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第二十六話 決闘

 決闘の舞台となる武闘訓練場に向かう為、薄暗い通路を進む。

 通路は三日前と変わらず埃っぽい。

 あの鬼女から逃げる口実として、武闘訓練場へ向かっている。

 だが、よく考えてみれば決闘を始めるまでする事がない。

 

「失敗だったな……」

 

 後悔するが仕方ない。

 昼飯を食いに出ても、決闘開始までには戻ってこれないだろう。

 決闘に遅れる訳にはいかない。

 昼食を食い直したかったが、残念だ。

 あのクズ野郎への怒りが、更に沸き上がる。

 食い物の恨みが恐ろしい事を、その魂に刻み込んでやろう。

 結局、武闘訓練場で決闘開始を待つしかない様だ。

 

 

「やはり、まだ早すぎたか……」

 

 武闘訓練場についたが、誰もおらず何の準備もされていない。

 三日前に訓練に来た時のままだ。

 壁にもたれ、のんびりと決闘開始を待つ。

 暫くすると数人のギルド職員がやって来て、武闘訓練場の中央で持ってきた物を使い、慌ただしく作業を始める。

 杭を持った職員達が四方に別れ、中央からある程度離れた所で止まり杭を地面に打ち付け始めた。

 多分、杭を打ち付けた内側が、決闘で動ける範囲なのだろう。

 結構広そうだが、そんなにも必要なのだろうか。

 よく考えれば、彼らが慌ただしく準備しているのは俺が原因だろう。

 決闘を挑んできたクズ野郎が悪いので、俺の知ったことではないが。

 ボンヤリ作業を眺めている内に、決闘の準備は整ったようだ。

 作業をしていた職員達が、道具類を抱えて武闘訓練場から去っていく。

 それを見て、俺もまだ決闘の準備が万全でない事に気付いた。

 確実にあのクズ野郎を殺るため、武具の点検も兼ねて出来るだけの準備を始める。

 甲冑は、見たところ特に異常は見当たら無い。

 バスタードソードも罅等の異常は無い。

 投擲用の短剣も全て、腰のホルダーと盾の裏のホルダーに挿されている。

 ポーチに、シールドの巻物を五本放り込む。

 決闘の準備は、これぐらいで十分のはずだ。

 というよりも、それぐらいしか出来ることがない。

 準備が終わった所で、入り口から見物の為だろうか。

 ギルド職員達が、ぞろぞろ入ってきた。

 

「……そろそろか」

 

 決闘の時間が近付くにつれ、見物人が増え始める。

 その光景を目の当たりにし、この期に及び緊張で喉が乾いてきた。

 魔法倉庫からマナポーションを取り出し、水代わりに一気に飲み干す。

 

「ここにいたのか、アルテス君」

 

 急に声を掛けられ、驚いて噎せる。

 噎せながら声の方を見ると、副ギルド長とイリアが立っていた。

 

「大丈夫かね?」

 

「ああ、大丈夫だ。急に声を掛けないでくれ」

 

「そろそろ時間だ。ついて来てくれ」

 

「分かった」

 

 背を向け、決闘の場に歩いていく副ギルド長についていこうとした。

 その場に佇むイリアが、まだ何か言いたそうにしている。

 だが、言うべき事は既に言っている。

 この期に及んで、話す事は何もない。

 イリアを一瞥すると、副ギルド長について決闘の場に赴く。

 

 決闘の場である、ギルド職員達が作業をして用意した武闘訓練場中央には、既に決闘相手のクズ野郎が待ち構えていた。

 

「これより、探索者ガベス・ギャラベルクと探索者アルテスの決闘を始める。なお立会人は副ギルド長である私、レギス・マクムントが務める。双方、遺恨を残さないように。それでは……」

 

「ちょっと待ってくれ。俺は、決闘を挑まれる理由が分からないんだが?」

 

 開始の合図を出そうとする副ギルド長の言葉を遮り、疑問を口にする。

 

「……そう言えば、言ってなかったか。私も決闘を受けるか聞いただけだったね」

 

「ああ。俺に“擦り付け”してくれたクズ野郎が自分からやってきてくれたんで、殺るのに丁度いいから受けただけだ」

 

「ただ、彼を殺したいだけだったのかね……」

 

 俺の決闘を受けた理由に、副ギルド長だけでなく、決闘を見に来た者達が呆れた顔をする。

 殺す為だけに決闘を受けたのかとか、何だと!! とか声が聞こえてくるが、全て無視しておく。

 

「……まあ、それは置いておこう。話が進まないからね。そこのガベス君が、君に名誉を傷付けられたと言うことで、決闘と言い出したのだよ」

 

「全く……傍迷惑なクズ野郎だ。こいつの名誉を傷つけたって……何かしたかな?」

 

 今日、ギルドに来てからの事を思い出してみるが、心当たりは全く無い。

 

「何だと!! 態々“無能”風情を訪ねてやったというのに……」

 

 クズ野郎は歯軋りし、今にも襲い掛からんばかりに怒っている。

 

「クズ野郎に訪ねられる覚えは全く無い。しかし、よくもまあ“擦り付け”した相手の前に顔を出せたな。“無能以下”のクズ野郎」

 

「“無能以下”だと!? 属性魔法を使えない“無能”の分際で、この僕に対して無礼な!」

 

「その“無能”が倒したモンスターから、尻尾巻いて逃げ出した挙げ句“擦り付け”してんだから、“無能以下”だろ。それにお前が何者かなど、俺にはどうでもいい」

 

「貴様っ!! ギルド長の孫であるこの僕が、どうでもいい存在だと!?」

 

「これから死ぬ“無能以下”のクズ野郎の事など、どうでもいいに決まっているだろ」

 

「おのれ……僕が死ぬだと!? ふざけるな!! 死ぬのは貴様の方だ!!」

 

 俺を睨み付けているが、視線は俺の顔ではなく、その下の甲冑に向けられていた。

 それで、俺を探していた理由を理解する。

 決闘で甲冑を奪い取ろうとしていたと言うことを。

 だが、今はそれを口にする必要はない。

 

「やってみなければ、わからんさ。さっさと始めよう」

 

 副ギルド長に、開始の合図を出すよう促す。

 クズ野郎がまだ何か喚いている様だが、五月蝿いので無視。

 バスタードソードを抜き、構えた。

 ポーチからシールドの巻物を取り出し、すぐに封を切れる様にする。

 

「では、改めて……始め!!」

 

 副ギルド長が、走って離れていく。

 同時に、事前に打ち込まれた杭を基点に、結界が張られていった。

 クズ野郎も背負っていた大剣を抜き構える。

 左手に持つ、シールドの巻物の封を切った。

 だが、光を発せずそのままシールドの巻物が消滅する。

 

「フハハハハ。“無能”が唯一使える無属性魔法は、完全に封じている。死ぬのは貴様だ!!」

 

 クズ野郎が、下卑た笑みを浮かべて宣言する。

 取り敢えず、巻物に込められた魔法効果が使えないのは確かなようだ。

 だが、甲冑に付与されているものはどうなのだろうか。

 

『――告。この程度の結界では、何ら影響ありません。左腕の魔法武具も問題無く使用できます』

 

 使えないのは巻物だけか。

 人前では混沌魔法をなるべく使いたくないので、甲冑の付与効果が問題無いのはありがたい。

 

「……結界に、何か細工でもしているのか?」

 

 疑問が口からこぼれる。

 細工していたとしても、それを話すほどの馬鹿ではないだろう。

 

「出来る事をやるだけだ」

 

 無い物ねだりをしても仕方無い。

 巻物が使えないなら、次の手札を切るだけだ。

 

 気闘法。

 

 まだ、練気と循環しか出来ないが、身体能力を上げる事は出来る。

 練気で、気の質を身体が耐えられる限界まで引き上げ、全身に循環させた。

 これで、まともに打ち合えるだろう。

 

 近付いてくるクズ野郎に、全速で移動。

 バスタードソードを叩きつけた。

 クズ野郎は俺の速度に驚いた顔をするが、辛うじて大剣で受け止める。

 このまま押し切ろうとするが、流石に両腕の力を捩じ伏せる事は出来ない。

 それどころか、逆に押し込まれていく。

 追い込まれていく現状を打開するため、左腕を伸ばしパイルバンカーを叩き込む。

 作動スイッチに指を掛けた所で、クズ野郎が口許に笑みを浮かべる。

 

「掛かったな……ショック」

 

 クズ野郎がその一言を呟く。

 その瞬間、バスタードソードを通して、右腕から午前中も味わった体内を焼かれる様な感覚が激痛と共に伝わってくる。

 

「ぐっ!?」

 

 激痛を感じると同時に、パイルバンカーの作動スイッチを反射的に押していた。

 長槍が、クズ野郎の頭部に向けて高速で伸びていく。

 だが、激痛のせいで狙いを外し、兜を掠めるが弾き飛ばすだけに終わる。

 弾き飛ばされた兜は、軽い金属音をたてながら転がっていく。

 長槍は、クズ野郎の頭を貫けなかった様だ。

 後退して仕切り直しをしようとするが、身体が思うように動かない。

 ダンジョン内の時の様に、全く身動き出来ないよりはましだが。

 足を引き摺るような遅さで、ゆっくりと後ろに下がる。

 バスタードソードを振るう右腕は、今の所感覚が全くない。

 さっきのあれは、何だったのだろうか。

 

『――告。キーワードにより電撃を発生させる魔法の武器での攻撃。近接戦闘は不利。遠距離での魔法攻撃を推奨』

 

 甲冑が答え、更に戦術的な助言をしてくる。

 だが、混沌魔法を使いたくない現状、無属性以外で使える攻撃魔法など持ち合わせていない。

 そんなものより、クズ野郎を殺る方法を教えろ。

 クズ野郎の様子を伺いながら、甲冑に無理と分かっている要求をする。

 

『――告。自力で何とかして下さい』

 

 予想通りの返答だ。

 後ろに下がり続けていると背中に何かが当たり、それ以上下がれなくなる。

 後ろを見るが、何も無い。

 結界に接触したのだろう。

 これ以上は、もう下がれない。

 クズ野郎が、下卑た笑みを浮かべ近付いてくるのが見える。

 

「“無能”風情が。よくもこの僕を舐めてくれたな。まあ、あれを喰らって、まだ動けるのは褒めてやるが」

 

 上からの目線で、嘲笑ってくる。

 適当に話を合わせれば、回復する為の時間は稼げそうだ。

 

「クズ野郎に褒められるのも、不愉快だな」

 

「減らず口を。……そうだ。その鎧を僕に差し出せば、命だけは見逃してやってもいいぞ」

 

 クズ野郎が、大剣を構えたまま、下卑た笑みを深めて言う。

 その言葉が、疑問だった俺を探していた理由を気付かせた。

 俺の答えは、既に決まっている。

 

「寝言は寝て言え、“無能以下”。勝てる勝負を捨てる馬鹿はいない。……ようやく、お前が俺を探していた理由が分かったよ。この甲冑目当てで、最初から決闘を仕掛けるつもりだったんだろ」

 

「な……何故分かった!?」

 

 クズ野郎の顔から下卑た笑みが消え、驚愕に変わる。

 

「馬鹿でも判るさ。あれだけ甲冑をじろじろ見ていればな。自分が尻尾巻いて逃げ出したモンスターを、俺が倒したのが気に入らないっていうのもあるんだろうが」

 

 クズ野郎は驚愕し、口を開けたままだ。

 電撃で受けたダメージも、ようやく回復してきた。

 ここからが本番だ。

 闘争本能と破壊衝動が、目の前のクズ野郎を叩き潰せとがなりたてる。

 全力で、目の前のクズ野郎を殺せと。

 全身が焼ける様に熱くなっていく。

 左腕のパイルバンカーをクズ野郎に向け、宣言する。

 

「おい、“無能以下”。お前に止めを刺す武器は、このパイルバンカーだ」


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