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第二十七話 決着

「お前に止めを刺すのは、このパイルバンカーだ」

 

 クズ野郎にパイルバンカーの尖端を向け、宣言する。

 時間稼ぎのお陰で、ある程度動ける位にはダメージが回復した。

 バスタードソードを振るう右腕の感覚は、殆ど無い。

 近い内に回復するだろう。

 身体が動くなら……まだ戦える。

 左腕のパイルバンカーを構え、“無能以下”のクズ野郎に近付く為、今出せる全力で駆ける。

 俺が近付くのに気付いた“無能以下”のクズ野郎が、大剣を振り下ろす。

 そう何度も、同じ手を喰うつもりはない。

 振り下ろされてくる大剣の側面に、バスタードソードを薙ぎ払う様に叩きつけて僅かに逸らす。

 同時に左へステップ。

 そのままクズ野郎の右側に回り込み、右肩にパイルバンカーを叩き込む。

 クズ野郎は、右肩に向かって伸びていく長槍を後ろに下がることで直撃を回避する。

 しかし、完全には回避出来ず、長槍は大剣を掠めクズ野郎の手から弾き飛ばされ、数m離れた地面に突き刺さった。

 掠めただけで大剣を弾き飛ばすパイルバンカーの威力に、クズ野郎が唖然とした間抜け面を晒す。

 茫然自失して隙だらけになっているクズ野郎の腹部に膝を叩き込む。

 

「グヘッ」

 

 呻きながら仰向けに転倒したクズ野郎を横目に、パイルバンカーで弾き飛ばした大剣の元へ移動。

 地面に突き刺さっている大剣を手にし、魔法倉庫に収納する。

 これで、あの電撃を放った大剣は使えない。

 武器を失ったクズ野郎に向き直る。

 左腕のパイルバンカーを構え、クズ野郎に近付いて行く。

 長槍を叩き込み、あの世で俺に決闘を挑んだ事を後悔させるために。

 

 一歩進む毎に、クズ野郎に生きていられる時間が失われていく。

 腹部を押さえ、未だ呻いているクズ野郎。

 パイルバンカーの間合いまであと二mに近付いた所で、それは起こった。

 

「アースバインド!!」

 

 その大声と共に、俺の足下に魔法陣が展開される。

 魔法陣から伸びた多数の鋼の鎖が俺の四肢に絡み付き、俺の動きを完全に拘束した。

 正面のクズ野郎ではないのは確かだ。

 奴は未だ地面に転がったまま、腹部を抑えて呻いている。

 何処からだ。

 辺りを見渡す。

 

「その者を捕えろ」

 

 武闘訓練場全体に、副ギルド長の声が響く。

 そして、何か争う音が聞こえてくる。

 音のする方を見ると、複数の警備員と取り押さえられている男がいた。

 こいつが、この魔法をかけたのか。

 決闘の邪魔をしやがって。

 あいつは、後で始末する。

 目の前のクズ野郎に止めを刺す為に拘束を解こうとするが、身動きすら出来ない。

 魔法の拘束を解こうと足掻いていると、クズ野郎が立ち上がるのが見えた。

 右手には長剣を持ち、左手で腹部を押さえている。

 奴も収納の魔道具を持っていたのか。

 

「“無能”が……舐めた真似をしてくれたな。だが、これで終わりだ。やれ!!」

 

 クズ野郎が、周りを見渡す様にしてから長剣を振り下ろす。

 長剣の間合いではないはずだが、一体何だ。

 疑問に思ったが、答えは直ぐに分かった。

 視界に、結界の外から火の球、電撃等の攻撃魔法が俺に向け飛んでくるのが映る。

 結界の外でも、魔法を放った馬鹿共を捕まえているらしく慌ただしくなった。

 防御どころか身動きすら出来ない現状で、あんなのをまともに喰らったら確実に俺は死ぬ。

 だが、こんな所でクズ野郎に殺される気は全く無い。

 使いたくなかったが、やむを得ないだろう。

 前後左右から飛んでくる攻撃魔法を防ぐ為に、カオス・シールドの魔法を四度、無音無詠唱で発動する。

 直ぐに漆黒の盾が四枚、俺を囲う様に現れる。

 四枚のカオス・シールドが、俺に向かってくる攻撃魔法を防いでいく。

 そうして得られた僅かな時間で、魔法の拘束を解く方法を考える。

 攻撃魔法の嵐が収まれば、クズ野郎が直接攻撃してくるだろう。

 それまでに、何とかしなければ。

 今まで焦燥に駆られていた心が、自分でも不自然だと分かる位落ち着いてくる。

 疑問に思った瞬間、答えが返ってきた。

 

『――告。緊急事態と判断し、短剣に付与されていた精神安定の効果を吸収。強制的に効果を発動させました』

 

 ……ちょっと待て。

 それは、一本だけ持っていた魔法のダガーの事か。

 

『――告。その通りです。精神安定の効果のみを吸収しましたので、短剣は失われていません。これまで通り、使用出来ます』

 

 それなら問題無いだろう。

 問題あるかも知れないが、後回しにする。

 それより、拘束の魔法を何とかする方法だ。

 この状況を乗り切らない限り、俺に後は無い。

 身動きすらままならない現状、気闘法は全く役に立たない。

 魔法で使えそうなのは……カオス・ボルトとエンチャント・カオス位。

 既にカオス・シールドを使っている今の俺のマナ残量では、カオス・ボルトを何発も撃ち込む様な真似は出来ない。

 ギャンブルは好きではないが、エンチャント・カオスに賭けるしかない。

 クズ野郎に止めを刺す為、パイルバンカーには使えない。

 バスタードソードにエンチャント・カオスの魔法を付与。

 虹色に輝くバスタードソードを感覚が戻ってきた右手から離す。

 バスタードソードが突き刺さった所から、魔法陣に罅が入っていく。

 罅は魔法陣全体に拡がり、俺を拘束する鋼の鎖にも罅が入っていく。

 拘束を振りほどこうと足掻くと、一本、また一本と鋼の鎖が砕けていった。

 足掻き続ける内に、魔法陣が完全に砕け散る。

 魔法の拘束から開放された俺は、地面に突き刺さったバスタードソードを引き抜いた。

 バスタードソードは、未だ虹色に輝いている。

 エンチャント・カオスの効果が続いている事を確認し、口許に笑みが浮かぶ。

 だが、効果持続時間は残り少ない。

 早めに決着を着けなければ。

 全てを出し尽くすつもりで、甲冑の身体強化を最大の七倍で発動させる。

 

『――告。強化持続時間は、六秒です』

 

 クズ野郎を戦闘不能にするだけなら、それだけあれば十分。

 蒼い光を纏った俺は、クズ野郎の正面に移動。

 バスタードソードを奴の手足に対して四度振るう。

 虹色に輝くバスタードソードは、クズ野郎の防具を紙切れの様に切り裂き、その四肢を切り落とした。

 バスタードソードを振るい終わると同時に、甲冑の身体強化を止める。

 

「ぐっ……」

 

 蒼い光が消え、俺の全身に激痛が走る。

 痛みに堪えかね、膝をついた。

 初めて一日に複数回使用したが、あまり多用出来そうにない。 

 クズ野郎が、手足を切り落とされた痛みに耐えられず喚いているのが見える。

 切り落とされた四肢から大量の血を流し、自分を中心とした血だまりをつくっている。

 このまま放置していても、クズ野郎は死ぬだろう。

 だが、五月蝿く喚いているのが耳障りだ。

 “擦り付け”されたのと、昼飯を食い損ねさせられた恨みがある。

 苦しみながら死なせるのも報いだろうが、それでは俺の腹の虫が治まらない。

 激痛に耐えながら、虹色の輝きを失ったバスタードソードを支えにして立ち上がる。

 このクズ野郎には、恐怖と絶望をその魂に刻み込まなければならない。

 それに、パイルバンカーで止めを刺すと既に宣言した。

 今後、甲冑目当てに決闘を申し込んでくる連中に対する見せしめにする必要もある。

 俺に決闘を挑んだらどうなるか。

 この決闘で示しておく。

 どちらかが死ぬ以外、決闘が終わらない事を。

 

 クズ野郎が作った血だまりに踏み込んでいく。

 止めを刺す邪魔をする奴はもういないようだ。

 結界の外を見ると、決闘の邪魔をした奴等が警備員に拘束されている。

 後で奴等を殺りに行く事にしよう。

 

 クズ野郎に視線を戻す。

 顔は血の気を失い、死にかけている様だ。

 身体を屈め、パイルバンカーをクズ野郎の腹部に向け叩きつける。

 作動ボタンを押し、長槍を叩き込む。

 軽い震動と風切り音と共に長槍が打ち出され、クズ野郎の腹部を貫く。

 長槍を打ち込んだ衝撃でクズ野郎の体は跳ねるが、呻き声は聞こえない。

 確か、こいつはギルド長の孫とか言っていた。

 蘇生魔法で復活されても後々面倒なので、念入りに止めを刺す事にした。

 何をしようが復活出来ない様に、俺が放てる最強の攻撃を以て奴の体を完全に破壊する。

 エンチャント・カオスの魔法をパイルバンカーに掛ける。

 盾の蒼色が黒みを帯び、長槍が虹色に光り輝く。

 これでマナがほぼ尽き、魔法を使う事が出来なくなる。

 だが、クズ野郎に止めを刺すだけなので気にする必要は無い。

 精神安定の効果が抑えていた闘争本能と破壊衝動が、同時に同じ事を訴える。

 

 目の前の敵を完全に破壊しろ

 

 闘争本能と破壊衝動の命じるまま、クズ野郎の体にパイルバンカーの虹色に輝く長槍を幾度も叩き込んでいく。

 

 ただ殺しただけで済ませるつもりは全くない。

 ちり一つ残さず、完全に破壊し尽くす。

 

 虹色に輝く長槍は、貫いた箇所を消し飛ばしていく。

 もう死んでいるとか、決着は着いた等の声が、結界の外から聞こえてきた。

 だが、俺の行動を制止する声は一切無い。

 掛けられる声を無視して、クズ野郎の体にパイルバンカーを叩き込み続ける。

 当然だが、切り落とした奴の手足も含めて。

 その結果、クズ野郎の体で残っているのは頭だけになった。

 クズ野郎が倒れていた場所には、パイルバンカーが地面を穿った跡が残っている。

 後は、頭にパイルバンカーを叩き込むだけ。

 それで全て終わる。

 パイルバンカーをクズ野郎の頭に向け、起動ボタンを押す。

 何度目か憶えていないが、虹色に輝く長槍はクズ野郎の頭を貫き、消し飛ばした。

 それと同時にパイルバンカーに掛けていたエンチャント・カオスの持続時間が過ぎたのか、虹色の輝きが失われる。

 

「ハアッ……ハアッ」

 

 疲労の為か、呼吸が荒い。

 クズ野郎を完全に破壊し尽くした事で、破壊衝動が収まり落ち着いてきた。

 闘争本能と破壊衝動に身を委ねていた為に感じなくなっていた激痛が、再び全身を襲ってくる。

 

「……グッ」

 

 膝をつき、激痛に耐える。

 

「この決闘……勝者、探索者アルテス」 

 

 立会人の副ギルド長が、決闘の終了を告げる。

 辺りは静まり返えり、物音すらしない。

 魔法倉庫からヒールポーションを取り出し、震える手で栓を抜き一気に飲み干す。

 ヒールポーションを飲んだお陰か、全身の激痛が次第に治まってきた。

 心身共に落ち着いた所で立ち上がる。

 視線を動かし、決闘の邪魔をした連中を探す。

 決闘を見物していた野次馬職員達が、仕事に戻るため武闘訓練場の入口に移動するのが見える。

 更に探して、武闘訓練場入口と反対側の隅に集められているのを見つけた。

 そこか。

 ギルド内を探し回る手間が省けてありがたい。

 口許に笑みを浮かべ、決闘の邪魔をした連中が集められている場所へ歩いて行く。

 俺が近付いてくるのに気付いた警備員達が、棒杖を構えて行く手を遮る。

 

「何だ? 決闘が終わった以上、ここに用は無いだろう。疲れているはずだ。宿に帰って、ゆっくり休め」

 

 隊長らしき男が、俺の目的に気付いているのか畳み掛けるように話しかけてくる。

 

「退け。俺の決闘は、まだ終わっていない」

 

 そう言いつつ、警備員達の後ろにいる決闘の邪魔をした連中を見る。

 全員、ギルド職員。

 男女含めて十人程いる。

 俺の言葉の意味を理解したのだろう。

 全員が恐怖で顔を青ざめさせ、後ろに下がっていく。

 

「待て。決闘中に殺したならともかく、決闘後では認められない。彼等は警備隊で捕えた。よって、彼等の処分はギルドで行うことになる」

 

「お咎め無しって事は無いんだろうな?」

 

 まだ、カオバの馬鹿の処分が決まっていないという現状。

 連中も馬鹿同様、処分が決まらずに終わる可能性があるので確認する。

 

「……」

 

 隊長らしき男は俺から目を逸らし、処分されない可能性がある事を態度で示す。

 

「退け……邪魔をするなら、あんたらも纏めて殺らせてもらう」

 

 ギルドが規則通りに処分しないなら、俺がこの手で始末するだけだ。

 バスタードソードとパイルバンカーを構え、仕掛けるタイミングを見計らう。

 それを見た警備員の内、四人が隊長らしき男の側に集まり、棒杖を構えた。

 期せずして、一対五の構図が出来上がってしまう。

 出来れば、警備員と事を構えたくは無かったが仕方無い。

 言葉通りに排除するしか無くなった。

 一触即発の空気が漂う中、俺の闘争本能と破壊衝動が目の前の敵を倒せと叫ぶ。

 その叫びに身を委ね、行動に移す。

 

「アルテス君、待ちたまえ」

 

 大きくはないが、俺の動きを止めるだけの圧力が込められた声。

 おそらく、副ギルド長だろう。

 俺の動きを止めた声の方へ向き直り、睨み付けながら言い放つ。

 

「邪魔をするな……副ギルド長。ただ、決闘を邪魔した連中を始末するだけだ」

 

 俺を呼び止めた副ギルド長に背を向け、目の前の障害を排除するために動く。

 

「だから待ちたまえ。……というか、待てと言っているだろうが!!」

 

 背後からの怒鳴り声に仕方無く攻撃するのを止め、副ギルド長に再び向き直る。

 

「あいつらは、処分されるのか?」

 

 拘束されている連中の方を見てから、副ギルド長に問う。

 

「流石に、二日連続で職員の規則違反が起こっては、処分しない訳にはいかない。ましてや、決闘の妨害をしたのだから。……これで、ギルド長を完全に黙らせる事が出来る」

 

 一瞬だけ悪どい笑みを浮かべ、副ギルド長が言い切る。

 最後の一言は小声だったので、俺以外には聞こえていないだろうが。

 

「そういうことだから、彼等の処分については任せて欲しい。死んだ方がましと思える処分を下す」

 

「信用していいんだな?」

 

 ギルド長が面倒だと言っていたから、念を押して確認する。

 

「ギルドとしては、体面もあるからね。処分せざるを得んよ」

 

 拘束されている連中に視線を一瞬向け、副ギルド長がうんざりした顔をする。

 

「……分かった」

 

 副ギルド長も処分すると明言している。

 ここは、引くしか無いか。

 副ギルド長と話している間に、俺の邪魔をしようとする警備員の数が倍増していた。

 また、拘束されている連中を見張っている警備員の数も増えている。

 流石にこの人数を蹴散らして連中を始末するのは、どう足掻いても不可能だろう。

 奴等を始末するのは諦めるしかない。

 処分されるかは、副ギルド長を信用するしか無さそうだ。

 バスタードソードを鞘に納め、甲冑を脱着の効果で脱ぐ。

 

「……」

 

 警備員達の壁の向こうにいる、決闘の邪魔をした連中を一睨みしてから背を向けて歩き出す。

 背後から俺を呼び止める声が聞こえるが、相手をする気にならないので全て無視する。

 一刻も早く、この場から離れたい。

 行き場の無い怒りをぶつける様に入口の扉を蹴り開け、決闘の舞台となった武闘訓練場を後にした。


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