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第二十八話 ゴブリン狩り

 昨日は、決闘の後ギルドを出てから真っ直ぐ宿に戻り、晩飯時以外は部屋に篭っていた。

 お陰で、魔女に呪文書が使えなかった事に対する苦情も言えず、エナジーボルトの巻物の補充が出来ていない。

 朝っぱらから、道具屋に行くのも面倒だ。

 パイルバンカー作動用の魔晶石も、補充の分が全く無い。

 昨日の決闘で、あのクズ野郎の体を完全に消し飛ばすのにパイルバンカーを連発した為、その後の補充で手持ちを全て使いきってしまった。

 俺の攻撃力維持の為にも、パイルバンカー用の魔晶石の確保を最優先しなければならない。

 そのために日が昇り切る前から、ダンジョンに向かう。

 

 この時間では流石に屋台は開いていないので、昼飯を買うのを諦める。

 ダンジョン前に着くが、入口前には警備員が二人いるだけで、探索者の姿が全く無い。

 何時もは人気のない警備員詰所に、何故か多数の警備員が待機している。

 ダンジョンに何か異変が起こっているみたいだが、俺にはどうでもいい事だ。

 ダンジョンに潜る為に、入口に近づいていく。

 今日は、昨日と違い武具は既に装備している。

 警備員に止められる事はないだろう。

 そう思い、ダンジョンに入ろうとした所で二本の棒杖により、今日もまた行く手を遮られる。

 

「……今日は、ちゃんと武具を装備している。遮られる覚えはないが」

 

 警備員を睨みつけながら棒杖を払いのけようとするが、退けられない。

 構える棒杖に、かなりの力が込められている様だ。

 

「悪いが、今日からギルドによりダンジョン探索が禁止されている。とっとと帰れ」

 

 その言葉と共に俺を追い払おうと、警備員達は棒杖を押し出した。

 

「訳も分からず、はいそうですかって帰るわけ無いだろう。理由ぐらい教えろ」

 

「……そうか。これは昨日の昼過ぎに決まったことで、探索者にはギルドで通知された筈なんだが……」

 

 二人の警備員が揃って、可哀想な者を見る目で俺を見る。

 

「昨日は午前中ダンジョンに潜っていて、午後はクズ野郎と決闘だ。知っている訳無いだろ」

 

 俺の言葉を聞いた警備員二人が、何故か顔を引きつらせる。

 

「……お前がアルテスか? 蒼い甲冑の“無能”……」

 

「ギルド長の孫を消し飛ばした“無能”……」

 

 “無能”、“無能”と本人の前で失礼な。

 この事で言い合うのも、時間の無駄だ。

 “無能”については完全に無視しておく。

 

「そう言えば、クズ野郎もそんなこと言ってたな。そんなことはいいから、通してくれ」

 

 行く手を遮る二本の棒杖を再び退け、先に進もうとする。

 今度は、何の抵抗も無く先に進めた。

 警備員が棒杖を退いたからだ。

 どうやら、昨日の決闘の事はギルド内で広まっているらしい。

 どんな内容で広まっていようが、俺にとってはどうでもいい事だ。

 気にするだけ、馬鹿馬鹿しい。

 ダンジョンに続く階段を下りていく中、背後から声を掛けられる。

 

「昨日から、ダンジョン内のゴブリンの数が異常に増えている。気をつけろよ」

 

「ゴブリンの異常出現で、探索が禁止になっているんだが、お前だけは通せとギルド長から命令がきている。恐らく、ギルド長はどんな手段を使ってでもお前を殺すつもりだろう。生きて帰ってこいよ」

 

 ギルド内の派閥争い。

 警備員の言葉から、俺も完全に巻き込まれてしまった事を理解する。

 さっきの警備員達は、副ギルド長の側についている様だ。

 でなければ、ダンジョン探索禁止なのに俺がダンジョンに潜れる理由も教えてくれないだろう。

 情報をくれた彼らに感謝しつつ、進んでいく。

 

 階段を下りきり、ダンジョン内に入る。

 辺りを見渡すが、ゴブリンの姿は全く無い。

 奥に進めば、幾らでも見付かるだろう。

 入口の階段がある広場を出て、通路を真っ直ぐ進んでいく。

 二、三分程歩いた所で、前方から複数の足音が聞こえてきた。

 立ち入り禁止になっている以上、足音を立てているのはモンスター。

 恐らく、ダンジョン立ち入り禁止の原因となったゴブリンだろう。

 二、三体程度なら、魔法を使わなくても問題は無い。

 それ以上だったら、巻物か魔法を使わざるを得ないだろう。

 ソロの俺にとっては、幾らゴブリンとは言え、数の暴力は驚異だ。

 バスタードソードを抜き、モンスター――恐らくゴブリンだろう――を待ち受ける。

 万が一の為の保険として、左手にシールドの巻物をいつでも封を切れる様に持っておく。

 目の前に、人型の影が三つ近づいてくるのが見えてくる。

 三体か。

 使う必要が無くなったシールドの巻物を魔法倉庫に収納。

 武器を構え、三つの影に向かって駆け出す。

 近づいていく内に、ゴブリン三体の詳細を確認。

 三体とも、緑色の肌の普通のゴブリンだ。

 武器は、剣身に錆が浮き、刃も欠けているボロボロの小剣。

 これなら、すぐに片が着く。

 近付いてくるゴブリン三体の右側のやつの頭に、バスタードソードを叩きつける。

 鋼色の刃がゴブリンの頭を割り、体液を撒き散らす。

 頭を割られ命を失ったゴブリンが、目の前で光となって消え去り、小石サイズの魔晶石を残した。

 残り二体。

 

「Ugyaaaaaa!?」 

 

 仲間を殺されたゴブリン二体が、怒りの為だろうか咆哮し、小剣を振りかざしながら勢いよく近付いてくる。

 二体同時の攻撃を左側のものは盾で、右側のものはバスタードソードで受け止めた。

 左右の武具から、攻撃を受けた事で発生した金属音が響く。

 耳障りな甲高い金属音に耐えながら、先ずは盾に攻撃した左側のゴブリンを倒す事に決める。

 バスタードソードを押し出して右側のゴブリンの体勢を崩し、左側のゴブリンを殺る時間を稼ぐ。

 左側のゴブリンの小剣を盾で受け流しつつ、尖端を頭に向け、パイルバンカーの作動ボタンを押す。

 打ち出された長槍はその頭に風穴を開け、ゴブリンをあの世へ送った。

 

「……残り一体」

 

 光となり消えゆくゴブリンに背を向け、最後のゴブリンに向き直る。

 ゴブリンは、体勢を立て直しかけていて隙だらけだ。

 隙だらけのゴブリンの首に、バスタードソードを叩きつけて首を斬り落とした。

 転がっていく頭部、そして頭を失った体が光になり消滅。

 ゴブリンの体があった所に、魔晶石が転がっている。

 

「取り敢えずは、終わりか……」

 

 辺りを見回し、モンスターがいない事を確認。

 ゴブリンが残した魔晶石三つを小袋に、小剣三本を魔法倉庫に放り込む。

 

「思ったより少ないな……」

 

 ゴブリンが異常に増えているという割に、集団を構成する数が少ない。

 まだ入口近くだから少ないのか、この位の数の集団が多数なのか。

 奥に進めば分かるだろう。

 バスタードソードを鞘に納め、奥に進む事にした。

 

「……もう戦闘か」

 

 前の戦闘から五分。

 二〇m前方にはゴブリンが六体、武器を構えて俺の行く手に立ち塞がっている。

 先に進むには、倒すしかないだろう。

 魔法倉庫からシールドの巻物を二本、両手に取り出し直ぐに封を切る。

 俺の前に光輝く盾が出現し、直ぐに見えなくなった。

 ゴブリン相手なら、数が多くても防御はこれで十分過ぎるだろう。

 近付いてくるゴブリン達に、魔法倉庫から投擲用のダガーを取り出し投げ続ける。

 これでゴブリン達を倒すつもりはない。

 どうせ、一撃で倒せるだけの威力は無いのだから。

 命中して傷付いてくれれば、儲けもの。

 倒せなくても、牽制にはなるだろう。

 そのつもりだったが、五体のゴブリンに投擲した五本全てが命中。

 うち三本が急所に命中し、ゴブリン三体は光と共に消滅してしまう。

 残り二本も腹部や脚部に命中し、ゴブリン二体は移動速度を大幅に落とす事になる。

 無傷のゴブリンが威嚇の咆哮を上げ、小剣を振りかざしながら駆けてくる。

 その様子を見ながら、魔法倉庫からダガーを取り出し、逆手に持つ。

 小剣の間合いに入ったゴブリンが降り下ろした小剣を半透明の光輝く盾が受け止める。

 耳障りな金属音が、俺を中心に辺りへ響きわたる。

 お返しに、一歩踏み込みダガーで顔を斬りつける。

 ゴブリンの左頬から右目の目蓋に、一本の赤い筋が描かれる。

 そのまま右腕を降り下ろし、ゴブリンの右目にダガーを叩きつける様に突き刺す。

 

「Gyaaaaaaaaaaa!?」

 

 ゴブリンが激痛の為、絶叫する。

 五月蝿い。

 手首を捻り、傷口を拡げる。

 ゴブリンの悲鳴が更に大きくなった。

 ゴブリンの右目に突き刺しているダガーを手放す。

 魔法倉庫からもう一本ダガーを取り出して逆手に持ち、そのまま激痛に悶えるゴブリンの頭に振り下ろす。

 ダガーが頭に突き刺さると同時に、ゴブリンが光となり消滅。

 

「残り二体……」

 

 残り二体のゴブリンを見て、どちらが倒し易いか判断する。

 二体とも、刺さったダガーを抜き、空いていた手に持っていた。

 ダガーを自分の武器として使う事は出来ても、投げ返す事までは思い付かないらしい。

 腹部を負傷しているゴブリンの方が動きは鈍い。

 その様子から、先に足を負傷しているゴブリンから倒す事にする。

 時間稼ぎの為に、腹部を負傷しているゴブリンの脚部にダガーを投げる。

 投擲されたダガーは狙い通り、腹部を負傷したゴブリンの脚部に命中。

 その動きを更に遅くした。

 だが、その間に接近してきた脚部を負傷しているゴブリンの攻撃を許してしまう。

 俺に向けて振り下ろされる右手の小剣。

 これは、光輝く半透明の盾に止められた。

 攻撃を止められた事に驚くゴブリンの隙を突き、パイルバンカーをその頭に向ける。

 口許に笑みが浮かぶ。

 一週間程前の俺だったら、四体以上のモンスターの集団相手に戦闘などしていない。

 見つけた時点で逃げていた筈だ。

 少し前の事を思い出しながら、パイルバンカーの作動ボタンを押す。

 長槍が頭を貫き、ゴブリンを光に変えた。

 

「残り一体……」

 

 バスタードソードを鞘から抜き、両手で持つ。

 腰だめに構え、最後の一体へ向けて駆け出す。

 仲間を全員殺られ、俺に背中を向けて逃げ出そうとしているゴブリン。

 だが腹部と脚部の怪我の為、その動きは駆けている俺に比べあまりにも遅い。

 逃げ出すゴブリンに直ぐ追いつき、その背中にバスタードを叩きつける様に振り下ろす。

 振り下ろされた刃は、ゴブリンの右肩口から左脇腹に抜け、その体を両断した。

 目の前で体を両断されたゴブリンが光に変わり、直ぐに消滅する。

 ゴブリンがいた場所には、魔晶石とゴブリンが最初から持っていた小剣、俺が投げたダガーが残された。

 辺りを見回し、他にモンスターがいないか確認するが、影すら見当たらない。

 どうやら、この場のモンスターは全て倒したらしい。

 

「これで終わりか……」

 

 戦闘が終わった事に息をつく。

 安全な事を確認出来たのでバスタードソードを鞘に納め、戦利品の回収を始めた。

 ゴブリンが持っていた小剣と俺が使ったダガーを魔法倉庫に放り込み、魔晶石を腰の小袋に入れる。

 

 全てを回収し終え、立ち上がる。 

 戦利品の回収忘れが無いか確認する為、辺りを見回す。

 小休止をかねてゆっくり見回すが、それらしいものは見当たらない。

 確認はもう十分だろう。

 奥に進むか引き返すか。

 現在の疲労具合と消耗品の残量等を見て、考える事にする。

 

 体は軽く、肉体的な疲労は無いに等しい。

 精神的にも全く問題無い。

 今のところはだが。

 消耗品もシールドの巻物を二本使っただけ。

 数も十分ある。

 それに、たった九体のゴブリンを倒しただけで帰る訳にもいかない。

 パイルバンカーを安定して使用する為にも、魔晶石を少しでも多く確保しておかなければ。

 

 結局、まだ余裕があるので、奥に進む事に決める。

 モンスターを求めて、俺は更にダンジョンの奥へ進んで行く。

 その先に、何が待ち受けているのかも知らずに――


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