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第二十四話 鬼女再降臨

 十分程休憩して、襲撃者達が遺した装備や所持品から使えそうな物と金になりそうな物色していく。

 装備は、最初に殺った二人の鎧以外を全て回収した。

 必要な物は無いので、全て売れば多少の金にはなるだろう。

 奴等が持っていた金は、全員分合わせても対した額ではない。

 数えるのも面倒なので、そのまま魔法倉庫に放り込む。

 後は、小石位の大きさの魔晶石が十個ほど。

 どうするか少し考えて、十個全てをパイルバンカーに補充した。

 今日はパイルバンカーの使用頻度が高いので、魔晶石が無くなって戦闘中に使えなくなるのを防ぐ為だ。

 必要な時に使えずに、死にたくはない。

 今の様に、魔晶石に余裕がある時に入れればいいだろう。

 

 返り討ちにした襲撃者達の遺した物を、額としては全然足りないが迷惑料として回収し終えた。

 本当なら、もっと苦しませてから殺したかったが、そんな余裕は全く無かったのが残念だ。

 殺したので万が一もあり得ないだろうが、再び俺の目の前に現れたなら、今度こそ苦しみを与えてやろう。

 食い物の恨みを甘く見るな。

 

 

 ダンジョンの入口を目指し、岩肌の通路を進んでいく。

 目の前に階段が見えてくる。

 ようやく、ダンジョンの入口に辿り着いた様だ。

 

「ようやく、辿り着いたか……」

 

 ゴブリン限定だが、異常にモンスターと遭遇するようになったダンジョン。

 ダンジョン内部で何が起こっているのか。

 俺が気にする事じゃない。

 当面は装備に馴れる為、地下一階でモンスターを相手にするつもりだから。

 階段を上がり、ダンジョンから出る。

 

 日は、まだ高い位置にある。

 大体、昼前だろう。

 辺りに、何故かボロボロの探索者達が目につく。

 この時間は普通、探索者がダンジョンから出てくる時間ではない。

 ゴブリンとの異常な遭遇回数が原因なのだろうか。

 ソロの俺と違い、普通のパーティならゴブリンと何十回戦闘しようが問題ないはず。

 だが、何故あそこまでボロボロなのか。

 興味はあるが、“無能”と見下されている俺が聞いても相手にされないだろう。

 甲冑の脱着能力で武具を脱ぎ、目の前の探索者ギルドに歩いていく。

 行き交う人や馬車を避けながら大通りを渡り、探索者ギルドの門をくぐる。

 時折、俺に向けた視線を感じるが、全て無視して階段を下りて行く。

 シャワー室で、ダンジョンでかいた汗を流し、身体を清潔にする。

 汗を流して気分が良くなった所で、魔晶石を換金する為に階段を上り一階の換金受付に向かう。

 人のいる受付カウンターの前まで行き、声を掛ける。

 

「換金を頼む」

 

 魔法倉庫から魔晶石を入れている小袋を取り出し、カウンターに置く。

 

「はい、お預かりします……ってアルテスさん!?」

 

 俯いていたので気付かなかったが、今日のこの受付の担当はイリアだった様だ。

 俺の顔を見て声が上ずっている。

 今日もまた、暇潰しを兼ねて手伝っているのだろう。

 

「何故、俺の顔を見て驚くんだ? 何かしたかな?」

 

 俺には、驚かれる理由が全く分からない。

 

「何、寝言言っているんですか!! 聞きましたよ。昨日、カオバ管理官を殺そうとしたそうですね」

 

 イリアがいきなり大声を上げたので、周りにいる者の注目を集めたようだ。

 複数の視線を感じる。

 おそらく、聞き耳を立てているはずだ。

 

「問題あったか?」

 

「大問題です!! 何故、ギルド職員を殺そうとするんですか!?」

 

「よく言う。あの馬鹿に喧嘩を売られたのは、誰だったかな?」

 

 俺が殺されそうになったのは、誰のお陰だったか。

 そう言外に含める。

 

「!? 何で知っているんですか!?」

 

「昨日ダンジョンに潜ったら、早速担当している探索者を四人送り付けてくれたからな。そいつらを返り討ちにして換金に来たら、罪をでっち上げて、人目の付かないところで殺そうとしてくれたよ。それで解った」

 

 どうせ、同僚達から昨日の話は聞いているはず。

 簡単な説明でいいだろう。

 

「そうですか……」

 

 カオバのあまりに馬鹿な行動に呆れているのか、納得してくれたようだ。

 

「所で、馬鹿の処分はどうなった?」

 

 気になったので、聞いてみた。

 

「……まだ、決まって無いらしいわ。上で揉めてて、決まるまで時間が掛かるみたいね」

 

 副ギルド長が悪どい笑みを浮かべて何か企んでいたが、その絡みだろう。

 ギルド内部のもめ事に巻き込まれさえしなければ、どうでもいい。

 軽い処分だったら、いつか草の根分けても探し出して殺してやろう。

 

「……そうか。その話はおいておくとして、換金を頼む」

 

「わかりました。暫くお待ちください」

 

 魔晶石が入った小袋を持って奥へ行くイリアの後ろ姿を見ながら、今までどれだけ猫を被っていたのだろうかと思う。

 最低でも二、三匹。

 それも特大の猫の筈だ。

 

「何か失礼な事を考えていませんか?」

 

 イリアがどれだけの猫を被っていたかという事について考えていると、恐怖心を掻き立てる声を掛けられる。

 おそるおそる声のする方を見ると、鬼女の様に目をつり上げ、口に笑みを浮かべているイリアが立っていた。

 その背後には反りの入った剣を両手で構えた鬼女が、三日前同様屹立している。

 俺の心を読んでいるのか。

 彼女の前では、あまり変な事を考えないようにする事を決意する。

 本能的な恐怖を感じるあの鬼女はあまり見たくない。

 

「いや、別に何も考えてない」

 

 心を落ち着かせて、返事をしておく。

 

「……そうですか」

 

 鬼女は消えたが、イリアは疑う様な目で俺を見る。

 

「幾らになった?」

 

 話を変えるため、今日の稼ぎを聞くことにする。

 ダンジョンに潜っていた時間は短いが、倒したモンスターの数は普段の一日分より多い。

 いい稼ぎになったはずだ。

 

「チッ……二万五千ジールですね」

 

 イリアは、俺が話を変えようとしているのに気付いたが、周りが聞き耳を立てているので仕方なく話を合わせる。

 愛想良くしてないといけない受付が、舌打ちしてどうする。

 そう思ったが、またあの恐ろしい鬼女が現れても困るので忘れる事にする。

 

「そうか。二万はギルドに預けておく。手持ちは充分あるしな」

 

 懐はあたたかい。

 全部持っておかなくても問題ないだろう。

 五千ジール分の銀貨と銅貨だけを受け取り、財布にしまう。

 そのままイリアに背を向けて立ち去ろうとするが、背後から感じる恐怖に思わず足を止める。

 

「アールーテースさーん、少ーし、お話があります。三番の相談ボックスに行って下さいね」

 

 有無を言わさぬ圧力に屈して仕方無く振り返ると、表情無く目をつり上げたイリアがあの恐ろしい鬼女を背後に屹立させていた。

 拒否しようとするが、喉まで出掛かった言葉が止まる。

 まるで、蛇に睨まれた蛙の様だ。

 抵抗を諦めて、溜め息をつく。

 仕方無く、イリアが指定した三番の相談ボックスにとぼとぼ歩いていく。

 足が鉛になったかの様に、足取りは重い。

 重い足を引き摺り、三番の札が貼られた扉の相談ボックスの前に着く。

 扉の取っ手に手を掛け、開こうとした所で背後から声を掛けられた。

 

「お前がアルテスか?」

 

 振り返ると、上等な武具を身に付けたどこか偉ぶった男が立っていた。

 関わるとロクなことにならない。

 男を見て、そう判断する。

 面倒を避けるため、適当に誤魔化しておく。

 

「人違いだ。他を当たれ」

 

 そう言い放ち、あまり気は進まないが扉を開こうとした。

 扉の向こうから感じる威圧感が、先程より強くなっているのに気付く。

 不味い。

 あわてて扉を開けて相談ボックスに入ろうとするが、一瞬遅く扉からイリアが出てくる。

 

「何やってるんですか、アルテスさん。遊んでいる暇はないんですから、早く入って下さい」

 

 その顔は、正に鬼女そのものだ。

 右腕を掴まれた俺は、イリアに引き摺り込まれる様にして相談ボックスに連行される。

 扉を閉めようとした所で、先程の男が無理矢理相談ボックスに入ってきた。

 

「やはり、貴様がアルテスか! よくも嘘をついてくれたな!!」

 

 五月蝿い。

 この一言に尽きる。

 イリアも訳が分からないらしく、この五月蝿い男を止めようとしない。

 

「ロクでもないことになりそうなんで、あんたには関わりたくない。失せろ」

 

 降りかかった火の粉は、自分ではらえか。

 追い払う様に手を振り、目の前から去るよう促す。

 

「き、貴様! 人に対して、犬猫にするような無礼な振る舞い。決して許さん!!」

 

 五月蝿い男が、顔を真っ赤にして怒鳴る。

 その姿を見て、思い出す。

 四日前、俺に“擦り付け”をしてくれたふざけた連中の内に、この五月蝿い男がいた事を。

 報復する相手を見つけた事により、四日間何処にも向けようがなかった怒りの捌け口が出来た。

 ギルド内での殺しは禁止されている。

 殺すことは出来ないが、恐怖を与えて脅かす事は問題ない筈だ。

 鬱憤晴らしをかねて、脅かす事にする。

 溢れんばかりの怒りのお陰か、あの鬼女からの威圧感が感じられない。

 

「おい。四日前、俺に“擦り付け”しておいてよくそんなことが言えるな。寝言は、寝て言え。寝言を止められないなら、二度と寝言を言えない様にしてやろう」

 

 この五月蝿い男を脅かすために、武具を装備する。

 左腕の腕輪の宝石が、蒼く輝く。

 蒼い甲冑を身に纏い、左腕にパイルバンカー。

 目に映る範囲で状態を確認する。

 血に濡れていた筈の甲冑はその面影も無く、新品同様になっていた。

 その事に驚くが、顔に出ないように努める。

 おそらく、清掃も甲冑の修復能力の一部なのだろう。

 そう理解しておく。

 そんな事よりも、目の前のこいつを脅かすのが先だ。

 

「……死ね」

 

 左腕のパイルバンカー。

 その長槍の尖端を五月蝿い男に向け近付いていく。

 俺が放っているだろう殺気に、目の前の五月蝿い男は勿論、イリアも言葉が無い。

 五月蝿い男にいたっては顔を青ざめさせ、俺が一歩近づく毎に後ずさりしている。

 

「二度と寝言を言えない様にしてやるから逃げるな」

 

 俺の言葉に、五月蝿い男が背を向けて逃げ出す。

 逃げ出した男を追い掛け、相談ボックスから出る。

 出てみれば、扉の周囲には人垣が出来ていた。

 おそらく、あの五月蝿い男が何をするのか興味があって、様子を伺っていたのだろう。

 暇なのか、野次馬根性なのか、よくわからんが。

 逃げ出した五月蝿い男は、出来ている人垣に阻まれ先に進めていない。

 探す手間が省けたことに感謝しつつ、奴の後ろにまわり、その足を払って転ばせた。

 口許を歪めパイルバンカーを構える俺を見た五月蝿い男が何か喚いているが、聞き取れないので無視する。

 

「死ね。あの世で好きなだけ寝言を言ってろ」

 

 パイルバンカーを心臓に突き付け、死神の様に死を宣告する。

 そして、パイルバンカーを起動し長槍をその心臓に叩き込むふりをした所で、邪魔する声が人垣を掻き分け近付いてきた。


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