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第二十三話 全開戦闘

「くっ……これで終わりだ!」

 

 目の前のゴブリンの首筋に、バスタードソードを横薙ぎに叩きつけ止めを差す。

 ゴブリンが光に包まれ、魔晶石を残して消える。

 足下に転がっている魔晶石を拾い、腰のポーチに放り込む。

 時間が惜しいので、武器は回収しない。

 

「一体、どうなっている」

 

 ホブゴブリンとの戦闘後、ダンジョンから出るために入口に向かっている。

 あれから三十分もたたない内に、二十体以上のゴブリンを倒していた。

 行きと異なり、モンスターとの遭遇間隔が短くなっている。

 そのお陰で、未だ昼食の弁当も食えていない。

 それよりも問題なのは、あまり休憩を取れていない事だ。

 戦闘による疲労が、気を循環させていてもあまり回復していない。

 完全に疲労が回復する前に、モンスターと戦闘になっている。

 もう暫くは戦えるが、近いうちに限界が来るだろう。

 取り敢えず、入口を目指して進むしか無い。

 入口に向けて歩き始める。

 

 

「またか……」

 

 目の前には、ゴブリンが四体。

 武器を構え、俺の行く手を遮っている。

 魔法を使うゴブリンメイジはいないようだ。

 それが救いといえる。

 バスタードソードを抜き、ゴブリンへ駆けて行く。

 手近なゴブリンの首に、バスタードソードを横薙ぎに叩きつける。

 そのままバスタードソードを振り抜き、首をはねる。

 もたれ掛かる首無しゴブリンの体を左手で突き飛ばす。

 

「……一匹」

 

 次は……

 一番近いゴブリンを探すが、視界の左に小剣を振り下ろそうとするゴブリンが映る。

 右からもゴブリンが近づいていた。

 ゴブリン二匹による、左右からの同時攻撃。

 ゴブリンにしては珍しく、戦術らしき物を使っている。

 左側のゴブリンの攻撃を盾で受け流し、パイルバンカーを叩き込む。

 長槍がゴブリンの胸を貫き、一撃で光に変える。

 右側のゴブリンが振り下ろすこん棒を、バスタードソードを叩きつけて抑え込む。

 一歩踏み込んで左腕を伸ばし、パイルバンカーをゴブリンの頭に向けて起動。

 打ち出された長槍が、ゴブリンの頭を貫き、光に変える。

 

「あと一匹……」

 

 予想よりも早く、三匹のゴブリンを倒せた。

 おそらく、気の循環で向上した身体能力に慣れてきたからだろう。

 残り一匹、さっさと倒すとしよう。

 残ったゴブリンを見ると、俺に背を向け逃げ出していた。

 短時間の内に、仲間を全員倒されたからだろうか。

 追いかけるにしても、既に30mは離れている。

 追い付けない事はないが、無理して追い掛ける必要は無いだろう。

 エナジーボルトの巻物を使ってもいいが、残りが少ないのでやめておく。

 昨日、これも補充しておけばよかった。

 今更後悔しても仕方無いが。

 ゴブリンばかりだが、モンスターと遭遇する回数が増えている。

 また、すぐに戦闘になるだろう。

 逃げた奴を追うのは、時間と労力の無駄だ。

 そう判断してバスタードソードを納め、倒したゴブリンが残した魔晶石と武器を回収した。

 

「のどが渇いたな」

 

 魔法倉庫から水筒を取り出し、一口だけ水を飲む。

 水を飲んだことで、押さえ込んでいた食欲が刺激される。

 空腹も食欲を後押しして、昼食を我慢出来なくなってきた。

 これ以上、我慢するのは無理だ。

 あまり行儀は良くないが、移動しながら食べる事に決めた。

 魔法倉庫から弁当の包みを取り出す。

 さて、今日の弁当は何だろうか。

 今日もまた、パンに何かを挟んだものだろう。

 パンや挟むものによって味が変わるので、別に気にはならないないが。

 何時もと違う細長い包みを開け、中を確認する。

 今日のパンはバゲットだった。

 上下で二つに分け、三本の串で留めている。

 挟んでいる具材は……。

 ベーコンと目玉焼き、申し訳程度に下に敷いているレタス。

 俺が好きな組み合わせだ。

 具材を挟んでいるパンが、何故バゲットなのかは疑問であるが。

 だが、そんなことを気にしていられない。

 手前の固定している串を放り投げ、バゲットに食らいつく。

 塩気の効いたベーコンの旨味と卵の黄身の微かな甘さが、口の中に拡がった。

 噛み続けることで、バゲット自体の素朴な味わいも感じられる。

 バゲットをよく味わって食べながら、ダンジョンの入口へと通路を進んでいく。

 左折する曲がり角に差し掛かった所で、魔法と思われる火球、水球、稲妻等がいきなり俺目掛けて襲い掛かってくる。

 

 シールドの巻物は間に合わない。

 

 一瞬でそう判断した俺は、気休めにしかならないだろうが盾を構え、防御体勢をとった。

 盾から伝わる、体内を焼かれるような感覚により、体勢が維持できなくなる。

 そして、続いて盾を襲う激しい衝撃により、後ろに飛ばされた。

 

「ぐっ……」

 

 後頭部と背中に衝撃を受け、肺から空気が強制的に吐き出される。

 視線を動かし、自分の状況を確認。

 天井の岩肌が上に見えている。

 左右の視界の隅に、岩肌が見える。

 おそらく、吹き飛ばされて壁に叩きつけられたのだろう。

 運良く、倒れずに済んだ様だ。

 だが身体は痺れ、ほとんど動かせない。

 魔法らしきものが飛んできた方を見る。

 曲がり角の隅から、探索者らしき武装した者達がぞろぞろと出てくる。

 

「チッ、まだ生きているみたいだぜ」

 

「フム……あれだけの魔法を受けても鎧は無傷か。かなり強力な魔法が込められている様ですね」

 

「だが、中身はそうもいかねーだろ。あれだけ喰らっているんだ。もう死んでるんじゃねーか?」

 

「“無能”には勿体無い物だ」

 

「とっとと止め差して、頂いていこうぜ」

 

「そうだな」

 

 勝手な事を言ってくれる。

 こいつら……甲冑を狙っているのか。

 気の循環で回復力は上がっているはずだが、まだ身体が動かせない。

 どうする?

 武器を抜き近付いてくる襲撃者を眺めながら、何とか生き延びる方法を考える。

 ふと、近付いてくる連中の足下に包みにくるまれた物が見えた。

 よく見ると、さっきまで俺が食べていた昼飯のバゲットだ。

 おそらく、魔法の一斉攻撃を受けた時に落としたのだろう。

 食べ掛けだったのに……。

 まだ、三分の一は残っていたのに。

 折角、味わって食べていた昼飯を台無しにしやがって。

 目の前の襲撃者に対する怒りが沸き上がってくる。

 

 殺す!!

 

 連中に対する殺意が沸き上がってきた所で、連中の一人が台無しにされ床に転がっている俺の昼食のバゲットを踏んだ。

 それを見た瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。

 

「お前ら……絶対殺す!!」

 

 襲撃者に対し、怒りの咆哮を上げる。

 それに対し、襲撃者達は俺を見下した目で嘲笑する。

 

「あははははははは……は、腹がいてぇ」

 

「やれるものならやってみろ。出来たらの話ですが」

 

電撃ライトニングを二発喰らっていて動ける訳がない」

 

「うぜぇから、さっさと殺っちまおうぜ!」

 

「そうだな。生きていたのは褒めてやるが、さっさと死ね」

 

 奴等の言葉を無視し、何とかする方法を探す。

 闘争本能と怒りが渦巻くなか、甲冑から呼び掛けられる。

 

『――問。現状を打開したいですか?』

 

 当然だろう。

 奴等をぶち殺す。

 もしかして、何か手があるのか?

 

『――答。あります。実行の許可を下さい』

 

 何をするのか教えろ。

 

『――告。時間がありません。大至急許可を』

 

 目の前には、下卑た笑みを浮かべた襲撃者達が、先程より近付いているのが見える。

 時間がないのは確かだ。

 奴等をぶち殺せるなら、手段は選ばない。

 例え悪魔との契約だろうと、喜んでサインするだろう。

 襲撃者達を睨み付けながら、甲冑に実行の許可を出す。

 

『――了解。直ちに実行します』

 

 首筋に何かが刺さる。

 

「ガアアアアアアァァァァァァァァ!!」

 

 同時に、全身が内部から焼き尽くされる様な激痛を感じて絶叫する。

 それでも、襲撃者達から目を離さない。

 

 ――殺す。

 

 ただそれだけ……その意思だけで、全身の激痛に耐え忍ぶ。

 唐突に、全身の激痛が消える。

 同時に、甲冑の声が脳裡に響く。

 

『――処置完了。肉体を最適化しました。最適化の副産物として、麻痺から完全に回復しました』

 

 肉体の最適化?

 よく分からんが、動ける様になったのか。

 

『――告。その通りです』

 

 最適化というのは気になるが、取り敢えず後回しだ。

 目の前の襲撃者達を殺るのが先だ。

 全力でぶっ殺す!!

 食い物の恨みの恐ろしさ……あの世で後悔させてやる。

 思い通りに動く様になった右手で、バスタードソードを抜き放った。

 無詠唱で、エンチャント・カオスの魔法をバスタードソードにかける。

 バスタードソードの剣身が、虹色に輝く。

 

「動いてやったぞ! 食い物の恨み……思い知れ!!」

 

 襲撃者達が驚愕の表情を浮かべ、唖然としている。

 全力で殺す。

 出し惜しみは一切無しだ。

 甲冑の身体強化の効果を発動。

 体内のマナが、急速に失われていく。

 続けて甲冑に、強化の倍率を最大にするよう命令する。

 

『――警告。最大限の強化をした場合、持続時間は十三秒です』

 

 構わないから、やれ。

 

『――了解。強化率を一時的に最大の七倍に引き上げます』

 

 甲冑各部の結晶が輝き、全身が蒼い光に包まれる。

 バスタードソードを突き出し、左端の奴に激突するつもりで突っ込む。

 速い。

 一瞬で、左端の奴の前に着く。

 突き出していたバスタードソードは、奴の心臓を貫いていた。

 そのままバスタードソードを振り抜き、すぐ右側の奴に叩きつける。

 視界の左隅に、バスタードソードを突き差した奴が光になって消えるのが映った。

 右の奴も、虹色の剣閃の軌跡で両断され、光となって消える。

 

『――告。持続限界まで、あと十秒』

 

 それだけあれば十分。

 次の獲物を定め、その前に移動する。

 獲物は、驚愕で声も出ないようだ。

 苦しまない様に殺ってやろう。

 パイルバンカーを、頭に突き付けて起動。

 長槍が頭を貫き、頭に風穴を開けた死体が膝から崩れ落ちる。

 死体の腕を左手で掴み、一番奥の奴に放り投げる。

 次は、左側にいる槍の奴だ。

 槍の奴に向かうが、何故か一瞬で懐に入り込めた。

 こいつも、俺の動きに反応出来ていない様だ。

 殺るのが楽だ。

 こいつにもパイルバンカーの長槍を頭に叩き込み、顔に風穴を空けてやる。

 残りは死体を投げつけた奴と、短剣を持った奴。

 死体を投げた奴を、次の相手に決めて動く。

 短剣を持った奴のすぐ横を駆け抜け様に、その首筋にバスタードソードを横薙ぎに叩きつけ、首を落とす。

 

『――告。持続限界まで、あと四秒』

 

 後は、死体を投げつけた奴だけ。

 こいつは、楽に死なせない。

 人の昼飯を踏み潰してくれたのだから。

 だが、身体強化の発動限界も近い。

 仕方無い。

 さっさと止めを差そう。

 奴は床に転がったまま、白目を剥いている。

 気絶している様だ。

 人の事をさんざん馬鹿にしておいて、自分は仲間の死体と抱き合った位で気を失うとは。

 バスタードソードを首筋に叩きつけ、止めを差す。

 死体は光に包まれ、装備品を残して消える。

 辺りを見渡すと、他の死体も装備を残し消滅したようだ。

 

『――告。発動限界。身体強化を終了します』

 

 マナが尽きたのだろう。

 宣言とともに、マナの吸収が止まる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 襲撃者達は始末した。

 だが、俺の怒りは収まらない。

 あの世で、食い物の恨みの恐ろしさを存分に味わえ。

 

 バスタードソードを鞘に納め、魔法倉庫からマナポーションを取り出す。

 飲み終わったら、奴等の装備品等を迷惑料として回収しよう。

 水代わりにマナポーションを飲みながら、疲労を回復するために休憩した。


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