の間合いに近付かなければ。

 さて、どうするか。

 とは言え、俺が採れる方法は一つだけ。

 強引だろうが何だろうが、力ずくで近付くしかない。

 覚悟を決め、ゴブリンに近付いていく。

 真っ赤な目、口許からは涎を垂らした、何かに憑かれているような表情。

 だが、そんな事はどうでもいい。

 俺に出来るのは、目の前に立ちはだかる敵にパイルバンカーを叩き込んで倒す事だけだ。

 ゴブリンが両手でハルバードを横凪ぎに振るう。

 空気を切り裂き、斧の刃が俺に襲いかかってきた。

 が、シールドの魔法効果により受け止められる。

 今だ。

 ハルバードが止まって出来た隙を生かし、ゴブリンの懐に入り込んだ。

 パイルバンカーを左胸部に向けて左腕を伸ばし、作動ボタンを押し込む。

 打ち出された長槍が、ゴブリンに向かって伸びていく。

 この至近距離なら、確実にゴブリンの左胸部を貫くはず。

 そう確信した瞬間、金属同士が激突した音が響いた。

 

「何だと……」

 

 俺の目の前に、思わず呟きたくなる、信じられない光景が映っている。

 これまで、防御ごと貫いてきたパイルバンカーの長槍。

 それが、ゴブリンの左肩の盾らしき物を貫けずに止められていたのだ。

 その様子に唖然とした俺は、腹部に衝撃を受けて跳ね飛ばされる。

 少しの浮遊感の後、背中に受けた強い衝撃で肺から空気が強制的に吐き出された。

 目の前に映るのは、ゴブリンではなくダンジョンの天井。

 パイルバンカーを止められた事で動揺した俺は、何かに跳ね飛ばされた挙げ句、床に転がっている様だ。

 ゴブリンの追撃を避けるため、呼吸の乱れもそのままに立ち上がる。

 あんなのを何度も喰らったら、甲冑はともかく俺の身体はもたないだろう。

 バスタードソードを支えに何とか立ち上がった俺の目に、ゴブリンがハルバードを勢いよく叩きつける様に振り下ろすのが映る。

 だが、呼吸が乱れたままで避ける事が出来ない。

 出来るのは、左腕の盾を構え、衝撃に備える事だけ。

 振り下ろされたハルバードの斬撃を受け止めたのは、光り輝く魔法のシールド。

 だが、斬撃を受け止めた場所から罅が入り、シールド全体に拡がっていく。

 幾度となく叩きつけられるハルバードにより光り輝くシールドが遂に砕け散り、ハルバードの斧の刃が俺目掛けて下りてくる。

 どうする。

 回避は間に合わない。

 受け止めても、さっき同様跳ね飛ばされるだけ。

 闘争本能と破壊衝動が、一斉に訴えてくる。

 

 ――攻撃しろ、目の前の敵を破壊しろ

 

 闘争本能と破壊衝動の命じるまま、パイルバンカーでの攻撃に繋げられる左腕の盾で受け流す。

 魔法の光り輝くシールドを砕く威力を持つ一撃が迫る。

 何とか受け流せたものの、左腕に激痛が走った。

 激痛に耐えつつパイルバンカーをゴブリンの左胸部に叩きつけ、作動ボタンを押す。

 左腕に衝動と更なる激痛を感じ、パイルバンカーが左胸から上に逸らされる。

 

 だが、パイルバンカーが作動した以上、もう手遅れだ。

 

 風切り音と共に打ち出された長槍がゴブリンの左肩を貫き、肩ごと左腕を引き千切った。

 

「Gyaaaaaaaaaaaaaa!?」

 

 ゴブリンが、左腕をパイルバンカーの長槍に引き千切られた激痛で悲痛な叫びを上げている。

 だが右手は、ハルバードを手放していない。

 俺は左腕の激痛に耐えつつ、態勢を立て直すため後ろに下がる。

 ある程度下がった所でバスタードソードを手放し、魔法倉庫からヒールポーションを取り出して一気に飲み干す。

 痛みに耐え続けてきたせいか、呼吸が荒い。

 ヒールポーションの効果が現れてきたのか、左腕の激痛が治まってきた。

 バスタードソードを拾い、呼吸が落ち着くのを待つ。

 そうしている内に、それまで聞こえていたゴブリンの悲痛な叫びが突然途絶える。

 ゴブリンを見ると、左肩にあった二等辺三角形の盾らしき物が、左腕の付け根に移動し傷口を塞いでいた。

 左腕と一緒に失われてなかったのか。

 だが、パイルバンカーを二発叩き込んで分かったこともある。

 密着した状態からの攻撃は防げないということ。

 おそらくだが、複数の攻撃は同時に防御出来ないだろうこと。

 これは、実際に試してみれば分かるだろう。

 バスタードソードでの攻撃を囮に、パイルバンカーを叩きつけて長槍を打ち込んでみればいい。

 

 左腕を失った分、ゴブリンの攻撃の威力は半減している。

 散々痛みで叫んでくれたお陰で、他のモンスターが寄って来ているかもしれない。

 今の状況でモンスターが増えたら厄介だ。

 早くゴブリンを片付けなければ。

 俺は、切り札を一つ切ることにする。

 

「……エンチャント・カオス」

 

 俺が、唯一使える付与魔法。

 それを発動の鍵となる言葉を声にして唱え、パイルバンカーに対して発動。

 長槍が虹色に輝き、盾が蒼黒くなる。

 普段の無音無詠唱で発動するよりも、強力な効果が与えられた。

 これなら、パイルバンカーの一撃で掠り傷一つつかなかったあのあやしい盾らしき物に防御されても、防御ごと貫けるはず。

 もし駄目だったら、更に切り札を切るだけだ。

 

 ハルバードを右腕だけで構えて近付いてくるゴブリンの足取りは重い。

 近付いてくるのを待っていては、時間が掛かる。

 こちらから仕掛けるしかない様だ。

 そう判断し、ゴブリンに向かっていく。

 俺の動きに気付いたゴブリンが、近付けまいとハルバードを右から横薙ぎに振るってくる。

 薙ぎ払うように振るわれたハルバードを姿勢を低くして避け、ゴブリンの懐に入り込んだ。

 そのままの勢いで、バスタードソードをゴブリンの頭に勢いよく突き出す。

 当然ながら、盾らしき物はゴブリンの頭を防御するために動き、バスタードソードによる突きを防ぐ。

 ここまでは、想定通り。

 問題はこれからだ。

 続けてパイルバンカーを右肩に叩きつけ、作動ボタンを押す。

 虹色に輝く長槍はゴブリンの右肩を貫き、消し飛ばした。

 ゴブリンの右肩があった部分から、血が吹き出し、左腕を血に染める。

 同時にハルバードを持つ右腕が落ち、ハルバードが金属音を鳴らす。

 

「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」

 

 右腕を吹き飛ばされたゴブリンが、再び激痛のためか悲痛な叫びを上げる。

 そして、ゴブリンが初めて怯えた様な表情を見せ、後退り始めた。

 上手くいった。

 予想通りあの盾らしき物は、全ての攻撃を完全に防御出来ない様だ。

 絶対防御などというふざけたものでない以上、あのゴブリンを殺る事は出来る。

 口許に笑みが浮かぶ。

 

「……殺れる」

 

 ――殺せ

 ――破壊しろ

 

 脳裡に、この二つの言葉が響き渡る。

 

 響き渡る言葉に従い、後退るゴブリンに止めを刺すため追撃を開始した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ